4-2 見たか効いたか、必殺魔球……?
「おはよー」
「うぃーっす」
4月の上旬も終わりに差し掛かる頃。武蔵野地区に存在する公立校“陶沖中”にもブレザー服姿の生徒たちが門をくぐる者たちの姿があり、彼らはそれぞれの学び舎へ足を踏み入れていく。そして2-1の教室へ二人の男女が入り、隣同士の席に座る。
「へへ、玲也君の隣の席はやっぱいいね!」
「それは別に構わないが、昨日お前が転校してくることは予想外だった」
「こういうのはドッキリで言わないようにしてたんだ。僕は玲也君のお目付け役というかフォロー役なんだけど、まぁ全然気にしないで仲良くやってこうよ!」
4月になると共に玲也は中学2年生へと進級した。クラス替えで顔ぶれが微妙に変わっていたがそれよりも昨日の始業式でシャルが転校してきた事に比べれば些細な出来事だった。同じ電装マシン戦隊に所属する者として、玲也の目付役を兼ねているかもしれないが、
「しかし、プレイヤーとして専念するなら学生である必要はないと思うが」
「あ、玲也君ってやっぱ学校の方は」
「正直学校の勉強は苦手だ。どうも必要でない事になると頭に入らん」
最も玲也は少し気だるげな様子はシャルが転入してきた事と関係ないが、それもフェニックスフォートレスの元で出撃した翌朝に学校生活が再開する事もあった。これまでは春休みでの出来事だった為プレイヤーとして専念することが出来たが、中学生との二足の草鞋になると彼の負担は増す。玲也がもとより、学校の勉強へアレルギーがあるかのように嫌っているとなればなおさらだ。
「玲也君、まだ中学生だから義務教育が残っているからね……実際に戦っていることが世間で知られると色々面倒な事もあるからね」
「15歳未満の子供で、3機のハードウェーザーを持つって事がイレギュラーなのは認めるが……極力普通の中学生として振舞う事だけはな……」
「まぁまぁ。出動待機のシフトも平日の放課後か土日に絞ってるからね。極力学校関係と被らないように将軍も配慮してくれてるみたいだし」
「……やはり嬉しくはない」
また玲也は少しでもプレイヤーとしての腕を磨く事を望んでいる為、義務教育したの中学生としての役目を果たすことが足枷に感じている様子だ。出動待機時間が新米な事もあるが、他の面々より少ない事も懸念しており、自主練を重ねる必要があると考えていた。
「そういえば、ニア達がフォートレスの方へ用事がと書置きがあったが……シャル、知ってるか?」
「へへー、それはまぁ話に先がある事だね」
「そうか……
それと別に朝からニア達がいない理由をシャルに尋ねれば、彼女は何気ない台詞に暈したので玲也も素通りしそうになったが
「っておい、シャルそれはだな」
「えーと、カードリッジさん? シャルロットちゃんと呼べばいいのかな」
「そうだねー、好きにしていいけどみんなシャルって呼ぶね」
「じゃあシャルちゃん、羽鳥君と仲が良いような感じだけどどういう関係?」
似た前例を思い出した為に、玲也は再度シャルを確かめようとしたのだが、何人かの女子が転校から二日目のシャルを取り囲んで色々と質問をしていた。中性的な外見かつ、フランス人形のような端正な顔立ち。さらに玲也よりも背が低い故か、彼女は同年代からの女子も可愛いと評判を集めており、
「まー、オンラインゲームで知り合った関係かなー。ネットフレンドみたいな感じの」
「悪いがシャル。そのネットフレンドの俺も今聞きたいことが」
「ごめん羽鳥君。とりあえず後にしてくれないかな?」
「そうだよー。羽鳥君、シャルちゃんと知り合いならいつでも質問できるじゃん」
「いや、それとこれとはだな……」
その状況で玲也が訪ねようとしても、クラスの女子に阻まれてしまう。始業のベルが鳴るまでさほど時間がないにもかかわらず、今の玲也はニア達の件で何か胸騒ぎがしていたので早く聞き出したい心境。この状況をもどかしく思う中、
「シャルちゃん、フランスからして日本のここがいいってあるかな?」
