24-3 恐怖の横一文字、南シナ海に唸る戦斧(おの)!

「フェニックスから連絡が入った……ガードベルトが何者かに破壊されたとね!」

「ガードベルトってそれじゃあ!!」

「こっちに落ちたらどれだけの被害が!!」

「ディエストとダブルストが処理に回る事だが……」


 ドラグーンのアラート・ルームにて――エスニックは顔色を変えて発表した途端、シャルとウィンの顔が揃って青ざめる。ガードベルトの破片が大気圏突入の摩擦で燃え尽きる可能性は低く、幾多もの欠片が地上へと堕ちてくるのだから。既に他のフォートレスからはフラッグ隊共々処理へ回るとの事であったが、


「エンゲストとロクマストも交戦状態に入った……こんなことまでしてだ!!」

「こ、こんなことをあの者たちは!!」

「僕たちの戦いは売り物じゃないのに!!」


 レスリストとウィストはまだしも、共に初めての実戦で無断出撃までしでかした2機に対し、エスニックでも頭を抱えずにいられなかった。スマホを取り出して、この戦いの様子をネットで全中継している現状を目のあたりにすれば、シャルが憤慨せずにはいられず、


「やけど、見殺しにゃいかんですしのぅ」

「全くだ……こうも今、手を煩わされては流石に」

「なら、わしらが出ちゃろうか……のぅ?」


 フェニックスに対して流石に限界があると言わんばかりに、ブレーンの表情がゆがんだ瞬間だ――エンゲストとロクマストの救出に対し、ラルがすんなり手を挙げてリズと示し合わせているが、


「ねぇ、ラル……それ本気で?」

「そなたらの腕は立つ事は認めても、実戦はやはり」

「誰もが実戦を避けては通れん、それが今じゃないかのぉ」

「それを言われればそうだが……」


 彼らの意気込みと腕は認めようとも、ロディやソラと同じ実戦経験がない者には荷が重すぎる――ウィンが少し戸惑いつつ、彼らを思いとどまらせようとしたものの、ケロリとした顔で答えられれば、彼女もどう返すかでしどろみどろになっており、


「そうそう、ソラ君にちょーっとお仕置きもしたいから」

「それは全て済んでからじゃ……将軍!」


 リズが救いに向かう目的が若干逸れていると突っ込みを入れつつも、ラルがシャルの肩をポンと叩きながら、エスニックへと口を開けば、


「すまんがシャルもいかせてくれませんかのぉ……」

「ぼ、僕……って当り前だよ! まともに経験があるのが僕とステファーぐらいだし!!」

「そうじゃのぅ、経験があるおんしに引廻してほしいんじゃ」

「ふむ、引廻しね……」


 ラルがシャルと同伴での電装を願い出た事も、彼がそれ相応の実力を備えつつも、初の実戦へ出るにあたり経験を積んだ彼女を尊重する姿勢を意味していた。自分だけの独断で事を運ばず、彼女の指揮下で判断を委ねて動く意思を前にしてエスニックが頷き、


「分かった! 直ぐに南シナ海へ向かってくれ!!」

「流石将軍じゃあ、よろしく頼むぜよ!」

「う、うむ……こちらもそなたを認めるが、その……」


 エスニックは直ぐ二人の出撃を承認したものの、ウィンとしてブラジル代表を信頼する事へ異存はないものの、懸念材料がまだ残っていると言いたげな視線を向けており、


「破砕作業の方は最悪フラッグ隊だけでも……」

「俺を出させてください!!」


 ガードベルトの破砕作業に対し、人手が足りていないとエスニックは言いたげな様子だった。やむを得ずフラッグ隊だけに任せようとした途端、アラート・ルームへ息切れながら彼が乗り込み、、


「才人っち!」

「そ、そなたは正気か……!?」

「俺のユーストですよそこは! パワーアップしてるんですし!!」

「……パワーアップしなくてもユーストは飛べるパチ。オレの計算だと……」


 才人もまた出撃を志願している様子へは、ブラジル代表以上にウィンは驚愕せざるをえない。思いとどまるように説得を試みる矢先、シーンまで乗り込んで破砕作業を果たさんと望む姿もある。コンパチが指摘する通り大気圏内での飛行能力はユーストが勝っていたが、


