11.5-5 秘策!天翔ける重戦車

「ほぉーシャルもシャルもだが、玲也も面白い戦法に出たじゃないか」

「まぁな。これは持久戦の構えでいくつもりかな」


 ――モニターにて電次元ジャンプ直後の2機が映し出される。陽を背にした状態で宙に現れたヴィータストだが、クロストはパンツァー形態に変形した上でトライ・シーカーによってゼット・フィールドを生成した状態で砂塵に構える。それだけでなくバックパックには、バスター・スナイパーが供えられて前方に突き付けられている。


「バスター・スナイパーは取り回しがあまりよくない武器ですよねー。パンツァーでないと使えないですし―」

「そうだ。認めたくないが、私よりロングレンジをさらに上回る狙撃用で威力も維持しているとなればな」


 アズマリアの言う通りだとマーベルは触れる。バスター・スナイパーは元々超長距離用の狙撃を目的としており、ロングレンジで使うとしてもそのサイズから取り回しに難があり、狙いを定めて撃つ前に、そのスナイパーを破壊されてしまう恐れもありうる――つまり、使いどころが限られる代物だ。


「だけどゼット・フィールドと組み合わせれば、バスター・スナイパーは守られますね」

「けど、それじゃあこっちからも攻撃できないじゃん」

「ま、それで最初は様子を見るつもりだぜ? 多分よぉ」


 リンたちの触れる通りゼット・フィールドに覆われた状態のクロストは強固な守りを誇るが、その代償として、クロストからも攻撃を駆使する方法が限られてしまう。最も玲也はそれを知った上でこの手に出たのだろうとアンドリューは推測しており、


「ちょっとやそっとの事でゼット・フィールドを破ることはできねぇ。エレクトリック・ファイヤーくらいかな」

「エレクトリック・ファイヤー……あれね」


 ゼット・フィールドを破れるであろう、ヴィータストの数少ない術になり得るのが“エレクトリック・ファイヤー”と称した大型ビーム砲だ。ボトムパーツが分離、変形する事でヴィータストの手に握られるものだとニアが思い出したところ、


「でも、目の前でそれをやる余裕があるかになると……」

「だからクロストは構えているんだみゃー」

「でも玲也も攻撃できないから、根競べの持久戦」

「そりゃ玲也の方が有利……って言いてぇけど、今のクロストの方が消耗は早いから分からねぇな」


 ゼット・フィールドとバスター・スナイパーの二段構えでシャルの判断を迷わせているのだと、メルは推測する。エレクトリック・ファイヤーを展開する際の隙を突こうとしているのだと。クロストはバスター・スナイパーで常時ヴィータストの照準を定めており、ゼット・フィールドを解除すればすぐさまヴィータストを射抜くことも出来る。

 よって、ヴィータストがいつ動く事かで戦いの流れが大きく変わる。シャルが持久戦の構えで玲也に勝れば彼女に戦いの流れが傾くとの事であり、


「当たり前だけど、こう守ってばっかじゃ勝てねえぜ……どう流れを変えてくかだぜ、玲也」


 クロストがゼット・フィールドを展開している状態の為、ヴィータストより燃費が悪い。仮に根競べが長期化して先にクロストのエネルギーが尽きたとなればヴィータストの勝利は言うまでもない――シャルがどのタイミングで攻勢に出るかだけでなく、玲也もまたこの流れを自分から打破していく事に、アンドリューは期待をよせてもいた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『しかし、そのだな……ずっと待ち続けるつもりか?』

『悪いけどそうだね、僕の苦手な所ついてくるけどここは我慢、我慢しなくちゃね』


 実際ヴィータストは様子を見続けており、先手を切るべきだと促すウィンに対してシャルは動くべきではないと説く。彼女なりに玲也の狙いを把握していたのであり、口では苦手だと言いつつ、いつものように余裕ありげな様子も見せており、コクピットで軽くあくびをする。


