第44話「ただ父さんに追い付き、追い越せと」

44-1 王として、好敵手として……そして、父として

「よく来てくれたのだよ……」


 ――ゲノムからバグロイヤーが滅び去った今、アージェスの宮殿へとドラグーン・フォートレスが着艦した事により、電装マシン戦隊との共同統治の体勢でゲノムの今後は決まりつつあった。その最中でゼルガは自らの執務室に自分の部下たちを呼び寄せた。ゲインとメガージ、そしてパッション隊の面々が集って足を運べば、


「うわー、ゼルガ様の部屋なんて初めて見たよ! 凄いおしゃれだし!!」


 執務室には数多くの絵画や彫刻――ゲノム本土の文化財だけでなく、地球との使節から得たと思われる文化物まで置かれていた。その為か知らないが、どさくさに紛れてフィギュアやゲーム機の類も飾られていたものの、それらを前にしようとも彼女はお洒落だと評している。


「ちょっとベリー、今その話とかあんまり関係ない気がするけど」

「ベリー、失礼!空気読め!」

「申し訳ありません、ゼルガ様は重要な話をされる筈ですが」


 ただ、パインとプーアルが言う通りゼルガとして一大決心を告げる状況を考慮すれば、ベリーがそちらに関心を寄せている事は流石に軽すぎると突っ込んだ。3人の様子にメガージが少し恥ずかしくも、苦々しくもある様子で彼に謝ると、


「はは、こうしてくれる方が私は嬉しいのだよ」

「左様ですか、いえ私も余計な事を……」

「ただ、メガージの言う通り、ここからは真面目に触れるのだよ」


 ゼルガとして、やはり主君として敬意を寄せられるよりもフランクな関係を望んでいる様子であった。生真面目なメガージとしてそこまで気が利かない事に対して少し恥じるように謝るものの、ゼルガは彼の意思を汲んで少し顔つきを引き締めた上で、


「――あの時は私としたことが大変情けない事をしたのだよ。この通りだよ」


 ゼルガは直ぐに頭を下げた。ゲノムの統治において王座へ再びつくことを放棄しようとする姿勢からゲイン達を困惑させていた事に対してであるが、


「ゼ、ゼルガ様! 貴方のような方が私たちに」

「頭を下げる必要はありません!」

「そ、そうです! 私たちの前で下げられますと、本当こっちもどうすればいいか分からないですから!!」


 このゼルガのリアクションへ、ゲインとメガージが揃って困惑する。ミカもまた普段のキビキビとした落ち着いた様子から一変し、パッション隊の目の前で自分たちが尽くすべきゼルガが謝罪の意を述べている事へ目を丸くしている。実際ベリーたち年商の面々が目を点にしていたのだが、


「すまないのだよ。ただ期待に応えられないで申し訳ないけど、やはり私は表立って王座に就くことは出来ないのだよ」

「左様ですか……」

「ただ、私は陰ながら皆を助けていくのは確かだよ。それにすべきことがあるのだよ……」


 ゼルガが頭を下げた事も、熟慮しようともゲイン達が望むようにゼルガの王座への復帰はないと断じる。ゲインが微かに肩を落とした様子だが、同時に彼を励ますように自分もまたすべきことを見出したと、天井を見上げながら触れており、


「ゼルガ様、貴方がすべきことでしたら私たちが力に……」

「そうだよ! その為にあたし達パッション隊がいるんじゃないの!?」

「皆の気持ちは嬉しいのだよ。ただ私がいない後ゲノムを誰が守るのだよ?」

「……まさか! ゼルガ様がゲノムへ戻らないと」


 メガージとベリーが揃って自分たちが真っ先に戦うべきだと名乗りを上げるものの、ゼルガは二人にはゲノムの地を守る義務があるのではと問いただす。そして彼の口ぶりからしてゲインがゼルガのすべきことを察し始めると、


「この電次元にもゲノム以外の星々がある……バグロイヤーの支配下に置かれていた星はまだあるのだよ」


 ゲノム以外の惑星は、バグロイヤーの七大将軍が支配下におさめていた例も少なからず存在する。七大将軍がそれぞれ自らその支配下の惑星から本部隊が地球へと降り立ち、そして将軍らともども本部隊は敗れ去った。バグロイヤーも滅び去ったとなれば既に勢力圏は瓦解しつつあると言えたが、


「ただ、私たちもゲノムの解放から十分に手を回せなかったのだよ。私自らが直接赴いてでも、その星々の平和を取り戻す事がすべきことなのだよ」

「こうは言いたくないですがー、ゼルガ様もバグロイヤーの人間としてー」

「それもあるのだよ。地球とだけでなく、他の星々とも同じように友として迎えたいのだよ」


 メローナが指摘する通り、ゼルガなりにかつて王だった者として、贖罪としての術であった。七大将軍によって同じバグロイヤーの支配に苦しめられた星々があり、それらの解放こそゼルガ自身がすべき義務だと定めていた様子であり、