「けど、そのガードベルトで博多みたいになるんですよね!?」

「……!」

「もしかしたら焦ってるかもしれませんけど! 同じような事が起こるだけは!!」

「何かちょーっと、いい面構えになったかしら? イチ君に及ばないけど」


 才人自身身の程が分かっていないのかもしれないと自覚はしていた――しかし、それだろうともガードベルトの破片が落下、直撃する事が惨事になりかねない、何としても阻止したいとの強い想いをぶちまけ続ける。バグロイドを前に委縮した様子から転じて、彼なりにもてる勇気を振り絞っている顔つきをリズが静かに評しており、


「何をしているんだね、二人とも直ぐに出るんだ!」

「おーっと、そうじゃったそうじゃった。行くぜよシャル!」

「そうだね! 作戦は直ぐ伝えとくからね!」


 エスニックが少しせかした様子で命じた途端、シャルとラルがシューターへと身を投じ揃って才人へ目配せを交わした。4人ともアラート・ルームから離れた事もあり一瞬場が静粛になるものの、


「才人を出すならステファーを出してくださいよ! 折角ユーストがパワーアップして……」

「済まないが、シーン君はフェニックスに向かってくれないかな」

「そうそう……って、はい?」


 才人へも対抗心を抱いているかのように、シーンがパワーアップしたユーストを前に出すべきだと再三主張するが――エスニックの下した指示の内容に対し、一瞬自分を指さして首をかしげた。


「ほら、ステファー君がフェニックスにいるからね」

「そ、そういえば……あの、ドラグーンに呼んでくることって」

「だとしたら、フェニックスが空になっちゃうからね……もしもの時は君が頼りだよ、シーン君」

「……は、はい。了解です」


 ステファーが勘違いしてフェニックスへいる事を思い出すも、彼としてはそのままパートナーを呼び戻してほしいとの思惑もあった。だが結局エスニックへ留守を守る有用性を述べられた事から、彼はどこか一杯食わされたような表情を微かに見せながらも、ゲートへと急ぐことにした。その後ろ姿をエスニックは少し困った様子で笑いながら、


「フラッグ隊と共に、ラディ君の指示に従ってもらうよ」

「……才人さん!」

「つ、つまり俺が出ていいって事で……」

「うわついた気持ちは止めるんだ!」


 自分たちが出撃する事を赦されたとなり、はしゃぐ才人をエスニックは少し声を張り上げて黙らせる。激昂したかのような彼に思わず委縮する才人の両肩に手を添えて、


「驚かせて悪かったね……本来君が戦う事はなかった事を考えるとね」

「た、確かに俺が勝手に志願しました! 玲也ちゃんを助ける事が出来たらって……」

「玲也君と同じだね……わざわざ親友の君に言わなくてもだけど」


 すぐさま普段の柔和な顔へと戻り、才人が自ら戦いの道を選んだ事を改めて確認する。彼が友人の力になろうとする姿勢なのは既に承知の上で、


「義務ではないは通じないと……意味は分かるね?」

「は、はい……バグロイヤーは俺が素人と分かって」

「手を抜く事はまずありませんし……」

「その通り。日本代表として誇り持って戦い。それで生き抜いてほしいんだ」


 自分の意思で戦場に身を投じたならば、途中で投げ出す事も許されない――正体不明のプレイヤーとして表向きでは通している玲也に代わって、彼が日本代表のプレイヤーとして立ち上がり、戦い抜く事は茨の道であると釘を刺した上で、才人の心臓へと指さし、


「だからこそ、その気持ちを見失わないでほしい……その気持ちは君だけのものだ」

「……はい!!」


 プレイヤーとして汚す事も汚される事も許されない――自分の信念は決して折れてはならないのだと才人は改めて自覚する。上着のポケットから取り出した懐中時計に仕込ませた姉の写真を目にして、


「姉ちゃん……俺の事見ててくれよ!」


 亡き姉への想いを寄せると共に、彼の体が小刻みに震えあがりつつあった。臆病風か武者震いかどちらともいえない感覚に陥ろうとも、彼は首を横に振って震えを払拭しようとしていた。


