第4話「奇策!ポリスターに勝負を賭けろ」

4-1 独逸乙女の重戦車、華やかに誇り高く!

「マトリクサー・スタンバイ!!」

『クロスト・セットアップ・ゴー!!』


 玲也がエクスの元へと飛び込む。彼女の金髪は海のように濃い青色へと染まり、縦ロールが解かれて鋭く真下に伸びたストレートへと変わる。そしてマリンブルーの光が人型の姿を形成した時に玲也はコクピットへと飛び込んだ後の事であり、


「さて、このポリスターはメルさんが俺の為に改造したとの事だが」


 コクピットに乗り込むや否や、玲也はスーツのホルスターからポリスターというデバイスを取り出す。これはプレイヤーに与えられる通信機であり、表向きはゲーム機としてカモフラージュされた状態で実際にプレイすることもできる。そのポリスターをプレイヤーとなった玲也にも与えられる――筈だったが、


「メルさんが言う新たに追加された機能とは、このポリスター・ガン……おわっ!!」

「玲也様ぁ!!」


 ジーロとメルの手で改造された上で渡された為、左からバレル、右からグリップが展開されポリスターは銃の形となる。玲也が無意識にこのポリスター・ガンを構えた時にエクスが後ろから飛びついてきた。それに思わず彼はよろけて宙に向けてトリガーを引いてたが――ただ銃口からは電子音が聞こえるのみで特にコクピットに破損した箇所は見られなかった。


「コントローラーを握る玲也様もりりしいですが、銃を構える姿も本当に絵になりまして……」

「……銃型のコントローラーを使うゲームはなくもないが、銃を構えているときに近づかれるのは良い気分ではない」


 相変わらず玲也に惚れているエクスのアプローチだが、彼は少し不機嫌そうに窘めた。機体越しに命のやり取りを既にしている身で言えたことではないかもしれないが、相手に銃を突きつける必要が生じる事には躊躇もある。最もこのポリスター・ガンに殺傷能力はないそうだが、


『メルメルメー! 最初だから転送先を登録する動作が行われただけみゃー』

「メル……さん?」


 そのポリスター・ガンを開発したメルから通信が入った。一応まだ子供の玲也が持つ護身用の装備として、撃った標的を登録した目標地点へ転送させる効果があると彼女から教わっていた。

 しかし玲也はそれよりもスーツ姿の彼女に言葉を失った。前髪が開かれ、大きな瞳が露わとなりまるで人形のような可愛らしい顔立ちをしていた。口調は相変わらずだが気のせいか普段より1オクターブ声が高い。


「全く、どうしてあの野暮ったい方がこうもまぁ……」

『エクス、聞こえてるみゃー。あとでアレみゃー』

「……許してしてくださいまし」

「……」


 だがエクスのぼやきを聞き逃さずメルがドスを効かせた。これに彼女は威圧されたかのように直ぐ謝り体が震える。メルの指すアレが何かは分からないが、やはりメルはメルだと玲也は直ぐに考えを改めた。


『このポリスター・ガンはですね、ハドロイドのタグに備わる転送装置を応用してメルが開発しました。あぁそのハドロイドのタグですが元々メルさんが開発に関わっていてそのスペアーを使ってますのでご安心を! ちなみに安心してからの話ですが……』

『ふふ、その話はあとで私からしてやろう』

「は、はぁ……」


 続いてルミカが延々とポリスター・ガン開発の経緯を語る……がやはり長い話になり得ると、マーベルが切り上げるとともにダブルストが電次元ジャンプで目的地へと飛ぶ。


『あー。このパターンは多分引き抜きだね』

「引き抜き……もしかしたらこれがエサですか」


 その折にムウからクロストに通信が入った。マーベルたちドイツチ代表がスポンサーとのタイアップに積極的な事で標的に玲也達が入っているとの事だった。


『ったく、てめぇが俺らと同じフォートレスとかたまったもんじゃないからな! あいつらだけでもそうだけどな!!』

「まぁ失礼ですわね! 別に私も貴方のような粗野なお方と玲也様が一緒なのは不釣り合いだと思いますわよ!!」

『まま、落ち着いて落ち着いて。このバン君は強い奴と同じフォートレスで慣れあうことが嫌いなだけだから』

「すみませんムウさん……ただフェニックスが俺を引き抜く必要性がありますか?」


 バンの皮肉へエクスが真っ先に食って掛かるがムウがすかさずフォローした。玲也はフォローに慣れている彼に感謝しつつ、マーベルたちが自分を引き抜こうとしている理由や背景を訪ねてみると、


