第4話 伊遠side



─某所・研究室。



『人類に虐げられた力ある我らが同志よ! 我ら異能力者達の理想郷をこの世界に成し遂げる為、今こそ力を合わせ立ち上がれ!!

義は我らが異能力者集団ファントムにある!! 我らを永遠の暗闇の奥底へと追いやり続けようとする、忌まわしき人類に今こそ我々による裁きの鉄槌を下すのだ!!』



「あーあ…。相変わらず、我ら我ら五月蝿い連中だねぇ…」



【聖域(サンクチュアリ)】所属の研究者・陸道伊遠(りくどういおん)は、全体に癖のある猫毛の金髪を弄りつつ、気だるそうな表情でモニター越しから異能力者集団・ファントムメンバーの演説を眺めていた。

面倒臭そうにモニター画面を眺める伊遠の周りには、おびただしい数の研究資料やら趣味で集めた模造ライフルやらが置かれたり飾られたりしている。集めているライフルの中には、模造品だけでなく裏ルートで入手した本物まで雑じっており、ある種の無節操さの片鱗も窺える。


そもそも伊遠が異能力者集団・ファントムを抜けたのも、構成員による毎日の演説が五月蝿くて研究に集中出来ない事と、ファントムメンバーとの主義主張や考えが自分の目的に合わないのもあった。

最も。抜ける時に自分の言葉に唯一耳を傾けてくれた若き総帥にだけは、やんわりと助言はしていったが。


彼らの演説を聞きあきた伊遠はモニターの画面を消し、同時に起動していたパソコンのメールを確認する。気まぐれにメールボックスを開くと、滅多に届かない筈のボックスに一通のメールが届いていた。


「何だ…こっちの方には滅多に来ないのに珍しいな。宛名はー……真宮茉莉」


真宮茉莉の事はよく知っている、彼女とは何度か行き付けの店で一緒に飲んだことがある。頭のネジが何本もブッ飛んだ偏屈な変わり者故に、親しい友人の少ない伊遠にとっては数少ない、年の離れた女の飲み友達だ。

ただし。一度だけお互いに未成年疑惑を掛けられて、店を追い出されそうになった。見た目が若いのも困りものである。茉莉の一族は力の差は大小あれど全員が異能力者だと聞く、最も茉莉本人は男癖の悪さが原因で実家を半分勘当状態らしいが。


過去に研究所の実験体にされた後遺症は今も残っているものの、現在はその大半を自分の異能力で大幅に制御し、今の少年とも言える若々しい容姿を保っているのだ。実際の伊遠の年齢は見た目の容姿以上に年をとっている。

彼の実年齢を知る周りからはもっぱら若作りやジジイ呼ばわりされているが、事実なので特に気にしていないし、今更自分の年齢など気にする必要もない。年下をからかうにはある意味良い材料にもなる。


「どうせ暇だから、飲みにでも誘いに来たのかあの女ー……何? 『異能力者狩り』」


この数年前から頻繁に発生している、異能力者狩りの噂は伊遠の耳にも届いていた。

茉莉から送られて来たメールの内容は、異能力者狩りだけでもなく最近発生している、原因不明の連続殺人事件に関してだった。殺害の手口が周到かつ証拠が不特定な故に、殺人事件の犯人には異能力者達にその疑いが掛けられている事。

そしてその殺人事件を利用して、裏で異能力者だけを狩る連中がいる事…。


「ファントムでも『サンクチュアリ』でもない、不確定の勢力…いや違うか。異能力者ばかりを狩るとなると…」


異能力者に恨みを持つ人間など決して少なくない、力のないものは何時だって、異質な力を持つものを恐れるものだ。それがこの連続殺人事件で異能力者を迫害する口実が出来たのなら、尚更異能を持つ者に対して、恐怖や憎悪の矛先がいってもおかしくない。


「こりゃ下手したら魔女狩りになるかもな…」


メールの内容を一瞥し、表情が険しくなる伊遠。最悪この異能力者狩りが発端によって、世界規模での人類対異能力者の戦争になりかねない。



―コンコン。


『伊遠様。ー···ー様がお呼びです』

「あぁ。資料片付けてから行く」


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