11.5-3 この地球(ほし)の家の下で

「あ、あの玲也様……布団を敷かれてますよね?」

「布団……あぁ、寝る前に布団を出すと体を動かして寝付けなくなることがあってだな」

「となりますと……まさか夜を一緒に!? 」


 その夜、夕食を済ませた玲也は自室へ閉じこもり、明日の戦いに備えて策を練りつつあったが――彼の部屋へ連れられて何か勘違いをしたのだろう、恥じらうエクスの告白に対して彼は口に含んだ麦茶を思わず噴き出した。、


「待て! 何処をどうすればだな!!」

「で、ですわね……それでしたら、私が玲也様のお布団で夜を過ごすとの形で明日のデートの締めくくりを……」

「いい加減にしろ! 今はシャルとウィンさんに勝つことを考えてくれ!!」


 あまりにも突拍子もない勘違いから、玲也が咽せていた事も含め、声を荒げて突っ込みをかますが、エクス自身更にとんでもない勘違いをしていた。これでは拙いと判断した上で、明日シャルに勝たなければ彼女へ促した時、


「そ、それもそうでした……私があのお二人に敗れましたら玲也様がアレを……」

「まぁ、そうだ……よく分からないがアレだけは避けたい」

「勿論ですわ! シャルさんの事ですしもう一つ考えませんとね!!」


 メルの駆使するアレが一体何かは定かではない。ただエクスをその気にさせるためにも玲也は半分恐れていたのと別に、あえてアレだけは避けたいと強く勝たんとする姿勢を示した。彼女は玲也がらみの事で暴走しがちではあるが、その気になると本来の頭のキレを発揮していく。実際彼女がその気になっていた様子に玲也は少し安心した様子を見せていく。


「ただヴィータストが相手ですと認めたくはありませんが……」

「同じ砲撃戦主体だが、ヴィータストは素早くて空も飛べる。空から攻められる事も避けておきたいが」

「ですが玲也様! ヴィータストの攻撃でクロストが簡単に敗れる訳がありませんわ!」

「素の装甲で少しばかりは無茶もできる。ゼット・フィールドを併用すれば手も足も出なくなるかもしれない。そうだな……」


 実際その気になったエクスとは作戦を練るにあたって意外と話が弾む。士官学校で首席だったらしいとの彼女だが少なからず、いつも張り合っているシャルやヴィータストの事を意外と冷静に分析はしている様子であり。


「これでどう攻めるか方針は纏まった。俺一人で考えるより早く終わった」

「玲也様、そうわかってくださりますと私も嬉しくてですね」

「落ち着け。それよりウィンさんとは先輩後輩の関係だそうだが……」

「ウィンさんの事? あまり存じてはいませんが、まさか玲也様がウィンさんの事を!」


 時が瞬く間に過ぎ、ひと段落した所で思わず玲也はエクスを褒めた。ただ自分に褒められた途端、彼女が図に乗って自分にアプローチを仕掛けてくる――彼女のスイッチが玲也を好きで好きで仕方がないモードに突入してしまったのだ。

 ここで暴走する事を止めなければと、玲也は彼女にとって関心がありそうな別の話題に切り替えようとウィンの話を触れようとする。士官学校時代の先輩後輩との関係を踏まえてのものだが、士官学校時代の接点は深くなく、逆に恋敵が新たに現れたのではないかと興奮しだす。


「待て! ウィンさんはともかく、お前が何故軍人の道を歩んだのか気になってな」

「あぁ、その事でしたか……それはお父様が総督でして、お兄様もその……同じ道をですね」


 エクスが家の誇りのためにハドロイドへ志願して戦っている――彼女が軍人の道を歩むきっかけを玲也はもう少し踏み込みたいと関心を持っていた。するとエクスが少し顔を赤くして自分の家族を触れており、少し玲也から目をそらしてもいた。