『俺たちは別に興味ないから相手にしてないけど、アトラスとクレスローじゃあ力不足って判断してるんじゃないかな』

「アトラスさん達が……ですか」

『アトラスはいい奴なんだけどね……人柄だけで勝てる訳でもない世界だけどね』


 ムウがいうには、アトラスらイギリス代表が各国の面々の中では冴えがない。彼の人柄は良いと触れていたものの、フォローになっていない事は言っている本人が一番わかっているような顔つきであり、


「マーベルさんは、腕が立つのと別にいつも華やかですからね……」

『まま、マーベルのやり方も間違っちゃいないんだけどね、君たちにとっても悪い話でもないかもしれないけど、良い話でもないかもしれないかな、これは』

『言っとくが絶対断れよ! 俺はお前らと慣れあうつもりはないからな!!』

「……これの見返りでどう付けこんでくるかですか」


 玲也はポリスター・ガンを見つめながらふと考える。ムウからの忠告が的を射ていると感じつつ、メルが改造したポリスター・ガンを真っ先に自分へ与えた事から、引き抜きを有利に進めようとしているのではないだろうかと――


「もしかしてですが、玲也様。マーベルさんはそれを餌に私たちを引き立て役に使うのではありません事?」

「……ダブルストの事を考えるなら、ブレストが良い弾除けになると」

「そうですわよ! ニアさんも、ブレストもダブルストの盾としてこき使われるのが関の山で……」

「……お前、妙に嬉しそうに聞こえるのは気のせいか?」


 エクスの推察は玲也にも一理あるとは捉えていた。ダブルストがクロスト同様砲撃戦に重点を置いたハードウェーザーであり、火力を重視する傍ら機動性に難を抱えている――白兵戦に秀でるブレストがダブルストの泣き所を補えるとの事だが、彼女は妙に喜々している点に突っ込みを入れると、


「そ、そんな玲也様ったら! 私がマーベルさんの使い走りで終わる屈辱は勘弁ですこと!!」

「多分クロストとダブルストの役割が被るから、もっと悲惨な事になるぞ」

「そ、それだけは何としても避けないといけませんわね! 玲也様がマーベルさんの傘下に下る事はないと信じてますから!」

「当然だ……と言いたいが、ここから次第だ!」


 エクス自身、ニアより悲惨な状況に追いやられると察した途端、急に彼女が手のひらを返したように独立独歩の姿勢を貫くべきだと唱える。彼女の変わり身の早さに少々呆れながらも、これからの実戦に備えなければならない。玲也がは気を引き締めると共に、クロストもまた電次元ジャンプによって戦場に送り込まれた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「玲也様、私たちは別動隊がバグロイヤーの足を止めている隙に、遠くから狙い撃ちをするですわよね?」

「あぁ。既にダブルストが回っている……ダブルゴーストでな」


 地球の外周を土星の輪のように囲むガードベルト・ステーション――太陽系を巣食おうとするバグロイヤーに対する守りの要、人々が平穏を謳歌する柵へとクロストは電装された。そして控えめながら高貴さを醸し出すダークブルーのカラーリングで纏められているダブルストの姿もある。女4人で姦しい、いや賑やかなマーベルたちドイツ代表の様子と対照的な機体なのだが。


