36-5壮烈クリスタルコフィン! エクス永遠の別れ!!
『ダメじゃないか……こう非力な分際で、刃向かうなんて!!』
クロストからのミサイルやアビスモルが浴びせられる様子に、バグポセイドンもバズーカとブラストで迎撃に回っていた。同時に父を仕留めるために全身を海から揚がらせていた事を危惧し、少し後退するように海原へ底部を顰めようとしていた途端、
『無様だ……だから誇りのない力は!?』
浸した底部へと何かが突き刺さり、爆発が引き起こされていった。グナートも流石に焦っていたのか、現状を把握するより海中へとバズーカを射出する。真下に潜んでいた相手を射止めようとしたものの――ライトブルーのハードウェーザーが海面から浮上する。
『才人っち! カタが付いたんだ!』
『何とかね……ちょっと遅かったかもしれないけどね』
シャルが触れる通りスフィンストは、その上半身とともに深海軍団を蹴散らして健在であることをアピールする――ジーボストから託されたインパルスを両手にして、底部を浸したバグポセイドン目掛けて突き刺し、両足を付かせる形でカッターフットシャークをめり込ませながら、こうして脱出に成功した。底部からの攻撃でバグポセイドンがバランスを崩していた事を付いて
『玲也さん、エクスさん! 今がチャンスです!!!!』
『この馬鹿兄貴にとどめを刺してくれよ! 玲也ちゃん!!』
「いわれなくてもな……電次元ブリザードだ!!」
スフィンストの助けを借りながら、クロストの砲塔からは水色の閃光がバグポセイドンへとさく裂していく。同時に真っ向から間合いを詰めていく相手へ、ハイマット・オーロラの砲門が向けられており、
『父さんと同じ目に遭いたいようだね! もう一度やり直すなら私としても……』
グナートが正気を失いかけていたとはいえ、一瞬あの世で家族そろって水入らず、やり直しを図ろうと持ち掛けた――まるで朧げな意識の中で彼は自らの死を既に確信しており、家族への情を心の底では捨てきれていない様子すら漂うが、
「……貴方の道連れになんか絶対なりませんこと!!」
『はは、私を拒んでもどうせエクスは……何、どうした!』
ただ、エクスとして微かに心が揺らいだものの忽然と拒んだ。既に父を殺めた兄は既に敬愛していた頃の彼ではないと殉じる事へ首を縦に触らない。そして彼女に拒絶されたかのように、ハイマット・オーロラは放たれる事はなかった――電次元ブリザードが既に砲塔そのものを凍結させていた為であり、
「これはシーンの分だ!」
「アクアさんの分もありましてよ!!」
『あっ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!』
電次元兵器として、電次元ブリザードがハイマット・オーロラの威力を上回っていた――完全に優位へ立ったクロストは、蛇腹状のアームを凍結したバグポセイドンの装甲目掛けて突き立てる。両手からのバルカン砲の乱射に耐え切れないほど凍結した装甲は脆く、
「そしてこれは……」
「お父様の分、クリスタルコフィンでしてよ、お兄様!!」
『私の力が、私の誇りが負ける時が来たのかぁ……』
続いて電次元ブリザードを照射したまま、ゼット・フィールドに敢えて自分たちが包まれる事で2機もろとも捨て身のフィニッシュ・ホールドへと入った――確実に自分はこの戦場で果てるとグナートが悟り、
『エクス、一緒に魂になろう……ほら、こうしてすぐ解け合えるからさ……!』
「それは幻想ですわ、お兄様……!!」
誇りと力へ執拗に拘る狂気へと飲まれようが、あるいは狂気に晒されて己の本性をさらけ出したのか。これ以上生きて戦い、勝たなければならないとの呪縛から解放されるように、憑き物が落ちた顔を見せているものの――エクスは自分が一緒に行くことは出来ないと忽然と拒み、
「早くとどめを……玲也様!」
「バスター・マグナムだ! 空蝉の準備を頼む!!」
自分とともに歩む相手の横顔をエクスは微かにのぞき込む。確実に兄を手にかけようとする玲也こそ、今後苦楽を共に分かち合う関係――未来を共に歩む相手の為に、過去に自分が背中を追った相手を断ち切らなければならなかったのだ。
そしてダメ押しとして、胸部からの2門のビーム砲を撃ちだした途端バグポセイドンが完全に沈黙したように見えた。最も最期を見届ける前に自分たちが完全に凍結する恐れもあり、すぐに電次元ジャンプのコマンドを入力すれば、クロストそのものがバグポセイドンを巻き込むような爆発を引き起こし、
『やったか……!? 玲也とエクスは!?』
『クリスタルコフィンで、周りへの被害を抑えたんだと思うんだけど!!』
『だ、大丈夫だぜ玲也ちゃんとエクスちゃんなら、こう何時ものように……』
「オレもいるパチよ」
