第2話「抗え!相手は全米No.1だ」

2-1 戦火の中で送られて

 ――かつて、地球人類が太陽系の開発へ着手した最中、月面のクレーターに生じた亀裂から、もう一つの太陽系らしき星々が存在する宇宙を確認された。当初電次元と称される別次元の人々との友好関係が構築される機運が高まったものの。


「バグレラがもう接近している! 準備は出来ているか!?」


 だが、今となっては新天地へ踏み出さんとする未来への展望も頓挫しつつあった。我々の宇宙では地球に該当する惑星ゲノムもまた、バグロイヤーの支配下に置かれつつあった。地球では大気圏外で繰り広げている戦闘をまるで他人事のように、ハードウェーザーを実在するヒーローのように持て囃しつつ平穏な日々が表向き今なお続く。ただゲノムの人々はバグロイヤーの圧力にあえぎ苦しみ、抗わんとする者たちも血なまぐさい戦いを余儀なくされた。


『ったく、俺たちにくたびれたバグレラでやれってのもなぁ……』


 ――コンシュマー地方に位置するティーンパープルもまた戦火の渦中。何台かの軍関係と思われるトレーラー、重機、戦闘バギーが設置されており、戦闘バギーのミサイルランチャーが接近する2機のバグレラめがけて放たれる。最もバグレラに致命的な一撃を与える事は出来ず、彼らの前進は続く。


『最も、レジスタンスにはエレクロイドも与えられないとはなぁ!』


 バグレラのパイロットが目の前のレジスタンスを嘲笑する。確かに自分たちの戦力も十分ではないが、彼らはそれ以上にみずほらしい、エレクロイドという人型兵器すら用意できない上で抵抗を続けているからだ。彼はマシンガンの銃口を定めたものの、


『……ビーム兵器!? まさか!!』


 しかし、バグレラの横っ腹を一筋の光が突く。先程まで漆黒の機関銃を構えていたバグレラが爆散する瞬間を目撃し、もう1機のパイロットは狼狽えながら確信した。しかしバグレラの足元から炎が上がる――仕掛けられた地雷が閃光を発すると共に、深緑の機体を棺へ変える。立て続けに2機撃墜された事で、後方の2機が急遽足を止めると。


『……もう少し誘い込む必要があったか』


 バグレラを仕留めた一筋の閃光――小屋の物陰に身を隠しながらライフルを放つエレクロイドによる攻撃だ。手に白と赤のカラーリングが施されたエレクロイド“デルタ・バックラー”は、レジスタンスにとっても貴重な戦力だが、


『だが、丸腰で見逃すわけがない』


 自らを囮として残りのバグレラをおびき寄せようとデルタ・バックラーが飛び出した瞬間、頭上から四本足の、まるで狼のようなフォルムを持つ機体がとびかかる。デルタ・バックラーが反応して対応するよりも早く、とびかかる相手の手足から一斉に閃光が炸裂する。血の色のように赤い光の筋に貫かれたならば、うつ伏せに倒れこみながら機体が粉々に砕け散る。。


「こうもわかりやすく守りを固めれば、普通は疑ってかかるがな」

「あなた、この間学校を卒業した坊ちゃんには分からないわよ」

「それもそうか……」


 エレクロイドを獲物のように駆るバグロイド“バグラッシュ”。複座式のコクピットにて、二人の男女はこの空気に慣れているかのように自然体だ。デルタ・バックラーを仕留めた彼らは、敵に対しては一応それなりに策を練ったとは称賛はしていたものの、自分たちからすれば大した敵ではないと言いたげでもある。


「しかし私らフリーランスの力を頼った癖に、送ってきたのが新入りとくたびれたバグレラ数機とは舐められたものね」

「バブリー、バグロイヤーに加われば愚痴も言わなくて済む」


 バブリーという女を宥めながら男――イズマは地面のとある地点に向けて背中のミサイルポッドから何発か打ち込んでいく。立て続けに地表から爆発が巻き起こる中、その先の地下へ繋がる通路の存在をバグラッシュのサブセンサーが察知した瞬間、