「ダブルストの両腕が……早いですね」

『ふふ、そりゃもうずっと戦ってますから慣れてますよー。両腕はロボット形態がありますからこの場合有効ですからねー』


 しかしデータで見た筈の両腕が既にない。アズマリアの応対も含めてすぐさま玲也は意味を察した。その行動の速さは流石アンドリュー達と鎬を削るドイツ代表だと内心で感心した。じっさい彼女が言う通り両腕がパージされており、バグレラとセカンド・バディとの小競り合いへと介入する。 

 角ばった形状の2機はダブルゴーストと称される小型ロボと化し、盾と鎌を両手にして切り込みをかけていく。アズマリアとルミカが遠隔で動かしている故か臆する気配を見せていない。


「ですが玲也様、何か私達だけ地味な役回りではございませんでして? マーベルさん達が既にいますし……」

『ほぉ、貴様はまだ訓練中の身でありながら一人前のような事をいうな』


 ダブルゴーストやセカンド・バディらを砲撃支援する役回りに対し、エクスが華やかさからかけ離れていると苦言すると、マーベルからの通信が入る。戦いの中で、華やかなスポットライトを浴びているような彼女からすれば、玲也達にはまだ早いと余裕ありげな笑みと共に言い放つ。

 そのマーベルが言う通り玲也達はビャッコ、フェニックスフォートレスの元で10日間の訓練を受けている中での出撃だが、PARがジャールに向けて地球からチャールズ級重巡洋艦が打ち上げる計画をバグロイヤー側が阻止しようと接近しつつあった。彼らを駆逐してジャールへの打ち上げを成功させることが今回の任務となる。


『直ぐに道を開けろ! 巻き込まれるぞ!!』

「電次元ブリザード!!」

『ハウンド・レールガン、てぇぇぇぇ!!』


 クロストとダブルストが揃って遠方の敵をめがけて砲撃を開始した。あるものは暖冬の直撃を受け、、またある者は瞬く間に氷漬けとなる。そして電次元ブリザードの直撃を受けた相手に向けて、ダブルゴーストのハウンド・サイズが氷塊を真っ二つにしていく。


『ふふ、電次元兵器は最新世代の特権かもしれないがな、直接破壊できないブリザードでは手間がかかる』

「何ですって! 電次元兵器を馬鹿になさるのは僻みでして!?」

「よせエクス、マーベルさんの言うことも分からなくはない」


 マーベルから少し意地悪そうに指摘されてエクスがカチンと来た、しかし実際電次元ブリザードを照射する事が必ずしも有効ではないと玲也は見なしている。電次元ブリザードが電次元兵器であるからエネルギーの消費は軽くない。一方、同じ砲撃戦主体のダブルストには腹部から放つビーム砲“ハウンド・キャノン”、バックパックと連結された両肩の“ハウンド・レールガン”などロングレンジ用の攻撃手段は充実しているのも事実だった。


「ミサイルで滅多打ち……電次元ブリザード以外にも考える必要ありか」

『ほぉ素直だな。そう物分かりが良いのなら、アンドリューより私の元にきたらどうだ?』

「……これの見返りですか」


 クロストはすぐさま、両肩の10連ミサイルポッドでの火力支援に転じる。電次元兵器が威力に秀でている事から依存するのは愚の骨頂だと玲也は気づき、マーベルの声は少しトーンを弾ませていた。これだけなら彼女もまた抜群の腕と確かな実績を併せ持つ立派な先輩だが――直ぐに引き抜きの話を持ち込んでいる様子から、彼女に心を許すのは危険だと改めて実感した。アンドリューが苦手としている点にも納得しつつ、


