2-5 イーテスト三変化に勝て! 切り札は微塵隠れだ!!

「クロスト・マトリクサー・ゴー!!」


 二人の叫びと共に塹壕のように掘られた窪みへ青い光がフレームを形成する。そして白と鉄紺の素体の上へ、濃い緑みのかかった青――マリンブルーの装甲が装着された。クロストの電装が完了した。


「イーテストが現れる気配がない。今のうちにトライ・シーカーを飛ばしながら変形させる」

「言われなくても分かってまして。6基全てを制御することくらい私には……」


 青を基調とした塗装のクロストは、方眼紙のようなマス目で区切られた複眼のゴーグルと、鉄紺色の砲身が背中から前面へとせせりでている。泰然と構えるような巨体は鈍重ながら多少のことではびくともしない重量級のフォルムを備える。

 すぐさま玲也はクロストを変形させる判断を下した。セレクトボタンを押すことで彼の膝が“く”の字に曲がり地面に膝が接する。太腿が後ろに曲がると共に今度は上半身が前のめりに倒れ、蛇腹状の腕が肩に収納されていく。


「いや、1基だけでいい」

「1基だけですって? 私が一度に同時に動かせないと貴方は見くびってますの!?」

「お前は6基全て飛ばさなければ、相手を見つけられないというのか」

「……私の腕にかかればあっという間ですわよ、あっという間!」


 最後に頭部が後ろに曲がることで、戦車形態ことクロスト・パンツァーへの変形が完了した。変形させた理由は塹壕のような窪みに出来る限り本体を隠す、少しでもイーテストに看破されることを防ぐためでもある。

 そして玲也はエクスのプライドを逆手に取るかのように指示を出す。彼女の胸の内をを未だつかめていない上、息が合わない事がこの勝負の足かせになりかねない。かといって彼女に全権を委ねる事もそれはそれでリスクが高いと判断したためだ。


「私ほどの腕でしたら1基だけで見つかりますわよ! 貴方こそ指を咥えて見ていれば良いのでして!」

(この後を想定するならば最低でも4基のシーカーを残す必要がある。早くイーテストが見つかればよいが……)


 エクスによって操作されるトライ・シーカーとは両肩、両腰、両膝の合計6基のハードポイントに備えられたY字型のシーカーだ。ブレストのウィング・シーカーより戦闘能力で劣るが、6基存在している事から一度に複数を飛ばしてより広範囲を索敵する事が可能とのメリットも備える。

 自信ありげな彼女に挑発されているのだが、今の玲也はイーテストがどの形態で出撃したかを把握する事を優先事項としていた故に受け流す。先に相手がどの形態で出撃しているかを知る事が、少しでも早く作戦を立てるには必要なのだ。


「反応が……あぁっ! もう肝心なところで」

「イーテストはどっちだ、わかるか!?」

「……ただクロスベールを背負ってまして!」

「そうか!」


 トライ・シーカーが東西に位置する森林に接近していった所で撃墜となった。トライ・シーカーからの映像では、二筋の閃光――おそらくブレストと同様のアイブレッサーにて焼き払われる瞬間までしか記録されていないように見えた。

しかし森林地帯から頭部だけでなく天を衝くかのような二本の刃――クロスベールの刀身が微かに見えた。イーテストが白兵戦仕様のブレードで出たのならば、クロストが対峙するには相性の良い相手になるのだから。


「急げ! 電次元ブリザードを放つ!!」

「……もう放たれるのでして!? それはあまりに味気がないのではと」

「戦いに風流も美学もあるか! それにこれで倒せるつもりがないのは承知の上だ!!」

「倒せないと分かっていてですか……庶民の考えることはよくわかりませんこと」


 エクスが首を傾げつつ、トライ・シーカーでイーテストを補足した地点に向けて、両肩のキャノン砲を合わせる。サブモニターでエクスが照準を定めたと確認した玲也はすぐさま、


「電次元ブリザード!!」


 叫ぶと同時に、青い北部とのの光が放射される。木々が直撃を受けた途端高熱で燃え盛り、消え去る――のではなく瞬時に熱を奪われたように全体が凍り付く、その末に結晶が砕ける散るような木々も見当たる。