「おや、貴方迄……」

「ここで言うべきではありませんが、まさかもあります……最も杞憂に終わりそうですがね」


 残されたケニア代表もまたアラート・ルームへと密かに姿を見せていた――ヒロが触れる通りドラグーン最後の予備戦力として、半ば強引な形だろうとも前線に出す必要性とも隣り合わせであったと指摘しつつも、実際に起こりうる可能性は低いとも前置きしており、


「爺-、ここに来たならおいらたちも戦うっぺかー?」

「前にも言いました通り、スフィンストは飛ぶことも泳ぐこともできませんぞ」

「なんだ、出番がないなら何でだっぺー?」


 ヒロが触れる通り、サンディストは陸戦特化故空戦にも海戦にも対応していない――殆どの戦闘が洋上で繰り広げられている事から、ドラグーンのような巨大な飛行体を足場にしない限りは対抗できないのである、結局出番がないのなら意味がないのではと首を傾げた所、


「外で皆さまは戦われてます、今、できます事は皆さまを見守り、帰りを迎えるですぞ」

「ありがとうございます……ラグレー君」


 ヒロとしてこの場でラグレーに戦う術を学ばせ、戦う事を気づかさせようとする配慮があった――エスニックはパートナーとしての彼の心遣いに気づいて、ラグレーへと視線を合わせ、彼の頭をそっとなでると、


「どうしたっぺか~何か辛い事でもあったっぺか?」

「辛い事……はは、君にそうみられているようでは私もまだまだだ」

「辛い事があったら笑うといいっぺよ、体を動かすと嫌な事も忘れるっぺよ」

「笑う事は出来るけど……君たちを動かしてるばかりだよ」


 ラグレーがエスニックの胸の内を知った上かどうかは定かではない。ただ彼の言葉に笑顔を作りつつ、自分たちは命令して子供たちを戦場に送り出してばかりだとも自虐していた。年長者としてエスニックの葛藤をヒロは感づいたうえで、


「貴方が私たちを案じてくださる事、私は嫌いではありませぬが……」

「弱気を私が見せたなら、不安にさせる……分かってますがね」


 戦場へ送り出す側もまた何らかの葛藤を抱えている――だが、ゆるぎない信念を抱えて戦いに身を投じる限りは弱気を見せてはならないのであった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

『初めてなのにごめんね! 強くてさぁ!!』


――南シナ海にて、引き続きエンゲストはバグファイターを圧倒しつつあった。高機動力を生かして強引にでも懐へ入り込み、ユニバース・クラッシュでの打突を経て、零距離でユニバース・キャノンを放ってとどめを刺す。所謂ネーデラー・アタックが型にはまっていたのだろう。既に単身で4機を葬り去っていた。


「流石ですわ……と言いたいのですが、一つ宜しいでしょうか?」

「おや、あれほど戦いたがってた君の筈なのに……手短にね」

「はっ、私たちの活躍を中継するとしましても、近づきすぎでは」


 自分同様前線でその力を奮わんと望むアクアだったものの、彼女にしては珍しく冷静にソラへ意見する。自分たちの活躍を喧伝するためにヘリが空撮を続けているものの、非武装の民間用となれば戦域に巻き込まれる恐れがあった。優勢に立ち回っている現状だからこそ、起死回生の目的で相手が人質にとる可能性も懸念していたが、


「ちゃんと承諾済みだし、前金は振り込んでるよ。勿論報酬も用意するし」

「報酬を支払う事は当たり前ですが……仮にもしもの事がありましたら」

「僕は強制したつもりはないよ? 自己責任だと分かってついてきたんだしね」


 撮影用のヘリが自分の所有物である他、搭乗するスタッフたちも自分の社員たちである――ソラとして強制ではない上に、十分な額を前払いまでしたとケアは万全と言いたげな様子だったものの、金で安全は変えないと流石のアクアが真面目に案じているのだが、


「でも、巻き込まれたら僕の責任になるからね、だから……?」


 社員たちに危害が及ばないよう、前もって残りのバグファイター3機を片付ける――ソラなりに彼らの安全を案じている様子だが、派手な活躍を見せつければ見せつける程、自分が世間へ強い影響を示せる野心もあってのことだが、