「けれども、何かその環境だとそのまま良い所のお嬢様になりそうな気がするが」

「確かにお父様とお兄様も私が軍人になる事を反対していました。ですがただのお嬢様では力になる事も出来ないと思ったのです」

「ただのお嬢様……ね。正直お前に縁談とか持ち掛けられそうな気がするが……」

「もう、玲也様! 私をそういう考えで見られたくはありませんわ!!」


 玲也に対して珍しくエクスが少し怒る。少なからず軍人の道を歩んだとしても、今の彼女からは育ちの良さは漂っている。外見は少なからず玲也自身も“悪くない“と思わされるだけのものがある上で彼女を称賛したが、


「すまない。ただ一途だからお前がやはり凄いと感じたからだ」

「も、もう……そう改めて言われますと、ゲーツお兄様でなくとも……」


 すぐさま謝った上で、エクスが軍人の道を選んだことについて納得した事を率直に述べる。こう玲也が思えた所には、彼女が肉親を想う姿勢にも、根が一途な者同士で共感できると所があった為である。彼女がやはり顔を赤らめていた所、ゲーツの名前を出しており、


「生憎俺には兄弟はいないが……お前のお兄さんはどんな人だ?」

「ゲーツお兄様の事ですね。お兄様はルックスもよくて頭が良くて優しくてですね、私に色々な事を教えてくださいまして……」


 玲也自身兄弟がいない事もそうだが、彼女自身が敬愛しているゲ-ツが一体どのような人物か興味を抱いていた。彼に尋ねられたエクスは自分の兄ゲーツの事を話している間、頬が零れ落ちそうな程顔がにやけていた。


「よいお兄さんだな……俺はその、お前のお兄さんに適うはずが」

「それはそうかもしれないですわね」

「あら……そこは認めるのね」


 玲也自身、エクスの話を聞く限り素直にそう捉えているつもりだったが――彼の表情は若干羨望も混じっており、彼女から聞く限り、その兄が自分の上を行く相手だと感じ取っていたか様子もある。珍しく彼は少し自信なさげに自虐をしていたが、そエクスは意外にも彼にシビアな評価を下ししていたのに多少ずっこけた


「ですが、私は玲也様なら確信しましたの。私の殿方にふさわしい相手とあの時ですね……その、正直ですね……」

「……最初出会った事については、全然気にしていない。安心してくれ」

「そ、それではお言葉に甘えまして……」


 すぐさまエクスはそっと彼の手を上下に挟み込むように握り、それでも自分に惹かれた事を触れる――いつもと違って穏やかに落ち着きのある物腰で説いている。玲也でも多少普段違う彼女に対して少し胸が高鳴っている気がした。

 最も、エクスが出会った当初自分に対してつんけんとした態度を取っていた事を触れると、彼女が戸惑っており、普段の見慣れた彼女に戻っていく。玲也が気にしていないとのフォローを入れた事には思わず甘える彼女であったが、


「ゲーツお兄様には憧れもありましたし、私がお兄様の片腕になりたいとも望んでいました。ですがそれと別にお兄様を越えたい思いもありましてですね……」


 エクスが触れるには、ハドロイドとしての身に姿を宿した頃、兄を越えようとするがために自分にもあの時余裕がなかったのだと打ち明ける。その為に周囲には家の誇りもあり舐められたくない意地があの時にあった。


「ですが、玲也様はあの時負けそうな私に対しても諦めず最後まで勝つ信念でした。その時私は意地を張っていたのが恥ずかしくなりましてですね」

「アンドリューさんの時か……最もあの時俺は負けたが」

「ですが、そんな玲也様でしたからプレイヤーとして認められたはずですし……お兄様を越えるには貴方が……」


 エクスが自分の手をそっと握る様子に、玲也は一度唾を呑んだ。一方の彼女もいつもと異なり目をそらしており、なぜか自分を注視できない様子だが、それは彼自身にも察していた所だが、


「玲ちゃーん、差し入れのチョコ持ってきたけどー」

「母さん……今開ける、待っててくれ!」

「あぁ、もう……」


 そんな折に場の空気を読んだかどうか定かではないが、ドアの向こうからノック音が鳴り響くとともに母の声がした。幸い直ぐドアを開けても怪しい状況ではない為、玲也が直ぐ我に返って戸を開けた時エクスは少し悔しがっていた。


