第3話「集う!世界各国のプレイヤー」
3-1 雷鳴の射手、名を取るより実を取れと
「ほぉ、お前の情報が本当だとしたらジャールにそのような大量破壊兵器が建造されていたと」
「その通りになります。ジャールの兵力が手薄なのはおそらく……」
「オロール・クーデンベルク――といったな」
ゴッドハイド級と呼称されるバグロイヤーの重巡洋艦――ブリッジの情報セクションには三番隊々長エリル、副隊長に君臨するアステル。そしてオロールという灰色とカーキ色の制服を着用した男の姿があった。
「PARの兵士に成りすまして脱走に成功しただけではなく、ジャールの内部機密を持ち帰るとは見事じゃないか」
「正直命がけでした。味方に撃墜されることなく帰還できるかどうか」
PARの隊員に装って脱出したオロールは元々四番隊の残党であった。彼は汚名を返上するような活躍をしたとアステルはエリルに向けて告げる――敗北を帳消しにすべきだと勧めるように。
「予備はまだある。お前も早く着替えた方が良い」
「……エリル隊長、アステル副隊長。共々有難うございます!」
オロールは彼らに敬礼を交わした後すぐさまブリッジから、指定された無人の個室へと向かう。ただその間際に彼が上司二人へと顔をちらりと向ける。アステルだけは口元に笑みを浮かべた時、微笑み返して視界から消えた。
「四番隊の捕虜奪回を建前としたジャールへの攻撃だが、これ程の数を蹴散らすことは簡単だぜ」
「エリル、ジャールに大量破壊兵器のビーム砲が設置されている。過小評価は命取りだ」
「あのなあ、高威力のビーム砲が自分から勝手に向かってくる訳がないだろ。懐に入り込んで……これだぜ」
「お前のその自信を何度見たか」
――エリル・ハイドマン、雷鳴の射手との通り名のある彼はパイロットとしての自分の腕に自信を持っている。だが、その大量破壊兵器だけでなくハードウェーザーに対しても機体の性能がずば抜けているだけで、自分の腕さえあればと似たような評価を述べる男でもある。彼がは自信ありげに自分の右手で作った拳を左手の掌へとぶつける。大量破壊兵器が動かない大きな標的に過ぎないとの仕草であり、アステルは何度も見たアピールだと少し苦い表情を浮かべた。
「エリル、オロールの持ってきた情報だとこの時間に奴がジャールの視察に現れるとの事だ」
「……確かにあの天羽院とかを始末しとけば後々有利だ。しかしだな」
「奴はハードウェーザー計画の推進者だぞ、俺たちが手段にこだわっていられる訳がない」
ハードウェーザー計画に深く携わる天羽院との人物を亡き者にすれば、電装マシン戦隊に打撃を与えられる――アステルがエリルを焚きつけようとする。これに一理あると彼は認めていたものの、パイロットではない一人を仕留める事へ、若干の躊躇いがある。
「いいか、あのゼルガを見返すつもりなら俺たちの三番隊が力を示さなければならない。四番隊の保護と別にジャールの奪回、天羽院を仕留めた先に」
「あの大量破壊兵器を強奪する事にも繋がるからハイリターンだと言うつもりか!」
「その通りだ。お前はつまらないプライドに拘りすぎだ。もっとよく考えろ」
面と向かってアステルはエリルに指摘する。内心ではエースパイロットとしての矜持にこだわる同僚に対し、苦々しい感情があったものの、その様子は顔に出さないようにはしていた。そして、
「認めたくはないが……オロールが命がけで持ち帰った情報を無駄には出来ない」
「そうだ。お前がつまらないプライドに拘る事はオロールの功績を踏みにじるものになる」
「なら、少し力を貸してくれ」
エリルが真顔でブリッジを後にしたとき、アステルは彼が折れてくれたことに安堵するような表情を作る。出撃に向けてエリルが体を休めようと軽く会釈を交わして立ち去ると、
「……戦争はパイロットの腕で決まらない。機体の性能だということをハードウェーザーが現れて分からないとはな」
アステルが後姿の彼へ浮かべた笑みは、苦笑から嘲笑へと変わった。エースパイロットとしてのプライドが高いエリルを参謀としてフォローしていく表の顔から、彼を亡き者にして三番隊の実権を掌握せんとする裏の顔を密かに見せてほくそ笑んだ。
「いつまでも過去の栄光にしがみついていたら足元をすくわれるぞ。士官学校の頃から辛酸をなめさせられた俺の時代が来るからな……」
“エリルはアステルの真意をまだ知らない。誰であろうともいつ足元が救われるのかは分からないものかもしれない。そしてこの物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である”
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