シャルが触れる通り、ゼット・フィールド内で相手を凍結させて共に空蝉で自爆へ巻き込む戦法がクリスタルコフィンではある。これによりクロストより巨大なバグポセイドンが大破しようとも、最低限の被害へ抑え込んだ様子でもあった。ただ玲也たちの無事までは保証できない様子だったものの、
『玲也君、エクス君……無事だったか!』
「えぇ、どうにか勝つことは出来ましたが」
『……そうだね。また辛い事を君たちに味合わせるとはね』
ドラグーンへ向かうようにクロスト・ワンは電次元ジャンプでその姿をあらわにした。玲也たちが健在であることをエスニックへ示そうにも、とても心から喜べるような状況ではなく、
「……お父様、お兄様は私が討ちました。私のこの手で……」
――遥かな巨体を誇ったバグポセイドンが既に影も形もない。強いていれば兄の亡骸がいくつか散り散りとなり、タスマン海へと漂っているのだろう。そしてその海原へと、同時にビルを始めとするフローレンス級のクルーの肉も、骨も、血も流されているのだろう。エクスが仮に父の仇を討ったと捉えようとしても、喜びはなく、かといって悲しみもなくただ淡々と、虚ろな目をしながらうわ言のように呟いており、
「この時になりまして、輝きますなんて……」
「たかがこの現象のために、お前の父さんが死んだ訳がない……綺麗ごとであってたまるか」
ただ自分のタグが未だ青い光を灯したままの事に、エクスの関心が及べば力なく複雑な胸の内を口にしていた。彼女として玲也をひた一途に愛していた事ではなく、兄がバグロイヤーに走り、父を手にかけた事への憤りで心が通うとは互いに考えてはいない。
「今は何も考えるな、お前が落ち着くのが大事だ……すまない」
ただ、心虚ろのままのエクスを今目にすることは、玲也としてもあまりにも辛い光景となる。少なからず戦いの場から今は引き離さなければならない。自分を信じてくれながらも、最愛の父を喪い、最愛の兄まで討ったとエクスが支払った代償があまりにも大きいと考えるならば……。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「グナートも死んだか……」
「彼はガレリオ様を生かすために必要な犠牲だったのですよ、十分戦って死にましたよ」
「……ガレリオでは、この状況を打破できなかったと言いたいのかしら」
グナートと犬猿の仲であるトランザルフとして、グナートが父と妹への確執に駆られるように一人先に死んでくれた事を内心では快く思っていた。彼らの犠牲を口では惜しんでいるが、シーラが冷ややかに指摘する。本来ガレリオがすべき役回りをグナートが身代わりになったのではないかと、
「僕はそう言っていないですよ? そもそも勝手に自分でやると引き受けてくれただけですし」
「……そこまで私は聞いていないわ」
「おっと失礼。ですがガレリオ様が行くとしたら無事で済むかどうか本当に分からないですよ?」
「貴様! 俺が前線に出ても勝てないという気か!!」
トランザルフは、そもそもガレリオが前に出ればグナートと同じ目に遭うと言いたげだ。彼が既に最期を遂げた事もあるからこそ例えられるのだろう。しかし、ただ尊大で傲慢なガレリオからすれば、格下になる筈の彼と同程度にすぎないと例えられて黙ってもいられなかった。思わずトランザルフの首根っこを掴み上げて怒号を飛ばしているが、
「……ガレリオ、落ち着いて。貴方が早まっても何も起こらないわ」
「貴様は黙って俺に尽くせ! ハドロイドだと忘れたのか!!」
「……ですが、それでも私は!」
シーラからでさえ自分の実力を肯定してくれない――これに思わずガレリオは当たり散らすように怒鳴りつけた。同時にトランザルフからしシーラに手をあげた。左頬をぶたれてシーラの体が少しよろけるも、血気に逸って前線に出る事がわが身を滅ぼしかねないと諫言を続ける所、
「やめたらどうですか! 僕たちはバグロイヤー、天羽院様の為に戦っているのですよ!!」
「……」
珍しくトランザルフが感情を露わにして二人を嗜める。格上の二人だろうと、内なる争いを繰り広げようとしている様子を部下として快く思わないとの心情に至るのは一理ある。シーラは軽薄そうな彼が正論を訴えている事へ少し目を丸くしており、
「ガレリオ様、こうも七大将軍が悉く倒れ、こう散り散りにならざるを得ないのは貴方の責任ですよ!!」
「おのれ、黙って聞いていればこうも付け上がるか!!」
「でしたら、貴方がもう戦わなければいけないじゃないですか! 最強のハードウェーザー・ウィナーストを前に出さないからこうなったのですよ!!」
「……わかっている!」
休む間もなくトランザルフは、七大将軍の敗因はガレリオが至らなかった為だと直球で苦言を呈する。やはり逆上するように胸倉をつかむも、前線に出て活躍すべきだとの意見には思う所があり、一応は認めていた。例えシーラの表情が歪もうとも、
