24-4 栄光儚く、ただ空は遠く

「あ、あわわわわ……」


 ――ソラは腰を抜かさずにはいられなかった。間一髪セーフシャッターが展開したおかげで首の皮一枚繋がった状態であったものの、タウランシスカの一撃による衝撃は、ソラに腰を抜かさせたまま今もこうして立ち上がれない状態に追い込んでいるのだから。


「ソラ様、直ぐに逃げましょう! 貴方が死なれましては……」

『社長、このまま続けるべきですか!? コメントの方が……』

『大丈夫に決まってるじゃないか! 僕を誰だと……!』


 アクアが退くべきと再三進言したものの――ポリスターからのスタッフの声に対して、ソラは虚勢を張らずにはいられなかった。まるで見下していたロディと変わらぬ言動をとり、自分が勝つと豪語していた彼だが直ぐにポリスターを取り上げ、


『直ぐに離れてくださいませ! 配信を止めても構いません!!』

「……何するんだよ!!」


 ソラに変わり、アクアはポリスターでスタッフの退避を速やかに命じたが――彼女の行動はソラからすれば自分の生き恥をさらけ出させるような行為ともいえた。ポリスターを奪い返してすぐさま銃口を突き付けるものの、



『私を撃ちましたら、それこそどうなりまして……!?』



 アクアが忽然とした態度でソラを諫める――彼女が述べる通りもしここでポリスターを撃ったなば、エンゲストは消滅し彼が南シナ海へ、戦鬼軍団の囲む戦域へそのまま取り残されてしまうだろう。自滅するような真似になると指摘されれば、流石に彼は思いとどまり、少しポリスターを注視した後、


『まずは手足だ! あのキャノン砲を……何!?』


 既にエンゲストの電次元ジャンプは封じている――今までのうっ憤を晴らすようにハルベルトがエンゲストの手足を潰すよう、バグソルジャーへ命じた瞬間、左足を封じる1機が深海へと引き込まれていったのだ、

 タウファンガーを展開、維持する余裕がない程の力で引き込まれていくと共に、エンゲストの左足が解放されると共に、ユニバース・キャノンを1機のバグソルジャーへと放ち、右半身を拘束する2機へもアダムス・シーカーを回転させつつ、ユニバース・クラッシュの殴打を浴びせる事で、タウファンガーを解いていき、


『しょうがないからよ……借りは高くつくぜ?』

「べ、別に僕は助けてといてないし!」

『感謝いたしますが…… 貴方がたも離れるべきでしてよ!』


 アグリカからの通信からして、1機のバグソルジャーはロクマストによって水中へと引きずり込まれ――早い話、格下と見なしていた相手に助けられたようなものである。素直に謝意を述べれないソラに代わって、アクアが一応ながら礼を述べていたが、


「これで逃げるだけです! ここから近いとなりましたら……ああっ!!」


 パートナーの命には代えられないと、恥を忍ぼうともエンゲストは戦線からの離脱を試みる。電次元ジャンプを封じられようとも、空中に対しての本来の機動性は健在である。鈍重そうなバグハルバードから逃れられると捉えていたものの――彼の手にしたデリトロス・ライフルはアダムス・シーカーへ備えられたブースターを直撃しており、


『飛べなくしてから、たっぷりいたぶってやるからよ……!!』


 機動力で優るエンゲストに逃れられては、自分のプライドが許せない。逃げる術を潰す為ハルベルトはライフルを放った。二発目、三発目と執拗に浴びせていく中で、同じルートを取る様に逃れる1機の存在にも気づいており、


