18-2 不死鳥殺し! 華麗なるゼルガ・サータ!!

『う、うぅぅ……』

『あのハードウェーザーはいない……皆殺しに代わりないけど……!?』


 スフィンストの中にて、イチが苦悶の声をあげながらも、ファジーの支配下に置かれたままである。一方のチホは強化された中で、ハードウェーザーの憎悪をぎらつかせていた所に、何発もの閃光弾が着弾。視界が遮られており、


「こんな戦い方、本当は向いてないけどね!」


 ゴースト2にとってかわる様にして、レスリストが飛び出していった。グライダー・シーカーに設けられたフラッシュヤードを次々と連発させ相手の視界を遮った隙を突いて、


「オゥ! レスリストもこんな事が出来るんだよね!!」

『ふざけるな……!!』


 間合いを詰めた瞬間、ユナイホルダーが飛び出した――レスリストの両肩を山なりに超える軌道を描きつつ、スフィンストの両肩を掴みにかかったのである。グライダー・シーカーを咄嗟に180度回転させての奇襲に対し、スフィンストがデリトロス・バイスを展開して挟み込もうとした瞬間、レスリスト本体がハンドスプリングの要領で、前方に展開して両腰からの万力を避けたと共に、


「シェフィール・ドスだ……!!」

『うあっ……!!』


 レスリストの右足裏からは、踵として足と並行になるよう設けられた実体刃が垂直に起き上がる。ユナイホルダーに代わり、狙撃・砲撃を想定した固定用のアンカーとしての役目を果たすシースナイフこそ“シェフィール・ドス”高周波で刃身を振動させながら、全重量を乗せた蹴り技に重ねるようにスフィンストの胸部装甲を鋭く抉るように突く。


『アトラスさん、意外ですけどやるじゃないですかー、おかげで私もですねー』


 スフィンストの胸部へと、一点の穴がこじ開けられると共に、咄嗟にセーフシャッターが下ろされる。それだけの威力を見せつけた様子へアズマリアが思わず関心の声が上がる。それと別にこの漁夫の利を得んとばかりに、ハウンド・サイズを両手に割り込もうとした瞬間――彼女が動かしているはずのゴースト1と同型機が目の前に存在しており、


『あれれー? おかしいですねー、ゴースト1が2機も……あっ』


 アズマリアが流石に動揺を隠せないでいた所、彼女は隙を突かれる結果になった――スフィンストのバックパックからスイッチ・シーカーが射出されるや否や、質量そのものがゴースト1へと接触。ダブルストの子機扱いとなるダブルゴーストからすれば、スイッチ・シーカーと接触しただけでも、損傷を生じさせるものであった。


「ホワイ!? ゴーストが二人かい!?」

「アズマリアさん、一体……うあぁぁぁぁっ!!」


 スイッチ・シーカーが接触する隙を突かれ吹き飛ばされた後、設けられたデリトロス・レールガンが直撃した途端、ゴースト1もゴースト2の後を追うように大破した。

 ゴースト1が2機現れた様子に対してアトラスも動揺を隠しきれなかった所を突かれ、蹴りつけた右足目掛けて、デリトロス・スクリューが射出される。右膝を貫かれた衝撃が襲い掛かり、


「ノン、体勢立て直さないとまずいかもよ!」

「分かってる、もう一発浴びせてから……!!」


 片足を喪った状況で、レスリストの制御に支障が生じようとしていた――クレスローの言う通り直ぐに離脱せんとして、左足に設けられたミサイルポッドから弾丸を立て続けに浴びせる。ユナイホルダーで両肩の関節を潰した上で離脱を試みると、


「もう少しでうまくいったかもしれないのに、ノン、ついてないね……」

「けど、何でゴーストが2機も……ルミカさんのは既にやられたはずなのに、」


 片足を喪った状況で白兵戦へと持ち込む事は、不利だとは目に見えている――その為にレスリストは間合いを取りつつ、ライトニング・スナイパーを展開しての砲撃戦へと転じる事を余儀なくされた。

 クレスローが好機を逃した事へフォローを入れていたものの、アトラスとして隙を突かれたダブルゴーストの件にあると、アトラスとしてどうも腑に落ちなかったのだが、


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「あれ、あれあれ~」

「馬鹿者、ゴースト2に続いてゴースト1まで同じことしてどうする……」


 フェニックス・フォートレスに陣取るダブルストだが、ダブルゴースト撃墜されたと知るや否や、マーベルはアズマリアへ叱りつける。フェニックスごとスフィンストが君臨する戦域へ向かうには何かと不便である。その為に小回りの利くダブルゴーストが迎撃にあたっていた事もあってであり、


「レスリストもあぁとなれば、私が出なければだな……」

『マ、マーベル君、私たちはそのここで……せめてザービストが来るまで待った方が』

「インターバルを待って、スフィンストを逃す奴がいるか!!」

「あれ~そう言ってますと、何か反応がありますね~」


 ガンボットがダブルストに早まらないようと諭しているものの、マーベル自身待ってもいられない状況で自ら単身で向かわん意気込む。その矢先に1点の反応がメインモニターにあり、自分の元へ向かっているのだとアズマリアが気付くと、


「ゴースト1……ゴースト1じゃないか」

「あれ~なんでなんでしょう?」

「アズマリアったら、わざと心配させて人が悪いですよ、レスリストに代わって私の分まで動いてください、あのハードウェーザーを倒しましたら、私やアズマリアだけでなく、マーベル隊長も」

「それが全然動かないんですよー」


 ダブルストの目の前にゴースト1が舞い戻ろうとしている――アズマリアが単に心配させていただけだと、ルミカが彼女以上に安心したそぶりを見せていたものの、彼女が言う通りコントローラーの操縦を受け付けてない。ただ闇雲にダブルストの元へ向かいつつあった様子であり、


「エネルギー反応が違うホイ、ダブルストのじゃないみゃー!」

「あぁー、なるほどです! つまりあのゴーストはゴーストを騙った偽物と言う事で……ってえぇっ!? 待ってください、それ凄いやばいんじゃないで」

「……早く堕とせ! ゴースト1機ぐらいどうとでも……」


 メルが偽物であると看破した途端、マーベルは少し慌てた様子で撃墜を命じた。ゴースト1を相手にハウンド・キャノンの威力で十分だと火を噴いた途端、直撃を受けて砕け散ったものの、想定される爆発の規模は遥かに小さいものであり、


「あぁ、危なかったです。ここで偽物を倒しておきませんと一体何が起こるのかですが、多分……」

「多分じゃないみゃー! 既に本命が来てるみゃー!!」

「本命……だと!?」


 ルミカが安堵していたのは明らかに現状への見通しが甘かった――メルが声を荒げて、目の前にエネルギー反応が発生していると報告すれば、マーベルの動揺の色が濃厚になりつつある。実際目の前に白銀のハードウェーザーがフレームに装着された途端に、ジャイロ・シーカー目掛けて腹部からの熱線を浴びせにかかった。


「ま、待ってください! あの不殺のリキャストがどうしてこうも攻撃するんですか!! マーベル隊長おかしいですよね!?」

「ジャイロ・シーカーが無人だと既に分かっていたのだよ……」

 

 ルミカの疑問に彼は一応回答しつつも、攻撃の手を緩める事はなかった――リキャストがカリドス・バーンをそのままジャイロ・シーカーへ浴びせて機能停止に追い込み、右手で電次元ソニックをフェニックスの甲板目掛けて浴びせにかかり


『きゃあ……!!』

『マ、マーベル君! このまま浴びせられたら流石に!!』

「馬鹿者! 私がここで黙ってやられるままだとは……あっ!!」


 電次元ソニックの標的に、フェニックスも定められていた。かつてドラグーンに退却を余儀なくさせた時のように、彼自身が電装艦へも攻撃を浴びせ続けることで、電装マシン戦隊の戦力を削ぐ手段に出ていたのだ。

 ガンボットから催促されたからではないが、彼女元来の性格もありリキャストを相手にして、一矢報いらんと負けじ魂は潰えていない。ただ無情にも爛れたジャイロ・シーカーが簡単に貫かれ、ダブルスト本体にデストロイ・ブライカーがつんざかれた。甲板が破られセーフシャッターが展開するものの、


『悪いけど、彼がやられる訳にはいかないのだよ……やろうと思えば出来るのだよ』

『不殺のリキャスト……裏を返せばそれだけの腕があるなら殺す事も出来るという事だみゃー……』

「そう捉えてくれると今は有難いのだよ。君たちに恨みはなくとも攻めさせてもらうのだよ」


 この窮地でもメルは比較的冷静な様子で、今の戦い方もまた同じゼルガの戦いだと冷静に分析を交わしていた。そして実際ゼルガ自身はあくまで“おしおき”のスタンスでこの攻撃を繰り出しており、


『私は手にかける事は乗り気ではないのだよ、ただ』

『私たちはまだしも、他の方が手加減をする保証はないですから……』

「おのれ、その上で生き殺しを味わえと……!!」


 フェニックスに目立つ損傷が生じている事もあり、仮にバグロイヤーの増援が来るとなれば撃沈の可能性もある。ユカからその危険性をちらつかされると、マーベルは不本意ながら認めざるを得ない。歯ぎしりをしながら憤りを吐露していた所、


『僕がいます! 位置情報願います!』

「アトラスはまだ撃てるホイね! 今飛び上がったみゃーよ!!」

「流石アトラスさんです、この事態にも私たちマーベル隊長の危機を分かっているからこそ、動かれるのですね! 安心してくださいダブルストはまだ……」

「今飛び上がったホイ! よく狙うみゃー!!」


 ただ、片足を喪いながらもレスリストは戦闘の続行自体は可能だった。メルからリキャストの位置情報が送られたと共に、ライトニング・スナイパーを手にしたと共に


『ゼルガ様、撃たれますから早く……』

『それもそうだよ。彼に会わなければだよ』


 レスリストに捕捉されたと気づき、ユカがゼルガを促す。電次元ソニックを咄嗟に手放した後に瞬時に姿を消すや否や、


『ノン、反応が消え……あれ!?』

『逃げるつもりかもしれないけど、逃さないよ……!』


 一瞬リキャストの反応がロストしたと思われていたが、再度メインモニターには飛びながら逃れようとする彼の姿があった。アトラスがせめて動きを封じて攻勢に出る為、ライトニング・スナイパーを再度発砲するや否や――瞬く間にリキャストが貫かれ、爆散を遂げた。あまりにも呆気ない最期だが、


「あの手を使ってきたホイね……」

『ホワイ? あの手を使ったってわかってるように言うみたいだけど!』

「ゼット・ミラージュだホイ……偽物にいつの間にすり替わったみゃーね」

『あの一瞬反応が消えた時……!!』


 リキャストはゼット・ミラージュにより、自分の偽物を囮とした。ゴースト1の同型機もまたゼット・ミラージュによる手を打った経緯であり、自らが乗り込んでフェニックスを航行不能に追い込むための布石に過ぎなかったのである。メルとしてゼルガの大胆な策に引っかかったのだと認めざるを得なかった。


『ノン、まだ僕たち狙われてるホイ!』

『しまった……直撃だけは!!』


 リキャストが行方を晦ませようとも、先ほどまでレスリストが相手を務めていたスフィンストは依然健在のまま。両腕に支障が来ようとも、バックパックからのデリトロス・レールガンが直ぐにスフィンスト目掛けて撃ちだされる。

 回避行動をとる余裕がないと判断したうえで、アトラスはユナイホルダーの巨腕を駆使してバットの要領で、弾丸を打ち返す荒業に出た。無論接触すると共に爆発が引き起こされ、レスリスト本体に被弾する恐れがあり、


『これで何とかしないと!!』

『この反応は、あいつ……!!』


 同時にフラッシュヤードを射出してスフィンストの足を止めている隙に、グライダー・シーカーから本体をパージさせる。かくしてレスリスト本体へは最小限の被害で抑えた上で、ライトニング・スナイパーを構えたものの――閃光が薄れゆくと共に、スフィンストの機影は目視では捉える事が出来ない。まるで自分を相手にしないと言わんばかりにスルーされていた様子であり、


『玲也とミス・シャルの方だよ! 助けに向かわないと!!』

『そうしたいけど、この状態だと流石に……』


 スフィンストが向かった方角からして、ネクストやイーテストが交戦状態の戦域となる――クレスローの言う通り、彼らの援護に回るべきであったものの、レスリストがグライダー・シーカーだけでなく、片足も喪失した状態となれば、狙撃もままならない状況へ追い込まれていた。

 それだけでなく、ダブルストの全身が爛れ半壊状態に追い込まれ、フェニックスそのものへの被害もただならない。実質自分だけが曲がりなりにも動ける存在であり、


『ネクストへと残りのバグロイドが向かってます……司令!』

『で、出来る限り助けに回ってもらうように……こうなる事があったから、深追いはしたくないと』


 深手を負ったフェニックスにて、ガンボットはネクストへと護衛へ向かう必要があると判断した。ただフェニックスの被害は、マーベルが自分たちごと深追いさせたことが原因だとネガティブな事を口にしていた訳だが、


「不敗のリキャスト……こうもメル達をいなすとは」

「何を感心しているのですか! 私たちも危ういところまで追い込まれましたし、マーベル隊長の悔しさを考えたらどうですか!? 私もアズマリアも悔しいですし……」

「例え敵でも、メル達をここまで追い込んだのは確かだみゃー!」


 メルは一人冷静にリキャストを駆使するゼルガの腕を称賛していた。この敵を称える彼女の口ぶりに対し、ルミカが激昂する。いつものように彼女の太鼓持ちを務めているだけでなく、ルミカ自身も屈辱を味わった事への感情も入り混じっていた。それでもメルは激情に駆られるなと強く窘めており、


「メルさんの言う通りですねー。まさかここまでしてやられるとはですねー」

「……私は負けて終わらんぞ! 相手が不敗だろうとも跡形もなく葬るだけだ!!」


 アズマリアに傍らから覗き込まれながら、マーベルはこのような醜態をさらけ出す事になったと激情に駆られ、コンソールパネルを拳で何度も強く打ち付ける。フェニックス所属のハードウェーザーにて、花形の存在でもあるドイツ代表が、ここまでしてやられただけでなく、見逃された事への屈辱も含まれている。ゼルガへの憎悪と別に彼女自陣の不甲斐なさへも嘆いている節があり、


「……メルもそのつもりだホイよ」


 ドイツ代表を束ね、ヨーロッパを代表するプレイヤーのマーベルが、わき目もふらず感情に駆られている。滅多に見せない彼女の姿へメルは静かに首を縦に振って肯定していた。

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