33-2 一網打尽! 赤い森の獣を駆れ!!

『マヒルード隊長! レーブン様は、レーブン様の援軍……!!』

『馬鹿なことを言うな! 俺たちの為にレーブン様まで!!』


 ウクライナの赤い森にて、猛獣軍団の一師団は戦闘を余儀なくされていた。シュダール戦死とともに、電装マシン戦隊にウクライナは奪還された。それに伴マヒルードを始めとするシュダールの部下たちはレーブンの元へ戻る事を良しとせず、ウクライナ奪還による名誉挽回を図ろうとしたものの――潜伏した赤い森を突き止められてしまい交戦状態へ突入していた。


『そうだ! あの時救いを求めなかった我々が今更、どのような顔をして!!』

『で、ですが! それとこれとは話が違うかと』

『俺たちには地の利がある、こうも木々が多いとなれば……何!!』


 シュダールは自分を捨て駒になる事が猛獣軍団の為になるとして、レーブンへの援軍要請を敢えて出さなかった。その負い目がマヒルードにもあったのか、自分たちが彼女に援軍を求める事を良しとはしなかった。

それに加えて、バグビーストらを駆使するにあたって地の利があるのだと檄を飛ばす。赤茶色の木々が入り乱れる複雑な地形なら、ハードウェーザーが身動きを取ることも容易ではないとマヒルルードは見据えていた――筈でもあった。それも1機のハードウェーザーが軽々と乗り込んできた事により覆される結果となる。緋色のハードウェーザーが二丁拳銃とともに攻めかかっており、


「そっちの都合だと思うけど、俺らも同じだからね」

『マ、マヒルード様、ザービストです!ザービストの場合ですと!!』

『一斉に攻めかかれ、近寄らせたら終わりだ!!』


 バグビーストより小柄かつ機動性で勝る――そのようなハードウェーザーはザービスト以外に存在せず、かえって自分たちが森林に陣取っている事が足かせになるのではとマクロードは判断せざるを得なかった。その為装甲の脆さを狙うよう、遠方からミサイルを一斉に浴びせようと指示を出すものの、


『た、隊長! 罠です、こちらにも罠が……あっ!!』

「まさか既にそこまで手が伸びて……」

『どうしたの? 俺らいるのに余裕じゃないの?』


 バグビーストの足元から爆発が巻き起こり、木々もろとも爆風に煽り飛ばされる者が次々と生じた――足を止めて一斉に砲撃に出ることが不利だと直面したマクロード機を前にして、ザービストが左手を掲げてリニアッグと接続されると共に、出力を限界まで向上させたジャンバードの刃が展開されるが、


『そんな余裕ぶっこいてなら、串刺しにしてだな……!!』

『っと、そこにアビスモルあるみたいだよ、バン君!』

『あぶねぇ……もっと早く言えよ!』

『まま、足元がお留守だと人の事言えないかな?』


 小柄なザービストが先陣へと切り込む後ろ盾として、クロストからのアビスモルを赤い森に仕込ませて、バグビーストの足元から不意を衝く下拵えを済ませていた。だがザービストがマクロード機を仕留めようとした足元に、偶然アビスモルが潜んでいたとムウが気付くと共に、慌ててローラーダッシュの軌道修正を余儀なくされ、


『ここでお前を倒さなければ、レーブン様が!!』

『隊長はまさか……まってください!!』


 一寸の隙を生じさせたザービストを前にして、マクロードはとびかかる様にしてフィンガンを展開する術に出る。これも装甲が脆弱な相手なら、四本足からのセイバーで十分仕留められると踏まえた為だが――後方へとよろけるようにして、ザービストがローラーダッシュを展開し、スライディングの要領で相手の脇腹へと滑り込み、


『ぐはっ……!!』


 今度こそジャンバードの刃が突き刺さる――マクロード機の腹が串刺しにされると共に、リニアッグによって加速されたザービストの蹴りが沈黙した相手を蹴り飛ばしていき、


『マクロード隊長の弔いだ! いくぞ!!』

『か、数で攻めかかれば……!!』


 仰向けになった状態のザービストへ向けて、咄嗟にバグビーストの数機がミサイルを撃ち続けながら間合いを詰めようとした途端、打ち出されたミサイルをジャッジメント・ガンで撃ち落として防戦に回るものの―舵手浮遊する棒状のビットからの砲撃にも助けられており、