「この電次元ブリザードでしたら、イーテストといいましてもあっという間にさようなら。シミュレーター上ですから気兼ねする事も」

「喜ぶのはまだ早い! 反応はどうだ……」


 開幕早々玲也が放つことを決意した電次元ブリザード。二門のキャノン砲から超低温の繰り出す冷凍抗戦は、ブレストでいう電次元フレアーに該当する切り札に該当する武器となる。直撃すると共にハードウェーザーの反応が消えうせた事から、それでも十分な威力を秘めているのだとエクスは胸を張り、


「ですから、反応はありませんことよ。本当一瞬にして熱源が消えまして」

「……馬鹿野郎、やはり単純な力押しでどうにかなる相手ではない」


 だが、反応が一瞬にして消えたとの例えに、玲也の胸に浮かんだのは安堵ではなく警戒心だ。電次元フレアーをバグレラへ浴びせて葬り去った時よりも早く、同じハードウェーザーであるイーテストの反応が消える事とは思えない。それでも、実際一瞬反応を消した様子から何があったかと一瞬彼は思考に入る所、


『わりぃけど、そう簡単に勝負を決められちゃ困るからな!!』

『がきっちょー、あたいらをあまり見くびるなよー』

「――ジャンプで来たか!!」


 クロストのはるか上空へと、イーテストが瞬時に転送された。イーテストが大気圏内を飛行できるのは高機動型のブリッツでなければ無理だとシャルからのデータで既に知ってはいた。

 そのイーテストが上空から急降下して攻めていく様子に対し、電次元ジャンプを利用したのだと玲也は把握した様子だが――更なる驚きに直面しようとしていた。


「……アンドリューのフォーメーションだね!」

「シャルちゃん、起きて大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫……それはそうとリンちゃん。ニアちゃん。イーテストが背中のセカンド・シーカーを装着していない事に気づいてる?」


 シミュレーターの外では、ニア達が試合の行く末を見守っていたが、先程目を覚ましたとは思えないほど、シャルは冷静に分析していた。彼女が特別隊員としてハードウェーザーの戦いを何度も見てきた身でもあるが、イーテストの背中に本来備わっているはずの小型哨戒機“セカンド・シーカー”が装着されていないとの指摘からニアが今気づく。


「それってもしかしたら、さっきの電次元ブリザードでシーカーが破壊されて飛べなくなったとかじゃないの」

「ニアちゃん。イーテストはブリッツじゃないと重くて自力じゃ飛べないよ」

「となりますと、セカンド・シーカーが装着されていない状態で現れた事が……」

「その可能性はあるね。玲也君、アンドリューはまだ手を残してるよ! どう出るかが勝負だよ!!」


 シャルが画面越しのクロストへ声援を送る。モニターに映るクロストは頭上から迫るイーテストに対して、両肩に設置された10連ミサイルポッドを次々とぶっ放し続けていたが、


『単純にミサイルぶっ放して当たると思ったらな……!!』


 イーテストはクロスベール二刀流で、次々と弾頭を刀の錆と化す。約20mと自分と同サイズで一見取り回しに難があると思われるが、アンドリューの剣捌きは巧妙。最小限の動作で剣を動かしてはミサイルを餌食にしていく。


「全然効果がないですわよ、あなた!」

「今、射程圏に入った……バスター・ショットだ!!」

『ほぉ……!!』


 ちょうど上半身が起き上がり、クロストの右手が一気にイーテストへと迫る。ジャバラ状のアームが素早く伸びて打突を仕掛けるだけでなく、五指からバルカン砲のように弾丸が飛び交う。両手指からのバスター・ショットは単独では威力が低く、近接防御や弾幕で展開する事が関の山。だが蛇腹状の腕を伸展させ、巧みに動かして相手をけん制した後、至近距離で放てば話はまた別である。


『おおっと、あぶねぇあぶねぇ!!』

『おい、がきっちょに壊されたぞー』

『目には目を歯には歯を、簡単に倒せねぇなら片っ端から潰してくのもベターって事ならなぁ!!』


 だが、アンドリューもまたイーテストはすぐさまエッジを盾にしてわが身をかがませた。クロストの右手がクロスベールの片割れを蜂の巣にするときは、既に彼は剣を手放している。リタが突っ込むものの、互いに多少のイレギュラーは朝飯前であり、


『このグレーテスト・バイスでなぁ!!』


 直ぐに飛び交うクロストの右手をかすめて、イーテストが前方に宙返りした後、空へ伸ばした右足裏からは万力が展開された。今度はクロストの右腕に接触、激しい金属音と火花を立てながら蛇腹状の腕を握りつぶそうとしており、