『玲也君、ゼット・フィールドとバスター・スナイパーの合わせ技で完璧のつもりかな? 悪いけど毎回必殺技が決まるとは限らないからね……』


 クロストが攻防一体の構えで踏みとどまる事について、ヴィータストがエレクトリック・ファイヤーを駆使してゼット・フィールドを破ろうとする流れをシャルは予測していた。仮にエレクトリック・ファイヤー以外の武器が通用しないとしたら、今攻撃に出る事は無意味である。それゆえにあえて余裕を保っていた事もあるが、


『仮にこのまま持久戦に持ち込めば、僕が確実に勝てる――最も玲也君だからそれだけで終わる筈もないんだけどね……とりあえず飛び続けないといけないかな』


 シャルは持久戦の構えを取るが、一応ヴィータストを砂地に足を突かせてはいけないと判断していた。ヴィータストが砂地に足を取られて動きが鈍る事もあれば、その上クロストのことだから熱砂深くにアビスモルを仕掛けている可能性もあったからだ――本来両膝から射出されるのだが、パンツァー形態でキャタピラから射出するアビスモルは、ゼット・フィールドが展開されようと地底を掘り進む為有効な装備になりうるのだ。


『よしウィン、あの手で行くよ!』

『先にこちらから仕掛けるつもりか? 敵に焦っていると思われてはな……』

『大丈夫だよ。こっちからそう思わさせたら隙を突ける筈だからね!』


 両肩の6連ミサイルポッドから、クロストの前方に向けて射出する――が、目の前のクロストはゼット・フィールドをすぐさま解除して、両腕のバスター・ショットを一斉に放っていた。何発かは被弾するものの致命傷にはならず、それ以外の弾頭は両手の指先からの弾幕で撃ち落としていく。


『玲也君……思ってたより早かったけどね!』

「しびれを切らせましたわね……さ痛いのを浴びせますわよ!」


 若干予想外とシャルが捉えていたのも、本来ミサイルを連発してゼット・フィールドではじき返されるだろうと推測していたからである。けれどもシャルの予想より先にクロストはゼット・フィールドを解除した。玲也の内心からすればゼット・フィールドを長時間展開することが徐々に不利な状況と判断したのであろう。

 そして同時に、照準を定め続けていたバスター・スナイパーが火を噴く。青紫色の太いビームがヴィータストより先に射止めようとした所、


『かかったね! 電次元ジャンプだよ!!』

「消えた……うわっ!」


 ヴィータストが瞬時に消える――電次元ジャンプを展開したからだ。むなしく宙を掠るようにバスター・スナイパーの火が噴いた後、逆にクロストが衝撃を味わう事となった。頭部のメインカメラがショートしたように停止、サブカメラを展開した時、玲也とエクスは驚かされる結果となった。


『懐に入り込めばね、ヴィータストでも十分のはずだよ!』


 電次元ジャンプで飛んだ先、ヴィータストはクロストの頭部付近へと入り込む。左手を突き出すと共に、ハイドラ・ゾワールが至近距離で炸裂し電磁波を帯びた刃が、クロストの頭部を機能停止へと追い込んだ。

 これによりゼット・フィールドの展開は阻止された。今度は右手からワイヤーを射出すると共に、前方に突き出た電次元ブリザードの砲門めがけてハイドラ・ゾワールが巻き付き電流を炸裂させた。


「玲也様、こう一方的にやられましては……!」

「電次元ブリザードだ! 使い物にならなくなる前に撃つ!」


 砲身が赤熱化する寸前の所、電次元ブリザードが解き放たれる。水色の光は標的に命中した上で徐々に氷の中に閉じ込めていくのだが――上空かへとヴィータストは飛び立っていった。

凍結しつつあったボトムを不要な飾りのようにとして捨て去った為だ。エレクトリック・ファイヤーとして、ヴィータスト最大の火力を誇る脚部を破棄する事にためらいはなく、ヴィータストが上空で2へに分離していった。


『へへっ、戦車は空からの攻撃に弱いっていうからね!』

『少なからずクロストの電次元ブリザード、ゼット・フィールドは封じたがな……』

『そういうこと、玲也君……僕ならクロストを空から攻めるね!』


 ――シャルはそう断言しきった。トップとポータル・シーカーの2機が空から攻めていく状況にクロストは晒されつつあった。最も、両肩の10連ミサイルポッドとバスター・ショットを併用すればポータル・シーカーからの攻撃をある程度捌くことは出来る。

