ジ・オリジン・オブ・マジシャンズ
四条 一間
大偉業は己の身で
「遂に!この天才魔法使いワタル・ナガレはやってのけたぞ!」
やはり僕は天才だった!これこそ世界初、そして唯一無二。時空間を超越する魔法を生み出してしまうとは恐ろしい男だ!
「フッ。天才とは自分が語らずとも付いてきてしまうものだな……」
「ちょっと!うるさいんだけど。静かにできないのバカ兄!!」
ちっ。アホが来たか。部屋に入るときにノックもしないガサツなヤツめ。僕のことをアホと呼ぶのは世界でただ1人、愚妹・マイだけだ。
「フン、アホが来たか。聞いて驚け。僕はついに時空間を超越する魔法を完成させたのだ。お前ごときにはわかるまい。この大偉業がなぁ!」
「アンタの大偉業は一体いくつあんのよ。先週も大偉業・空飛ぶパンツしてたじゃない」
「ふざけるなっ!パンツを飛ばしたのはお前が邪魔したからだろ!僕の予定ではもっと大容量、大物質の--」
「はいはい。すごいすごい」
クソっ。こいつ言わせておけば……!確かに前回の新魔法は失敗だった。いくらこのアホ妹の邪魔が入ったとはいえ、パンツを飛ばすことになったのは僕の一番のミスだ。名誉のために言っておくが大偉業の名前は空飛ぶ"ハウス"だ。
「いいか、今回のはマジのマジだ。さっき実験で飛ばしたウサギがそろそろ帰ってくる。見てろよ!」
「ちょっと!そのウサギってアーちゃんじゃないでしょうね!?」
「いちいち小動物の名前など覚えてられるか。それに魔法使いなら使い魔は黒猫にしろ。古今東西の決まりごとだ」
ウサギなどというただ可愛らしいだけの生き物を使い魔にするなど、これだからコイツは。凛々しさとかっこよさを求めていけ、我が妹。
「アンタね……。無事に帰ってこなかったらアンタのその肩に乗ってる黒猫も動かなくなるものと思いなさいよ」
「野蛮人め!」
「なるほどアンタから始末されたいワケね。そこで黙ってなさい。今、楽にしてあげるわ」
コイツ、マジだ!まあ、確かに黙ってあのウサギを使ったのは非常にマズかった気がしないでもない。でもウサギと人を天秤にかけるか!?
「アンタの命なんてアーちゃん以下なのよ。さあ、その命を捧げなさい」
「今っ!今帰ってくるから!な?ほら、魔法陣が光り始めた!」
いいタイミングだ!僕が作った魔法陣だけある!そらっ!戻ってこい!
「今まばゆい光の中から小動物が--」
「私にはただの羽毛にしか見えないんですけど。さ、そこに直りなさい。大丈夫よ。一瞬でまた来世だから」
「ま、まて!まだ陣は光ってるから!」
そう!まだ陣は光ってるんだ。望みを捨ててはいけない。ていうか戻って来ておねがい。この子ほんとに僕のことヤる気だから!!
「……!アーちゃんっ!」
「ほらなぁ!成功した!この羽毛はよくわからんが、これは確かな成功だ!完全に偉業!」
「アホか!二度と私のもん使うな!そんなに実験したいなら自分の体使え!」
「……ふむ」
なるほど考えつかなかったな。アホとはいえ僕の妹だ、褒めてつかわす。ならば決まったな。
「その通りだな。僕は僕自身を実験の対象とする」
「アンタはほんとにバカね。人体実験じゃない。そんなの認められるわけないでしょ」
「誰かが最初になさねばならぬことなのだ、妹よ。そう心配するな」
「急に神妙になるな。私はどうでもいいけど、パパとママが心配するでしょ」
大偉業は己の身で。うーん、ちょっとカッコ良すぎないかこれ。これは後世に残るセリフになりそうだ。母よ、父よ、僕は今、歴史になります。
「ちょちょちょ、本当に行くの?やめなよ」
「心配するな、すぐ帰ってくる。なんせ時間を移動する魔法だからな。俺がどんな時を過ごそうとも必ず最後にはここに帰ってくる」
「でも……」
心配する気持ちもわからんではないが、僕はもう決めたんだ。だったらあとは実行のみ。この魔法が完成したらしたいことは決まってた。今この2218年からちょうど200年前、初めて魔法の観測された時代に行って、その人に会うこと。これは歴史上ものすごいことになるからな。
「じゃあちょっと2018年に行ってくる。達者でな!」
「まっ----」
もうマイの声も聞こえない。光が体を包んで行く。なんか心地いいなこれ。天にも昇ら気持ちとはこんな気持ちか……。いや、死なないよな?
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