第14話 鋼太朗side
―…。
あの後。学園を出て直ぐに神在駅前周辺の書店や商店街・ショッピングモールと言った、自分の知る限りの書店と言う書店を全て回って見た。週刊誌や情報誌と言った雑誌と言う雑誌は、確認できるだけ確認したものの、結局連続殺人事件に関する目ぼしい情報は何ひとつ手に入らず、鋼太朗は今深い溜め息を吐きながら帰宅の途についている。
通学路を歩いていると、丁度前方に薄紫色の二つのおさげ髪の見慣れた人影が見えた。どうやら相手の方が先に鋼太朗の気配に気付いた様で、小走りで鋼太朗の方へと近づいて来た。
「あ。鋼太朗だ~」
「お前なぁ…。最近俺の周りをほっつき歩いてるが、気のせいか?」
鋼太朗を先輩と知りながら容赦なく呼び捨てにする無礼で小生意気な後輩は、間違いなく真宮瑠奈だ。
泪の事を知っている自分を、目の敵にしているのか知らないが最近よく彼女と鉢合わせる。少し周りに目をやると、瑠奈の足下には細い紐で繋がれた…ピンク色の小さな豚がいた。
「それ食用か?」
「失礼な。私のペットだよ」
このちっこい豚がペット? どう見ても食用じゃないのか? いや、食用にしては小さすぎる。最近はペット用に品種改良された豚も、何種類か存在すると聞いてるが油断は出来ない。鋼太朗の視線に何かを察したのか足下の小さな豚が、鼻息を上げながら鋼太朗を睨んでるようだった。
「何やってたの?」
探偵部の篠崎勇羅もそうだが、目の前の瑠奈も結構な突っ込みたがりだ。最も自分が泪の事を知っているからなのか、彼女は昔の泪の事を知りたくてしょうがないのだろう。
「俺だって、毎回泪の尻追っかけ回してる訳じゃねぇよ」
「むっ…」
鋼太朗の返答に納得していないのか、瑠奈は不満そうに頬を膨らませる。
「胸と尻の肉付きだけはむちむちのバインバインで立派な癖に、年上の先輩に対する態度と身長はてんでお子様だな」
「お、お子様で悪かったな! ちょっとでも悪いと思ってるなら、その高すぎる身長何センチか寄越(よこ)せ!!」
「身長高くしたいなら俺に頼らずな。適度な運動と豊富なカルシウムとビタミンDとたっぷり睡眠とれ」
「ムキィィィーーーーッ!!」
自分に身長寄越せとまで言う位に、背が低いのを気にしてるらしい。それに瑠奈自身、子どもっぽいと言う自覚はあるようだ。瑠奈の激昂に答えるかの如く、足下のちっこい豚も主人をバカにするな!と、言わんばかりに唸(うな)る。
―……!
「待て。いいか、そこ動くな」
「?」
ふと、何かの思念を感じ取った鋼太朗。どこかの周辺で異質な殺気を感じる。違う、自分達のすぐ近くに誰かがいる。
「! 角煮(かくに)…。怯えてる」
小刻みに震わせている角煮と呼ばれた小さな豚を見て、瑠奈もまた周りの気配に感付いたようだ。
「いいか? そのペットから手ぇ放すんじゃないぞ」
鋼太朗の真剣な表情とその意図を察したのか、瑠奈は緊張した面持ちで黙って頷く。そして目を閉じて念を集中させ、自分達へ殺気の放っている主を探す。
自分が能力者だと知られない為に普段から力を抑えている。念動力を使うのは家を飛び出して以来久し振りなので、念の制御(コントロール)が少しばかり右へ左へよろめき掛けたがすぐに慣れた。
――…。
(どこだ…? どこにいる……。)
相手の居場所を明確に、そして的確に思念を当てる為に鋼太朗は更に集中し、自分の中の思念の力を強める。
――…。
(―そこか……見つけた!!)
目を開けると同時に、内に溜め込んだ念動力(テレキネシス)を、こちらへ明確な殺意を持って隠れているであろう相手へと一気に溜め込んでいた思念を放出する。
―…!!!
「…ぐあぁぁっ!!」
殺気を放っていた主は両手で頭を抑え苦悶の声を上げ、腹を抱えるようにしてうずくまる。どうやら近くの電柱の柱の影に隠れていた様だ。声の主からして相手は男、鋼太朗達より年齢が上の成人だった。
「くそっ…!」
男は体制を立て直すと片手で頭を抑えながら、一目散に走って逃げていった。瑠奈は角煮を抱えたまま、逃げ去った相手の方角を無言で見る鋼太朗を、ぽかんとした表情で見ている。
「……鋼太朗も力。使えるんだ」
「『使える』……って。もしかして、お前も異能力者か?」
鋼太朗が思念の力を使っても、瑠奈はほとんど取り乱すことなく比較的落ち着いている。瑠奈は自分が能力使いである自覚があるのだ。
「う…ん。まぁ、そこそこに。普段は親から使うなって言われてるし、力を使えるのも信用できる友達以外には、隠して過ごしてるけど」
異能力者である事を隠している、と答えづらそうに瑠奈は言う。異質な力を使える者からして当たり前の反応だ。異能力者が堂々と自分は異能力者だとカミングアウトする者なんて、余程の変わり者でない限り、鋼太朗も見たことがない。
「でもさっきの男の人…何だったんだろう」
「……」
見えない場所で殺気を放っていた時は気付かなかったが、姿を見た時に一瞬で把握した。殺気を放っていた男は、かつて鋼太朗が所属していた異能力研究所の人間だった。
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