「やはり、お宝は地下深くか」

「貴方の邪魔はさせないつもりだから、分け前を……」

「相変わらず、俺だけに行かせるつもり」


 口では少し拗ねている様子ながらイズマの口元は笑みを作っていた。すぐさま後ろのバブリーを抱擁し、彼女の口に自らの口を交わして答える。まだ何も彼女は言わないが、彼の衝動を受け入れる事には慣れていると言わんばかりに彼の背中に手を伸ばす。褐色の肌をした左手――薬指には金の指輪がされていた。


「まぁ後詰めが足手まといになる位なら、一人の方がマシだ」


 妻との絡みを終え、イズマの席が腹部からスロープのように滑り落ちる。彼は弾帯をたすき掛けしてマシンガン、手榴弾を備えて地面に飛び降り、地下へと乗り込んでいく。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「やめるんだヒビヤマ君! いくら何でもそれだけは……」

「本来記録させるはずのデータが、サーバーと一緒にお陀仏なんですよ!!」


 ――ティーンパープルの地下深く。研究施設の主任を振り切りヒビヤマという人物が飛び出した。白衣を脱ぎ捨て少しでも動きやすい姿で、息を切らせながら奥の扉に向かう。銃弾の音が近づきつつあることに焦りつつ奥の扉が開くとすぐさま入り込んで扉を閉めた上で、非常用のシャッターを下ろし、


「このデータを使うとなれば一大事だが、この子たちが何も知らないで殺されるよりは!」


 ヒビヤマがズボンのポケットから取り出したメモリに目をやったのちに、ベルトコンベアに置かれた3つのカプセルへ視線を向けた。その銀色の長方形の中には3人の少女――赤髪のツインテール、エメラルドのストレート、ライトグリーンのポニーテールの面々はまだ10代半ばに差し掛かるか否か。


「このデータをハドロイド記録するには不適格になるが……プレイヤーがまだ子供だから外されたに過ぎない」


 彼女たちハドロイドに記録されるデータこそ、ハードウェーザーそのものであり、そのデータは地球側のオンラインゲームで使用されている。このオンラインゲームで優れた成績を誇る機体のデータが電次元側で共用され、実際のハードウェーザー候補として扱われる。

 最もオンラインゲームを楽しむユーザーたちにはその秘密を知らされているはずもない。特に子供、つまり15歳未満のユーザーによるデータは基本選考から外していたはずだが、


「どの世界だろうとも、好きで子供を戦争に出す事を……いや」


 ヒビヤマは現状を知らないまま眠り続ける3人へ憂いを抱く。彼女たちもまだ13歳と子供の筈なのに何故戦いへ駆り出されるのかと……。彼はメモリを備えられたパソコンに接続して、すぐさま彼女たちを転送する準備を始める。


「もうそこまで来ているか……!!」


 本来なら設置されたサーバーにより、データが自動でハドロイドと呼ばれる者たちへと記録される。だがネットワークの維持すらままならない今、バックアップ用のメモリからヒビヤマは手動でデータを記録していく。

 外のシャッターに対して爆発音が直ぐそこまで鳴り響いている。時間がないと判断したヒビヤマは、ソートした上位3機をハドロイドへ記録させることを選ぶ。彼は机の引き出しに隠された拳銃を片手に、機密保持のための自爆装置を起動させる――脱出の余裕が既に自分には残されていないと覚悟を決めていたが


「羽鳥玲也……まさか!」


 記録を終えた二人が既にこの場から転送されて姿を消し、最後の一人へも記録は完了した。わずかな余韻に浸るヒビヤマがディスプレイに目をやる時に驚愕の表情を見せつけた。咄嗟に上位に位置するデータには羽鳥玲也がプレイヤーとして登録されている。それも上位3機がよりによって彼一人のデータで占められていた為、3機とも彼の機体のデータが記録されることは想定外。それだけでなく、


