第63話
1
王都は平野に城壁で囲んだ王城と市街地からなる、元の世界の概念で言えば
中心にある王城には表側に政務を行う王宮と官房である王宮府があり、広い庭を挟んで親衛師団(旅団から格上げ)の兵営がある。
裏側には後宮があり、基本俺の生活場所になっている。
王城を囲むように貴族街が形成されているが、かなりの貴族を討滅したため、空き屋敷は王宮に勤務する者の官舎及び来賓用宿泊施設として整備を進めている。
従来の貴族の爵位は白紙に戻したが、屋敷からまだ追い出してはいない。
有能な者には一代限りの爵位を男女関係なく付与しているので、屋敷から追い出されたくなければ人事作業を行う王女に能力を発揮して見せれば良いのだ。
それ以外の場所は庶民街で、平民の職業組合ごとの活動場所になっている。
庶民街にはギルドのほかに公衆浴場と娼館、そして共用奴隷のための住居がある。
共用奴隷というのは、出産育児の下働きをする女奴隷と便所汲取り・硝石採取を行う男奴隷が暮らす場所で、他の奴隷とは違い毎日の入浴を義務付けられている。
帝国で「庶民」といったら平民と共用奴隷を合わせた概念になる。
それ以外の奴隷はあくまで財物であり人間としてはカウントしない。
娼館の中でも特殊な性癖を持った者に対応する特殊娼館だけは貴族街の中にある。ここでは死を免れた反逆貴族の娘や戦争捕虜の奴隷なども管理しており、拷問道具が充実しているところから犯罪容疑者などの拷問も請け負っている。
特殊娼館の責任者はヴァイオレットである。
「ようこそわが君」
馬車から降りるとヴァイオレットが恭しく出迎えてくれた。
ミケとギルリルは馬車から降りずにこのまま王宮へ戻る。
王宮へ戻ると表現したのは馬車の発着位置が王宮であるからで、実行動としては後宮の部屋に戻る。
俺が一人で特殊娼館に入るのは監視者に敢えて見せ、拷問好きな残虐な王という先入観を利用して本当の目的を隠すためである。
「まずは遊ばれますか?」
「遊ぶ?」
「はい、奴隷は皆個室の檻で管理しておりますので、檻の番号とお好きな拷問器具の番号をお伝えいただければ、器具に奴隷をつないだ状態でお渡しいたします」
「うーん、拷問は飽きたからお前を抱きたいな」
「承りました、私の部屋へご案内いたします」
この会話はもちろん従業員に聞かせるためだ。
ヴァイオレットは裏社会の顔役でもあるので怖い女というイメージが男には強い。
その女を「買いたい」と言うのだから並の拷問では満足できないのだろうと勝手に想像を膨らませているに違いない。
ヴァイオレットが俺の女(妾)だという関係は公にはしていない。
後宮に部屋もないので王宮に出入りする顔なじみの奴隷商人と思われている事だろう。悪逆の帝王は奴隷を虐待しているらしいので、不自然ではない。
「何かありました?」
部屋に入るなりヴァイオレットはくるりと振り返って真剣な顔をした。
「ああ、お前には話しておかなければならないことがある」
「はい」
「反乱が起こる可能性が高い。正面切って制圧しても良いのだが、可能であれば民に知られることなく鎮圧したい」
「火元は貴族ですか?」
「それを今探っているところだ。俺も最初は元貴族が性懲りもなく反旗を翻したのかと思ったが、どうも様子がおかしい」
「様子がおかしいのですか」
「魔王がいつになく苦労しているよ。お前も裏から探ってみてくれないか」
「どの辺りを探ればよろしいでしょうか」
「今のところ目につくのは元貴族どもと男のエルフだ」
「鉱山を中心に、という事ですね」
「うむ」
「鉱山と言えば、塩を運ぶ怪しげな道が繋がっていると酔っ払いから聞いたことがあります」
「ほう、怪しげと言うと、港町に繋がっているのではなさそうだな」
