11-4 危うしブレスト! 捨て身のパテルス・イレーザー
『へへっ、火中の何とやらを拾うとかじゃねぇけどよ……折角敵さんもピンチだからよ!!』
ガードベルトステーション付近へとバグロイドの群れは迫る――バグロックがバグアッパー数機を率いていたもの、バグアッパーは巨大なかぎ爪を模した機体を空輸しながら近づきつつある。
『バルゴの奴が戻ってきやがって……このままじゃ俺の肩身が狭くなるばかりだ!』
『ガミアン隊長、そもそも私たちは偵察隊です。バルゴ様と張り合う必要はないと思うのですが』
『うるせぇ! そういってまともな手柄が立てられねぇから窓際に追いやられるんだよ!!』
偵察隊を率いるガミアンが、珍しく前線で指揮をとっているが、二番隊内部で生じる焦りが原因でもある。ゼルガら一番隊が月からバーグへ本拠地を移した関係で、本来管轄していたバルゴ達がアルファや自分たちのいたキドへと戻った。偵察隊長と前線隊長では格に違いがあるだけでなく、華やかな役回りを任される訳であり、
『ですが、わざわざハードウェーザーを私たちが倒すことができるのか……』
『うるせぇ! その為に態々アルファ様に頼んだ切り札があるんだよ!!』
偵察隊が手にしたハードウェーザーの展開状況だけでなく、バーグに潜ませた自分の部下からゼルガの作戦を知った上でガミアンは行動を開始した。表向きゼルガのドラグーンを沈める作戦に協力する体裁で、自分たちにおびき寄せられるよう電装されたハードウェーザーを仕留める作戦を遂行する事が目的であり、
『馬鹿野郎! もっとうまい動かし方があるだろうが!!』
『ガ、ガミアン隊長! それでしたら貴方が動かしてくださ……ってエネルギー反応あります!』
『この反応だと……現れたなぁ!』
ガードベルト付近に備えられた護衛用の砲台が光を放った――バグロックが辛うじて回避するが、複座式として回収された関係故、自分に代わって操縦する部下に拳骨を見舞う。その折に赤い光がフレームとして人の形を成し、表面の装甲が装着されると共に真紅のブレストがガミアン達の前に姿を現した。ガミアンは思わずほくそ笑み
『で、ですが! セカンド・バディもまだ蹴散らしていないのですよ!!』
『あのブレストだけ先にやっちまえばいいんだよ! ハードウェーザーを仕留めたら総崩れだ!!』
「玲也、あいつらだけなら簡単じゃない!」
「そうだな、ここはカウンター・クラッシュを……何!?」
ガミアンは目の前の部下を殴りつつ、ブレストの撃墜が最優先だと命じる。口では勇ましい様子ながら、バグロックは密かに安全な場所で指揮を取ろうとする後退している。それと引き換えに半ば捨て鉢のように進撃するバグアッパーを迎え撃つブレストだが――命綱ともいえるワイヤーを手にしたバグロイヤー兵の姿が次々とコクピットから飛び出していったのだ。
「ちょ……ちょっと! 何考えてんのよ馬鹿じゃない!!」
「無茶もいいところだ! この場合はアイブレッサーなのか!?」
『今だ! バグトールを落とせ!!!!』
目の前に生身のバグロイヤー兵が現れれば、流石に玲也もニアも動揺をかくせ。照準さえ合えば一撃で彼らを葬り去ることはできる。だが、そう簡単に生身の敵へと照準を合わせられて仕留めるだけの覚悟があったわけではない。
思わず攻撃を躊躇してしまうブレストを前に、ガミアンが叫ぶと共に、バグトールと称されるバグロイドが投下される。バグアッパーに空輸された巨大な爪そのものが射出され、ブレストの胸部や脚部へと張り付くと共に超音波を発していく、
「あ、熱いわ……早く引っぺがさないと!!」
「分かっている! バズソーで潰してやれば……!!」
バグトールの全身そのものが“モーグロー”と称される超音波発生装置と化す。本来拠点の破壊及び索敵を想定し、周囲の土壌や岩盤を粉砕し地中を潜行する目的のバグロイドの筈だが、ブレストに超音波を接射すると共に、コクピットへ高熱を帯びさせ玲也達を喘がせていた。
