8-2 電送マシン戦隊、休戦せよ!

「戦闘目的でない出撃はできる限り避けたいが……」

「ですが、そうは言ってられないです。最低でもコイさんたちの居場所だけでも……」

「あぁ。インターバルの問題もある」


 その後ウィストが帰還する事がないまま1時間が経過した――電装マシン戦隊では初となるこの非常事態に対し、ネクストが抜擢された。これも機動性と隠密性、燃費、またビーグル形態の小柄さからして最適と判断された為だが、イレギュラーな用途での出撃だけに、早く目途をつける必要があると見なしていた


『けどミス・コイを探すミッションで、僕とミス・リンがコンビるってのも何かの運命じゃないかな!?』

「……クレスローさん、目的は分かってますよね?」

『そうだよ。僕たちはネクストのフォローに回るんだから。余計な事やってどうするんだ』


 だが、ネクストの護衛としてレスリストもまた同伴していた。そこでクレスローのテンションが異様に高いが、リンは彼に対しては冷たく突き放すようにそっけない。アトラスもパートナーが節操ない様子に呆れて釘をさしたが、


「いつバグロイヤーが来るか分からりませんからね、もしもの時はお願いすると思います」

『……それは僕の方じゃないかな。既に僕より腕が立っているんだし』

「いや、それはないですよ。それでアトラスさんがお役御免な訳ないですよ!」


 既にシミュレーター・実戦の戦績で玲也はアトラスを追い越している。1か月の差とはいえ先輩になる彼としては、自分が水をあけられていく事に穏やかな心境ではいられない。当初の穏やかで親しみある建前から素が見え隠れしつつあった。


「願わくば僕たちがウィストを見つけろって言われたからだけど……うん」


 実際、玲也に聞こえないように小声で自分が選ばれた目的を明かす――レスリスト自体燃費が良好でゼット・リカバーによる補給能力を備えていた事もあり、燃費が極端に悪いザービストより打倒と判断された事が一つ。もう一つはマーベルの思惑として、ビャッコ所属のウィストを、フェニックス所属のレスリストが見つけ出せば、ビャッコに貸しを作る点もあっての事だ。


『僕が貸しを作ったら、ミス・コイと一日デートも出来るってことかな……』

『……君は本当能天気でうらやましいよ』

『ホワイ!? アトラス、ノリが悪いと調子狂うよ!』

『――僕たちが派手に活躍しないと。偉い人たちは認めてくれないんだ』

『……』

 

 殆どのハードウェーザーが各国代表として看板を背負っている。マーベルのように華やかに活動して応える例もあれば、カプリアやバンのようにマイペースに活躍する例もある。バーチュアスグループから元々冷遇されているコイの例の方がまだ救われるかもしれないだろう――アトラス自身プレイヤーとしての腕が平凡であり、彼自身他のプレイヤーをサポートする役回りが適任と自覚していた。それにも関わらずイギリス政府から華々しい活躍を求められており、彼はその重圧にあえぎ苦しみ、追いつこうとする事だけでなく、追い抜かれる事の恐怖とも戦わざるを得なかった。クレスローが流石にアトラスの胸の内に言葉が詰まる中、


「……アトラスさん、やはり私たちの事を」

「国の代表などではない俺達は恵まれているかもしれない。いきなり出てきた俺が快く思われないのも分かる」


 一方ネクストの中にて、アトラスの様子がよそよそしい事に玲也もリンも感づいていた。表向き正体不明のハードウェーザーとして、世間からのプレッシャーに晒されにくい上、最新鋭となる第3世代のハードウェーザーを3機のプレイヤーである点から、一種のチートめいた立場に自分が置かれている事を認識する必要があると己自身に言い聞かせた上で、


「その中で俺たちが力も信頼も得なければ……どう思われようともやれる事をやるだけだ」

「ただ玲也さんだけ気負う事はないですよ。ベルさんもシャルちゃんも理解してくれていますし」

「あぁ……そういえば、シャルが俺の為にパワーアッププランを考えてたが」


 ドラグーンの面々から、自分の立ち位置が理解されているだけまだ幸せである――その時シャルがブレストら3機の強化案を模索している事を思い出し、


「スチール・ジークにはパンサーロイド、磁力ロボゲッティング・キーンにはヴァリアブル・アンカー号、アパッチゲッターJにはJライズアーマーと例えてたものですよね」

「……そうだ。辛うじてパンサーロイドは分かったが。シャルがすごいノっていた」


 シャル曰くロボットアニメのお約束との事で、過去自分が組んでいたオンラインゲーム上のデータを参考にして強化案を模索している。彼女が参考にしていたロボットアニメ関係について玲也はあまり詳しくないのと別に、彼女の強化案自体に強い関心を示している様子であり、