『そもそもアメリカ主導のドラグーンに日本人の貴方がいらっしゃることが不自然でして』

「3機持つ俺は日本代表ではなく、正体不明で通すことにしたと、将軍からは話は聞いています。国家間のパワーバランス云々などで」

『ですから表向き正体不明で世間に通す場合、フェニックスに所属しても問題はない事でして』

「引き抜くとしましても、個人で決める事は出来ません。俺ではなく将軍に掛け合ってから」

『私達と一緒に売り込むことになるのでして、商品展開も見返りも保証します! あぁちなみに私はですね』

「いや、別に俺はその為に戦っているのではないですから。今の待遇に不満はないですから」


 ルミカの長話を何度も遮るように玲也が忽然と拒む。彼女の話は長いうえに早口で聞き取りがたいものだが、この時の彼は何故か自然と彼女の会話に応対することが出来ていた。


「そうですこと、玲也様が私以外の女に心を奪われるわけがありませんのでして。あなたは年上のお方と呼ぶのには少し……」

『メル、あとでアレ倍だからみゃー』

「……許してくださいまし」

「アレとは一体果たして……」


 少なからずメルからのアレをエクスが恐れているのは確かだ。そのアレが何か玲也は相変わらず分からないので首をかしげるものの、


「とりあえず、俺にアンドリューさん達を裏切る事は出来ないですから諦めてください」

『先ほどからアンドリュー、アンドリューと仕方がないな……手元に置けたらパートナーにしてやっても良いのに』

「それは引き立て役の間違いではないでして?」

「おい、エクス……言葉が過ぎるぞ」


 玲也が引き抜きに応じるつもりはないとの事で、マーベルは潔く諦めたかの様子だが――エクスがムウからの言葉の受け売りのように、彼女の目論見を真っ先に指摘する。玲也としても否定しきれないが、当の本人に直接言っては拙いと諭すものの、


『全く、バンかムウにそうほざかれたか』

「ほざかれ……い、いやすみません。ただそうも華やかな活躍をあなたが求められることはどうもよくわからないですが」

『それはお前の僻みかは知らんが……まぁよい』


 ただマーベルはイタリア代表にそう陰口を叩かれている件には慣れているのだと、玲也へ弟をたしなめるような様子で触れる。ダブルゴーストが手にした盾“ジャイローター”を前方へ突き出しつつ、ミサイルを射出しながら距離を置いているようだが、


『世間が私たちの活躍に注目するなら、見せ場を作るサービス精大事。例え危険は伴うが、私たちの活躍が故郷の希望になるからな!!』


 華やかさを求めるマーベル達だが、それは自ら危険に身を晒す行為でもあったと理解した上で動いている。自分を売り込みながら戦う事は、自分たちを世間の希望として昇華させていくと共に、それに恥じない戦いをしなければならないと自覚させる。それがドイツ代表の女4人、覚悟の表れでもあった。

 そしてダブルゴーストから手放されたジャイローターがダブルストへ肩のように連結され、頭部と両腕が収納された2機が両腕のように連結された――ダブルストが真の姿を見せつけると共に、


『シュツルムファイヤー、スタンバイオッケーですよー』

『そういうわけで私たちも早速晴れ舞台、必殺のフォーメーションと行きましょう! せっかくですしここは私が1週間必死に考えましたものを、確か、えーと……』

『クロイツ・フォーメーション、てぇぇぇぇっ!!』


 残るバグレラの群れ目掛けクロイツ・フォーメーションが発動する。ダブルゴーストとジャイローターが連結した両腕は、電磁波と熱線を織り交ぜた特殊ビーム砲シュツルムファイヤーと化し、ハウンド・レールガン、ハウンド・キャノンと併用した一斉砲撃でもあった。一気にそれだけの火力を叩きこまれた相手が無事で済むはずもない、


「……アンドリューさんとも、カプリアさんともマーベルさんは違う」

「アレだけは勘弁したいですし、私はどうも気に食わないですが」

「ただ、あれだけの力に腕と……ドイツ代表としての誇りは学ばなければ」


 アンドリューが触れた通り、人として多少の問題はある面々かもしれない――が、そのような人物としての欠点もプレイヤーとしての力量に経験、それに誇りを前にすれば微々たる粗だと思わされるだけはあった。玲也自身完全に彼女を肯定する事はしなくとも、プレイヤーとして参考にする点は多いのだと。


「おかげで3機とも動かすに慣れてきたが……まだまだこれからだ!」


“ハードウェーザーを駆る世界各国のプレイヤーは日夜バグロイヤーとの戦いを繰り広げる。その戦いはそれぞれ何の為か譲れないものがある。そしてこの物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である”

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