「持つべき相手は彼女かな……こう俺もフォローされるとはね」

「……俺が油断してたからって事だろ!? 要するに!!」

「まま、汚名返上、人生二勝一敗って言うだろ?」

「要するに勝てばって事だろ……!?」


 ムウが触れるようにアタリストの助力によって、ザービストの被弾は免れた事を評する。遠回しにバンが油断した事をパートナーに突っ込まれて発奮したのか、とびかかるバグビーストへとティンプラードを豪快に振るう。リニアッグによる光のワイヤーによって重量級の鉄球が宙で振るわれ、その質量の威力に遭わされ、


「留守なのは足元だけじゃないようだな……!!」


3機のバグビーストが宙でバランスを崩した途端、起死回生のごとくザービストが起き上がる。ティンプラードを今度はパージし、左手でジャンバードを握りしめ宙で弧を描くようにして首を掻っ切っていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「折角出てきたのは良いですが……気に食わないですわね」

「気に食わないってどうせ僕の事でしょ?」

「まぁ否定はしませんけど、玲也様もまだ腕が完治してませんからね」


 ――カルパディア山脈の地にはクロストとアタリストが布陣していたのだが、エクスはどうも不服めいた様子でもある。サブプレイヤーとしてシャルが同乗していた事に関しては、玲也がレーブンによって左肩を負傷したために我慢はしていたものの、


「こうも後ろから、大人しくサポートに回る事ですわよ。最近そればかりでして」

「そんなこと言ったって、クロストってもともとそういう機体じゃん」

「まぁ! 折角私が我慢して貴方に託してますのに酷い言い方でして!!」


 エクスとして支援に徹する役回りが続くことが不服なようで、思わず愚痴をこぼしていた。だがシャルは少し彼女を揶揄っていたものの、堅牢ながら鈍重なクロストは切り込む役回りには程遠いとの指摘は少なからず間違ってはいない。


「だからと言って手を抜くな。俺がシャルに任せることも意味がある事ぐらい」

「玲也様のマルチブル・コントロールの為ですわよね……シャルさんに任せるつもりも」

「それも十分あり得る。最も俺が会得することの方が大事だが」


 玲也としては自分が怪我をおしてまでも前線に出る意図として、マルチブル・コントロールを会得した後、自分に代わって動かすであろうサブプレイヤーのポジションを養成する意味合いもあった。その候補としてシャルが抜擢された事も、一度クロストを自分に代わって動かした前例もあっての抜擢ではあるのだが、


「シャルさんに任せる為に心を通わせる事、玲也様どうしてもというのでしたら……」

「エクスー、別に嫌ならやめてもいいんだよ」

「だ、誰が嫌といいまして! 玲也様はゲーツお兄様のようにですね!!」


 マルチブル・コントロールを会得する為、プレイヤーとハドロイドの心を通わせる事が問われるものの――エクスとして玲也と心を通わせた結果、サブプレイヤーに後を委ねるその後を踏まえるならば、逆に二人の距離が遠くなってしまう懸念が少なからずあった。またシャルに揶揄われたこともあってすぐさま、自分が玲也の為ならどこまでもついていくと意気込んでいたハウだが、


「前から思ってたけどさ、エクスってよくゲーツお兄様って言うよね?」

「確か兄さんが軍人だからな……戦う切欠としてエクスの大切な人だ」

「そ、そう真顔で玲也様に言われますと少し……いえ、確かにそうですけど」


 事あるごとに玲也と並べて、エクスが触れるであろうとゲーツの存在へ思わずシャルが触れた。玲也が彼女の戦う原動力になりうる人物として、ゲーツへまるで兄のように敬意を評していたが――エクスはどこか予防線を張られたのではないかと、彼の言動に少しぎこちない顔つきをしていた所、


