第1話「怒れ、電次元の戦士が発つ」

1-1 父と子、忘れえぬ誓い 

「ただいま……!!」

「お帰り、玲ちゃん。今日はど……」


 ドアを開けるや否や、母から“玲ちゃん“と呼ばれた子供は勢いよく二階へ駆けあがった。けたたましく階段を上る音と共に、襖を勢いよく開け、


「お父さん!」


 彼の目には父の姿があった。ランニングとタンクトップの後ろ姿を息子へむける彼は、コントローラーを手にしてテレビの液晶画面を凝視し続ける――ただゲームに打ち込んでいるままだ。当の息子が涙を浮かべながら頬を膨らませているのだが、それを知った事かと父の反応はない。


「やっぱりゲームばっかなんだ!!」

「……玲也!」


彼――玲也は、父の部屋に散らばった資料や本を踏み越えながら、ゲーム機の電源コードを引っこ抜く。液晶が一瞬にして暗転した時、無精ひげを生やした父は息子にようやく関心を持ち、静かに声を荒げる。


「玲ちゃん、今日学校の作文発表で何かあったの?」

「みんなに笑われた。お父さんが会社に行かないでゲームばっかりやって遊んでいるんだって」

「あらあら……」


 玲也の母・理央が察して尋ねた学校の作文とは、将来の夢についての発表だった。その時彼は父・秀斗のようなゲーマーになりたいと胸を張って語った結果、周囲から遊んでばかりいる秀斗の事を馬鹿にされた。それがとても悔しく家まで泣きながら帰ったとの事だった。

 この息子の訴えに理央は少し困った様子も示しながらも穏やかな姿勢を崩さなかった。しかし秀斗は分厚い書籍の上で握りこぶしを打ち付ける。その時に上がった鈍い音に玲也を一瞬怯えさせる威力があった。


「玲也、お前は去年も同じことを学校で発表した……覚えているな?」

「そうだけど……」


 秀人は静かに去年の事を指摘した時、玲也が歯切れの悪い様子を示す。昨年玲也はクラスから父がゲーマーであることを羨ましがられて良い気分だったという。その時の周囲からちやほやされる父を持っていることが玲也にとって誇らしかったはずが、今年になって逆に周囲から笑われる事を考えてもいなく、それが故に強い悔しい感情が生じたのだ。


「お前はそんなに俺がちやほやされてほしいのか。お前の夢の筈が何故俺の事を気にする必要がある」

「でも……お父さんが働かないからお母さんが働いているじゃないか!」


 秀斗は玲也が悔しがる理由を見通したうえで指摘した。父に論破されそうになると感じてこの息子は理央に頼ろうと話の焦点を焦らそうとするのだが――彼女は母として微笑みながらも首を横に振る。


「玲ちゃん? 私がお話を書いてるのは別にお父さんが働かないから仕事をしているとかじゃないの。お母さんがお話を書くの好きだから書いてるのよ?」

「お母さん! そういうことを僕は言ってないよ!」

「じゃあ何? 玲ちゃんはお母さんが書いたお話を仕方がなく書いたものと思うのかしら?」

「そんなことを僕はいっているんじゃ……」

「それにお父さん、ゲームを作る事もすることもお仕事なのよ?」


 理央は穏やかな物腰ながら忽然と言い放つ。母からの指摘に玲也は尚更言い返せなくなってきた。それでも踏ん切りがつかない態度を示そうとする息子に対し、秀斗は軽くため息をついて再び口を開いた。


「玲也、もし俺のようなゲーマーになる事がお前の夢だとしたら、どうして笑われただけで泣く。お前の夢はそれで砕けてしまうものなのか」

「そ、そんな事は……僕だってお父さんみたいにゲームが上手になりたいけど」

「その夢が人に笑われて嫌になるくらいなら、それは夢でも何でもない。そういう奴は人のすることを笑う事しかできない軟弱者だ。悔しかったらお前がそのゲームの腕を鍛えて見返してやれ」

「う、うん……」


 玲也が必死で目元の涙をぬぐいながら頷いた。秀斗はかすかに微笑みながらも、瞼を一瞬閉じて険しい表情でまた語り始める。


「それに玲也、お前は俺と同じゲーマーになろうとするならば、父さんのようになるだけでは駄目だ。父さんより上手くなれ」

「お父さんより上手くなるの……?」


秀斗から提示された目標に対して、玲也が理解するにはまだ幼く、きょとんとした様子もあった。しかし、父より上手くなれとの意味も同時に朧気ながら察しており、その時彼は恐れも感じて少し物怖じしていた。


「玲也、お前とは父と子だが、男同士でもある、戦うからには傷もつく。だがそれが親子として、父さんが望むことだ……」

「あなた」


 秀斗の語りに勢いが増してく所だが理央が優しく止める。目の前の息子が置いてけぼりにされている様子に気づいたからだ。彼もこの時は流石に早かったかと苦笑を浮かべた。


(僕はその時の為に、お父さんに追いつき追い越せって事かな……)


 だが朧気に、しかし確かに父の言葉の意味を玲也なりに受け止めていた。その時は漠然としたイメージを抱いていたにすぎなかったが、時が経つにつれて彼は意味の重さを実感していくことになる。そうせざるを得なかった事態へ暫くした後に直面したのである。


“この物語は若き獅子・羽鳥玲也の戦いの記録、戦いに巻き込まれながらも、父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む少年の物語である”

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