「そりゃ日本がロボットアニメが盛んな所! 今僕がはまってるのは“天地魔竜ガイオウ“だね!!」
「ガイ……オウ……?」
――女子たちの盛り上がりが急にそこで止まった。隣で玲也は戸惑う女子に対して何とも言い難いが、飾る事のないシャルの今からついていけなくなる状況は分かりつつあった所、
「へっへっへ、ガイオウといえば第21話「涙のデビルライガー」だよなぁ……」
「……その声は」
その折、女子4人に割って入るようにヘアバンドを付けた少年が颯爽と割り込む。この何度も聞き覚えのある声と見覚えのある顔に玲也は、予測は出来ても回避は出来ないとはこの事だと少し呆れた表情を浮かべた。
「いや違うね才人っち。僕は第34話「痛烈火だるまカッター」だね。あの戸田伊郎さんの作監デビュー回として歴史的な回だと僕は思うよ?」
その時ガイオウの話が分かる相手としてシャルの目の色が変わった。彼女が才人っちと呼んでいる人物こそ、一応玲也の友人に該当する少年“南出才人”なのだが、顔を合わせた昨日のうちに、いつの間にそこまで親しくなったのかと彼もは少し戸惑いがある。ただロボットアニメオタクとして、彼女の話が分かるような同年代相手が才人なのには色々と納得がいった。
「はーい、窓を見上げて空を見ろ!と言われたらなんて言うか! 分かる人は残っても別にいいけど」
「……お前ら濃いな」
「玲也、お前も残ってるじゃん」
「いや、俺シャルと隣の席だからだな……シャル、一応もっと相手は選べと忠告はしておく」
先程から一転して二人の話についていけず、女子たちが離れていく。明らかにこの二人の間に異様なオーラが漂ってると玲也は確信した上で、シャルに忠告した。
「えー、だってロボットアニメに詳しいの才人っちしかいないもん。日本人はロボットアニメを知ってて当たり前じゃないかって思ったけど」
「いや、それは遠い流れ星に願いをかけて叶うかどうかわからない夢物語だ」
口では冷静な様子を保っている玲也だったが、シャルのステレオタイプな日本人観に対して、何故か汗を垂らしながら手を必死に横へ振っていた。目の前の才人を一瞬見た上での事だが、
「玲也ちゃん、何で俺の方見てそういうの! それと相手は選べってどういうことなん!?」
「いやそれは……なぁ」
「まぁそうだね」
「いや俺の知らない所で納得されても困るよ! ほら言うじゃない私とあなたは友達じゃないけど、私の友達とあなたは友達ってさぁ!」
「それは俺に聞かれても分からない」
「そうだねー」
シャルと玲也が才人について顔を見合わせて、何か少し呆れた様子で相槌を打つ。シャルが妙ににやけている事も含め彼が少し狼狽していたのだが、
「そ、そうだ玲也ちゃん確か春休みの間、山口に行ってて連絡が取れなかったと思うけど」
「旅行……? あぁ、確かに高杉晋作がらみで調べたいことがあってだな」
そこで才人は話題を変えた玲也へ訪ねた。彼が実際の春休みとつじつまが合わないようなことを口にしているが、実際完全な出まかせである。ハードウェーザーのプレイヤーへ選ばれたことから訓練がらみでとても彼と付き合う余裕がないと判断して、趣味の歴史探訪を兼ねて山口へ一人旅に出かけたと彼には伝えていたのであった。
「いや、何か正体不明のハードウェーザーとか世間で話題になってんのよ。それも3体一気に出てきたとかで」
「……」
「あ、あぁー。確か今度タカトクのオメガ合金、可変ロボシリーズで3機とも発売されるってリリースされてたね」
その才人が正体不明のハードウェーザーについて話題に振るが、いうまでもなくブレスト、クロスト、ネクストの3機を指す。玲也が何とも言い難い表情を浮かべている傍ら、シャルが咄嗟に彼の話に合わせた。
「そうそう! 確かフルイ、ナイ、エスエルの三社からプラモも出るとかでだいぶ強気な攻勢で余程期待されてるっぽいとか」
「正体不明のハードウェーザーで話題もちきりだからね……。確かエスエルがハードウェーザー関係へ新規参入とかなのは余程だろうね」
