第32話

開戦初日に遭遇戦と見せかけて防御陣地に敵を誘い込んだのは、兵力数と火器という敵の勝ち目をつぶすためであり、戦力が半減したところで陣前出撃したのは兵力的に互角=騎兵がいる分敵が有利と勘違いをさせ、決戦を誘ったからである。

敵が戦闘を停止して離脱を図った時に放置していたのは、娘たちの攻撃力が引き込むほどに強力に発揮できる特性と、追撃しないことで敵を油断させる目的もあった。


などと夢うつつで考えていたら

「攻撃開始」

という声と同時に爆発音が作戦室内に響いた。

目を開くと薄明の中、魔法の曳光と立て続けに起こる爆発の閃光が飛び込んできた。

どうやら座ったまま戦況を確認できるようにミケが画面を調節したらしい。

「ファイアフライ航過攻撃終了、一旦上空でアンビから魔力の供給を受けます」

どうやらアンビは空中給油機のような役割をしているようだ。

「敵は混乱中」

奇襲は成功したようだ。攻撃されるとは本気で考えていなかったらしい・・・

「槍を構え、突撃!」

敵が右往左往している今こそ突撃の好機である。

娘たちは槍を構え、一斉に走り出した。

「エルベレス、今の状況をエルフ達に伝えろ」

「は、はい」

隣にいたエルベレスが俯いて念話を始めた。

まあ、メルミアに戦闘指導してあるので、上手くやってくれるだろう。

「王宮に侵入者あり、警備を向かわせます」

旅団長が叫んだ

「ミケ、何者かわかるか?」

「冒険者ですね。3名います。ユーイチの暗殺が目的かな」

「旅団長、捕らえる必要はない、殺せ」

「はい」

敵がここを狙ってくるのは想定内である。

刃を向けてくる者は誰であろうと殺す。

娘に対処させているが、万一失敗してもミケが難なく排除するだろう。

「伝達終わりました」

エルベレスが顔を上げた。

「敵が動きます」

ミケが淡々と報告する。

「辺境伯先頭で騎兵が動き出しました」

「ほう、思ったより対応が早いし勇ましいな」

「攻撃方向は東ですけど」

「え!」

驚いたのはエルベレスだ。

「私たちが目標ですか!?」

「慌てるなエルベレス」

ミケが退却という言葉を使わないのは敵の行動に秩序があるからだ。

実際には平民を見殺しにして騎兵だけ戦場を離脱しようとしている後退行動なのだろうが、奇襲を受けた割には士気が衰えた様子がなく、あらかじめ計画していたような動きであることから「東への攻撃」と言っているのだ。

「メルミアにこう伝えろ。辺境伯が自ら騎兵を率いて接近しつつあり。最善と信じる戦い方をせよ、と」

メルミアが最も憎んでいるであろう首領がお出ましなのだ。示した戦い方に拘らなくてもよい。

「分かりました」

「ミケ、ファイアフライに連絡、後退中の騎兵を攻撃せよ」

「あ、もう伝えてあります」

騎兵の身分や貧富の差により装備は異なるが、例え装甲や武器が貧弱でも馬による速度はそのまま集団の力となる。

数が多ければそれだけ衝撃力が増す。

しかし、平野が森に絞られる地形ではそれを活かせず道路付近に蝟集してしまう。

空中からの攻撃に最も脆弱な瞬間である。

ミケがそれを見逃す筈もなかった。

「旅団はそのまま敵を東に追い込んで行け」

「はい、速度を維持します。戦闘不能な敵は後続の予備に処理をさせます」

「よし」

娘たちは戦闘のために作られた忠実な魔物の兵士だ。

疲れて息切れをすることがないので同じ速度で走り続けさせられる。

敵の遺棄した物に目が眩んで隊形を崩す心配もないのは心強い。


2

最初に映電が捉えた騎兵集団の先頭は銀色に光る物体であった。

旋回しながら高度を下げると、全身金属の鎧が反射する光であることが分かった。

長い棒状の物を背負っているが、これは槍ではないだろう。

俺と同じ世界の者又はその子孫だとすると、これは猟銃の可能性が高い。

騎士同士の一騎討ちが存在する世界で、槍の範囲外から放たれる散弾は恐ろしい力を持つに違いない。

「辺境伯はあれでカリスマ性を保っていたんだろうな」

後方の旗持ちも後続の騎士たちも通常の槍と剣という装備なので、元の世界の武器を普及させようとはしなかったのだろう。

「うまく落っことせよ」

さすがに全身金属の超高価な鎧を着装している者は各貴族の当主くらいであるが、

貴族とその子飼いの集団だけあって弓に対するそれなりの防御力のある鎧を着けている者が多い。

防御力が高い鎧ほど重く、視野も狭く、下馬した時の動きが緩慢になる。

馬を殺すか行く手を塞ぐか穴に嵌めるかという、いかに騎兵に下馬を強要させるかというのが戦いのポイントになる。

「無理しないといいが」

エルフは鉄との相性が悪い。

剣などでの白兵戦には向かないので敵を遠巻きにして矢を放ち、落馬して孤立した騎士を転倒させて鎧の隙間から刃を差し入れ止めを刺すような戦闘形態になる。

常に複数人で相手1人を確実に仕留めていく必要から、道路や抜け道に沿って部隊も罠も障害も配置している。

一番困るのは弓の射程外で円陣防御をされたり南北に大きく迂回される事だ。

だから道路上の拒馬以外の障害は目立たないように設置している。

「左に外れました」

エルベレスがやった、という感じで報告する。

拒馬に気付いた辺境伯が道路左の森林内に方向を定め、後続の騎士たちは道路の左右に散開をはじめている。

蝟集すれば竜の攻撃を誘うであろうことは理解しているようだ。

森林内に飛び込めば竜からは逃れられ、安全に離脱できると思っているのだろう。

「ファイアフライ、後続の騎士を掃射せよ」

ミケの声が作戦室内に響いた。




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