属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?

海星めりい

プロローグ

 穏やかな風が吹く午後。


 鮮やかに咲き誇る花々が溢れる庭園で二人の男女が向かい合っていた。


 燃えるような赤い髪をした少女と大海を彷彿とさせる青い髪の少年。


 両者ともに歳は一五、六といったところだろうか。どちらも顔立ちは整っており、少女の肌は新雪のように白く、その丸く愛らしい瞳はまるで輝く紅玉石ルビーのよう――可憐という言葉では足りないほどの美少女であった。


 一方、少年の見た目はスッとした鼻筋に、穏やかながらも意志の強そうな碧い瞳。さらに、身長は少女よりも頭一つ分高く、スラッとした体躯ながら引き締まっているのは服の上からでも分かるほどであった。


 まさに、美男美女の絵になるような光景だ。


 そんな中、少女が意を決したように少年へと呼びかける。


「あの!」


 見た目に違わぬ声音だった。まるで、鈴を鳴らしたかのような澄んだ声は天上にも昇る聞き心地、この声で歌われればそのまま人心地付いてしまうほどであった。


「やっぱり……相性がいいと思うんです。私達!」


 少女が片腕を胸に手を当て、その瞳を潤ませながら訴えかける。


 その様は必死という言葉がピッタリと当てはまるほどであった。


 少女の台詞と態度で誰もが理解できることだろう。


 そう、この少女は目の前の少年に告白しようとしているのだった。


 少女と少年の関係は現時点では友人と呼ぶのがふさわしいだろうか。


 良く男女間の友情は成り立たないなどと言われるが、それは少女も同じであった。最初は普通に友人だと思っていたのだが、過ごしていく内に――……というやつである。


 ありきたりな話ではあるものの、少年と一緒に過ごした時間はそれだけ少女の心の中に尊いものとして募っていったのだろう。


 そして、その膨れあがった思いをとどめておくことは出来なかったのだ。


 だから、少女は今日、出会ってから半年――さらに、初めて出会った場所で自らの思いを全て吐露することにしたのだった。


 この少女、中々にロマンチストである。


 とはいえ、告白など実は初めてであるこの少女……緊張のせいか瞳に涙が浮かびそうなうえ、やや身体が震えていた。


 そんな少女を見ながら青年は見るものを魅了するような優しげな笑みを浮かべる。


「うん、僕もそう思うよ」


 そして、この言葉は少年の本心であった。


 事実として、少年はこの少女のことを好ましく思っている。なんと言えばいいのだろうか、あえて一言でいうのならば居心地がいいのだ。


 少年は少女の側においては、ほぼ素の性格で過ごせるうえ、肩肘を張らなくてよかった。日頃、家にふさわしい教養と態度を強制させられている少年にとって、少女との交流は心安らぐものであった。


 それこそ、まさに少女が言った〝相性がいい〟という言葉がしっくりくるのは間違いなかった。


「じゃ……じゃあ!」


 それに喜色ばんだのは少女だ。


 少年の返答は少女の言葉に同意するもの。


 となれば、この先はもう何がどうなるのかは明白――いや、必然とも言うべきだろうか。


 少女の告白を少年は受け入れ、恋人となった二人。


 さらに、そこから始まる色づく鮮やかな世界が待っている……のかは本人達次第だが、少なくとも少女はそう思っていた。もちろん、その後の関係についても……。


 だから、少女はより覚悟を決めた。


「私と……」


 小さく開かれた口からは途切れそうなか細い声。思わずこのまま言うのを止めてしまいそうになるが、


 言え! 言うんだ! 今日言うんだろ私!! ここを逃すわけにはいかない!!!


 脳内に響く心の声に従うままに息を吸って少女は言い直す。


「私と!!」


「でも……ね……」


 少女の言葉と少年の声が重なる。


 だが、少女は自分の言葉を伝えるので精一杯で少年の声を殆ど聞いていない。


 ここで止めておけば……いや、すでに手遅れだろう。少女は自身の告白と同時に聞いてしまった――


「僕、水属性だから……火属性のキミとはちょっと……無理なんだ」


「つき……あっ……て……」


 少年の無慈悲な宣告を。


 少女の決意は見るも無惨に砕かれる。


 そう、少女と少年の性格の〝相性〟は良かったが、その身に宿す属性の〝相性〟は悪かったのだ。


 〝相性〟について少女が話すとき優しく微笑んでいたのは少年なりの気遣いだったのだろう。少女には微塵も伝わっていないようだったが。


「気持ちは嬉しかったけど……だから、ごめんね」


 そう言って、やや早足でこの場から去って行く少年。その際あまり少女の方を見ないように去って行ったのは優しさからだろうか。

 それとも、呆然とした少女の顔があまりにも見るに堪えないものだったからなのか。はたまた、別の理由があったのだろうか。

 

 ショックのあまりしばらく放心状態となっていた少女だったが、少年が完全にいなくなると断られた実感がわいてきたのか、俯き身体を震えさせ始めた。


 その姿は雪のようにいまにも消えてしまいそうなほどだ。


 だが、それはほんの僅かな間だけで、少女の震えはすぐにおさまった。

 

 そして、ガバッと勢いよく天をにらみ付け叫んだ。


「何属性だったらよかったのぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る