第8話「強敵!ゼルガ・サータ」
8-1 動き出した不敗の秘策
「そんな鈍らなんてねぇ!!」
『しまっ……ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!』
戦場に白虎が駆ける――バグレラが横一文字に振りかざそうとすると共に、胸部からの熱線ザウシェンを吐きつける。至近距離でさらされる熱に侵されるようにして刀身がバターのように妖怪を始める。
ショートレンジでの攻撃手段を失ったバグレラが、ウィストに間合いを詰められて抗う術は失われていた。カイザー・スクラッシュを胴体へ突き刺すと共に、両目からのアイブレッサーのねつにたえきれずバグレラがはじけ飛ぶ。
『コイちゃん、相変わらずアグレッシブですね』
「まぁねって言いたいけど……ベルも私たちに影響されたの?」
ソロ奪回を狙うバグロイヤーの二番隊。迎撃にあたるウィストは白兵戦に優れている反面、ロングレンジで対抗できる手段に乏しい。その為、射撃・砲撃に適したボックストが援護に当たる筈だが――コイが指摘する通り、メテオ・アンカーを放ってからめとったバグレラを別の敵に向けて質量弾の要領で投げ飛ばすなり、弾除けの盾に使うなり。以前までの彼女と違うバトルスタイルへコイは少し戸惑いもあった。
『ふふ、シャルちゃんが頑張っているんですよ』
『そういうこと!』
「ま、まぁあんたや玲也がいるなら分からなくもないけど」
最もベルは余裕気に笑いながらシャルの腕だと触れており、彼女もそれを自負しながらメテオ・アンカーで絡めたバグアッパーが無防備な点を生かして、ミサイルを放って蹴散らしていく。ボックストは白兵戦に適していないはずだが、4本の強固なワイヤーに繋がれたメテオ・アンカーを駆使していく様子からして、ウィストが不在でも遠近両用をこなせる存在になりつつあった。シャルに対してコイは少し認めがたいようなコメントを漏らしていたが、
「ボックスト、使えるようになったな……」
「ちょっとサン、あんたもう少しマシな言い方ないの?」
「元々後方のボックストが前方でもこなすようになった。弱点がないのは少なからず認めてやろうと思うがな」
「思うがってあんた……褒めてるならもう少し素直になりなさいよ」
辛辣な言動ながらも、サンがボックストの変化を肯定的に捉えている。ただひねくれたような言動を訂正するようにコイが注意する様子は、普段通り生真面目な様子になっていたがどこか彼女もぎこちない。
二人の間に隙間風が生じる中、バグレラのデリトロス・マシンガンが火を噴いた。透かさず右腰のサブアームからホイール・シーカーを射出すると共に、ウィストの前方へとまるで防壁のように展開して被弾を最小限に受け止めつつ、
「貴様よりベルやシャルの腕が良いと私が言ってもか」
「うっ……」
「玲也もだがシャルも筋が良いのは認めてもいい。貴様もいずれ抜かされるだろうな」
『な、何言ってるのよ、あんた……!!』
コイがセレクトボタンを押すとともに、ウィストがロボット形態へと姿を変えていく。虎の顔から頭部が展開され、下半身が180度回転すると共に彼は全重量を左肩へと集中させた。
防壁として突き出したホイール・シーカーに、左肩のハードポイントが連結されると共に、すかさずショルダータックルを浴びせる。同時に怯んだバグレラへカイザー・スクラッシュで一思いに胸部を突く。
『さすがコイちゃん、それでこそウィストですよ』
「あ、ありがと……まだまだいくよ!」
「コイの事だ。果たしてどのような意味で……」
このコイの戦いぶりをベルは称賛するが――“それでこそ“と評される事に彼女は素直に喜べない。ベルがどのような本心で口にしているか、同期にプレイヤーへ抜擢された身からすれば、ベルが悪意のこもった皮肉を浴びせる人間ではないとわかっていた。にも拘わらずサンが煽っている様子であり、
『――ベルが何か間違ったことを』
「貴様がベルを想う気持ちは分からなくもないが……下手な」
ジャレコフが少し怒気の籠った様子でサンへ尋ねる。ベルが特別な相手であるとサンは口では理解していた上で意見しようとしたものの、
「あのねぇ! あんた本当にヤなことはズバズバというのね!!」
「私は戯れを口にした覚えもない。ルールを口にする貴様が言えるとは」
「それとこれとは違うわよ! あんたにはもう少し情や思いやりとかないのって話!」
ジャレコフを刺激させかねないと判断したコイによって、半ば強制的に通信が切られた。彼女がルールにうるさい人間ではあるが、それで冷徹、もとい冷酷なスタンスで居続けるとは話が別だ。自分にも歯に衣をきせないサンへ流石に彼女も頭にきて叱りつけるが、
「私は故郷に、主君に裏切られた事を忘れたか――」
「それで自分が可哀そうだからいいって事!?」
「何れにせよ、情け一つ戦いで何になるかだ。何事も力、知恵と腕がなきゃ……」
「分かったわよ! 私には知恵も腕も……きゃあ!!」
サンの今の姿勢は過去の苦い出来事に起因している――それはコイもすでに知らされていた過去であったものの、サンの姿勢を肯定できる訳でもなかった。結局自分の忠告へまともに取り合ってもらえず、半ば相手にされていない苛立ちと共にカイザー・スクラッシュでバグレラを切り裂こうとした瞬間だった……。
『悪いけど、もうそろそろ私も動かないといけないのだよ……君たちを遊ばせすぎた』
「な、何なのあれ……データにない筈だけど!!」
「その声は……貴様!」
自分とバグレラの間に割って入った機体により、カイザー・スクラッシュは止められた――見慣れぬ白銀の機体は両腕から赤色のフィールド円状に展開させる。特に両腕を近寄せながらフィールドが重ねる部位はウィストが繰り出す光の爪を無力化させる。コイが見慣れぬ相手を戸惑うのをよそに、サンだけ相手からの声に反応しており、
『サンさん……やはりこのハードウェーザーは貴方の』
「ユカ様……いえ、貴方もが今あろうとも」
「ね、ねぇサン! ユカ様って一体あんたの何なの!!」
「ユカ様は誑かされて……貴様だけは……うっ!!」
明らかに人が変わったように、サンは激昂する。しかしウィストが抗おうとしても目の前の機体は、両腕のエネルギーフィールドを展開させれば――ウィストの両腕に高熱を押し当てるようにして焼けただれていくだけ。距離を少し置くと共に腹部からの熱線カリドストマーカーがウィストを象徴する胸部の虎の顔まで爛れさせていく。
『サン君は私も存じてるのだよ……まさかここでまた会う事になるとはね』
『あなたの気持ちを裏切る事をしてしまった事には謝ります……ですが、私たちは』
「……私の気持ちは変わりません、それはこの男に対してもですが!!」
『やむをえない……行かせてもらうよ』
“――世界各国のハドロイドの中で最も冷徹な性格の彼が激情に駆られて怒号を挙げる男は何者か。だが、太陽系での電送マシン戦隊とバグロイヤーの戦いは彼が前線に現れたことでさらなる変化を見せようとしていた――そんなこの物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である”
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