半ば強引にカウンター・バズソーを回転させながら、コクピットを潰してバグトールを無力化させようとするものの、設けられたデリトロス・レールガンが腕関節目掛けて火を噴く。
『パテルス・イレーザーを流せ! 今がチャンスだ!!』
バグロイヤー兵の一人がベルトを光らせて合図をするや否や、一斉に命綱と思われた先端から電磁石の備えられた射出口が熱を帯び、両腕の関節に押し付ける。そして先端から接着剤のような液体“パテルス・イレーザー”を噴出していくと、
「ど、どうした! 腕が言うこと聞かないぞ!!」
「何か詰め込まれたの! それも固まっててコマンドが効かないの!!」
「その為にわざわざ……くそっ!」
レールガンが被弾した箇所目掛け、生身のバグロイヤー兵が撃ち込んだイレーザーと称される物体は急速に凝固していく。その結果ブレストの両腕関節は桃色のパテ状の固体が邪魔をして動かすことが出来ない状況に追いやられた。さらにバグトールの対応にも追いつかず、モーグローの熱によって遂にセーフ・シャッターも下ろされ、玲也が思わず歯ぎしりしてしまう。
「今あれを使う訳にはいかない……バイト・クローは使えるか!?」
「大丈夫みたい! 追い払うんだから……あっ!!」
両腕に代わるマニュピレーターとして、玲也はウイング・シーカーを分離させて応戦する一手に出る。ニアに操縦を託された途端早速バイト・クローがバグアッパーを打突し、内蔵されたビームマシンガンを滅多打ちにして、生身のバグロイヤー兵を繋ぐワイヤーもといパテルス・イレーザーのホースを潰していく――あくまでバグロイヤー兵への直接攻撃を控えている故もあっての事だが、
「……しまった!」
『よし! このシーカーを破壊すれば何とかなるぞ!!』
ところが命綱のワイヤーを絶たれたバグロイヤー兵が、流されるままにウイング・シーカーと直接激突した。ピクリとも動かなくなった兵士の様子を目のあたりにして、判断に遅れが生じる。その隙を突かんばかりに、バグロックがシューティング・レネードを投擲しながら、デリトロス。ブレイカーを駆使してシーカーを真っ二つに叩き割る。部下の決死行によりブレストの動きが封じられたと事で、優勢は揺るがないと判断した様子であり
『ガミアン隊長、他の敵が我々に手を出す気配がありません!!』
『へっ! ブレストみたいになりたくねぇって……動けねぇんだろ!』
ガミアンの触れる通り、セカンド・バディの編隊はブレストを救助する事はおろか、加勢する事にも消極的だった。目の前のブレストが窮地に追いやられている為かは定かではないが、イレーザーを照射し続けられたブレストは、付着したパテが次々と盛り上がり、蝋で固められた状態となる。
『よーし、いいぞ! これでブレストも黒焦げなんだよっ!!』
バグロックはすかさず。ガードベルトのフィールド発生装置を標的に定め、デリトロス・ラピードガンを連射しながら距離を詰め、デリトロス・ブレイカーで豪快に両断する。
この1基を潰した事でガードベルトから地球を覆うフィールドが消滅していく。これによりブレストが身動きの取れないまま、大気圏に突入しようとしている。胸部の装甲が損傷している事で電次元ジャンプが封じられただけでなく、大気圏突入のための姿勢を取ることが不可能となっていた。。
「ちょ、ちょっと……ゼット・バーストでどうにかならないの!?」
「確かにこのパテから脱出はできるが……問題はその後だ!」
ニアの言う通りこの状況でゼット・バーストを駆使すれば、凝固したイレーザーを溶解、粉砕して脱出する事が出来る。しかし一度に一斉のエネルギーを放つこの能力を使ったならば、その後の戦闘で窮地に陥るリスクが高い――このパテさえ破壊することが出来ればと玲也は模索するも、若干の焦りが生じていた。
『へっ、後はブレストが燃え尽きちまったらよぉ、俺の面子は保たれるんだからよぉ』
『ですがガミアン隊長、私たちだけが戦線を離脱というのは……いた』