 しかしトップパーツ――ヴィータストの両手から展開されるエレクトロ・キャノンを避けることは至難の業だった。バスター・スナイパーで撃ち落とさんとしていたが、エレクトロ・キャノンのビームは自我を持つように、軌道を変えてでスナイパーを直撃させる。これでクロストの持ちうる脅威をほぼ潰したと確信した上で、


「玲也様、ちょこまかとこう動き回れましては腹ただしいですわね……」

「エレクトロ・キャノンを的確に当ててくる……恐ろしいビーム兵器だ」


 玲也が触れるエレクトロ・キャノンの脅威――火力や射程以上に、ビームの軌道を誘導出来る事による柔軟性にあった。これもハイドラ・ゾワールの刃が、ジックレードル同様ビームの軌道に干渉する性質を備えているためであり、両腕に装着した状態で刃の方向を調整すると共にビームの軌道も連動するのである。

 ネクストの電次元サンダーよりは流石に劣るものの、シャルは射撃のセンスがあるだけでなく、ミサイルを牽制として放ちながら、ジグザグにビームを放つ複雑な攻撃を可能としていた――ウィンと息が合っている事も大きいだろう。


「少なからずシャルとウィンは良いコンビだ……俺の好敵手でもあるが一人増えたようだ」

「何弱気になられているのですか!  私の玲也様は振り向かない殿方のはずでして!!」

「それも……そうだなっ!」


 エクスが首を横に振りながら玲也へ気丈な様子で啖呵を切る。そして彼女に呼応するように玲也は両頬を自らの手で叩いて気合を入れなおす。自分が勝つのだと絶、彼女から対的な信頼を寄せている様子を目にすると、自分が認めた好敵手だろうとも弱気になる事をは許されないと判断したからでもあった。


「空からの攻撃に弱いと思えば大間違いだ。生憎まだ打つ手はある」

「ですが玲也様、電次元ブリザードもバスター・スナイパーも使えないとなりますと」

「とりあえず。ありったけのミサイルを撃ち尽くして時間を稼ぐ。そこから逆転してやる」


 いつもの調子を取り戻したかのように、玲也は冷静に打開策を見出そうとしていた。両肩からの10連ミサイルポッドを空にする勢いで、弾幕のように撃ち込んでいく。それでもポータル・シーカーからミサイルを放ちながら撃ち落とされ、エレクトロ・キャノンにもかき消されていき、効果があると言い難いが、


戦いは空からでなく、地上からの攻撃も疎かにする事は望ましくない……よし」

「玲也様、ヴィータストの足を止めている隙にこちらから逆に地上から攻めるのでして?」

「いや、今から相手を挟み撃ちにしてやる、その上で思い切らなければ……!」


 その間玲也はエレクトロ・シュートの直撃を受ける事をも承知で、ヴィータスト本体をおびき寄せつつあった。この下準備が十分と判断した上で、L1、L2、R1、R2、スタート。セレクトを同時押しにした事で、クロストは電次元ジャンプを発動させた。


『クロストが……いったいどこに消えたの!!』

『シャル、上だぁぁぁぁ!』

『上っ……ってうわぁぁぁぁぁ!!』


 障害物が特に見当たらない熱砂で、一体何処へ行方を眩ます必要があるとシャルは少し困惑していたが――ウィンが少し狼狽したようにメインカメラを通しての大型モニターに影が帯びる事に警告を飛ばすが、既に遅く真上から巨大な衝撃が襲い掛かる。


『な、ななななんで! どうしてクロストが飛んで、いや!』

「落ちながら戦っているとでも言っておこう!」


 思わず前のめりに転倒してしまうシャルだが。すぐさまポータル・シーカーからの映し出された映像を見るや否や唖然とした。クロストがヴィータストにのしかかっていく光景だ。空中であろうともクロストが宙から落下していく中で、両腕をがんじがらめにしてヴィータストを巻き付ける。至近距離でバスター・ショットを浴びせていく。