「よぉ、調子はどうだ?」

「……アンドリューさん?  母さん、これは一体」


 玲也にとってまるで罠に嵌められたかのような表情を一瞬浮かべた。後ろでエクスがタイミングの悪い時に彼が来たと少し苛立っているようだったが、そんな二人の状況を知ってか知らずかやってきたアンドリューはいつも通り飄々と自然体だった。この男が現れた事を思わず理央に尋ねてみると、


「何やら今日はトンカツだとの事で、元々アンドリューさん来るつもりだったの。何か色々用事があって遅れたとかで」

「今日の夕飯がトンカツだと……アンドリューさん、どこで知りましたか」

「そりゃまぁ、おめぇのお袋さんのラインとポリスターはつながる仕組みだからよぉ」


 そう言いながらアンドリューはポリスターを取り出し、実際理央との会話のやり取りを表示しており、最新のメッセージではむしろ理央から「今日の夕飯はトンカツだけど?」と誘っていた。


「ちょっと母さん、俺に内緒で一体何を!?」

「あらー、こういうのって本人に知られたら、ありのままの様子が分からないじゃない」

「いや、だからといって……アンドリューさん、もし母さんに何かしたら流石に怒りますよ?」

「おー、すげぇ顔しやがって……」


 アンドリューにとって多分今まで見た事がないほどの形相で玲也は迫って釘を刺していた。当の。師匠の彼ですら、教え子の鬼気迫る様子に多少たじろぎながら突っ込んでおり、、


「アンドリューさんが二人の様子を見たいとの事ですし、私は下にいくねー玲ちゃん」

「どうもすみません奥さん……」

「……」


 ――理央とアンドリューが互いに馴れ馴れしい雰囲気に対しても、玲也自身これでよいのかと内心戸惑いがあった事も付け加えておく。


「アンドリューさん、その……リタさんは一緒じゃありませんの?」

「ちょっとジーロさんに修理を手伝ってくれって頼まれてな。ジャレと居残りだ」

「ちょ、ちょっと勝手に俺の部屋入らないでください」


 場の空気が妙な事になっていると、珍しくエクスが気を利かせて話題を変える。リタがいない事についてあっさり明かしつつ、アンドリューの視線は彼の部屋の棚やベッドの下に向いていた。玲也が少し挙動不審な様子を示した時に彼は確信して、


「おめぇも年ごろだからよ。何かそれらしいの持ってるだろ?」

「一体何を言ってるんですか……」

「おめぇの本棚、一応漫画や攻略本とかあるけど何というか……」


 表向き、玲也の本棚には、少年向け漫画の単行本が何冊かおかれているが――定期購読と思われる歴史群像がずらりと並んでおり、歴史小説や第二次世界大戦から太平洋戦争に関する軍事ものなり、将棋の戦法を記した書籍などと幅広いジャンルが置かれている。だが共通して言えることは、和室にふさわしいかもしれないが13歳の中学生が読むには固い書籍ばかりである。


「玲也様は学校の勉強に興味がないとの割には勉強家なのでして、葉隠は良く読まれてますのよ」

「……鍋島直茂は一応俺が好きな武将の一人ですからね、龍造寺家からの主導権を得ることにせよ、九州の関ヶ原での立ち回りにせよ無駄がなくてですね……」

「わーった、わーった。その話はまた後でだ」


 エクスから玲也が寧ろ普段からそのような書物を愛読している事をアピールされると、彼自身最初は乗り気ではなかったが、鍋島直茂に関して話すと自然とテンションが高くなっていた。とはいえ、元から興味がないのか、話が脱線しかねないからか、アンドリューは途中でそそくさと話を切り上げ、


「まぁ、けどおめぇも隠してるんだろ……」

「あっ……それは!?」

「おっ、その様子は…… “右京とはな捕物車“?」


 気を取り直してアンドリューが玲也の部屋を漁ろうと本棚をスライドさせると、その後ろの棚には録画なり、購入なりといった全て揃えたディスクがずらりと並んでいた。最も彼が期待したものかといえばそうではなく目を点とした時、