「臭いませんか?」
「そのあたりも任せていいか?」
「はい。どの街にも食客は沢山いますし、私の指示に背いたらどうなるか思い知ったでしょうから」
「うん?」
「各都市にある軍の屯所に私の組織の構成員であることを届け出るよう指示したのに無視した所が数か所、ちょっとした稼業の現場で壊滅しています」
「ああ、ヴァイオレットの身内には警告で留めるよう言ってあるからな。警告を受けたら素直に引けば何もしない。届け出さえすれば顔は全員が共有するから、他の都市で活動してもいきなり攻撃されることはない」
「そうなのですね」
「力と数を
「ご慧眼です」
「活動する世界が違うだけで、到底正々堂々とは言えない手を使うのは俺も同じだからな」
「陛下の邪魔をさせないようにだけは気をつけますわ」
「そうしてくれ」
2
「お父様」
王女がミケの部屋に来たのは夜更け前だから、今日は思ったより業務が順調だったようだ。
「ご下問にお答えする前に、こちらに目を通していただけますか?」
王女は分厚い書類を目の前に置いた。
「この書類の要点を報告しろ」
「はい、お父様の治世を盤石なものにするため、行政上問題のある名称を改正統一するもので、お父様は皇帝、帝国で最高地位にあると明記します」
「うん」
「帝国の正式名称は優一神聖帝国、神聖とは皇后陛下、魔王陛下、エルフ王陛下の総称です」
「優一だけ浮いているような気がするが・・・」
「いいんじゃない?」
ミケは賛成らしい。
「いいと思いますです」
ギルリルも賛成のようだ。
(ま、いいか)
「国旗は人間の白と精霊の緑、魔の黒を配した三色旗」
「うん」
「王都は帝都と改称、各都市に行政組織を置き、各都市を治める皇帝の代理人を伯爵、都市の集合体である州を治める皇帝の代理人を侯爵とし、侯爵を王宮での定例会議のメンバーとします」
「うん」
「お父様が領地を与えて国として独立させる場合には、血の繋がりを問わず公爵とします」
「いいね」
「爵位は当人一代限りのものとし、世襲はしないものとします」
「うん」
「男爵及び子爵は行政職と軍事職に分け、行政職は王宮府が人事権を持ちます」
「軍事職に関して親衛師団長と遊撃隊長、そしてこれから生まれるであろう軍の最高指揮官は伯爵とし、皇帝直轄貴族の扱いとせよ」
新しく海軍など作った時に軍閥など発生させてはならない。
「はい」
「各軍隷下の指揮官・参謀クラスは子爵とし、行政職との連絡を密にとれるよう社交界のメンバーとする」
「はい」
「男爵位については特に武勲のあった者に対する褒賞とし、終生の年金を付随させる」
「はい」
「通常の武勲は勲章と副賞の賞金でよかろう。細部は任せる」
「では王宮府に軍事部門の行政官を導入します」
「うん、それがいいだろう」
「報告書の要点は以上です」
「分かった、細部を修正し発布してくれ」
俺は隠し持っていた三色ボールペン(王宮の地下を何度か漁った時に発見したもの)を取り出し、赤色で花押のように書類の表紙にサインをした。
書類の誤字脱字だの文法誤りだのを見つけるのは皇帝の仕事ではないだろう。
「あと、これが」
王女、いや皇女は別の書類を取り出した。
「私に接触して来ている者に関する調査書です」
「これは熟読する、ギルリル」
「はいです」
「このお姉さんの脱衣を手伝って、ミケと一緒に3人でベッドに寝ろ」
「はいです」
「え?」
皇女が驚いた顔をしている。
皇女の部屋で寝るよりここで寝る方が涼しく、ぐっすり寝られるに違いない。
「この厚さだと読むのに朝までかかるだろう。お前には手を出さんから心配せずに朝まで寝ていろ」
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