「ハードウェーザー2機分を合体させれば最低でも1.5倍の数値は割り出せる……ネクストのプランも悪くない」


 アペンディーシステムにより、僚機の武器や装備などのデータをインストールして運用する事が出来る――このシステムを応用し別のハードウェーザーそのものデータをインストールさせる事で、2機分の能力を持つハードウェーザーが運用できる。ハードウェーザー1機のデータの中で強化を試みるよりも、伸びしろがあるとの事もあり、シャルが今メルの協力を仰いでいたようだが


「でも私たちの為に誰が協力してくれるかで……いえ、シャルちゃんのプランが無理だとかではないですけど」

「お前の言いたい事もよくわかる」


 ただプランの実用化において最大の問題が立ちはだかる――それこそ、どのハードウェーザーが自分との連携を前提にして動けるかとの話であり、


「カプリアさんと同じフォートレスでしたら、話が通りやすいかもしれないですが」

「いやそれはカプリアさんに失礼だ。シャルのように自発的にならまだしも、自分のパーツになれと国の代表でもある相手に強要できるはずがない」


 カプリアのように僚機との連携を想定して、ハードウェーザーのデータを組む例ならその話を持ち掛ける事が出来る――が、あくまでも自分以外のプレイヤーは世界各国の代表であり、他のプレイヤーと連携するために動くようにする事は、プレイヤーの誇りを傷つけかねない。その点も含め実際に協力してくれるハードウェーザーがいるのかとの疑問に対し、


「シャルちゃんが自分のハードウェーザーを手に入れるのが一番ですが」

「俺のようなイレギュラーが二度続けて起こる事も……」

「反応ありました! 戦艦の中で……あっ!」


 リンが触れた通り、シャルのデータが反映されたハドロイドが見つかるかどうか次第――ギャンブルのように低い可能性にゆだねるしか現状では術がないと玲也も認めようとした時だった。ウィスト捜索のために単独で飛ばしていたカイト・シーカーに反応があると共に、リンの表情が少し険しくなる。すぐさま護衛機らしきバグロイドにサイレント・シーカーが撃墜されて反応が途絶える。


「電次元ジャンプで飛べる距離なら……」

「でも玲也さん、二人の反応が一瞬……きゃあ!!」


 ――サンの反応が一瞬消えたのは撃墜されるよりもかった。すぐさまネクストをビーグル形態から変形させていく中で、前方に何者かが瞬時に姿を現そうとしていることに気付いた。


「この隙を狙って……!?」

「腕が使えるまで、まだ時間が……!?」


 目の前の機体は白銀のバイザーを装着しており、まるで相手に自分の考えを読ませないかのように立ち回る。臆することなく、まるでジックレードルごとへし折らんと、どこからか二筋のビームを浴びせつつ、両肩に設置されたサブアームのフレームをへし折らんとする相手へ微かに戦慄しながら、頭部からのバルカンポッドを炸裂させる。

 これで簡単に相手が退くとは思えないが、電次元サンダーを使えるようになるまで、変形に多少の時間がかかっていた故であったが――相手が思わず手を離した途端。


「玲也さん、待ってくださいまさか……!!」


 リンが感づいた時は既に遅く、一瞬怯んだ相手は突如目の前で砕け散った――一種の自爆テロか何かのような行為であり、二人ともこの状況を飲み込めずいた。バグロイドが爆散した割に爆発がの規模が小さい事が微かに疑問として脳裏によぎったが、至近距離で爆発に巻き込まれれば、装甲が薄いネクストにとって痛恨の一撃となった。サブアームの先端に設けられたジックレードルが吹き飛ばされており、