「私から言わせてもらうのだよ……皆、私の為に今まで本当よく尽くしてくれたのだよ……」

「その件に関しまして、私からも礼を言わせてください……」


 同時に今まで自分の元へ尽くした彼らへと、ゼルガは労いの言葉をかける。この労いへ真っ先に共鳴し、彼の手を直ぐに受け取ったのはメガージであり、


「貴方に仕えることが出来ました事、軍人として大変誇りに思います……貴方に道を示されました」

「君とわかりあえたことが出来たのも私として非常に嬉しかったのだよ。私でなくメガージとしての道をこれからは」

「私は、これからも軍人としての使命を果たします。貴方に示された道を私は最後まで貫く事が私の道です」


 メガージとして、たたき上げの軍人として誇りを持とうとも、自分が仕えているバグロイヤーに対しては胸を張る事は出来なかった。これもバグロイヤーの上層部が権力欲と保身に凝り固まった面々であり、彼らに自分が切り捨てられた事から自分の懸念は間違っていなかったと認めざるを得なかった。

 その彼として、元はといえばお目付け役としてゼルガに随伴していた。腕が立てどもバグロイヤーへ必ずしも忠実ではない彼の行動を逐一報告する役回りだったものの――スパイのような立ち位置であったゼルガの将としてだけでなく、ゲノムの未来を託すにふさわしい人物だと見なしたのだから。


「君が本当にその気なら、私は安心して後を任せるのだよ」

「ちょっとゼルガ様! それだったらあたしにも任せてよ!」

「ベリー! メガージさんにそこで張り合わなくてもいいから!!」

「はは、確かにベリー達にも暫くの間そうせざるを得ないのを認めるのだよ」


 たたき上げの軍人として自分の理想を引き継いでいく、ゲノムの平和を維持する事に活路を見出しているメガージへゼルガは快く容認した。その彼に追随するようにベリーも自分たちパッション隊に任せてほしいと胸を張る。いくら何だろうとも無謀であるとパインが咎めると、ゼルガは笑いながらベリーのスタンスを容認する。ただその口ぶりからは彼と異なり本意とは限らないようで、


「ただ、君たちに言える事だが私としては各々の幸せを追い求めてほしいのだよ」

「各々って、あたし達の幸せとかならそりゃゼルガ様の為に……」

「私はもう王様でもないのだよ。それでも尽くしてくれるのは嬉しいけども、私にこれ以上引き寄せられないでほしいのだよ」

「つまり、ゼルガ様はパッション隊を解散したい……のですか?」


 パッション隊の面々がまだ10代の少女たちばかりである。ゼルガとして彼女たちに尽くされる事はあくまで自分がアージェスの王であり、ゲノム解放のために戦う男でもあった事で許容を示していた。既にそのような肩書を持つ必要もなくなった一人の男として、パッション隊の面々に自由を求めているのだとナナが気づくも、


「はぁ!? ちょっと何でそこであたし達パッション隊が解散なのよ!!」

「落ち着きなさい! まだゼルガ様の話は終わってないから!!」

「だって、だって……あたしはブル姉の分も戦わないといけないんだしさ!」

「ブルーナの事か……私も兄上と同じよう、まだしばらく戦い続ける事になるのも運命かもしれないのだよ」


 ナナに対して目上だろうとも、ベリーは食って掛かる。ミカが窘める者の彼女として、自由奔放な性格だろうともパッション隊の一員として、ゼルガに尽くす事も姉の遺志を引き継ごうとする想いがあっての事。ブルーナがマックスの妻であったことから、ゼルガは自分ごとであるように言及していれば、


「まだ戦い続けるとは……そういえばユカ様の姿が見えないのですが」

「ユカは今まで通りだよ……」

「今まで通り……あれ?」

「まさか、まだ戻られてないのですか!」


 ユカが今まで通りである――プーアルは彼女が無事であると一瞬安堵したものの、言葉の意味を捉えたミカは直ぐに目の色を変えた。


「殆どの者は元の体が見つかり、ユカも無事だったから安心してほしいのだよ」

「それなら、何でユカも戻らないの!? ゼルガ様とのこれからがあるのに……」

「私もユカもそうしたいのだよ……ただ、リキャストはまだ残さないといけないのだよ」


 早い話、ユカは元の体に戻らずにハドロイドの体であり続ける事を選んだ。それもまたゼルガ自身、他の星々へ向かうにあたってバグロイヤーの残存勢力を一蹴する必要性が生じた場合、単身でそれが出来るだけの力が必要と考えての事もあり、


「メル君もパルル君もこれ以上無理をさせられないのだよ。まだユカも私も無事なのだよ」

「それでゼルガ様自らが……私が言っても決心は固いと思いますが」

「ただ、長らく戻れないの訳ではないのだよ。直ぐにでもバグロイヤーを片付けてみせるのだよ」


 ゼルガ自身、贖罪の意味があっただけでなく第1世代のハードウェーザーはハドロイドの面々が寿命を迎えようとしていた点も、自ら踏みでようとする事に拍車をかけた。特にメルはマーベル達の意向もあり、出来る事なら同伴させたいと捉えていたようだが、それが叶わないとしてもゼルガは己の力で残るバグロイヤーを一蹴してみせるといつも以上に強い自信を見せつけていた所、


