8-6 反撃、バグロイヤーへの電次元ジャンプ

「時間は……2時間を切ったところか!」

『早く玲也! とりあえずこっから乗り移って!!』


 ドラグーンの格納庫にマリンブルーの機体が姿を現す。丸みを帯びた小柄な機体はクロスト・ワン――既にブレストが電装された状態で待機しており、胸部のコクピットに向けて飛行していくと、、


『玲也さん! とりあえず電磁石ワイヤーこっちでも出しますから接続して!』

「このために態々ポリスターを使うわけにはいかないからな。頼むエクス……って」


 胸部ハッチが開かれ、ブレストのコクピットにはニア、リン、ラディの3人の姿が見える。ニアの操縦で後部席の前方から、吸盤のような磁石が先端に備えられたワイヤーが射出されてクロスト・ワンへ連結される。重力が弱い空間の中玲也は綱渡りの要領でブレストのコクピットへ乗り移る途中、躊躇するエクスの様子がおかしいことに気づく。


「れ、玲也様……この流れですと、このまま私はお役御免ということではないでしょうか?」

「……はぁ?」

「だって玲也様、最近クロストを自爆させて電次元ジャンプの流れがお決まりのようで……」


 既にエクスが目の前で少し涙目になりながら嘆願していた。彼女自身先程の戦いに思うところがあった事と、その戦いの流れに妙な虚無感を感じていたらしいことだが、玲也自身そのような不安を抱くとは思ってもいなかったようで素っ頓狂な声がつい上がってしまう。


「私、使い捨てとかの安物ではありませんよね! 玲也様のためにこれまでもこれからも尽くす所存ですからこの後もどうか……」

「……いや、お前も今回一緒に行ってもらいたいが」

「ふぇ……?」

 

 エクスが自分の存在意義についてそこまで思いつめていた様子に玲也は内心驚いていた。最も彼女のこの調子が続くと今後に支障を来すと判断し、今後の展望を触れた時、。


「玲也様それって本当でして? いつも最近留守番が多いと思い私ですよ?」

「もし俺に万が一の時があればどうする。お前が守る筈だろ」

「……もう、玲也様ったら! 早くそれを言ってくださいまし♪」

「……」


 とりあえず玲也はエクスの出番がこれで終わりではないと一応触れることにした。元々電次元での有事に備えてハドロイドの彼女も護衛として連れたいと考えていたが、わざわざ伝えるのはできれば避けたかった。実際エクスがお役御免でない急に態度を変えた時、内心面倒な心境にもなっており、


「やはり玲也様は私の事をしっかり見てくださってます! 流石でしてよ!!」

「お、お前がどう考えているかはともかく……」

『ちょっとあんた達! 時間圧してるからラブコメやってる暇ないのよ!!』

「俺がたどり着いたら、お前も早く来い。ニアの言うとおりだ」


 なぜならエクスは良くも悪くも切り替えが早い所もあるからだ。自分が彼女をフォローすれば今度は一気に喜んで抱き着いてくる。正直玲也自身何とも言い難い心境であり、遠くからその様子を見ていたニアは不機嫌そうに乗り移る事を促す。


「では早速私も……ってちょっとニアさん!?」

「あんた待ってる暇はないのに……早くこっちに来なさいよ!!」

「……ニアちゃん、怒ってる?」

「お前ら、大体こんな感じか……」


 玲也がブレストに乗り移ったと確認できた後、エクスもまたワイヤーを伝ってコクピットへ乗り込む。クロスト・ワンから彼女が離れていく事で、電装は解除されるが、その結果接続先を失った電磁石ワイヤーが彼女ごと宙に浮く。

 時間がない事もあるのか、ニアの操縦により電磁石ワイヤーが掃除機のコードのように収納されていった。急速にエクスがブレストの元へ乗り移っていく様子へ、本人が驚きの声を漏らしていたが、ニアはどのみち彼女に対して手加減をするつもりはなかった。リンとラディが指摘した通り彼女は腹を立てている様子であり、


「すみません、慣れてきたとはいえ大変で……」

「……ただいまですわ、玲也様♪」

「あんたねぇ……!」

「……だろうな」


 ラディが突っ込みたくなるのも当然と、玲也は内心思っていた所、到着したエクスがすぐさま玲也に抱き着いてきた。この時彼があえて何も言わずラディの方を向く。リンが止めようとしても、ニアの物言わぬ怒気が後ろから漂う様子にラディはこれ以上聞かない事にした。


『玲也君、先程の戦闘で電次元ジャンプのエネルギーをこちらで負担した。分かっていると思うが自力で飛んでもらう必要がある!』

「そうですね……月まで電次元ジャンプ2回でぎりぎりとなりますから」


 電次元ジャンプは最大3回使うことが出来るとはいえ、戦闘にいつ遭遇するかを考慮する必要がある。その上で電次元ジャンプを2回自力で使用することはリスクが大きいと玲也は判断したが、あえてそのように指示するエスニックの目論見を彼は察した。


「なるほどですわ、あのレスリストに途中で補給してもらうとの事ですわね」

『エクス君の言う通りだ。フェニックス側のエネルギーは残っているから問題ないはずだ』

「ゼット・リカバーを使えば確かに……」


 エクスと同じことを玲也もまた考えていた。他のハードウェーザーに自分のエネルギーを供給するレスリストのゼット・リカバーが有用な能力であると感じつつも、それを褒めるとなれば、彼らの事を考えると少し複雑な心境でもあった。


『ボックストの位置を伝えるわ! 早く電次元ジャンプして追いついて!』

「わかりましたクリスさん! すぐさま向かいます……!!」


 クリスから伝えられるとともにすぐさまボックスト周辺の地理情報が小型モニターに表示された。その地点に向かい電次元ジャンプをせんと、L1、L2。R1。R2,、スタート、セレクトの同時押しで今度はブレストが20万㎞先へと姿を消した。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ゼルガ様!」