『悪いけど、ここは行かせてもらうのだよ……』

「……後ろから!?」

「前からの機体は囮……うああああっ!!」


 玲也達を囁くかのように彼の声がした――それまで前方でネクストが応戦していた筈の相手は、突如後ろへと乗り込み、両腕の甲から展開されたデストロイ・ブライカーによる紫電の刃がネクストの両肘を切り落とし、羽交い絞めにする。


「何故……2機がかりで攻めてきたとは思えないが」

『最も不意を突くのに適した電次元兵器だからね……電次元サンダー用心したまでだよ』

「電次元サンダーを既に知っていて……」

「玲也さん、コクピットの室温が異常に上がってきてます! 操縦系統の方にも故障が……」


 相手が囮を利用した戦法を取っていたと思われるが、それでも電次元ジャンプで出現する、それだけでなくネクストのフレームをへし折らんとするデコイが存在するのだろうか――プレイヤーらしき人物が電次元サンダーを潰す必要があったと何故か、自分の手の内を明かしていたが、それが答えになっているはずもない。

 流石に焦り始める玲也だが、リンの言う通りコクピットの室温が上昇していた。目の前の大型モニターの表示にも支障が及びつつあり、さらなる疑問が募る所、


『羽鳥玲也さんとリン・テンドウさんですね』

「……誰だ!」

『あとでちゃんと説明します……いきなり勧告して申し訳ありません、ここは投降してください!』

「投降……電次元ジャンプは、あっ!!」

「玲也さん、だ、大丈夫で……」


 ――リンが首を横に振っている様子から電次元ジャンプによる撤退は不可能との結論が出た。室温の上昇に伴い装甲がダメージの許容限界を超え、コクピットの外周を追うように鉄色のセーフシャッターが下ろされた。最低限の戦闘行為を想定したもので、電次元ジャンプに耐えうるだけの強度は保証されていない。

 それだけでなく。操縦系統に障害はメインモニターに亀裂が入り火花も飛び散って、プレイヤースーツへ微かに触れた。簡易的な宇宙服としての防護能力を備えていても、左腕の火傷に思わず彼は蹲って腕を抑える。リンがすぐ飛び出そうとするが、


『コクピットの装甲が重要だからね……この状態なら、次元の狭間で押しつぶされるだけなのだよ』

『お願いします! カリドストマーカーは中の貴方たちも焼いてしまう事が出来る代物です、どうか!』

「……」

『ミ、ミス・リン、これは…一体……』


 現時点でこの機体にネクストが勝つ術はほぼない他、電次元ジャンプによる撤退もできない。ポリスターによる転送を駆使しても、取り残されたリンが生還できる可能性が低い。その上自分に降伏を勧告する少女の声は本心から呼びかけているような必死さも垣間見える様子であったが――微かに聞こえる声と共に深紅の閃光が彼方から飛ぶ。ライトニング・スナイパーによる狙撃だが、


『おっと』

「……!!」


 彼は多少の驚きはしたものの、その後の行動は極めて素早かった。自分が捕らわれている射角を想定した上で、臆することなく右手からデストロイ・ブライカーのフィールドで直撃になり得るダメージを防御したのだ――咄嗟にネクストを羽交い絞めから解放した上で。


『やれやれ……羽鳥君まで狙うとは流石に思わなかったのだよ』

『右下腕の損傷20%、ブライカーは無理です!』

『リキャストはあたってもどうという事には……いかないのかな』

「アトラスさん……いや、少しでも逃げられるなら今は……!」


 ライトニング・スナイパーによる狙撃が味方諸共――自らがネクストを標的から外しつつ、自分だけ損傷する事へ苦笑する程度で感情をあらわにする気配はない。その一方この狙撃によって自分が逃げるチャンスを与えられたのだと、玲也は見なしていたようだが、


「あ、あぁぁぁぁっ……!!」

『悪あがきをしたい気持ちも分からなくはないですが……』

『私に手荒な真似はさせないで……といっても分かってはもらえないのだよ』


 だが、左腕を痛めた玲也が咄嗟に操縦できるはずもなく、機動力に優れようとも間近の相手から逃れる事は無理に等しい。腰に備えられたライフルを手にしてはネクストへ一撃を浴びせる。銃口から解き放たれる衝撃波が彼の全身に浴びせられるが――砕け散る気配を見せない。


