38-3 迫る決着の時! 頼むぞ戦刃(せんじん)ビッグアックス

「ここで真っ先に投げる! バトルホーク秘剣隠しでだ!!」


 バトルホーク・ウェートの刃が外されようとも、カウンター・ジャベリンとして運用する事は可能である。ファイター形態でありながら噴射口を構成する両腕から、両手を展開し、右手でジャベリンを直ぐに投げつける。ウィナーストの主砲そのものに狙いをつけて投げ飛ばすものの――吐きつけるように放つ電次元フロストを前にして、あっけなく凍結した末粉々に砕け散るのみであり


『どうやら追い詰められたようだな! 無理もないが……』

「いい気になるのも、今の内だ!!」

『いわせておけば……!!』


 電次元メルトダウンを立て続けに当てた故か、それとも悉く避け続けたブレストが、まるで捨て鉢のように突入していると見たか――ガレリオが高笑いを始めるものの、彼の勝利などないと玲也は断じる。この挑発に煽られるように、ウィナーストは両手に鋭利な爪状のメリケン“バエルスラッシュ”を装着して、巨大な拳を地へと叩きつけんとするが、


『……貴様! そんなもので!!!!』

「その場しのぎで終わる男じゃないわよ! あんたのオリジナルは!!」

「その場しのぎでも、次につながるなら十分だ!!」


 間一髪、ブレストは巨大な質量を前に、えぐられることなく堪えぬいた――サザンクロス・ダガーを両手に握り、エネルギーフィールドを一時的に展開した為だ。それでも長時間耐えきる余裕はなく、半ば強引にブレストが間近へと潜り込む。


「間合いに入った! キラー・シザースだ!!」

『しまった! ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


 ファイターからの変形を始めていくと共に、ブレストの猛攻が始まった――強引に畳みかけると共に両腕へと折りたたまれる筈の翼が、爪によって抉られ、潰されることもお構いなしに。機首が胴体へ向けて前方に折れ曲がったと共に、二本の角がウィナーストの胸部を突いて電熱をコクピット目掛けて流し込む。


『……まだよ!ガレリオはここで死なせるなんて!』

「挟み撃ちか……ならメイス・シュートだ!!」


 シーラが咄嗟に、アポカリプス・シーカーを本体から切り離したが、その隙にウィナーストへ引導を渡さんと玲也は攻撃の手を緩めない。既に変形を完了したブレストが左ひざを突き出して、角を離すと同時に、内蔵されたカウンター・メイスそのものを弾丸のように撃ちだしていく。


「何としても風穴を開けるにはもう一押し! !」

『ぐおっ……!!』


 ダメ押しとして、ブレストがショルダータックルをお見舞いする――ウィナーストそのものに風穴を開ける事が、玲也が勝つ為に必要な一手である。その為カウンター・メイスをウィナーストの体内深くにめり込ませ、爆発を引き起させる必要があった。右肩のカウンター・クラッシュだけでなく、ブレストの全重量そのもので叩きつけた結果、メイスそのものがウィナーストの内部で爆発を巻き起こし、


『……これ以上ウィナーストへ、ガレリオには!』

『あ、当たり前だ! オリジナルに俺がここで負けてよい訳が!』

『……言われなくても分かっているわ』


 既にシーラは後がないと悟り覚悟を決めたと共に、ガレリオも少し彼女に圧倒されつつも彼女にゆだねた。アポカリプス・シーカーがロケットパンチのように射出されながら、指先がビットのように射出され電次元コレダーを見舞う。


「こっちのクラッシュで絡めとる! 一気に間合いを詰めて電次元フレアーだ」

「そうね! 長引けば長引くほどこっちが不利なんだし!」


 電次元コレダーが微々たる威力だろうとも、蓄積すれば命とりになりうる。その為左肩からのカウンター・クラッシュをロープの要領で絡めとって動きを封じようとする――出来る事なら被弾もせずとも避ける事が望ましいと玲也は捉えていたものの、


『……今よ!』

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「絡めとった事が裏目に出るとは……!!」


 しかし、電次元コレダーの対処にブレストは注意を寄せすぎていた。もう一基のアポカリプス・シーカーがブレスト目掛けて飛び、質量とともに電次元コレダーをゼロ距離で繰り出し、これらを直撃させていった。シーラが半ば確信したかのように、ブレストの体そのものが力を失ったように海原へ墜ちるのみであり、


『……これで終わりにしてみせるわ』

『……お前が羽鳥玲也を仕留めるつもりか! 俺ではなく!!』

『……水中でウィナーストが不利よ? ただでさえ、あのブレストに勝てる確率は低い事も』

『……』


 ウィナーストがエネルギー兵器を増強した結果、従来よりも火力が強化された形態ともいえた。しかしその結果水中での攻撃手段が限られており、早い話、ガレリオが玲也の挑発に乗る形でこのカリブ海で決闘に応じた事は下策に等しい。


『……私を信じて。私の勝利はガレリオ、貴方の勝利よ』


 けれども電次元ジャンプを封じられたとなれば、このままウィナーストが逃れられる可能性は険しくなる。ならば自ら計算して割り出した勝率が低かろうとも、ブレストを仕留めなければこの先はないとシーラも捉えざるを得なかった。現実を見据えた上でガレリオの失策を静かに、けれども確かに指摘した上で自分を信じてほしいと強く主張した途端、流石の彼も少し圧倒されるように聞き入れていた様子で、


『……電次元コロナ、電次元コレダー。それに電次元フローズンがまだあるのよ』

『ブレストにフローズンで引導を渡す……その為にコレダーで動きを封じて』

『……海の底にブレストを沈めれば、少しは望みもあるわ』


 元々ウィナーストがブレストら3機を結集させたハードウェーザーの筈である。けれども3大電次元兵器を持つ巨人だろうとも、念には念を入れて立ち向かい、確実に仕留めなければならないとシーラを慎重にさせるだけでなく――


