詩人アルディスの観察日記
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序章 アルディス日記を始める
【アルディスの日記】 珊瑚の月 1日目(1)
歌い語るは英雄の道。
彼らの物語を歌い、書記す僥倖に感謝を。
私の出会った英雄に最大の敬意を。
声が聞こえぬなら、文字を綴りましょう。
私の歌が届かないあなたへとただ言葉を捧ぐ。
勇者リエトの物語を――。
――――――――――――
勇者の道標より、序文:アルディス=ラ=メリスルーンの詩抜粋
+++
【アルディスの日記:珊瑚の月 1日目】
私は今までついぞ日記というものを書いた記憶がありません。
日々の事をただ記録するだけ。己の内だけに留めておくなんて。
その日が悲しみに溢れていたのなら、繊細な銀細工に手を加えるように女性の清らかな涙を誘う哀切の詩を歌えばいい。
その日が喜びに溢れていたのなら、水面の光を両の手で掬い取る様に心の中で閃き跳ねる思いを、ハープの音にのせ弾いた方がいい。
そう、常々思って参りました。
ですが、それも今日でお終いです。こうして日記というものを書いているのですから。
いえ、決して私の考えが変わったわけでは無いのです。
今でも私の今の気持ちを曲として残せれば、どれだけ人々に涙を与えることができるかと悔しい思いなのですから。
ああ、今現在私の状況を誰かに話せたら!
きっと私は多大なる同情と哀れみを受ける事ができるでしょう……!
普段の私なら、そんなもの欲しいとは思いません。
でも、何事にも例外があるのです。
私は今、心の底から誰かに憐れんで欲しい。頼むからだれか私の肩を叩いて「頑張れ」とか、「まあきっとこれから良い事あるから負けるな」とかありがちな応援をして頂きたいのです。
ああ、そういえば何故私がこんなに落ち込んでいるのか書いておりませんでした。
まったく。己以外誰にも見せぬものとはいえ、これからこの日記を元にして本を一冊作ろうとしているのですから、ちゃんと経緯というものを確認しておかなければ忘れてしまいます。
まあ、こんなとんでもない日を忘れるわけが無いのですがね……。
やれやれ、慣れない事はするものでは無いです。
こんな物誰かに見られたら、宮廷詩人として今まで培ってきたイメージって物が壊れてしまいますよ。
それもこれもあの方がいきなりあのような御発言をなさるから……そもそも毎回毎回あのお方は――(以下延々と愚痴が続く)
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