「な、何故……何故一思いにやらない!!」

『私は念には念を入れるのだよ。電次元ソニックは一思いにやれる事も出来るが』

「電次元兵器……まさか、あぁぁぁぁっ!?」


 ハードウェーザー・リキャストもまた第3世代型――二丁のエネルギーライフル“電次元ソニック”は衝撃波を相手に向けて放つが、射出速度や収集率、出力などを調整すると共にエネルギーの性質を容易に変える事が出来る。低速で放つと共に放射状に衝撃波を浴びせることにより、ネクスト全体にダメージを与える事を選んでいた。念には念を入れるとの事だが、なぜか一思いにやろうとする気配がない。


『……降伏するなら早いうちだよ。私でも責任は持てないのだよ』

「だ、誰が……」

「……お願いします!!」

「そうだお願……いや、本気か!?」


 降伏勧告に玲也は応じようとしなかったものの、リンは打つ手なしと判断した様子だ。窮地の中でのこの選択肢に、思わず声を荒げたものの、


「玲也さん、私たちまだ何も目的を果たしていないんですよ! それで簡単に死んでいいと思いますか!!」

「……だが、バグロイヤーに従う事だけは」

「最悪の場合、私が責任を取ります! 自分で自分の未来を閉ざすだけはやめてください!!」


 ――自力で脱出する術がない上、既にレスリストが救援に現れる気配もない。それもあってか自分たちが生き延びるには、相手からの降伏勧告に乗るしかないとリンは判断せざるを得なかった。バグロイヤーに跪くだけは悖る選択肢だと躊躇した玲也も、滅多に露わにしない彼女の気迫を前にしたことで、


「……ここで意地を張るのは犬死、死中に活を見出すことが大事か」

「はい……貴方に降伏します。回収されないのでしたらこの場で電装解除します」


 玲也自身我が身惜しさで選んだのではない、今は生きて活路を見出すことが大事だと言い聞かせながら首を縦に振った――心の中で歯を食いしばりたくなる屈辱に満たされようとも。リンが念には念を入れ、最悪の事態を想定した呼びかけを試みるとリキャストは電次元ソニックの銃口を下ろしたが、


『助かるのだよ……と言いつつ多少手荒な真似はさせてもらうのだよ』


 リキャストのプレイヤーは玲也達が下した降伏の選択肢に感謝の意を述べる――が、それだけで丸く収めようとはしなかった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『バグロイヤー太陽系方面軍総司令官ゼルガ・サータから告げる……ウィスト、ブレスト、クロスト、ネクストの4機は私が下したと告げなければならないのだよ』


 ――その後直ぐさま、ゼルガによる放送が響き渡った。支配下に置いた通信衛星からは、電装マシン戦隊およびPAR――それだけでなく、大気圏内のメディアへもジャックされたかのように彼の姿が映し出されていた。


『最もプレイヤーたちは全員私のもとで預かっている。その上で話を……』

「ちょ、ちょっと私はちゃんといますのよ!? 見栄を張るのもですね……」

「あのねぇ! 玲也がどのみち捕まったのよ!?」

「でしたら、あたし達も負け……玲也様が負けたからですの!?」


 ドラグーン・フォートレスもまた彼の放送を見届けざるを得なかった。玲也が彼に敗れて捕まった事実についてエクスは自分たちが健在だと一人抗議するが、ニアの言う通りである。


「アンドリューさんすみません……こんな事になるのでしたらやはり私が行けば」

「ベルが後悔する必要はねぇ。ただ玲也としてもあっという間に敗れたというのはな……」


 アンドリューは顎に手を当てて真剣な表情で思慮する――玲也の腕が仮に至らなかった以上に、コイまで彼の前に敗れ捕らわれの身になった故、ゼルガが相当な腕と察していたのだと推測する。


『今更おこがましいかもしれないが――私たちにこれ以上戦闘を継続する意思はない。その事について話をしたいと思うのだよ』

「ま、まさかと思うんじゃが、バグロイヤーは休戦のつもりで!」

「それは考えられますな。ハードウェーザーを人質にするということは、この男にはそれだけの力があり、それを踏まえての行動かと」


 双方の和睦を視野に入れた休戦条約の締結――それがゼルガの第一目標だ。ブレーンでもこのような話に対しどうも信じがたい顔つきであり、エスニックもまた彼の真意について推測しつつあった。