『……確かゲーツ・ファルコは軍人から技術者へ転向した経歴の方ですが』

「兄さんが技術畑の人間……俺も初めて聞いたぞ」

「そ、それはですね! フレイアさん、何故に貴方がそれを……!」

『……メルさんによるアップデートのデータに入っていたようです』


 アタリストからフレイアがゲーツの経歴に虚偽があるとの指摘が入った。兄の事を知るはずでないだろう彼女が自分の兄を知っていた事に動揺があったものの、それ以上に同じコクピットの二人からの視線が自分に突き刺さっている事を感じ、


「もしかして、僕たちに嘘ついてない?」

「そ、そんなことありません事! お兄様だって軍人としての階級を持っていますから、断じて嘘はとは!!」


 急にエクスの口ぶりが怪しくなりつつあった。軍人と先ほどまで触れていながら厳密には軍属の技術者と少し話を盛っていた様子をシャルからまた突っ込まれるものの、


「確かに大雑把な意味では軍人かな……それにエクスが力になりたいと何度も口にしていたとなれば」

「そ、そうでして! ゲーツお兄様は技術者として今、必死に頑張ってますの!! だから私がゲーツお兄様を……」

「……良いお兄さんに違いないな」


 玲也としては、兄の為にエクスが必死に戦っている事に変わりはないのだろうと、兄の経歴を多少盛ろうとも意に介する事はしなかった。ただ立派な兄であることに揺るぎがないだろうと、玲也に評された事で思わずエクスの顔がパッと明るくなるものの、


「でもそのゲーツって人が技術者なら、そっちの道にいくんじゃ……」

「そ、それはお兄様だけでなく、お父様も同じ軍人でして! バグロイヤーが襲来した際も軍を率いて戦ってましたから!!」

『……エクスさんはお兄様だけでなくお父様も好きですか』

「当然です事、私にとってゲーツお兄様に勝るとも……」


 今度はシャルにエクスが目指す道は、兄と方向性が違うのではと突っ込まれてしまう。彼女は兄だけではなく父の影響によるものであると、すんなり肯定した所フレイアから父への慕情を尋ねられる。思わず彼女が肯定しかけた瞬間、玲也が慌てて首を振り、それ以上の事を口にしないようにとモニターへ指さして注意を促していたのも、


『エクスはんも立派なオトンがおったんやな……』

「その通りで……いえ」

「もう、だからエクスは空気を読めないんだから! アイラのパパは……あっ!」


 アタリストにはフレイアだけではなく、アイラの姿もあった。エクスが父の話をする事は、目の前で別れを迎えた彼女が耳にするには酷ともいえた。彼女も流石にまずい話題でもあったと気づき、彼女を窘めようとしたシャルも思わず地雷のような言葉を口に出しかけて慌てて紡いだ。


『エクスはんも、シャルはんも、気にしのうてええで! いつまでもウチが女々しく泣いてる訳やあらへんで!』

『……アイラ様、シンヤ様でしたら私も昨日顔を見たのですが』

『フレイアもわかっとるはずやろ、ウチがメソメソ……なんやて!?』


 アイラとしてシンヤの件は過去の話であると、二人の失言へも寛容に受け止めようとしていた――が、自分を慰めるのかと思われたフレイアの発言が斜め上を行くものであった。青天の霹靂ともいえる胸の内のまま、


『……はい、私がエコノミーモードとして休息をとる時に現れるのです』

「つまりそれは……夢か?」

『……夢は人間の脳が記憶を整理する活動です。私は玲也さんやアイラ様のようには見る筈のない夢を……あれ?』


 フレイアの口ぶりから、玲也は何となく彼女が夢の中でシンヤの姿を見ているのではと解釈したが――純粋なアンドロイドである彼女からすれば、夢を見る事はあり得ないとの態度を取っており、先ほどの自分の台詞に対し自分で問答をしているように首を傾げた。


『あかん、うちはもうわかってたはずやのに、まだオトンのことで未練がましくてな』

「いや……もしかしたらだが、まだ生きているかもしれないぞ」

『れ、玲也はんまで、そんなウチを気遣わんくてえぇんやで! オトンの遺体は見つかっとらへんけど!!』

「……このところ妙な胸騒ぎがしていてな、アンドリューさんとリタさんももしかして」

『玲也様! 後方に反応ありましてよ!!』


 アイラと同じように、玲也もまたアンドリュー、リタの二人が落命はしていないのだと自分の第六感が察していようとしていた。そのさ中に山頂を背にした2機へとバグビーストが電次元ジャンプで姿を現そうとしていた。背後から足元をすくうように5、6機の編隊で奇襲を仕掛けようとした所、