『おー、腕引っ込めてあたいらを引っぺがせるかー?』

『そんなに俺を誘いこみてぇなら、乗ってやらぁ!!』


 既に左腕は蛇腹状の腕を収納させていたが、イーテストが足裏の万力で張り付いた右腕は流石に収納される気配がない。砲撃戦を主体とするクロストからすれば、相手の土俵に立つ事だけは避けたいのだと、二人は捉えつつも半ば無意味ともいえる。この状況を好機だとイーテストがクロスベールを両手持ちにして飛び掛かる。


「近づかれましたわよ! ちゃんと考えてますわよね!?」

「そろそろ使う時だ。ゼット・フィールドだ!!」

「今ゼット・フィールドになりましたら……これですわね!」

『うおっ……!』


 両肩、両膝のシーカー4基を射出しながら、エクスがマニュアルを確認した時、ゼット・フィールドへつなげるパターンに該当すると気づく。玲也がL3とR3を同時に入力したと同時にクロストの頭部のアンテナ二本からエネルギー波が発射される――ゼット・フィールドが展開された。質量を伴う攻撃からエネルギー兵器まで防ぐ光の膜は、頭部のアンテナからのエネルギー波を、トライ・シーカーに備わったアンテナが受信する事で形を成す。


「危なかったですわ……しかし、最初からゼット・フィールドを展開しましたら良かったのでは?」

「最初からバリアーを展開したら、相手が警戒してしまう。俺はイーテストが攻撃に出た一瞬を突いたおかげで、一矢報いる事が出来たはずだ」

「そ、それはまぁ……おっしゃる通りですわね」


 イーテストの突き出した右足はグレーテスト・スパーごとフィールドに遮られ、その熱によって逆に己の足が溶けるように爛れていった。フィールドの面を一点から突き破らんとするクロスベールも実体の刃が形を失うと共に、無意味と化す。

 エクスが何かと突っかかっていたが、相手の攻撃を逆手に取り、防御用のフィールドを武器に転用する玲也の戦法には認めざるを得なく、少ししおらしい様子も漂い始めていた。


『足をパージすっからな……遅れるなよ?』

『がきっちょは気づいてるかどうかだなー。イーテストは3形態を持ってるって事』

『話が少し早いけど、二手三手読んで奥の手を温存するのも戦いだな!!』


 けれども、イーテストは両足を一斉にパージさせた。グレーテスト・バイスを展開させながら、両足がロケットのようにゼット・フィールドめがけてまっしぐらに飛ぶ、


「あら、懲りない方ですわね。左足を飛ばしたとしても変わりはありませんのに」

「いや、そういう事をやる相手ではないが……うわぁ!!」

「前が見えません……ってまさか!?」


 学習していないようなイーテストの攻撃にエクスは嘲笑するが、玲也は裏があると改めて慎重になる。しかし何をやろうとしているかまでは見当がつかない時、ゼット・フィールドに接触する直前で両足が爆散したのだ。イーテストが陣取っていた森林からは別の機影が微かに映り、もう1機からのミサイルが両足を爆散させるまでに至らしめた。イーテストにまだ手が残されている事へ、玲也だけでなくエクスも底知れぬ相手への不安を認識しつつあった時、


『わりぃな! 足なんて飾りですって言うつもりはねぇが』

『けど、目晦ましに役立ったなー』

『まぁ、それもそうだ……足を外しゃあ一応は飛べるんだな、これが!!』

「うわぁぁぁぁぁっ!!」


 イーテストの両太ももからの噴射口が火を挙げながら本体を宙へと飛ばす。。ゼット・フィールドを飛び越えるとと共にグレーテスト・マグナムが脳天を打ち抜く。ゼット・フィールド発生源となるアンテナを破壊してバリアーを無力化したのだ。

 アンドリューの作戦は玲也達がトライ・シーカーを動かしてバリアーの幅を調整すれば阻止する事が出来たかもしれない。しかしパージした両足を意図的に目前で爆破させたことで玲也たちの視界を奪いその判断を遅らせた。この一瞬を彼は突いた結果、クロストの頭部からは黒煙を上げ続けており、


「メインカメラや出入口をやられた訳ではないが……ゼット・フィールドがやられたぐらいで!!」

『そう強がってるのも程々になぁ!!』

『辛いよなー、長いと小回りが効かないからなー』


 玲也の言う通り、クロストが頭部が機能を停止しようとも、戦闘能力を完全に喪失したわけではない。だがクロストが電次元ブリザードの砲身をイーテストへ向けようとも、長い砲身は密着した相手を狙うには適していない。アイブレッサーを照射しながら間合いを取るイーテストに両肩の砲門をつぶされる結果となり、