「、”林枯し紋三郎“”飛んだ!必勝おもてごろし“”必勝仕業人“……おい、何なんだこれは」

「すみません、実は俺外村敦夫さんのファンでして……できれば隠していたかったですが」

「へ、へぇ……」


 ――玲也自身が時代劇のファンという意外な一面が明かされた。大河ドラマシリーズと別に活劇ものの時代劇を好み、必勝シリーズなど暴れん坊関白シリーズなどといった作品を欠かさずにチェックしていたという。アンドリューが予想していたのとは全くベクトルが異なっていた為、彼が逆に呆然としており、


「確か今日“江戸特救指令”を録画してましたから、折角ですし見ませんか? 外村敦夫さんがはっちゃけた演技をしているんですよ。“はしゃぎすぎだ貴様たち!地獄に落ちて虫けらになれ!!”ってのがもう!」

「玲也様、私そこまで詳しくありませんが……あと少しキャラが違うかと」

「大丈夫だ。こういうのは理屈抜きで楽しめる。エクスもアンドリューさんにも俺が面白いと保証を……」

「……」


 何かスイッチが入ったのか、一緒に視る事を玲也は誘っているのだがその手は既に、プレイヤーを再生する方へ勝手に動いており、もはやアンドリューが振り回されそうな状態であった。結局地上波で再放送されていた”江戸特救指令”の視聴に付き合わされることになるが――アンドリューとエクス曰く、その時の彼は普段のドラグーン・フォートレスではまず見られないほどノリノリだったとの事だった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ごちそうさまー!」


 シャルはフランスのパリ郊外へと帰省していた――今、ウィンを連れて自宅で夕食を済ませているが、玲也の家の隣のアパートとは異なり、養母のロールが手によりをかけて作ったロブスターのバスクとポトフ、ブレッドのディナーを美味しそうに平らげていたにしていた。


「もう食べたのか……」

「気にしないで大丈夫ですよ、あの子はなりが小さいのに胃袋は大きいみたいですから」


 ぺろりと平らげるシャルと対照的に、ウィンはまだロブスターに手を付けていた。ロールの料理が拙い訳ではなく、一口する早くたびに思わず舌太鼓を叩くようにうなっており、小刻みながらパンも、スプーンも取る手が止まることはない。初めてシャルの家に訪れた事での緊張はあったが、彼女の両親による手料理に驚きを感じているところも大きかった。


「お前さん、向こうの世界ではどうだったんじゃ?」

「電次元ですか……一応食事に不満があったわけではありません。ですがそれまでと違うどこか懐かしい味がします」

 

 ウィンは士官学校の食事では味わえないロールの手料理に内心驚きと懐かしみが交錯していた。彼女にとって士官学校へは両親の反対を押し切って半ば家出同然に進学しており、家に帰ることがあまりなかった背景も関係がある様子との事で


「そうかそうか、それはあの時のシャルも同じことを言っておったのぉ」

「シャルも……確か聞いたところですと、貴方も」

「そうじゃ、止めようとした結果がこれじゃったから、わしが贖罪に引き取ったシャルが許すはずもなくてな」


 丁度シャルがいたこともあってかガジェットは彼女の実の両親の件を話す。ハッカーとしてサイバーテロに手を染めていた悪人とはいえ、シャルにとって実の両親として命までは奪うつもりはなかった。しかし実の両親が乗るトレーラーを止めようとタイヤを狙撃するも、トレーラーが横転して激突。炎上するトレーラーの中で実の両親が焼死した為、シャルには凄い恨まれていた事であり、


「シャルから聞いたんじゃが、多分お前さんと玲也の関係とよく似てると思うぞ」

「あいつとですか……あいつは一応ポーの仇とは」

「お前さんは分かっておって、どうして彼を恨んでいるんじゃ?」


 自分とシャルにあった確執について、ウィンからすれば玲也との関係と似ているのではと、ガジェットは触れた。ウィンは一応落ち着いた物腰ながら玲也が彼なりにポーを裏切らせ、死へ至らしめた元凶のアステルを討った事を認めていたが、