「確かポプラバンブーから離れて、タカトク傘下に入ったけどどうだろなぁー。フルイとナイは大丈夫だと思うけどよ」
「……全然わからん」
実際にハードウェーザー関連では、バーチュアスグループ主導でプラモ展開も行われていることは玲也も知っていた。だがそのプラモ展開の詳細に関して彼は全然話についていく事ができない。彼がロボット玩具関係に疎いこともあるが、シャルと才人がその手に詳しすぎるのかもしれない。
「その正体不明のハードウェーザーが確かブレスト、クロスト、ネクスト。そんな名前らしいけど……」
「……」
「あれ、玲也ちゃんのデータじゃなかったっけ? 俺に見せてもらったのと姿も似てるっていうか……」
その時、才人が二人にとって知られたら拙いことを突いてきた。最も彼自身二人の事情を知らないのだが、ブレストら3機は元々オンラインゲームで玲也が組んだデータである。今の状況をあの時の玲也が想定した筈もなく、彼にはその名前やデータを教えてしまっていたが、
「あー、才人っちの言う通りだね……僕も聞いたことあるけど、なんだったっけ」
「ただ、俺のデータではないぞ。実際に今使っているデータがだな……」
シャルが少し白々しく話を暈そうとしたとき、玲也もまた呼応するように実際のゲームデータ、それも正体が看破されないように改ざんしたデータを見せて納得させようとした所――予鈴が鳴り響いた。
「おっと、授業が始まるみたいだから席に戻らないと」
「って、ちょっと! こんないいタイミングでじらすってあんまりじゃん!!」
「まぁなに、授業が終わればちゃんと話す。授業はしっかり受けないとな」
「玲也ちゃん! 普段そんなこと言わないのに急にどうしたん!?」
万が一に備えて隠蔽する術を用意していたとはいえ、それが才人をごまかしきれるかの保証がない。いずれにせよ、予鈴が鳴りある程度時間を引き延ばす口実があるに越したことはない。少し拗ねる才人をよそに、玲也とシャルがそれぞれ席に座ると共に
「グッモーニン、エブリバディー、暑いデスネー。先生ブルックリン育ちデスカラ」
「おはようございます、江瀬貝先生」
「ただ、先生確か武蔵野出身でしたよね」
生徒たちがそれぞれの席に座る中、教室へ緑色のデニムジャケットに丸眼鏡をかけた銀髪の男性が教室に入ってきた。日本語がカタコトの様子なので外人なのかと思われるが生徒が指摘する通れっきとした日本人であり、
「ソレハ違うヨ、フジヤマサン。私エセガイじゃアリマセーン。生まれーモ、育ち―モ、ブルックリンのジーンデース」
(……アトラスさんがこの場にいたら泡を吹いて失神しそうだ)
このジーンという担任は玲也にとって前年から引き続いての事も有り、左程驚きも戸惑いもしなかった。ただイギリス本場のアトラスと出会った後だと、本名・江瀬貝仁とれっきとした日本人でありながら、自分をブルックリン育ちのジーンだと思い込んでいる彼に対し、少し頭を抱えたくなるが、
「オー、ソレハソウトデスネー、今日モマタ転校生ガ来まーす」
「えぇ、昨日シャルロットさんが来たばかりですか?」
「ツワブキクン? 話がキューキョだったモンで、キューキョこの日にナッテ、キューキョ3人来る訳デース」
「3人……?」
シャルが隣で知っているかのような笑みを浮かべていたが、玲也は3人との点でその胸騒ぎが的中したように感じていた。そして実際ドアを開けると明らかに見覚えのある彼女たちが同じブレザーの制服をそれぞれ着こなしたうえで現れた。これに困惑と驚愕が入り混じった顔になる彼だが、
「あぁ、やはり玲也様のクラスだったのですね!!」
「……」
「エクスちゃん! ここで玲也さんと知り合いだって明かしたらまずいですよ」
「いやリン、あんたももうバラしてるようなもんだけど」
やはりというべきかエクスが真っ先に彼を見つけて歓喜していた。才人をはじめとする他の生徒たちの視線が彼に向けられ、玲也本人は尚更頭を押さえずにはいられない。