『アンドリュー、ここら辺がちょうどいいなー』

『やれやれ、大分粘られちまったがな!』


 そして、シャルが危惧していたセカンド・シーカーが、森林から雄々しく浮上する。背中に本来装着される機体には大きく湾曲して、刃のように研ぎ澄まされた翼に、バズーカ砲を内蔵した青きパーツが合体していた――ブリッツの脚部だ。


「シーカーですって!? 現れた際は既に装着されてませんでしたからてっきり……」

『甘いなー、電次元ブリザードを放つ前にシーカーは置いてたんだなー』

『電源を落とした上で隠しといたのを既に撃墜したと勘違いか……そううまく話はいかねぇってことだな!!』

「そ、そんなこと……」


 内心でアンドリューは想像以上に粘り強く抵抗されていると認めつつ、強気な姿勢で玲也達を圧倒する。一方シーカーを既に撃墜されていると誤認したエクスは、まだブリッツ形態のパーツを備えた上でイーテストが戦力を温存していた事実に打ちのめされたような様子だ


『わりぃが覚悟決めた方がいいか……コンバージョン・ブリッツ!!』

「あ、あぁ……」


 空中でイーテストに向かって射出された脚部パーツが合体を終え、バックパックとしてセカンド・シーカーが背中に備わる。イーテスト・ブリッツへの換装を完了された。電次元ブリザードもゼット・フィールドという攻防の要を失ったクロストを嬲るかのように、一転してイーテストが間合いを詰めつつあった。


「私は軍人の家系ですのに……それですからお父様の言われた通り、ハドロイドになりましたのに!」

「……俺が至らなかったとでも」

「い、至らなかったで済む問題じゃありませんことよ! お父様やお兄様に合わせる顔がないのも貴方のせいでしてよ!!」


 イーテストが上空から迫りつつある中で、クロストは動こうとはしなかった。エクスはもはや手がないと悲観した上で、玲也に当たり散らそうとしている。お嬢様然した外見だけでなく、軍人の家に生まれ育った事が彼女のプライドを形成している。山のように高い彼女のプライドが麓から揺さぶられるように崩されようとしている時、エクスは平静を失いつつあったのだが、


「言っておくが、俺もまだ奥の手を残している」

「い、今更強がっても意味がありませんわ! 私が考えられる限りは……」

「アビスモルがまだ残っている。ある限りを使えば上手くいくかもしれん」


 けれども玲也はコントローラーをまだ動かし、次の行動への準備にかかっていた。追い込まれようとも諦めた様子は一片も見せていない。地面に接している膝からは潜航地底魚雷・アビスモルが何発か撃ち込まれていた。

 鋭利なドリルとして地盤を掘り進み、プレイヤーの遠隔操作が効く事もあり地底や深海での奇襲に適した武装ともいえるが――イーテストは空中から迫っているためエクスは彼の強固な自信を理解しかねていた。


「それはそうとエクス、お前も父さんの為に戦うのか」

「こんな時に何をおっしゃいますの!? あなたと私が同じでは……」

「……なら今、諦めてどうする! お前が俺より優れているならなおさらだ!!」

「ひっ……!!」


 玲也が怒気を発しながらエクスに檄を飛ばしてしかりつける。彼女が半分焦っていた事もあったが彼から落とされた雷に反発する間もなく委縮してしまった。


「俺は父さんを乗り越えるためにここで負けるわけにはいかない。その為にやれる限りの手は最後まで打つ、お前はどうだ」

「わ、私だってファルコ家の人間としまして……」

「なら、最後まで諦めん俺を信じろ! 最後の一手が潰える迄俺は負けていない!!」

「最後の一手……貴方」


 格下と見なし、邪険に扱っていた玲也が一片たりとも諦めの色を見せていない。彼の方が自分より秀でている事を認めていたかまで分からないが、彼女のプライドは目の前の小さな彼によって支えられている。彼を否定すれば自分が折れてしまうと察して、静かに首を縦に振り肯定の意志を示す。


『諦めちまったかわかんねぇが……ブリッツだからな』

『アンドリュー、一気に決めちまうつもりかー』

『そういうことにならぁ……よくやったがこれで引導を渡してやるかぁ!!』


 イーテストがクロストへ急降下していくと共に、両足からのグレーテスト・バズーカだけでなく、とびかかりながら主翼をパージし、グレーテスト・シュナイダーとして両手で握りしめて鉈のように勢いよく振り下ろされようとした瞬間だ。、


