振れば芍薬、投げれば牡丹、放つ姿は百合の花園

くさなぎ そうし

1.『わたしはずっと大緒のこと、そういう目で見てた』


 1.


「小百合! ちょ、まじでやばいって!」


 慌てて小百合さゆりを引き離そうとするが、彼女は笑みを見せながら動じない。


大緒なお、じゃあ今の返事は嘘ってこと?」


「嘘じゃないよ。でも、ここじゃ……」


「じゃあ場所を変えればいいの?」


 小百合は蠱惑的な目で私をねめつけて体をべったりと預けてくる。



 ……仲直りしたかったけど、まさかここまでになるなんて――。



 小百合は右手につけていた掛けを外して、私の制服越しに胸に手を当てる。それと同時に心臓が痛いほど加速していく。この感覚は今までに味わったことがない。


「大緒の胸、あったかい。ずっとこうしたかった……」


「小百合、恥ずかしいよ……。ねぇ、やっぱりここじゃ……」


 小百合の小さくて柔らかな手が、華奢でありながら密かに感じられる胸が私の体温を上昇させていく。普段なら高度なスキンシップくらいで済むものが、夜の弓道場が私に背徳感を与えていく。


「大緒。ここ以外にわたし達に場所なんてないよ? 早く観念して、わたしを受け入れて」


「え、でも……」


「ちゃんと優しくして上げるから……ね?」


 小百合の形のいい唇が私の顔に近づいていく。ここで踏み込まれたら私達は友人関係ではなくなってしまう。



 ……本当に私は小百合のこと、好きなの?



 心の葛藤が一秒毎に起こり思考がどろどろに溶けていく。今までこの10年間、友人としての小百合を受け入れてきたつもりだった。それがたった一日でこうも変わるなんて。



「早く目を閉じて。大緒、わたしを受け入れて」

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