『最も先に手を出したのは私たちだ。その償いになるかわからないが少なからず月面から撤退と、捕らわれたプレイヤーや使節の人々を解放するのだよ』

「使節となれば……まさか玲也君のお父さんたちが!!」

「落ち着いてください博士。どうもこちら側に旨味ばかりしかない話ではないですか」

『最もこちらも時間がないのでね……早急に答えを出してもらえたらありがたいのだよ』


 使節の解放――この言葉にブレーンが思わず反応するも、アンドリューやエスニックが冷静に窘める。

 だが、コイや玲也に続いてゼルガに敗れて捕らわれるプレイヤーが現れるかもしれない。そうでなくとも、人質とされている使節たちに何が及ぶかわからない。彼は圧力をかけつつ、報酬をちらつかせることで地球側を揺さぶろうとしている――エスニックは彼の巧妙さに敵ながら感心を覚えるとともに、より一層警戒を強めていく。


「ちょっと! あたしはこれで終わりなんて納得いかないわよ!」

「ニアさんに同調するつもりではないですが、ここは私も同じですわ!」

「そうだよ! こんなやり方卑怯だよ!!」

「……やっぱりなー」


 ゼルガの持ちかけた休戦条約に対し、ニア、エクス、シャルの3人は真っ向から反対するスタンスをとっていた。特にニアとエクスが玲也の事と別にこの戦いに身を投じた理由があるだけに賛成する筈はないとリタが頷く。


『彼には悪いが私は反対の立場だ。当たり前だがな』

『そうですそうです! マーベル隊長は我々ドイツの希望そのもので、こう都合の良い話に折れるわけがないのです! 最もマーベル隊長も私たちもドイツだけではなくですね……』

『こいつらはとにかく俺も反対だ! 相手の都合で終わらされてたまるか!!』

『まま、俺もこれは流石に疑うかな。ノーリスクハイリターンをこう堂々提示されたらね……』


 ビャッコ、フェニックス・フォートレスのプレイヤーたちからも意見が飛び交う。そこでドイツ、イタリア代表の双方は断固反対とニア達と同じスタンス。マーベルは自分が既にドイツの希望として君臨する立場から、バンはバグロイヤーとの戦いを望むた若干個人的な理由も含まれていたが、


『すみません、これで本当に戦争が終わるのでしたら僕は賛成と思います』

「……ホワイ!?」


 しかしアトラスだけは場違いのように賛成の意見を述べる。この流れから真っ向に抗うような意見へクレスローですら少し驚いたような表情を浮かべているが、彼自身の考えは変わりそうにないスタンスだった。


『ほぉ……アトラスはこの戦いを早く終わらせたいと考えているのかい?』

『当然です。あなた達は楽しんで戦っているようですけど』

『おい! お前は俺の戦いにケチつけるつもりか? 相変わらず冴えないからってやつ当たりはな』

『戦える人たちは分かってないから言っただけですよ!』


 マーベルからの問いにも珍しくアトラスは気丈に反論した所、彼の首根っこをバンが思いっきり掴む。マーベルがどうこう以前に、同じく戦いに生きる者としてのプライドを踏みにじられたからバンがキレたのだが、珍しく彼は物怖じしていない。


『ノン、いつもの君らしくないじゃないか!? 冗談で……』

「ちょっと! あんた達玲也と一緒に出てたけど!!」

「なんで一人逃げたのでして!? 玲也様を見捨てていい度胸でして……」

『ミス・ニア、ミス・エクス! 君たちの怒りはもっともな事で、僕は助けようと思ったけど……』


 ただ、レスリストがライトニング・スナイパーで援護を試みただけで、自分はそのまま電次元ジャンプで帰還した上でこの場にいる――ニアとエクスが彼を見捨てたのではないかとクレスローへ追及する。彼自身当事者では無さげなのもあるが、どこか言い訳じみた事を口にしていた時、