「今だ……!!」

『なんだと……!?』


 エクスがキーボード入力を終えた時、クロストの巨体が胴体から一気に爆発を起こし、全身そのものが瞬時に吹き飛んで砕け散る。さらに地下に忍ばせたアビスモルを誘爆させることでその爆発はさらに範囲を拡大。イーテストを飲み込むには十分な業火を荒れ地に解き放ったのだ。


「玲也さん、エクスちゃん……!?」

「ちょ、ちょっと! 玲也の奥の手って道連れってことなの!?」

「そうなりますと、これは引き分け……?」


  観客席でニアとリンが玲也の取った行動に狼狽した。この場合引き分けと判定されて勝負はどうなるのかとの疑問もあったようだが、


「いや、シミュレーターは相手が撃墜と確定した時点で終了するように設定はされている。クロストが自爆してもシミュレーターが続いている様子なら」

「……とうとう玲也君がやったか、微塵隠れだね!」

「み、微塵隠れ?」


 ただシャルだけはこの展開を想定していたらしい。彼女の口ぶりからすれば玲也がオンラインゲームで使用していた戦法の一つであり、そのゲームについて知らないニアからは何の事かときょとんとした表情になる。しかし、彼女がモニターを指さした時、爆心地から少し離れた場所に青い光が現れた後、新たな機体が姿を露わにしており、


「イーテストが三変化なら、クロストは空蝉の手でどうにか」

「クロスト・ワン……これは一体。」


 新たな機体クロスト・ワンはマリンブルーと白のカラーリングだが、イーテストよりも小柄で上半身だけで飛行している人型のなりそこないで、脱出用を兼ねたコクピットメカのようにも見受けられる。その同じクロストと名前がつく事も有り玲也とエクスが搭乗している。彼女は一体何が起こったかよく把握していなかったが、玲也は眼をこすりながら操縦を続けており、。


「クロストは動きが鈍い。機動力を上げることは厳しいがパージして小柄な機体になればある程度は補うことが出来ると思ってな……」


 クロスト・ワンとは、元々オンラインゲームで玲也がクロストの短所を補う為に追加した形態だったという。彼自身完全な対策ではないとの事だが、非常時や陽動などに役立つと思いつきその結果、クロストをあえて自爆させて至近距離の相手を巻き込み、クロスト・ワンだけを電次元ジャンプさせて脱出する“微塵隠れ”という戦法を完成させており、


「それで私達が成功したとの……いや、反応がまだありましてよ!!」

「それで済むと見なしたのは流石に甘かった。なら直ぐにとどめを……!!」


 ――それでもまだ勝負がついていない。イーテストを確実に爆発へ巻き込んだ手ごたえを感じたものの、それで健在ならば残された時間がないと再度彼の視線は鋭くなり、


「このバスター・キャノンで勝負をつける。トライ・シーカーはまだ……!」


 最後の最後、視界がかすむ中で玲也は、両腕に備えられたビーム砲“バスター・キャノン”に全てを委ねる。クロスト・ワンに残された唯一の武器であり、イーテストを確実に仕留められるだけの威力は保証されていない。トライ・シーカーでイーテストの現状を把握しようとするものの、


「目の前にイーテストが……!?」

『……グレーテスト・マグナム!!』

「しまった! まだこの手をアンドリューさんは……!!」


 目の前へとアイブレッサーの閃光がクロスト・ワンをめがけ炸裂する。かろうじて右翼をかすめた程度の損傷に留めたものの、回避運動を取ると共にイーテストそのものが急接近を続けた。両脚が失われた状態ながら、イーテストは戦闘機として飛び交いながら――もう一丁のグレーテスト・マグナムを発砲させた。


『獅子博徒という言葉があってなー』

『わりぃな。二手三手読みあって奥の手を最後まで残した方が勝ちだぜ……玲也』


 クロスト・ワンのコクピットに光が貫通し、時は既に遅し。地へと堕ち行くクロスト・ワンのモニターからは、イーテストはフェードアウトしていく。リタたちの言葉通り、二人は獅子が兎を駆るにも全力を尽くす例え通り、最後の最後で彼らはクロストを叩きのめして白星を得た――“ウィナー・アンドリュー“とのアナウンスが鳴り響くと共に。

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