努力がどこまでも評価されるべき世界へ!

ちびまるフォイ

そんなあなたはきっと満点

私立頑張り高等学園。


今日はここで入学式が行われていた。


「みなさん、入学おめでとうございます。

 この学園では社会人に必要なスキルを磨いていきます!」


校長は話を続ける。


「この学園ではテストの点数で評価はつけません。

 大事なのは結果ではなく、過程。

 どれだけ頑張ったかを評価して成績をつけていきますので

 みなさん、精一杯頑張ってください!」


体育館が揺れるほどの拍手喝采を浴びて全校朝会は終了。


教室に戻ると男子たちはさっそくクラスのマドンナをめぐる

しれつな争奪戦が繰り広げられていた。


「最初に隣の席に座ったのは俺だぞ!」

「うるせぇ! 同じ中学だった俺にゆずれ!」

「お前ら顔面偏差値の低い人間が近づくな!」


「犬ども、おだまりなさい」


マドンナは扇子を広げて騒ぐ男どもを黙らせた。


「わたくし、この学園に入ったからには一番の男にしか興味ありませんわ。

 醜い争いではなく、この学園の成績で競ってみなさいな」


彼女の言葉は男たちを駆り立てた。かくいう俺もその一人だった。


成績が良ければマドンナを彼女にできる。

それはどんなゲームを買ってもらえるよりも嬉しいご褒美だった。


それからしばらくして、小テストの返却が行われた。


「なっ……れ、0点!?」


「田中、お前はもっと頑張れよ。先生悲しいぞ」


「ちょっと待ってください! どう見ても答えは合ってるじゃないですか!

 採点ミスですよ! 断固抗議します! 責任者を出してください!」


「バカ野郎。ここは結果じゃなくて、過程を評価対象とするんだぞ」


「そんな話を聞いたような……」


「お前はろくに勉強もせずにこのテストに挑み、満点をとった。

 これが社会でどういうことを意味するかわかるか?」


「めっちゃ天才ってことでしょ?

 これでも俺はハーバード大学に首席と落書きしたことがあるんです」


「0点だ。対して努力もせずに結果を残すものはやっかみを受ける。

 社会で生きてくためには、努力をする過程が大事なんだ。山田を見てみろ」


先生の指差す方向には頭にハチマキを巻いた男が立っていた。


「フフフ。俺はこのテストを受ける前に必死に体を鍛えてきた。

 毎朝早く起きて、バイトして、学校から帰ってからも仕事を手伝った!」


「いや勉強しろよ!」


山田のテストの回答はさんざんなもので、数学の問題に英語で答えを書いていた。


「山田はこんなにもテストに向けて努力したんだ。

 こんなにぼろぼろになって……それを評価しない理由があるか!?」


「ええええ!?」


「田中、これが頑張り学園の教育方針だ。

 社会では結果ではなく、過程がいちばん大事なんだ。覚えておけ」


「ぐぬぬ……」


単純に山田の顔がムカつくとかそういう理由は脇においても、

小テストの満点によりマドンナとの距離を詰めたのが許せない。


「山田、俺は回りくどいこととがきらいだ。ここで宣戦布告する」


「それがなんだって言うんだ?」


「次の期末テストで決着をつけよう。

 頑張り期末テストの結果が良かったほうがマドンナの恋人になる」


「ほほぅ、大きく出たじゃないか、秀才。

 この学園において物覚えの良さが足を引っ張ることはわかっているのか?」


「わかったうえで挑戦しているんだ。

 悪いが俺は電車のはじっこの席と、マドンナを譲る気はない」


「おもしろい、受けて立とう」


ここに第一次マドンナ争奪戦争が開幕した。


中学時代は地元でも有名な進学校に通っていた俺は勉強の要領を掴むのが早い。

それだけに人より短い努力で多くを吸収してしまう。


「くっ……! あえて手間をかけるのがこんなにも苦痛だなんて……!」


さっさと終わらせてしまえば努力の過程が失われる。

たとえ見当違いの努力であったとしても評価されるのなら妥協はできない。


俺はテストの勉強だけでなく、家の手伝いをしたり、ボランティアをしたり

ときに株式市場を勉強したり、小説を書いたりして、努力を続けた。


「はぁ……はぁ……テストはもちろん、テスト外の努力も欠かさなかったぞ。

 山田のやつ、どうしているかな」


敵情視察という名の努力をすることに。

山田はというと南の島でバカンスを楽しんでした。


「あいつ……! 余裕ぶっこきやがって!!」


トロピカルジュースで体を洗っている山田を見て殺意が湧いたが

同時に次の期末テストでの勝利を確信した。


「ふふ。俺がこんなにも努力していることも知らないでのんきにバカンスか。

 おおかたテスト前に土下座で泣きつくあいつの姿が目に浮かぶ」


俺はそれからも努力を続けた。

ムシの観察をしてみたり、婚活してみたり、自由研究してみたり。


期末テスト直前になると、決定的な差に気づいた山田が土下座で泣きついた。


「お願いだ! こないだの約束はなかったことにしてくれ!