「電次元ジャンプですね……私たちに恐れをなしたのでしょうか」

「あぁ、逃げたんだ……どこに消えたかすぐわからないからなー」


 アクアが触れた通り、バグファイターが目の前で瞬時に消えた事から電次元ジャンプを発動させたのだとソラも頷いた。自分の活躍を誇示しようとする彼であったものの、モニターの計器に目をやれば、エネルギー残量ゲージに気づき、


(少し派手にやりすぎたかな……3機も倒してたら帰れないし)


 世間に自分の存在を焼きつけようと、派手にキャノンをぶっ放し続けた事へソラが少し冷静になる――仮に敵が逃げなければ、エンゲストが消耗し逆転される恐れもあったのではと、最悪の事態も起こりうると考えれば微かに手が震えつつあり、


「ソラ様、急にどうされました? お加減でも……」

「な、何でもないよ! もう僕が片づけたから、君たちは帰っていいよ!!」

『ま、まだ余は1機たりとも片づけてないのだぞ! 貴公に利用されてこのままおめおめと……』

『んな事言ったって、敵がいないんじゃしょうがないだろ』


 アクアに自分の動揺を感づかれないよう、エンゲストはインスタ映えするように、凛としたポーズを決めて自分の勝利だとアピールする。早々に撤退すべきとロクマストへ呼びかけるも、自分がろくに活躍できないまま終われば意味がない。ロディが抗議する様子を身の程知らずだとアグリカが白い目で見てため息を漏らしていたが、


「あ、適当に切り上げていいから! 後の編集はおねが……」

「待ってください! バグロイド反応が……」

「えっ……うわぁぁぁぁぁぁっ!!」


 撮影スタッフに対しても、切り上げて帰るよう命じようとした所――退いたバグファイターと入れ替わるようにして、バグソルジャーが四方へと出現した。上空からの2機だけでなく、海面から浮上した2機が揃ってタウファンガーを放って四股を巻き付ける。

 手足を封じられたエンゲストが拘束から逃れようと、バックパックのアダムス・シーカーへと設けられたバルカンでワイヤーを千切ろうとするものの、バグソルジャーもまた左手にしたデリトロス・マシンガンを乱射して攻撃の手を妨げていた。


『ど、どうしたことだ! 先ほど片付いたと聞いたが』

『さぁーなー、どうせお前なら大したことないんじゃないのか?』

「そ、そうだね! これもちょっとした演出だよ!!」


 バグソルジャーから相手にされていないのか、水中で平静を保つロクマストの中で、ロディは状況をよく把握できておらず、アグリカは自分を踏み台にしたソラを嘲笑うよう手を出す事はしなかった。実際ソラは余裕ありげに手加減だと称していたものの、


「ぼ、僕をコケにしたらどうなるか……思い知らせて」

「だ、ダメです!ここは一度電次元ジャンプで引き返すか体勢を立て直すか」

「それだったら、キャノンをぶっ放して……」


 半分近く消耗に追い込まれていた状態もあり、バグファイターより手ごわいバグソルジャーに対し、彼の余裕にも陰りが見えつつあった。ユニバース・キャノンを放って強引にでも拘束から逃れようとするものの、手足それぞれを1機のバグソルジャーの力で封じられていれば、碌に狙いも定まらない状況でもあり、


「ぐあ……!!」


 全世界に配信していることもあり、醜態を晒せない――プライドが判断を鈍らせていた傍ら、正面に青銅色のバグロイドが電装された。その巨体は影でエンゲストを包み込む程であり、手にした大斧、エンゲストの胴体へ鈍い一撃を叩きこんだ。


『ハードウェーザーの新入りが……いい気になるな!』

『ハルベルト様どうします、このまま止めを』

『いいや、こう一方的にいたぶっていく様を晒せばどうなるか……』


 南シナ海へとハルベルトは姿を現した――バグハルバードが振るう大斧タウランシスカは、一撃でエンゲストを沈黙させるほどの威力を示した。最も今まで一方的に攻めかかり、自分たちをコケにした彼に対し報復の手段を考えているハルベルトは、悪辣な笑いを静かに浮かべた。

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