「お、お怪我はありませんでしたか!?」

「ただいまベリー、プーアル……怪我も何も私はここにいるじゃないか」


 その頃、オール・フォートレスへゼルガが帰還した。自分を案じながら迎えに来たベリーとプーアルには笑顔を作り二人の頭をなでるのだったが、彼の表情には少し苦みも走っていた。


「やはりあの状況で上手くいかなかったです……地球側が先にこの条約を破ったことは」

「ですが何故、地球側があのような真似に出るのか分かりません。どうも無謀としか」


 メローナとミカがゼルガへ苦々しい現状を報告する――使節を乗せたペレス級が地球側に撃墜された事実が、皮肉にもゼルガたちが決裂した会談から生きて帰れた理由ともなった。ペレス級が撃墜されたことに関して彼自身憤りがなかったのではない。だが地球側の面々が狼狽していた様子とその後バグリーズが南極で破壊活動を展開したことに救われたようなものだった。


「本来なら私があのバグリーズを止めるべきだったが……ユカにも悪いことをしたのだよ」


 最もリキャストで飛ぼうとした所、クロストが先にバグリーズを始末した事を知らされた為、やむを得ずオール・フォートレスへ電次元ジャンプで帰還したという。最も長時間にわたって電装し続けていたことが祟っており、ユカが疲労で倒れ医務室に送られたことにも苦々しさを感じずにいられなかった。


『あらゼルガ、おかえり……あなたの考えた策悪くなかったわよ』

「あくまで私ではなく、あのバグリーズのパイロットに落ち度があったとでも」

『そうよ、あのパイロットの腕が良ければもう少し被害を与えられるはずだったのにね』


 モニター越しのサーディーはゼルガを責めることはしなかった。最も彼が地球側と組もうとした休戦条約はその為に組んだのではないということは互いに把握していただろう。その上で彼はあえて自分を称賛する様子に対しゼルガは密かに握り拳を作る。ただメガージだけは、何とも言いがたい表情を浮かべてもいる。


「なるほど……確かにバグリーズが早くやられてしまいましたのは惜しいですね。休戦条約はまだ失効していないですね」

『まぁ、もう関係ないでしょ今更……』

「いや、地球側が先に条約を破ったからといって私たちが条約を破ってよいとは限らないですよね」


 ――ゼルガの反撃が始まった。彼自身最後まで休戦条約を貫かんとする意志にサーディーは苦い表情を浮かべる。あくまで意味を把握しかねているような疑問めいた表情ではない。彼らの目論見を承知の上でサーディーに問うのであった。


「最も地球側の意見がまだまとまっていません。その上で休戦条約の継続かどうかを考えなければですよ」

『そ、そのような事を今更地球が考える事は……』

「最も私は再度話し合いを望むとの地球側の意見も聞きましてね。サーディーさんもまたあの時ステーションを攻撃しなかったですよね?」


 ゼルガから誘導されるような追及をサーディーは受けているような状況でもある。ペレス級の後を追っていたのは表向き使節を乗せたペレス級の護衛であったが、先に地球側が攻撃を仕掛けたうえで自分たちが攻撃を仕掛けなかった理由は、その自分たちが条約違反で処刑される事態を回避するためであった。


「ですので正式に条約が失効しなければ手を出すつもりはないですよ。まだ手を打っていることもありますが」

『ま、まだってちょっと……貴方一体何を!』

「ミカ、別に切ってもらって大丈夫だよ」


 ゼルガがまだ自分にとって厄介なことを目論んでいるのだろう。サーディーは問い詰めようとすした所、彼は半ば一方的に通信を切るようにとユカを動かさせた。実質上司の指示から離れて独断で動くつもりであり、


「ゼルガ様、いくらなんでもこれはやってよかったのですか?」

「本当は穏便に済ませたいけどね……そのくらいのリスクを背負わないと次の手が打てないのだよ」


 流石にミカがやりすぎではないかと不安を抱くも、ゼルガはその上で次の手を打たなければならないと笑いながら答える。小型モニターでは月面拠点の周囲にグイレモット・シーカーが電次元へとつながる転送ゲートを探らんとしていることを既に彼は承知の上であった。


「ゼルガ様―、その次の手にあたしの出番ある―?」

「ベリー君、君のフルーティーも直さないといけないから今回はパイン君に譲りなさい」

「ゼルガ様の言うとおりだよ。ストローネさんに苦労賭けてるんだしさ」

「うぅ……分かりましたよ、あたしが勝手に飛び出したからでしょ~行きますよ」


 そして次の作戦に自分の出番があるのではと、ベリーがアピールするものの――ゼルガはやんわりち彼女が独断で飛び出した結果、フルーティーが予想以上の損害を被った事を触れる。流石に彼から命じられれば反論する余地もなく、ストローネの手伝いとしてドッグに向かった。


「多分あの羽鳥君が電次元への入り口を探して乗り込んでくるのだよ。そのためにサン君も送り込んで、リン君のタグを破壊したのだよ……」


 ――ゼルガは次の手が上手くいくことを信じほくそ笑む。既に電装マシン戦隊が電次元へ乗り込もうと動いている事が、彼にとって最初の目的は果たされた事を意味するのだから。


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次回予告

「休戦条約が失効するまでに月面のバグロイヤー本陣に乗り込んで電次元へと向かわなければならない。だがその条約失効が前倒しにされたことでボックストとレスリストがバグロイドの砲火に晒されてしまう! 引き返すことが出来ない状況で二人の運命は!? 次回、ハードウェーザー「電次元へ急げ、休戦下の敵陣突破」にブレスト・マトリクサー・ゴー!」

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