「何をしている、手を合わせて何になると」

「……私にもよくわからないわ。ただ貴方以外の何かを信じて縋りたい気持ちなの」


 ガレリオのパートナーとして作り出されたシーラですら、祈るように手を合わせていた。戦いの最中、一寸の静けさから彼女は観念的な何かを念じているようにも見えた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ここで、俺が望むどおりに動かすことが出来たなら……」


 沈みゆくブレストへと、アポカリプス・シーカーのコレダーは炸裂し続ける。コクピットの電撃に打ちのめされる中、玲也自身も漠然とマルチブル・コントロールでの力に頼ろうと。彼として窮地に追いやられる中で天に望みを託す心境であった。

仮に電次元フレアーを駆使して脱出を図るとなれば、その為に3割のエネルギーを奪われる事となる。この苦境に対しその場しのぎで生き延びようとも、勝てる保証があるとは限らない。時が過ぎるにつれて打つ手が潰えようとしていたが、


「バイト・クロー!!」


 ――ニアが咄嗟の判断でバイト・クローを繰り出す。アポカリプス・シーカーの中央、電次元フローズンの砲身を抉る貫手が決まると共に、双方のエネルギーが相殺されるようにアポカリプス・シーカーが水中で暴発を起こす。


「あんたも結構危なっかしいんだから、あたしがいなかったらねぇ!」

「……すまない」

「まぁ、あんたはあんたで必死に頑張ってたのも分かってるわよ!」


 咄嗟に展開したサブアームを駆使した結果、アポカリプス・シーカーを破壊する事にこぎついた。ニアが咄嗟に基点を利かしたおかげで、窮地を打破する糸口が見つかったと共に、


「ありがとう。お前の言う通りこのまま最後の一手を封じられたら元も子もない」

「ちょ、ちょっといきなり改まって言われると照れるじゃないの!」

「照れるなら後にしてくれ、起死回生の一手に踏み切るだけだ」


 同時にニアのいつもながら堂々と自信ありげな口ぶりが頼もしいと思わされた。彼女が自分に対してこうぶつかってくれるからこそ、自分が気づかなかった一手を見出してくれるのだと。その上で気を引き締めなおすと共に、


「そうそう。その為に早くこいつで気を退かないと……あれ」

「早く向かわせないと、手の内が知られる。どうした!」


 玲也としてその最後の一手の為に、ウイング・シーカーをウィナーストの前へと飛ばして注意を退くつもりであった。けれどもアポカリプス・シーカーから引き起こす爆発と共に海中へと噴出されたライトブルーのガスに包まれるや否や、操縦を受け付けそうにない。

 

「分かってるけどさ! シーカーが動か……何よこれ!!」

「このままだとブレストまで危険だ! パージだ!!」


 電次元フローズンを放つ寸前に封じられた結果、アポカリプス・シーカーが巻き起こした爆発にフローズンのエネルギーが漏れ出す結果となった。凍結砲として海面を瞬時に凍結させつつあり、アポカリプス・シーカーへとめり込ませたバイト・クローが既に凍てつく氷塊と化している。それだけでなく、バックパックのシーカーを伝ってブレストの全身そのものを凍結させるであろう。


「できればシーカーを残したいが……やむを得ない!!」


 今度は玲也が咄嗟にブレストからウイング・シーカーをパージさせる。同時に右ひざからカウンター・メイスの鏃を打ち出してあえて自らの手で粉砕した。海中にガス状のエネルギーが蔓延していくにつれ、ブレストが凍り付けば元も子もない苦渋の選択であった。そしてパージすると同時にウイング・シーカーから分離したバトルホーク・ウェートへカウンター・クラッシュを巻き付けると共に右手へと握りなおす。ただ左手をまじまじと見つめた上で、


「シーカーの代わりに相手の注意を引き付けるにはこれしかない」

「けど、ここでぶっ放したらこの後が決まるかどうか分からないわよ」

「まだエネルギーは半分以上ある……そういうことだ」


 ワイズナー現象を無意識に発動させての操縦も少なからず関係はあった。けれどもブレストがこれまで防戦に徹し、殆どが内蔵された携行用の武器を駆使していた結果、エネルギーはまだ7割近くが残されていた。


「……信じてるわよ! あたしもあんたもくたばるなんてありえないんだからさ!!」

「勿論だ……リスクが高いが」


 玲也が引導を渡す最後の一手とは、この残されたエネルギーを一気に放出する事を指す。ニアは賭けに出る玲也の一手を受け入れているものの、今から自分が挑む手があまりにもリスクが高いと認めざるを得なかった。


「両腕でなければ腕が捥げるかもしれないが、やむを得ない」


 海中でバトルホーク・ウェートの柄に向けて残されたカウンター・ジャベリンを連結させる。その結果ブレストに勝るとも劣らない全長を誇る大斧“バトルホーク・ビッグアックス“を完成させる。

ただ、バトルホーク・ウェートの刃が叩き割る威力に重点を置いた結果、ブレストの腕でどうにか保持して振り回すことが出来る程の重量を誇る。バトルホーク・ビッグアックスとして質量が増した状態で、何故か右手だけで振り回すは愚か、支えることも無理があったのは海中だろうとブレストの体がよろめいている様子から明確であり、


「後はこの一撃を決める……ゼット・バースト込みでだ!」


 それでも何一つ掴まないブレストの左腕は海面を突き破ろうと高く掲げていた。両手でL1、L2、R1、R2ボタンを押しながら、左右の親指がスティック状のL3、R3ボタンを押し込んでいった。

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