 期末テストの結果がどうあれ、マドンナのことは不問にしてくれ!」


「そう言うと思った」


「認めてくれるのか!?」


「アリとキリギリスの話を知ってるか?

 努力を怠っていたお前には罰を受けるべきなんだよ」


「お前のことをみくびっていたんだ。

 こんなにも努力するなんて思ってなかったんだ!

 もうマドンナに近づけなくなると、俺の学生生活お先真っ暗だ」


「なら、交換条件だ。お前の知っているこの学園の裏情報を教えろ。

 この学園はまだまだ俺の知らないことが多いからな」


「わ、わかったよ……。

 この学園では、努力する過程も評価されるけど

 人をうまく操るという力も社会で役立つって裏評価対象になってるんだ」


「……へぇ。それだけか」


本当は自分も知り得なかった裏評価だったので驚いたが、

ここで驚くリアクションは相手にペース握られるのでぐっとこらえた。


「そ、それだけじゃない! 他にも裏評価があるんだ!

 たとえば、努力したけど結果が出ないときのほうが、高く評価されるんだ!」


「どういうことだ?」


「必死に勉強したのに、テスト範囲を勘違いしていたとか。

 必死に勉強したのに、名前を書き忘れるとか……」


「なるほど、いいことを聞いた」


「ほ、本当か! なら約束は――」


「ふふふ、俺がいつ不問にする約束をした?」


「だ、だましたな! 俺から情報を引き出すために!」


「この学園では人をうまく操るのも評価対象なんだろ?

 頭の悪いやつを手のひらで踊らせることも評価されるんだ。何が悪い」


山田は悔しそうにハンカチを噛みちぎっていた。

まもなく期末テストがはじまる。


「それじゃ、テストを渡すから、後ろの席に回してくれ」


テストの内容自体は努力したかいあって答えがすぐに浮かんだ。

あえてマークする場所を1段ずつずらして、満点を0点に偽装する。


(そういえば、名前も書かないほうがいいって言ってたな)


極めつけに名前をあえて空欄にして提出した。

俺だけ返却されていないことがわかれば、このテストが特定されるだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


Q1.このテストまでにあなたがしていた努力を書きなさい。(配点100)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




やがて、テスト返却の日が来た。


「さて、誰がわたくしの恋人になるにふさわしいでありんしょう」


「お前キャラ変わってね?」


「コレが高校デビューでしてよ」


マドンナは専用の玉座に座っての高みの見物。


「それじゃテストを返すぞーー」


先生は採点済みのテストを返却していく。


「佐藤、お前は努力が足りなかったな」

「斎藤、前より努力したみたいだな。よかったぞ」

「溝口、次もこの調子で努力しろよ」


俺のテストは無記名。最後までゆっくり待つ態勢を整える。


「田中」




「田中!」


「えっ!? は、はい!?」


「お前のテストだぞ。早く取りに来い」


「いや先生、待ってください。俺の名前は無記名で……」


「うそつけ。ほらちゃんと書いてあるじゃないか」


テストには確かに俺の名前が書かれていた。俺じゃない筆跡で。

全員に返却し終わると、先生は1枚だけ残った答案を持っていた。


「まだ返却されてないやつはいるか?」


「はい! 俺です!」


山田が全力で手を上げて立ち上がる。


「山田。お前、このテストまでに必死に努力したようだな。

 しかし、テスト本番になって、名前を記入し忘れたあげく

 回答場所を1段ずつズレて記入するなんて、本当に素晴らしいぞ」


「はい! これからも努力を続けていきます!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Q1.このテストまでにあなたがしていた努力を書きなさい。(配点100)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

A.ろくな努力もせずにバカンスをして過ごしていました。



俺の名前が書かれた答案用紙はみごとに0点になっていた。

誰の筆跡で、俺の名前を書いたのかはすぐに理解した。



「せっかく、人を操ることも評価対象だってヒントやったのにねぇ?」


山田はいじわるそうに笑った。

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