『いやぁ、アトラス君らは犠牲を最小限に食い止めるために動いただけです。そうですよね司令?』

『て、天羽院さん……え、えぇまぁ……』


 その時一人の男が通信に割り込み、アトラスを弁護する。フェニックスの司令は本来ガンボットのはずだが、彼に対して頭が上がらないようで従順な態度をとる。スーツ姿にビジネス眼鏡をかけた細身の男は、ドラグーンの面々が少し苦い表情を浮かべる――天羽院その人だ。


『エスニックさん、この間私がプレイヤーを商品としてしか見ていないと言いたげでしたが……あくまで戦い続けるスタンスの貴方たちは一体?』

「ほぉ、この間の報復ですか」

『何かご不満でも?』

「いや……という事は交渉に乗る気ですか。もう少し慎重に考えた方が良いと私は勧めますよ」


 天羽院はベルとの一件を持ち出してエスニックを詰る。彼こそスポンサーとしてハードウェーザーやプレイヤーを商品としてしかみなしていないはずだが、何故休戦条約締結へ早々に賛同するか、早まるではないと釘を刺したうえで牽制を試みる。


『最も私はスポンサーですが、電装マシン戦隊より世間の方が顧客として利益があるのですよ。今頃、貴方たち前線での苦労も知らない人々は今頃手を叩いて喜んでいるでしょう』

「……ったく、あんたもよく知らないと思うんだがな―」

「なるほどね……」


 リタが皮肉を浴びせるが、天羽院の考えはあながち間違っていないとエスニックは認めざるを得なかった。自分たちはともかく、ハードウェーザーが前線でバグロイヤーを相手に交戦し続けている状況を世間では地球を守るヒーローとして持て囃すだけ。彼らの苦しみや葛藤を理解している人間はごく一部に限られる。


 認めたくはないが天羽院のいう世間こそ電装マシン戦隊にとっても脅威になりかねない。エスニックは口に出す事を良しとしなかった。代わりにアンドリューがエスニックへ合図を示し、彼が首を縦に振るとともにリタを連れてブリッジから退室した。その上でポリスターを取り出した。


『すまない。この状況で私が何か言えばどう捉えられるか分からなかった』

「いやそれで構わねぇ……カプリア、おめぇはどうよ」

「今の所2-1だなー」

『多数決ではないが私も反対だ……最もコイもボウズも見捨てるつもりはない』


 ポリスターにはカプリアからの通信が届いた。天羽院に知られると行動に制約が生じかねないと判断した為、公の場でやり取りができないと見たのだった。コイの先輩の立場上休戦に反対するのと別に、彼はコイや玲也の救出を並行して挑もうとしている様子だが、


「おーそうきたかー。やっぱ、そう来なくっちゃなぁー」

「ただ、わりぃが俺が行くぜ。カプリアが行っちまったら、最悪ビャッコは空っぽだからよ!」

『……誰かがこれでは私が任せっぱなしではないか』


 アンドリューが救出の為の出撃を引き受けようとすれば、珍しくカプリアが渋るような返事をする。ビャッコを守る要が不在とのリスクを彼は承知していようとも、部下となるコイを自らが救わないと意味がないとも捉えている様子であり、


「カプリアの気持ちも分かるけどなー」

「イーテストの方が万が一に対応できるからな。俺も流石に仕留めようとか思わねぇ」

「……お前がこう用心するのも久しぶりな気がするが……分かった」


 リキャストの情報が電装マシン戦隊には存在していない。彼と万が一交戦状態になるのであれば、戦局に応じた3形態に換装できるイーテストの方が柔軟な対応が出来るとの必要性を説く。カプリアとして未曽有の相手へ応戦するには有用だと捉えたほか、アンドリューが確実に仕留める事が出来ないと、珍しく念には念を入れて慎重な姿勢から任せる事を承諾する。早速アラート・ルームに急ぐ二人だが、


「シャルちゃんも頑張ってるけど……この腕がちゃんと使えたらね」

「……」


 ――アンドリューとカプリアの会話を陰ながらベルは立ち聞きしていた。玲也の救出の為、未曽有の相手へと乗り込まんとするアンドリューの手を煩わせるより、自分たちが行けるなら行きたいとの望みがベルにあった。

 だが、白いロンググローブに包んだ右腕を凝視している中で現実を思い知らされる事となる。少し諦め気味に苦笑するベルに対し、憂いを少し帯びた様子でジャレコフは見守っていた。

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