「そ、ソラ様! まだ飛ぶことはできますが」

「……このまま、海南島まで飛べそう?」

「そこまででしたら何とかですが……まさか?」


 航行速度が低下しようとも、ソラは進退窮まったかのような真剣なトーンで彼女へ確かめる。ポリスターで何らかの会話を交わした後、覚悟が決まった様子でもあり、


「僕は死なないよ。ただやられたままは許せなくてね」

「島まで飛んで反撃となりましたら……そういうことですか!」

「変形してハーレー・ノヴァは出来るからね。彼らが頑張ってるのに悪いからね」


 逆境の中、ソラが思い浮かんだ手は海南島へと着陸し、タンク形態へ変形して頭部から変形した大型キャノン砲ハーレー・ノヴァを浴びせる事――南シナ海で抗戦を続けるロクマストに対しと、延々と逃れる自分の間に密集したバグロイドを一掃する術に出ていたのだ。全エネルギーを使い果たし電装を解除しようとも、退避させたスタッフに自分たちを回収する手立てをとっているとの事で、


「お、おぉまだ諦められてませんとは……最後の一撃をまでは少し持ちこたえようと」

「そう、もう少し……本当もう少しだから」


 今のソラが、世間へ喧伝する事へ固執する事をやめ、一人のプレイヤー―として戦う意思を固めているように見えた――パートナーの身を案じるアクアだったものの、彼女自身も必死に戦わんとする意思がある故に手を貸す事を選ぶ。ソラは彼女に感謝しつつ、片手にしたポリスターの液晶画面をチラチラと目にしていたが、


「ですが……何故ポリスターをそこまで」

「それはねー……おっと!」

「ソラ様、急に何を……まさか!」


 今のソラで一つだけアクアには解せない事があった為尋ねれば――液晶画面の変化と共に彼が声を挙げ、自分へ向けてポリスターを発砲した。光に撃たれた彼が瞬く間にしてコクピットから姿を消し、



「あ、あの……ソラ様、急になぜ、きゃああああっ!!」



 突如パートナーがとった行動が如何なる事か――アクアが彼の突如とった行動を理解する間もなく、ライフルからの光線が再度アダムス・シーカーへと着弾。ブースターの機能が停止すると共に、海原へ機体を沈めていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「あのままだと助からないからね……!」


 海南島へとソラは逃れた――ポリスターで自分を撃ったことは早い話、エンゲストから脱出するため。バグハルバードらの猛攻を前にして、エンゲストが電次元ジャンプだけでなく、自力での離脱も困難と判断した故であり、


「……ちょっと悪い事したかもだけど、仕方ないよね」


 戦鬼軍団を前にして、エンゲストが無事でいられる保証がない――パートナーを見捨てる事へ一抹の罪悪感がよぎったものの、彼女が自分に尽くす姿勢ならば、自分の無事が彼女にとっての幸せへ至るのだと正当化しつつあり、


「最悪、どっちかの……スフィンクスを挿げ替えればね」


 ヴィータスト、スフィンストが揃ってイージータイプであり、自分が搭乗して動かす事も可能である。特に才人のスフィンストならば、自分の方が上手く扱えるはず――自分のコネを借りれば黒も白になると軽く見なしていたようで、


「ポリスターないからなぁ……ちゃんと場所は分かってると思うけど」


 それと別に、脱出の際にポリスター迄持ち込むことが出来ない――エンゲストがまだ健在との事もあるが、ハドロイドスーツが展開されたままであり、個人のスマホを取り出して展開する事が出来ない。よってポリスターで連絡した通りに、スタッフが自分を迎えに来てくれる望みに賭けていた所、



「お、おーい! こっち、こっちだって……」



 自分の元へとヘリが降下しようとしている様子から、連絡手段が実質ない故にその場で立ち止まって、身振りで自分の存在を告げたが――急速で迫るヘリが頭から突っ込もうとして、まき散らし黒煙から炎の手が巻き上がってた様子からして、



「まさか、逃げ切れな……!?」



――バグジャンバラーに撃たれたのはエンゲストだけでなかった。自分を連れて帰る筈のヘリは、既に片道切符を渡す存在と化していた事を気づかされていなかった。今こうして知らされた時は何もかも手遅れであり、地上で爆発が巻き起こると共に彼の体は四方へと飛び散っていった。

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