「お前が空から攻めるというのなら、こちらも空から攻めただけだ」

『そ、空から攻めるといってもな貴様、これには限度があるぞ!!』

「私がこの分野で先輩ですから言わせてもらいますが……ハードウェーザーの戦いはこうなのですわよ!」


 電次元ジャンプを駆使して、重量級のクロストが空から攻める――あまりにも無茶が過ぎたからか、ウィンからの突っ込みが入るが、エクスは優勢に立ったと確信して冷静に言い放っており、


「そ、そうはさせん! まだ弾はあるから」

『待って! 自爆しか能がないエクスだから!!』

「そういう言い方はお止めなさい! 私は好きで……あ、いえ玲也様でしたから信頼はしてましてよ」


 バスター・ショットでも至近距離から浴びされ続ければ、装甲が薄いヴィータストならそのまま粉砕される恐れがある。かといって組み付いているクロストに攻撃でも仕掛ければ、そのままクロストが爆破四散する可能性が極めて高い為、


「さぁどうする! 微塵隠れをどうやって躱す!?」

『うぅ……凄い嫌だけど!』


 微塵隠れから抜け出す唯一の術は電次元ジャンプしかない――だが、二度挑めばヴィータストですらエネルギーが1割を切る状況に追い込まれる。短期決戦へと持ち込む必要があるため覚悟を伴う必要があるものの、


「悪いが、俺は脱出させてもらう。デバイト・ワン!」

「玲也君も同じ……パターンにはパターンもアリかな!」


 クロストもまた胸部のハッチを開くとともにクロスト・ワンが脱出する。電次元ジャンプだけで感づかれる事なく逃れる事が出来た筈ながら、それも出来ない状況に追い込まれていると知れば、ヴィータストも電次元ジャンプで逃れる事へ踏み切った。ポータル・シーカーが残されたミサイルを撃ちつくし、コクピットメカ同然のクロスト・ワンが被弾を避けたいと防戦一方だった所、


『僕だって負けるわけにはいかないからね……最後の最後まで!』

「ぐっ……それでこそだ! 好敵手としてそれでこそ……!!」


 クロストの正面にヴィータスト現れるや否や、ハイドラ・ゾワールを左腕の砲身に巻き付けて電撃をお見舞いする戦法をとる。クロスト・ワンに白兵戦用の武装が供えられていない分、自分のエネルギーがわずかな点もあり、至近距離から仕留めなければ勝利が得られないと、シャルは判断した故かもしれない。コクピットに襲い掛かる電撃にあえぐ玲也とエクスだったが、


『うわっ、玲也君ちょっと……!』

「……だが、俺も負けられん。このまま畳みかけてやる!」


 その瞬間にクロストの巨体が砕け散った――あらかじめ微塵隠れの体制を整えていたが、爆心地から少し距離を置いていた為に、その衝撃で2機もろとも制御が効かず地面に向けて叩きつけられようとしており、


『シャル、まずいぞ! このまま地面に叩きつけられれば流石に』

『だからまだ飛んでやるんだ! ギリギリまで放てば!!』

「悪いが逃がさんぞ!!」


 ヴィータストのコクピットから既にブザーが鳴り響いている。その上でクロスト・ワンに電撃を浴びせ赤熱化させていた中で――熱砂から爆発が上がる。かつて二人が警戒していたようにアビスモルを潜ませており、バスター・キャノンを直撃させる事で起爆させる―この爆風に巻き込まさせるように、クロストはヴィータストの落下地点をおびき寄せており、 


『こ、これが……そなたのいう好敵手か……』

『そうだよ……結構粘ったけど、流石だね!』


 再度爆風に煽られた後、重力に従うようにヴィータストは地表へと落下していく。既にハイドラ・ゾワールから電撃も放てない状況故、クロスト・ワンはすかさずバスター・キャノンを一斉に打ち込んでいく。

 そして最後の攻勢の後、ハイドラ・ゾワールのワイヤーが千切れて空中へと飛び上がった時、地面にたたきつけられる形で、ヴィータストがアビスモルの爆発に飲み込まれていった――ウィンは少し悔し気ながらも全力を出した事は認め、シャルもまた少し苦笑しながらも、爽やかな表情を浮かべ、玲也がウィナーだとのアナウンスを耳にしていた。

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