「まさか、秀斗さんの……!!」

「……遅かったか!!」


 羽鳥秀斗を知る者として、ヒビヤマは今自分が、数奇な運命を紡ぎだそうとしているのではないかとの微かな予兆を察知したが――扉が砕かれてわが身が蜂の巣にされると共にその先を見届けていく可能性は潰えた。

イズマを背にして、力なくキーボードに上半身が倒れ込むと同時に3人目もまた転送された。


「ハドロイドを手に入れれば、バグロイヤーに席があったが!!」


 地下に眠る宝を手に入れそびれた今、この場に留まる理由はない。機密を隠滅しようとする相手の報復に巻き込まれれば元も子もない。やむを得ずイズマが地下から這い上がるように逃れた後、研究施設は奥の扉からの連鎖反応で爆発、赤い炎を地下深くから巻き上げていった。


『イズマ、ハドロイドは間に合ったか』

「……申し訳ありません、アステル様。あと少しの所で3機が転送された上、拠点も間に合わず」

『何? お前たちがハドロイドを手土産にするとの条件で仕官を私が認めた。傭兵としてお前達へ資金だけでなく戦力も提供した私の身にもなれ』


 アステルという男にイズマ、バブリーの傭兵夫妻は雇われた。だが彼が提示した報酬は決して破格の条件ではない。また戦力を提供したと彼は言うものの、その戦力が新兵同然のパイロットとくたびれたバグレラでは到底満足の出来るものではない。


「戦いは数だと確かに言うかしらね」


 最前線の空気に疎く、表面上の数だけで戦いを眺めている――通信機越しのアステルに対し、バブリーは微かにぼやく。妻の不服は自分にも当てはまる事とちらっと苦笑するような顔をイズマが見せたのちに、


『エリルは馬鹿だ。バグロイドのパイロットとしてエースにまで上り詰めても意味がない』

「既にハードウェーザーが出た今となっては意味はなさない。だから」

「……それでハードウェーザーが記録されているハドロイドを探して来いと」

『所詮機械人形、ロボットに変身するような頑丈な玩具だ。恥知らずな事をした奴らだ。手荒に扱っても死ななきゃ構わない。簡単だろう』


 アステルは今後の戦局にて、ハードウェーザーを手に入れる事が必要と捉え、イズマとバブリーら傭兵にハドロイドの回収を依頼した。ただ彼は今後の戦局で有用性があると見なしつつ、ハドロイドは人ではないと物や奴隷のように見なしてもいる。それがハドロイドを手に入れる事は容易いと言いたげだが、


「……そのハードウェーザーでそのエリルを出し抜けるのかしらね?」

「エリルだろうとハードウェーザーを倒した試しがない。お前たちにも分かるだろう?」


 叩き上げの傭兵故か、バブリーが少し皮肉を交えながらアステルの真意を突く。エースとして腕を鳴らしているエリルに対し、機体の性能で出し抜こうとする野心は見え隠れしており、エリルでも撃墜を成し遂げていないハードウェーザーを手に入れればそれは成し遂げられると答えており、


「最も俺がトップに就けば、お前たちの扱いにも影響が出る事は考えるべきだな。早ければ早い程だ!」


 有頂天な様子ながら、近い未来に自分の配下へ収まるであろう彼らに釘をさしたうえでアステルからの通信は途切れる。一方的な彼の指図に肩を落とすように二人はため息をつくと共に、 


「そのハードウェーザーを利用しなきゃ下剋上もできないなんて、本当小さいねぇ……」

「全くだが。俺達もまた前線で成り上がらないとこの仕事で食べることが出来ない。複雑だな……」


 イズマに憂いは少なからずあった。人間であることを捨てたハドロイドだけでなく、そのハドロイドを利用して同僚を貶めようとする依頼主にも、またハドロイドを回収して仕官の手土産にしようとする自分たち傭兵の生き方にも……だが、今日を、明日を生きる事を考えねばいけない彼らは、恥や体裁にこだわる事は出来なかった。


“そしてこの後、施設から転送された3人はドラグーン・フォートレスに転送され――そして羽鳥玲也というプレイヤーと出会う運命になる。そしてこの物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む斗いの記録である”

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