「ゼルガ様もこう強い自信にあふれてます。ですからここは……」


 そして妻として夫の自信を肯定するようにして、それまで姿を見せる事がなかったユカが執務室に足を運ぶ。彼女の首元にタグが備え付けられたままと変わりない様子だが、


「ユカ……って、ええぇぇぇっ!?」

「……子供、出来てる?」

「ゼルガ様とユカ様が……い、いや確かに二人がそうでもおかしくないと思いますが」

「ユカ様、僕とまだ年も同じなのに、あの、えぇと、その……」

「み、みんな落ち着きなさい! ゼルガ様とユカ様の間に子供が設けていただけの話だから!! うん、夢でもない現実の事だから、静かにしなさい!!」


 ユカは両腕で生後数か月の幼子を抱きかかえている。パッション隊の面々として二人の間に子が出来ているような話も知らされておらず、パインが触れる通りユカが自分たちと同じ14歳であるとして、彼女が早くも子供を設けている様子に慌ててふためき、パッション隊の面々を収拾しようとするミカですら動揺していたが、


「まさか、マックス様とブルーナ様との……」

「えぇ……ブル姉の!?」

「静かにしてください。今泣き止んだばかりですから……」


 ただ、マックスと共に抵抗運動を続けていたゲインはおぼろげながら、その子供の正体を察していた。姉の子供と聞けば叔母としてベリーが顎が外れる程驚愕している。彼女と別にユカがまるで実の母親のように子供をあやしながら、パッション隊を収拾させているようで、


「ユカの言う通り。兄上の子供だよ……マークとの事だよ」


 ゼルガもまた状況を収拾させる意味合いもあり真実を打ち明けた。自分からすれば甥になる、兄の遺児でもあるマークは、戦乱の最中で出産間もなくしてコールドスリープで何か月か眠りについていた。これもバグロイヤーとの戦乱に巻き込まれる事を避けるためであったが、


「ですが、マックス様もブルーナ様も……」

「せめて、兄上に代わり私たちが育てていくと決めたのだよ。おかげで私にも生きる理由が見つかったのだよ」


 ゼルガとして自ら責任を取らんと命を断とうとまで思いつめていた――その中で生きて贖罪するだけでなく、未来を創っていかなければならないのだと気付かせた相手こそ、小さな甥御であり、


「私も暫く君たちを陰で助けるつもりだよ……マークがその時を迎える迄」

「成る程、マックス様のご子息でしたらゼルガ様の後継者として血筋も」

「血筋だけでなく、私の後釜が務まるよう育てさせてほしいのだよ……マークに未来が託せるよう、私もユカも」

「精一杯頑張ります……その為にも残された戦いもすぐ終わると信じてます」


 メガージが気づいた通り、ゼルガの甥となるマークを自分の後継者へと移譲させようとしており、ゼルガはその為もあって王位の座を拒んだ。ゼルガとユカはマークを育て上げる事が自分たちが本当にすべきことであると見据えており、バグロイヤーの残党との戦いをあっという間に片付けるのだとの信念へ周囲は自然と納得と理解を示し始めており、


「それと別にもう一人……私として出来る限り招きたいのだよ」

「私や、メガージさん、あとバッツさんと別にでしょうか?」

「そうだよ。まだ彼にその気があるか分からないから、出来る限り彼の意思を尊重したいのだよ」

「私が知る限り、ゼルガ様が余程の期待を寄せていますから……」


 それだけでなく、ゼルガとしてもう一人ゲノムの未来を担える逸材に着目しており、ゲノムからすれば長らく外様のような彼を出来る事ならそのままハントしたいのだと貪欲な姿勢を見せており、


「何かゼルガ様が凄い肩入れしてるけどー」

「当然だよ……出来る事なら、私だけでなくマークとも互いに良い好敵手であってほしいのだよ」


 ベリーだけその相手が一体だれか今一つ把握していない様子である。彼女へゼルガが触れる通り、自分だけでなくマークの為にもなくてはならないかもしれない相手である。生涯最高の好敵手として太鼓判を押す相手となれば、


「ただ彼の未来は彼が決めるのだよ……どうあろうとも彼も悔いのない未来を送り続ける筈だよ」


“バグロイヤーとの戦いに終止符が打たれ、ゲノムに平穏が取り戻されつつある中で、ゼルガ・サータもまた今後の生きるべき道を見定めた。同時に彼として最大の好敵手がこの先にどのような答えを示すかを自分のように待ち望んでいる――この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録。その記録は遂にその父を相手として挑む事で幕は降ろされようとしていた……!”

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