「……ガレリオでも状況を打破できるかどうか」
「ドラグーンを破壊出来ましたら暫くは……」
最もウィナースト単身で戦局を覆すことは出来ない。シーラの意見をトランザルフは否定せず、
ドラグーンを落とした上でオールを沈める作戦を解く――フォートレス4隻の中で、電装マシン戦隊の士気や戦力へ最も有効打を与えることが出来る艦と見なした為だ。
「たかが二隻を落とすだけで済むのか……羽鳥玲也を仕留める事より歯ごたえもなさそうだな」
「……もう、貴方が羽鳥玲也にこだわっている場合じゃないわ」
「いえ、でしたら僕が玲也と一騎討ちの場を設けましょう……彼を亡き者にするだけでも十分ダメージを与えられますからね」
「……そう簡単に玲也を始末できるとは」
「それは貴方だったからでしょう?」
ただ、フォートレスを落とす事に対しガレリオは玲也よりたやすいと軽視している。シーラが冷静に宥めるものの、トランザルフは寧ろ有利になると彼をその気にさせるよう促す。そのついでに彼女が以前襲撃に失敗した事を例として出して揶揄っており、少し彼女が気を悪くしたものの、
「おっと、貴方が勝手に動かれましたからガレリオ様の気を悪くされた事ですよ」
「なら、俺がこの手で羽鳥玲也を仕留めれば良い訳だな!」
「その為に飛翔軍団が上手くお膳立てします。元々白兵戦を想定した部隊ですからね」
「……」
シーラの胸の内に再度疑問が頭をもたげてくる――トランザルフが自分へフォローを加えていたものの、彼はガレリオをその気にさせて自分の思う通りに作戦を進めているのではないだろうかと。既に上機嫌で作戦を聞き入れているガレリオに対し、彼女自身本来の使命でパートナーとしての役目を果たしながらも、彼の心は既に離れようとしていると懸念も漂う。
「……その場合、フォートレスは誰が落とすつもりなの?」
「鋼鉄軍団がまだ残っていますから、彼らに任せればよい話ですよ」
トランザルフを牽制するように、本来の作戦の意図が如何なるものかシーラがフォートレスの一件を触れる。今となれば鋼鉄軍団が一定の規模を維持している唯一の軍団となる。その為フォートレスへぶつけるにはちょうど良いとトランザルフは主張しつつ、
「どちらかにイーテストがいますからね。ハインツが戦うとしても不足のない相手でしょう」
「……それが鋼鉄軍団をぶつける理由なのかしら?」
「個人の感情、特に憎しみは戦いへ駆り立てる強い力ですよ」
ハインツとして、猛獣将軍レーブン――実の娘が仕留められた因縁にイーテストが絡んでいる。彼に阻まれた為に、レーブンのバグケルベロスはブレストに仕留められた。その因縁と憎悪の感情に後押しされるよう、鋼鉄軍団は迷わフォートレスを攻撃するに違いない。そのようにトランザルフは推測しており、
「ガレリオ様がそのように指示を出してください。大将軍の貴方でしたら間違いなく従いますから」
「わかっている……俺が羽鳥玲也を仕留める為の一手を考えるとな」
あくまでトランザルフはガレリオを神輿として立てる事を忘れない。自分自身の思う通りに動かしつつ、その都度で彼を大将軍としてその気にさせている事で、窮地に追いやられながらも起死回生の作戦はとんとん拍子に纏まろうとしている。裏を返せばシーラがガレリオの元へと、入る余地がなくなっていく事を意味するようで、
「……その個人の感情に身を任せた作戦でどうにかなるのかしら?」
「アンドロイド同然の貴方には分からないかもしれません、ですが誰だって憎しみで突き動かされる力が」
「……貴方にもありますか?」
「勿論、僕は依然殺されかけましたから、いつも怨念返しをしたいと思ってますよ」
もう一度シーラが、トランザルフの作戦が感情的なものだと再度指摘するが――それまで飄々としたトランザルフにも因縁の相手があり、口ぶりは相変わらずながら拳を静かに震え上がらせていた。
(ガレリオもシーラも世渡りが下手なんだよ……長い物に巻かれろを地で行く僕には勝てないんだよ!)
――トランザルフという男がそもそも、天羽院とセインクロスによって七大将軍の元へと派遣された将軍となる。内心でガレリオをやはり見下している彼だが、これもより立場が上で力も備えている天羽院たちの部下との点から来ている振る舞いだ。後ろ盾を得れば得る程、増長し、強くなる男であり、
(おかげで僕はセイン様の手で復活した……だからといってあの時僕を半殺しにしたあいつを許さないけどね!)
後ろ盾に支えられ、ただ七大将軍を利用した上でトランザルフも動きだす。個人の感情に突き動かされる復讐を成し遂げるために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます