第12話「敵か味方か⁉︎ マジェスティック・コンバッツ!!」

12-1 プールサイドは燃えているか

 ――5月も終わりに近づき夏へ差し掛かろうとしていた。空の日射しが地表に熱を加えていき、コンクリートとなれば鉄板のようにもなろうとしている。そのコンクリートの熱に耐えながら裸足で踏み出る者たちの姿があったが、


「へへ! いろいろと懐かしくて仕方がないし、久しぶりのような気がするけどなぁ!!」

「いや俺は、一応学校でお前と顔を合わせているから、久しぶりも何もないがな」

「玲也ちゃん、そこでボケるのはやめようぜ!」


 ここ、山手陶沖中の運動場に設置されているプール場にて、男子の殆どが指定された海パン一丁の姿でたむろっていた。授業が始まる前の時間に、妙にテンションが高い玲也の友人――それは、南出才人、ただ一人だろう。


「暑い夏は昔から泳ぐっきゃないっしょ! 俺はこの季節が来るのがもう楽しみで楽しみで」

「それなら年中解放されてる市民プールへ行けばいいだろ。お前の小遣いなら可愛い筈で」

「……あ、玲也ちゃん。人があえて建前を語ってるのに、そこでスルーは止めてくれないかな~」

「なら早く話せ。お前が何故テンション高いか分かっているが、俺の口からは言いたくない」

「そ、そりゃないだろ玲也ちゃん、男同士なら分かる話だってのに付き合い悪いじゃん」


 玲也は目の前の友人が今、劣情と煩悩に駆られている事だけは察していた。最も自分の口からそれを指摘する事は、自分にとっても彼にとっても空しい。そう判断しているのは彼なりの温情かもしれないが、


「玲也くーん!」


 いつものように慌ただしい足音と共に自分を呼ぶ聞きなれた声もした。振り向いてみれば――シャルだ。だが彼女も同じ体育の授業でプールサイドに足を踏み入れたのなら――。


「シャ、シャルちゃん……はぁぁぁぁん!!」

「どうしたの、才人っち?」

「こいつの事は気にするな。正直そういう目でお前を見られると気のせいか妙に腹が立つ」

「玲也ちゃんには分からないのかよ、スク水(新)の魅力が!!」


 才人は自分から地雷を踏む結果となった。今のシャルが身に着けているのは新型スクール水着であり、通称ストレート型。前垂れを廃した結果体のラインが目に見えてわかるデザインであり、紺色の生地に圧縮されて引き締められた体こそ、追い求める美しさだとの事だそうで、


「東城中も、浅間中も、青葉中も男女共同でプールの授業をやってないんだぜ! 山手陶沖中の特権だぜ!!」

「いや、だからといってお前がその気を起こすのはな……」

「YESロリータ、NOタッチ! 萌やせ、萌やせ、真っ赤に萌やせ……」


 玲也は才人の肩に手をかけて、必死でもだえる友人を落ち着かせようとしていた。その矢先シャルが何を思いついたのか、興奮止まない彼の後ろに回り


「お前の空手をみせてやれー!」

「……はい?」


 玲也にとって意味を理解する事が難しいが、シャルからその言葉を振られた時、突然才人は彼女の方に振り向き


「シャルー!!」

「才人―っと」


 辛抱たまらんとばかりに才人が飛び出そうとした矢先、シャルはその身をひょいと右に避ける。その結果、勢い余った彼がそのままプールへと見事落下して水しぶきが周囲に飛び交う。


「シャル、さっきの流れはよく分からないが……」

「まぁそれは置いといて、僕そういう目で見られるのも慣れてるから大丈夫だよ。玲也君体とちょっと嬉しいかな♪」

「なっ……」


 玲也の疑問を置いといて、シャルが恥じらいもなく自分にそっと抱き寄せる。彼女が素か確信かはともかく、彼自身、逆に迫られてはと少しハッとさせられた所で、


「シャルさん、何を勝手にあなたは抜け駆けされてるのですか!!」

「エクスちゃん、みんなが見てますよ……あっ」


 他の女子が入ってくる中であろうとも、エクスはその場で声を大にして叫んだ。シャルのアプローチが自分に対しての挑戦と捉えた彼女はすぐに飛び出し、彼女の後ろに隠れていたリンは慌てて他の女子の中に溶け込もうとする――彼女と違い、自分のスタイルに自信がないのかもしれないが、少なからず悪いものではないとは触れておく。


「玲也様、そんなお子様より私のほうがふさわしいですわ!」

「ま、またお子様って僕を舐めるな!」

「待て、やめろ、流石にこの状況で睨まれることをされると辛い」


 かくしてエクスが玲也の後ろから抱きかかってくる。自分より背が高いだけでなく、彼の後頭部に彼女が持つ柔らかい二つの感触を感じており、顔が一瞬赤くなる――同時に別に他の男子から異様な眼差しを突き付けられる状況では、少し顔が青ざめていた。シャルをお子様と罵るだけあって、彼女はこのクラスでも1,2を争うスタイルを持つ事は事実なのだ


「ったく、相変わらずあんたって人は!」

「ニアちゃん、これは玲也さんよりエクスちゃんとシャルちゃんが……」

「それくらいあたしも一応分かってるわよ、一応ね!!」


 ただポニーテールに髪をまとめたニアが仁王立ちの状態で、目の前のサンドイッチ状態になっている3人をにらみつける。人混みからリンが玲也のせいではないとの擁護しており、彼に関してはため息をつきながらも認めていたが、


「あらニアさん、私に嫉妬されてまして? 別に加わっても構いませんことよ」

「だ、誰が、そんな恥ずかしい事やれるか聞いてみたいわ!」


 エクスとしては、自分の方がスタイルで勝っていると見た上での余裕から挑発を仕掛けているのだろう。ニアも少し大人げない様子で彼女に突っ込みを交わしている。なお、シャルは場の空気を読んだのか、そこまで執着はなかったのかいつの間にか離れており、玲也もニアの言う事が最もだと密かに首を縦に振っていたが、


「まm私は玲也様への一途な愛なり想いなりをここで伝えていましてよ? それに恥ずかしいことなど……」

「あのねぇ……きゃっ!」


 この状況でのエクスに恥じらいはない、ある意味無敵の人に突入していたともいえる。呆れと別に怒りも混みあがり拳を握りそうになるニアであったが、足を何者かに救われそうになり、思わず悲鳴をあげた。恐る恐るプールの水面を覗いた所、


「シャルちゃん、エーリカの真似して誘ってそりゃないよって……」

「……才人、あんたもどうしたの?」

「い、いや……玲也ちゃんは幸せだなって。ニアちゃんもエクスちゃんもリンちゃんと同棲して、シャルちゃんともマブダチ……」

「……はぁ?」


 先ほどシャルに避けられ、思い切りプールの水面へ転落した才人が浮き上がった。その彼が何か妙に達観した表情で玲也の事を触れており、ニア自身訳が分からないと首を傾げた所、


「あ、すみません。俺も今幸せですはい。ニアちゃんそのアングル、いい、最高」

「玲也様―、正直デートの日はまだ先ですがもう私、体が火照って仕方がないのでして……」

「あ、あんたらって人はぁぁぁぁぁバカァァァァァ!!」


 ――ニアの頭の中で何かが切れる音がした。才人の顔面目掛けて彼女は思いっきり右足で踏み倒し、一度自分のタグを握った後に、玲也の胸倉を掴んでエクスごと思いっきり投げ飛ばして同じ水面に沈めた。ハドロイドの力について手加減していたかどうかは定かではない。


「ニ、ニアちゃん! まさか本気で投げたんじゃ!!」

「大丈夫よ! プールに落ちればケガもないでしょ!!」


 “夏を前にひと時の休息と書けば、この出来事も穏やかに捉えられるかもしれない。その先で新たな波乱と苦難が彼らに襲い掛かろうとしているのだから。あくまでこの物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である”

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