『自分だけそう安全なところで……!!』

『あいにく迅速丁寧にがウチの専売特許やで!』

『……アポロ・スパルタン、発射します』


 揃って白兵戦より砲撃戦に重点を置いた機体であるとばかりに、バグビーストの1機が起死回生の一撃として飛び掛かった瞬間だった。背を向けたクロストを他所にアタリストがすぐさま振り向きざまに、1機のバグビーストへとアポロ・スパルタンを突き付ける。ホルダーから一発限りの弾頭が直ぐに射出された後、


『……玲也さん、フォローお願いします』

「フォローとの言い方、どうも気に食わないのですが!!」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ! 手を動かさないと!!」

「貴方に言われなくても、わかってましてよ!!」


 フレイアから催促されると共に、背を向けたままのクロストへトライ・シーカーが集い、三角形状のゼット・フィールドを二重に生成させていく。それもアポロ・スパルタンを中心として数機のバグビーストを巻き込むようにフィールドが彼らを封じ込め、内部で爆発していったアポロ・スパルタンの餌食と化していった。


『流石やて……ここで使うと色々融通が効きまへんからな』

『……ザービストが交戦状態に入っています。私としては援護に回りたいです』


 アポロ・スパルタンが先制して大量の標的を駆逐する兵器であるが故、地上で使うには周囲を巻き込みかねない――そのようなリスクがあるアタリストの切り札に対し、ゼット・フィールドと併用させて被害を最小限にする戦法へ思わず賞賛もしていた所、フレイアがザービストの援護に回る必要性を主張する。最前線でのザービストがバグロイヤーの面々を一人で相手取っているのだから、


『確かにムウはんやからな……玲也はん、すんまへんが!』

「わかった! あとはこちらで何とかするぞ!!」


 コズミック・フィンファイヤーによる援護を行うにあたって、アタリスト本体の制御が鈍るデメリットを抱えている。その為にアイラがクロストに守りを託したが、残るバグビースト2機を相手にすることを意味する。


「当然です事! やっとこれでクロストも少しは……」


アビスモルを遠方から動かすだけに近い地味な役回りに対し、少し鬱憤が蓄積していたエクスとして丁度よいタイミングといえたものの――1機のバグビーストは逃れようとした途端、ゼット・フィールドが展開される形で、フィールドの熱に半身を焼き切られ、制御を失ったと同時に爆発を引き起こす。こうも呆気なく敗れ去ったため、


「ちょ、ちょっとシャルさん! そうあっさり倒されることはですね……」

「かっこなんか気にしてたらダメだよ! 実際それだけ強いんだし!!」

「それよりもまだ1機いるぞ!!」


 ハードウェーザーが展開するバリアーとして、最高峰の堅牢さを誇るゼット・フィールドだが、その熱量は接するバグロイドを焼き払う術としての転用も可能である。シャルが思いついた戦法が華やかではないのだと彼女が苦言するが、当の本人がナンセンスだとやはり相手にはしなかった。エクスとシャルの口喧嘩はいつもながら、戦場で足の引っ張り合いは命取りであると玲也が一喝する。ゼット・フィールドの死角から迂回するようにバグビーストは突破を試みようとした所、


「近くが死角と思われてますが……!!」

「クロストは伸びるんだよね! 腕がさ!!」


 逃れるとしても、クロストからすれば若干不利と思われるショートレンジでの突破を目指したのだろう。しかし二人が触れる通りクロストの腕は蛇腹のように伸展する。右手が伸びれば進路を遮るように、バグビーストを掌で叩きつけて怯ませると共に、


「トライ・クローターですわよ、シャルさん!!」

「僕に命令するな……だけど、ただのパーツでもないからね!」


 シャルの触れたとおり、トライ・クローターはスフィンストのコンバージョン用としてのパーツだけではない。右肩のハードポイントに増設された伸展式のサブアームに保持される形で、怯んだバグビーストの頭を挟み込んではミキサーのようにクローターを回転させていく。この腕の回転がやんだ時、相手は三枚おろしでは済まされない屍と化していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る