30-2 ガクガク、ブルブル! 戦う私は普通系?

「そこね……!!」


 大小のデブリが入り乱れる宙域にて、バグファイターの砲撃をかいくぐるようにして白虎が迫りつつあった――両肩に設けられたカイザー・キャノンで腕を砕いて二発目で胸部を打ち抜いていった。

 また、別方向からはグレーの機体がバルカンを浴びせながら間合いを詰めに入る。再度カイザー・キャノンを見舞おうとした途端、右肩のハードポイントからパージした、発振器から展開したアリエス・ソーをバリアーのようにして耐え抜き、


「バグアームズ……まだ見たこともないけど!」

「感心してる場合か……どうやって迎え撃つ」

「あのタイプなら、こちらから挑むまでよ!!」


 武装軍団が擁するバグアームズの姿は、大気圏内にはまだ現れてもいない。コイは目の前の相手を未曽有の敵だと捉える傍ら、鈍重そうな外観からしてショートレンジでケリをつけることが有利であると見なしていた。

 そしてコイが左スティックを前に倒しながら、サンの方を振り向いた途端、ウィストの尻尾として備えられたテール・シーカーからの増設ブースターが起動されていった。セレクトボタンを押すとともに、急接近とともに猛虎の眼光及びアイブレッサーを放ちながら伸し掛かる。四股が大の字になるように伸び切り、虎の顔が胸部へと君臨した瞬間、


「フィンガンを受けなさい……!!」


 目の前のバグアームズめがけ、ウィストが右手の五指から繰り出されるビームの爪を振り下ろす。頭部から胸部へと引っかき傷を作った直後、胸部めがけて抜き手のように爪を突いて粉砕した後、自分を挟み込むようにバグファイター2機が迫る。スタンドレッダーからのセイバーを展開させ、フィンガンごと彼女の両腕を潰そうとするものの、


「2機もろとも……いけるぞ」

「ここは地上じゃないわね! シーカーの方頼んだわよ!!」


 とっさにウィストが打って出た行動は、左肩を突き出してカイザー・ガトリングを炸裂させながらのショルダータックルで、1機を怯ませる事だった。一方で右足裏からのカイザー・フンドーでバグファイターの腕に絡みついた後、テール・シーカーの出力を借りて下半身を思いっきりひねる。回し蹴りのように下半身を半回転させて、バグファイターを無防備な状態で振り回し、まるでハンマーのようにバグファイター2機を同士討ちのように衝突させ、


「ザオツェンでとどめよ!!」


 2機が隙だらけの瞬間を突いて、ウィストの切り札ザオツェンが咆哮を挙げるようにして炸裂。まともに直撃した2機は瞬時に潰えていった。サンが後方で首を縦に振ったことから、コイが体で軽く息を吐く。


「ざっと……こんな所かしらね」


 辺り一面にバグロイド反応が消えうせ、コイは安心したようにコントローラーを手放した。一見彼女らしからぬ隙を見せていたものの、戦場の宙域には自分の勝利を告げるアナウンスがあった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「これが対バグロイヤー戦向けのモードですか」

「そうね。メルさんのおかげで漸く実装できてね」

「多少古いが……先輩のデータもこう使った方が役に立つ」

「そうですね……後でドラグーンの方も共有してもらえませんか?」


 コイ達が相手にしていたバグロイドはシミュレーター上に映し出されたプログラムであった。マールやゼルガが託したデータを元にアップデートされた結果、バグロイドを相手にしたより実践的なシミュレーションが可能となった。玲也も有用であると素直に感心を示す。