そしてガードベルト付近の戦闘からバグロックだけはそそくさと戦線を離脱した。これもバグトールとパテルス・イレーザーにてブレストの身動きを封じたうえ、大気圏に落として仕留める事をガミアンは目論んでいる。その為に部下を見捨てる事もいとわないようであり、
『あのなぁ! 俺がブレストを仕留めた後セカンド・バディの報復を受けるかもしれねぇんだぞ!!』
『ですが、私たちだけ敵前逃亡と思われてしまいましたら……』
『うっせぇ、あいつらがブレストの最期を見届けたらそのデータを送るようにはいってらぁ!!』
『はぁ……』
難色している様子の部下を叩きながら、ガミアンは敵前逃亡しても構わないと押し通そうとした。早い話部下たちが最後まで踏みとどまった事を、自分のことのようにアルファへ報告すればいいとの話であり、部下自身何とも言い難い表情を浮かべている。
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『まさかアンドリュー君がハードウェーザーを乗り換えてくるとはね……』
「わりぃが、これで俺に手こずるようならなぁ……てめぇにイーテストをぶつけるまでもねぇ!!」
一方でアンドリューが駆るボックストは、リキャストのまえ立ちはだかった。脚部からミサイルを放って牽制しつつ、メテオ・アンカーを放ってはリキャストの両腕と両足を巻き付けんとする。
「きやがったな……ベル、そっちは任せらぁ!!」
「はい! レール・シーカーで何とかできましたら……!』
ボックストのバックパックから、レール・シーカーがパージされた。インスパイアー級からバグレラ4機が後詰めとして送られており、別方向からのバグロイドはシーカー単独で迎撃させるべきとアンドリューは判断したが――1機がボックストをかすめるように飛ぶ弾頭を直撃して砕け散る。
『おっと、これ位の相手は俺がやらないとね』
『トム、油断をしてはいけませんよ』
「すみません……なるべく足を引っ張らないようにします!」
トム、ルリーのスパイ・シーズが加勢に入っており、先ほどの一撃もトム機のガーディレールガンによるものだった。先行するルリー機はガーディ・リボルバーを至近距離で浴びせて牽制に入りつつ、ベルもまたレール・シーカーでバグレラに砲火を浴びせていた。
その中でジャレコフのタグが光らない様子をベルは気にしていた。レール・シーカーの操縦でも彼女は右腕のハンデもあったからか、若干苦労している様子はあった
『ベル、自分の方を何故見ているんだ?』
『ご、ごめんなさい……ジャレ君に苦労賭けてないかって!』
『おいおい、雑魚相手だからってそう手は抜けねぇからよ!』
少し慌てたようにベルはレール・シーカーの操縦に集中する。アンドリューが突っ込みを入れつつ、展開したメテオ・アンカーをリキャストの四股に絡め付ける。そしてマシンガンモードの状態でペレシュートを至近距離で連射していった。
『アンドリュー君らしい戦い方だよ。ちょっと勿体ないけどね』
『問題ありませんゼルガ様。相手の戦う術を奪えば問題ないはずです』
『そういうことだよ……!!』
至近距離で被弾しつつもゼルガは余裕を保っている。それよりメテオ・アンカーで両腕と両足の関節がいかれる事を危惧した上で、電次元ジャンプによって、すかさずボックストの背後を取る。今度は両手のデストロイ・ブライカーでペレシュートの銃身を切り落とした上で、羽織絞めにしてボックストの動きを封じて、カリドスバーンをお見舞いしようとしていた。
『二番隊の抜け駆けはともかく、ブレストが出てくれた事はありがたいのだよ……メガージ君、絶好のタイミングだよ』
――相手の戦闘能力を喪失させる為に、ゼルガはリキャストで自ら最前線でハードウェーザーと渡り合う。そしてこの作戦には自分自身を囮にして本部隊をぶつける狙いもあった。
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