「ハドーリクーン、エクスサンと知り合いデスカ? それとニアサン、リンサンとも!」
「……えぇ、一応は」
「それは勿論ですわ! 同じ家に住んでますから!!」
「「同じ……家……!?」」
「「羽鳥君と一緒……?」」
玲也が彼女たちと知り合いだと仕方なく認めた矢先、さらにエクスが余計な所で騒ぎを大きくしてしまう。どよめきの声が上がり、周囲の男子や女子の視線が強く厳しいものになったような感じすらした。
「玲也ちゃん、まさかコレって関係かよ! まごまごしてないのに俺が孤立しちまったのかよ……」
「いや、あのな……とりあえず俺とニア達は親戚だ。それで母さんが預かっているだけだ」
才人に誤解されている事へ頭を抱えつつ、玲也は席を立って周囲に弁明しようとした。シャルが苦笑しつつジェスチャーで3人に何かを伝える。これにニアとリンは一応首を縦に振って対応しようとするが、
「そうですわね。私と玲也様が親戚なのは確かかもしれません。フィアンセですからね……」
「……」
エクスが自信をもって告白するが、その内容は玲也をその場で椅子からずっこけさせて転倒させるには十分なものだ。彼女は空気を読めないのかとこの時ばかりは泣きたい気持ちだったかもしれない。
「違うよ! こんな行き遅れが玲也君の恋人とかってあり得ないよ!」
「な、何ですって!! それは玲也様が決める事であなたが決める事ではなくてよ!」
「ソーユーコトデシタラ、ハドーリクン。ニアサンもリンサンも同じデスカネ?」
「何がどうしてそうなる訳ですか! この二人は違いますよ!!」
「なっ……」
ジーンが誤解したままだと、周囲も尚更同じような疑念を抱くと玲也は強く否定した。ただその時ニアは少しカチンときたような顔つきになっていた事を彼は見落としていた。
「そうですね、リンは俺の従姉で、ニアが……」
「あたしは玲也からすれば腹違いの姉ってこと!」
「……はぁ!?」
「「羽鳥の所って」」
「「親が不倫か何か……」」
ニアの回答に声を荒げた。あらかじめシャルと相談してニア達と玲也は遠戚関係だとの設定を考えていた筈だが、リン以外は彼にとって全く見当違いの事を言ってきた。
エクスは一方的に自分へ惚れこんでいる故としてまだしも、ニアの場合父が別の女と付き合っていたと周囲から誤解されるような事をてっちあげた。クラスで自分の評判がどうなるかはまだしも、両親が不義を働いたとの風評が広まる事の方が彼にとっても腹ただしい。
「玲也、俺初めて聞いたけどお前も家で色々苦労してるんだなー」
「……いや頼む。それだけは断じてないから誤解しないでくれ」
「オースミマセーン、先生も思ワーズヒートアップしたミタイデース。モウコンナ時間デスネ、アイムソーリー」
ジーンが一応朝のホームルームの時間が過ぎて1時間目が始まると気づいて、このニア達が転校してきたことでの騒動は一応ひと段落ついた。最も玲也に対して男女問わず殆どの生徒たちが白い目か血眼を向けている状態が続いたままであったが――。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「玲也、もうラストかよ……」
「あぁ、いろいろと終わらせたいからな……」
それから1時間目だが、体育の授業として体力測定テストだった。男子が長距離走だったが玲也は息を切らせずクラスの中でもトップを走り、周回遅れの才人に追いついた。玲也がゲーマーとして体を鍛えているとの事で、早朝にジョギングが日課だった事も有り長距離走にはめっぽう強い。彼が息を切らしているが自分が遅いのではなく玲也が速すぎるのだ。
「もう走る間も変な目で見られてな……それに惑わされてはいけないと分かってはいるが変な話、俺も集中力をもう少しだな……」
「玲也ちゃん、頼む、そう、走り、なが……ペラペラ、しゃべるのは……」