「まぁ、私がお手本ね。自分で言うのもなんだけど結構良いタイムも出せたし……」

「なーんか、自分が仕切っているように聞こえますわね」

「多分最近出番が少ないからだぜ! わざわざパフォーマンスまでしちゃってさ!!」


 コイは思いっきり前のめりにずっこけた――自分の口ぶりがエクスの癪に障ったのはまだしも、シーンの口ぶりは少なからず、お前が言えたことかの案件なのだから。


「如何してあんたみたいな心配を! 私がしなきゃいけないのよ!?」

「ダメだよ、シーン! コイとシーンは違うんだから~」

「……まさか、そう面と向かって貴様が言うとは。分からないものだが」


 思いっきり床に打ち付けた鼻を擦りながら、コイが思わず怒髪天を衝くような様子でシーンを一喝する。ステファーも彼の指摘が的を得ていないのだと、珍しくまともな事を口にしてパートナーを諭す。サンが珍しく彼女の胸の内が読めないと不思議がる様子を見せているが、彼女はコイの方へと屈んで、


「ほら~コイの影はシーンより濃さが違うよ~」

「……」

「……あれ、サンさんですよね?」

「まさかと思いますが、あまりにも馬鹿馬鹿しくてついていけなくなった……かしらね?」


 影の濃さを真顔でステファーが触れていたものの、サンはただ、その場で呆然と立ち尽くした。それだけでなくメガネがひとりでにずれ落ち、ポカンと開いた口から涎が滴り落ち、鼻水が垂れる程の脱力感をその場で味わっていた。彼女があまりにも低レベル過ぎた故、彼まで逆にその空気に飲み込まれて醜態をさらしていた。傍からその間抜けな面構えを目にしたリンとエクスでさえ、申し訳ない罪悪感を抱いてしまっており、


「……ステファーまで、やっぱ俺の事影薄いって思ってるんだ。あんたって人よりさぁ」

「二人とも殿堂入りよ! 勝手についてきて馬鹿やるところまでね!!」

「そうだ! 貴様についてきた二人はどうにかしてもらわなければ……!!」

「それより早速、二人にやらせましょうよ! 俺もまだ実力を知らないですから!!」


 ステファーの勘違いとボケに対して、おそらくシーンも別の意味で捉えてイジケ虫と化していた。コイが勢いよく突っ込むとともに、サンも我に返って玲也へ話を振る。オーストラリア代表が独走する限り話が進まないと、玲也がインド代表の実力を見極めたいと提案した所、


「よかったです。てっきり僕たちが」

「忘れかけられてないかと、心配してました」

「あ、あんた達まで今そんな事心配しなくていいわよ。いやそんな事じゃないかもしれないけど」

「とにかくシミュレーターに入ってくれないか。時間も限られてるしな」


 テディとアンディがシーンと似たような事を心配してないかと、コイが少し頭を抱えていたものの、彼女のリアクションに対して、特に気に障る事は言っていないと揃って首を傾げている。彼らの素によるものか、確信犯かは定かではないが、玲也はシミュレーターに挑むよう促した所、


「テディ君、アンディ君、その……私も行くの?」

「行くってなにも、僕たちだけでは」

「ウーラストを電装することはできないですよ?」

「そ、それはまぁそうだけど……ふぇぇぇぇぇ」


 既にシミュレーターの扉に入ろうとしている双子を他所に、マイは自分が戦おうとする事へどうも気が乗らないでいた。二人に正論を突き付けられれば、結局反論できないまま嘆いている様子だが、


「マイちゃんは初心者だろ? ここは俺がついていってフォローしてやらないと」

「いえ、貴方が一緒では余計足を……いえ」

「テディさんとアンディさんだけの腕を見ることがまず大事ですから、後でちゃんと組ませますから」

「シミュレーターだから命の心配はないですよ! 真剣にやってほしいですけど!!」

「それは分かっているけれど……」


 シーンが余計なことを言って話をややこしくしかねない――実際エクスが思わず失言を口に仕掛けており、玲也とリンがシミュレーターを始めたいと彼女へ少し強く促す。それもあって肩をうなだれさせながら、恐る恐る、しぶしぶと彼女も乗り込んでいくのだった。

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