第16話 鋼太朗side



「四堂…君。少しだけ、お時間宜しいですか?」


昼休み。食事を終えた鋼太朗が、食べ終えた定食用食器の乗ったトレーを持ち、テーブル席を立とうとすると。すぐ目の前にいつもならさっさと食事を済ませ、食堂から誰にも気づかれず一人で退席する泪が、鋼太朗が座っているテーブル席の前に立っていた。


「あ、あぁ…。俺は構わないけど」

「昨日。連続殺人事件の話の事で話が…」


そっちの話題か。誰に聞いたのかは知らないが、探偵部で部長をやってたら嫌でも泪の耳に入る。


「事件の?」

「はい。少しばかり気になる事がありましたので」


とはいえ。普段からあらかさまかつ遠回しに堂々と避けられている泪と、正面から話し合いを出来る良い機会になる。


「あの連続殺人事件の事。ユウ君が『視聴覚室で調べものしてた、四堂先輩なら何か知ってる』と聞いて」

「え? あ、いや…」


泪は自分が連続殺人事件と、何か関わりを持ってると思っているのか? というか、泪が自発的に自分の所に来た元凶は、やはりあの好奇心旺盛な後輩勇羅だったか。


「ちょっとこの場じゃ話しにくいから。放課後、例の視聴覚室でいいか?」

「わかりました…。話しづらいのは僕も同じです」


鋼太朗の意図を何か察したのか。泪はわかった、と言う表情をしながら無言で頷いた。


―…。


午後の授業が終わり、泪と待ち合わせている視聴覚室へ急ぐ。視聴覚室に到着しドアを開けると、既に泪はパソコンの前の席で座っていた。


「悪い。待たせたな」

「いいえ。僕もさっき着いたばかりです」


相変わらず泪は表情を変えないものの、口許は僅かに緩んでいる。言葉使いこそ未だに敬語ではあるのだが、泪の自分に対する態度は少しずつ軟化し始めていると感じた。


「それで。昼休みの話の続きですが」

「あぁ。その話なんだが、あれから例の殺人事件の事。ここのパソコンで色々検索してたんだよ」


事件を調べていたとの言葉を聞き、泪は目を丸くしながら怪訝な顔をする。


「四堂君…。学園のパソコンで検索してたんですか?」

「まぁ…普段。ネットの検索エンジンあんまり使わなねぇし」


バツが悪そうに指で頬をぽりぽりかきながら答える鋼太朗だが、鋼太朗の表情を見た泪は思わず苦笑する。


「学園専用の検索エンジン使っていたんでしょう? 複雑な検索する時は、大手の検索エンジン使うのが一番ですよ」


いつも普段から使用しているのか、泪は目の前のパソコンを手慣れた手つきで起動した後、ブラウザを立ち上げキーボードを叩く。鋼太朗は知る限りの集めた情報を泪に話し、泪は鋼太朗と自身が集めた情報を元に次々と検索ワードへと情報を打ち込んで行く。しかし大手の検索エンジンを使っているのに、一向に情報が掴めない。


「例の連続殺人事件。色々調べてみたけど、本当に在り来たりの情報しか無いんだな」

「ええ。異能力関連は、何らかの方法で全て検閲されていますし」


これは紛れもない事実だ。異能力者や異能力に関する情報は国家規模…いや。国際規模で検閲されているとまで聞いている。世界中が突然として現れた異能力者の存在を、表舞台からかき消そうと必死なのだと。


「……泪。『暁(あかつき)特殊異能学研究所』の検索出来るか?」

「えっ」

「頼む」


暁特殊異能学研究所。鋼太朗の父親が所長を勤めている、地方都市管轄の異能力研究所。

鋼太朗自身は子供の頃から、何度も暁研究所に出入りしているが、例の一件を知るまでは、単に自分達が使う異能力と言う未知の力を研究するだけの、私設研究所だとしか思っていなかった。


「わ、わかりました…」


鋼太朗の表情に、泪は戸惑いながらも『暁特殊異能学研究所』のワードを打ち込み、検索ボタンをクリックする。

検索ワードから出てきたのは……。



「……農業や宗教。医療学会のサイトばかり出ますが」



無理もない、やはり研究所そのものに検閲が掛けられている。暁研究所の研究内容には、内容を調べられたら表沙汰には出来ないばかりか、正直言って国家的…いや世界規模的にもまずいものばかりだし、中には研究所から逃走した、自分の実験データも研究所の地下に存在している。何より『その研究所』に居た泪自身に、研究所の名前すら記憶にないのが証拠だ。


「そうか…」

「その暁研究所が何か?」


この件は泪にはまだ話さない方が良い。今研究所の事を話しても、泪からの自分に対する拒絶が酷くなるだけだ。まだ、自分の事を思い出してくれるまでは話さない。


「……いや、なんでもない。手伝ってくれて、ありがとな」

「いえ……どう、いたしまして」


神妙な顔つきで検索画面を見る鋼太朗を、泪は暫くの間黙って見続けていた。


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