少し玲也が首を傾げた様子だが、才人が突っ込むのも無理はない。殆どの男子が息を切らせながら校庭を周回している中でしゃべる余裕などない。
「あぁもう、ゴールって事にしとけ!」
「お、お前なぁ……」
そして玲也に合わせるように才人もゴールした――厳密には2周程ちょろまかして。ズルをする彼に呆れるような声を漏らす玲也だが、
「玲也ちゃん、こういうのを律義にやるだけじゃなくて賢くやらないとダメだって」
「……賢くやる事は楽をするとは限らないぞ。ズルをして楽をしようとしてもだな」
「あー植原先生、とりあえず俺達終わったんでライン引き持ってきます―」
才人に苦言を漏らす玲也だったが、才人は彼を半ば無理やり連れて体育用具などが置かれている倉庫に向かった。体育教師の植原に対して彼が自分の不正をチクるのを阻止する……だけが目的かといわれると、その後の才人を見る限りは違うだろう。
「話は変わるけどよ、ニアちゃん、エクスちゃん、リンちゃんとそういう関係じゃないんだよな?」
「都合よく話をすり替えられた気がするのはともかく、まだお前は疑っているのか」
「いやー玲也ちゃん、別に俺そうは思ってないんだけどさ……」
才人が指をさすしぐさで玲也の視線を変えた。そこでは女子たちがソフトボール投げの測定を行っている最中であり、
「エクスちゃん可愛いよなぁ……改めてうちの学校がブルマで良いと思わないかー、玲也ちゃん」
「……」
才人が少し前かがみになりながらガッツポーズを作る。紺のブルマからすらりと伸びた二人の脚に見とれており、エクスに対しては胸元の方にも目が行く。上の方もクラスの中でも1,2を争うサイズだと彼は述べており、彼女は黙っていればまぁ人気はあるのかもしれないとは玲也も内心思っていた。
「あぁ、もうエクスちゃんのマスクメロン最高! アパッチゲッターJのナルシス子爵みたいに、メロンを枕にして……」
「お前、そういう眼をして外に出るのはやめろ。というかやめてくれ……」
「あぁん、リンちゃんも良い! このスレンダーなラインは男の心にはなぁ……」
「あのなぁ……まぁリンは一応だな」
女子の体操服姿に息を少し荒げている才人に対し、友人として玲也が蔑視のまなざしを向けていた事も書いておく。ただ、彼がリンの事を触れると共に、少し玲也は歩く速度を上げながら、リンに対しては少し顔を赤くして甘いようなコメントを漏らした。
「おっ、玲也ちゃん見る目あるじゃん!! ニアちゃんも悪くないよな!?」
「いや、それはない。あいつは生意気で直ぐに手をあげたり、何かと突っかかったりのじゃじゃ馬だ。それにな……」
今朝の事を引きずるようにか、ニアに対しての評価は手厳しい。その際、一瞬風が吹き荒れて、空気が冷えたことを彼は感じたかどうかは分からない。だが倉庫に向かう彼へと、視線を向け続ける女子がボールを手にしており、
「けどさ、俺ニアちゃん好みだけどお前がその気ならよぉ」
「まぁ、別にかまわな……」
「玲也ちゃん!?」
――玲也は電源を落とされたかのように前のめりになって倒れて泡を吹きだした。仰天する才人は足元にソフトボールが転がっており、それを拾う時にニアが怒気を発していたのを目にした。
「ニ、ニアさん……! 何度も言ってますがどういうつもりでして!!」
「いくらあんたでもそこまで言われたらあたしも怒るんだから!!」
「玲也さん、玲也さん! 気を確かに!!」
「さ、さらば……栄光のマウンド……」
「玲也ちゃん、今更何を語るのかって場合じゃないから! ソフトボールでこん睡状態ってどういう事……!?」
窘めるエクスもまた半ば平常心を失った状態であった。リンが玲也へ心臓マッサージしながら必死に起こそうとするが、彼は訳の分からないうわごとを口にしている。彼の容態が明らかにただ事ではない事、そしてニアの腕っぷしに才人はただ狼狽するしかなかった。
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