「別に恨んではいないです。ただあいつが私の知らぬ所でポーの仇を討った事を」

「嫉妬しておるんじゃな」

「……なのかもしれません。それにも姉としての面目が立たないままで」

「……」

「私はポーの姉でお姉ちゃんだぞ……あの場で本当は私が死んでもあいつを守らなければいけなかったはずだぞ……」


 その上でガジェットがウィンを論破する。老刑事としての洞察力は彼女の本心を見据えておりウィンはしおらしく彼に対して首を縦に振る。自分を助けようとして、妹が裏切りを働き、無残な最期を遂げた妹の事を想うと感情が高まり落ち着いてはいられなかった。握りこぶしを震わせながら涙を目じりに溜めるのだが、


「じゃが、お前さんは仮の身体とは言え今生きてここにいるんじゃ。その中でお前さんにしかできない事があるんじゃないかのぉ」

「私にしかできない事……ですか?」

「そうそう。ちょっと図々しいことかもしれないけど、シャルの事をお願いできないかしら?」


 食器を洗い終えたロールが会話に参入した。弾んでいた気持ちながら、ウィンが姉であることに強いこだわりと誇りを抱いている様子を汲んだうえでのお願いに、ウィンが思わずキョトンとしていたが、


「ロール、何か知らないが、お前も少し変わったようじゃのぉ」

「そりゃシャルが戦争に出る事は私だって反対ですけど、ちゃんとたくましく頑張っているそうですし……こう私たちの子供に変わりはないじゃないですか」


 初対面かつ、それも戦う事を志しているハドロイドのウィンに対しても、ロールは親身かつ積極的に接している。夫としてガジェットは少し意外と感じていたが、彼女なりにシャルが変化しつつも、自分の子に変わりはないのだとして受け入れていた。これに伴い余裕を持つようになった妻に彼は感心しつつ、


「そうじゃな。お前さんはわしたちと違って戦いの事を知っておるし、戦いでも一緒ならその間でもシャルを見守ってほしいんじゃ」

「あの子は男の子のようにやんちゃで元気がありあまってるけど……ちょっと勢い任せでおっちょこちょいな所もありますからね」

「そこは否定できな……いや、失礼」


 ロールが娘を評する様子に対して不覚にもウィンは納得しそうになった。流石に両親を前に失礼だと直ぐ謝る彼女に対して、両親は悠然としていた。


「もっともお前さんもシャルの姉代わりとして、ここを家と思って寛いでもいいのじゃぞ」

「そうそう、子供がいないところにシャルだけじゃなく貴方まで来たのですからね。にぎやかになりますよ」

「私はよそ者だが……それでも構わないのですか?」

「あぁ、家族が必ずしも血でつながっている必要がある訳ないからのぉ、おや」


 ウィンがシャルの姉代わりになるとの事は、彼らにとって娘が一人増えたようなもの。ガジェットとロールが両親のように振る舞う事に対して、少し感情が高まる様子で確かめにくるウィンにも前から顔見知りだったように接している。そんな折に風呂の給湯器が鳴った事に気づけば、


「シャルー、お風呂沸いたから入りなさーい」

「分かったよー、今行くー」


 ロールから呼ばれシャルが勢いよく階段を駆けてくる。だがそのままバスルームへ向かうのではなく、リビングの扉を開け


「ウィンー、もう食べちゃったら一緒に入ろうよ。折角だし」

「私がか……?」

「うん、何か久しぶりに家に帰ったらお泊りしているみたいな気分だからさ!」


 シャルが実際彼女に親しく接しているが、家でのやりとりだとまるで昔から一緒に育った姉妹のように猶更見える。既に彼女はロブスターのバスクを平らげた後だった事もあり、


「しょうがないな……」


 口では仕方がなさそうだが、席を立ったウィンはまんざらでもない様子である。そんなパートナーの様子を知った上で二人きりの時間を付き合う事にも乗り気であり、


「後で一緒に明日のこと考えようよ! 玲也君に勝たないとね」

「それは勿論……私は最初からそのつもりでいるぞ!」


 明日に備える話をすれば、ウィンは既にそのつもり――明日の勝利を信じた上で二人は拳を軽く打ち付けあった。

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