休日

 巨大猫、

 前川彰良は、

 遊びに行く前に寄った駅の喫茶店で、

 知り合いのイフロムとその友人を見つけた。

 イフロムはゆったり座って、

 酒入チョコケーキを食べている。

「元気でした? 前川さん」

「おぉ、ひさしぶり」

「は、はじめまして」

 友人、ジョンフラムは持っていたタブレットを置いて、

 はにかんだ笑顔を見せる。

 巨大猫は席には座らずに、

「おう。こんちは。君だれや」

「ええと……」

「ま、ええわ。イフロム、

 面白い事あったぞ」

「どんな事ですか」

「本気で、

 俺を政治家にしようとした奴がおったんや、

 結構ハナシ進んで、民自党の……」

「嘘でしょう」

「ほんと。

 それで、民自党の小山代表に会ったら、

 君をプッシュするから一億円用意してくれって言われて、

 ふざけてるから、そんなん俺やらん、クソガキが、

 って言って帰ってきたのね」

「?」

 ジョンフラムは聞き違いかと思って、瞬き。

「ホントの話やぞ。そしたらさ……、

 バトルネットワークって知ってる?」

「貴方の興行団体」

「おお、そう。

 俺、格闘技の興行団体やってるから。

 言ってもないのに知ってるってうれしいなぁ。

 それでさ。小山代表、怒ったんやろ、

 バトルネットワークの、

 スポンサー9社にマル査ね。

 いきなり国税局が入って捜査されて……、

 スポンサーが全部、次からの出資、降りやがった。

 どうやったの、あ~、政治家って、

 そんなことできるのぉって」

「まあ」

「ちょっと困ったことになってた。

 小山を蹴りに行きたくなったけど」

「それから?」

「俺の必殺技知ってる?

 デッド・ファーサイド……。

 まぁ、回転しながら出す蹴りやけど。

 パクってる奴、多いよ。

 すごいやろ」

「私、よく知らなくて。

 そんなことして大丈夫ですか」

「大丈夫やけど。

 あ、政治家、蹴ること?

 くそやからな。

 でもイケナイ事はもう止めようと思ってるから。

 ……。

 お前は大丈夫か、

 貸せるくらい金ある?」

「あぁ、触らないで」

 巨大猫は前足を引っ込めて、

「冗談だよ。俺、奥手だから。

 そういえば、この後、

 軍隊のイベントに行くんやけど、……」

「誰かに呼ばれたんですか?」

「いや、自分から行くの。個人で。

 行ってみませんか~」

「私たちもこの後、用事があるので」

「そうか。

 ならいいか。じゃあな」


横浜ドッグでは、

 イベントの前に、

 戦闘機のパイロットたちが、

 戦闘ビデオを見て勉強している。

「レッドディガンは、

 バネでも入ってるような……。

 普通は出来ないね」

 所属不明のロボット、

 レッディガンが、

 黒いロボット、ブラックディガン、

 別名ガンディレードと対峙している。

 ガンディレードから繰り出される攻撃を避けて、

 ジャンプする、足をそろえて――。

「このジャンプして両足をそろえる蹴り、

 ほんとに質量攻撃ですよ」

「俺たちは、かすったらおしまいだ。

 アポロン・ロケットと名付けよう」

 黒いロボット、ガンディレードがそれを受け、

 装甲がひしゃげて剥がれていく。

 レッディガンが向かい合って飛び蹴りを放つ、

 その敏捷さとしなやかさによって、

 蹴りが相手のヘッドパーツの後ろに当たると、

 油圧駆動機構の異常が起こりオイルを吹いている。

「こっちはスマッシュ・カッター」

 レッディガンの手首と足先からは、

 巨大な刃物が伸びることがあり、

 ガンディレードが打ちのめされている。

「この黒いディガンは新型で、

 割と大きい予算がかかっているはずなのに、

 この後、デッド・ファーサイドを食らって、

 異常爆発を起こしている。

 中々、勝てそうな方法がないな。

 陸戦部隊でも駄目だったか」

「そろそろ、

 行きましょうか」

「イベントで飛ぶのお前らだぞ」

「わかってますよ」

「俺と檜は今日は飛ばないんだ。

 クロエと行ってこい」

「はい」

 今日は一般向けの『オスカー』と『ムスタング』の飛行鑑賞会がある。

 上口とクロエは己の機体に向かうため外に出た。

 歩きながら、

 クロエはフードをかぶった。

 上口は話し出す。

「そういえば前に、

 アントニオ猪崎のビンタ会に行ったんですよ」

 クロエが聞く。

「ビンタ会、隊長が叩かれたって?」

「そうなんです。

 それはそういうものなんだけど、

 そのとき隊長の装備が反応して、

 バリアを張ってしまって」

「うそぉ」

「軍事機密ですよ。

 隊長のバリアが、

 パーンって手を、

 ビンタを弾いて……」

「やばいじゃん」

「そうですよ。

 隊長は俺の次だった。

 アントニオ猪崎はバリアで弾かれて、

 おかしいな、って言って、

 もう一回、ぐわーって強めにビンタして。

 それで手がバリアの熱でじゅわーっていって、

 バリア突き破って、隊長は思いっきり吹っ飛ばされちゃって。

 ビンタ会はそこで中止。氷水で手を冷やしてました」

「ひえ~」

 近づいていくとロボットの姿が、

 だんだん大きくなっていく。

 観客が見守る中、2人が近づくと、

 配備された『オスカー』と『ムスタング』がしゃがんで、

 大きなメカの手を降ろす。2人はそれに乗ってつかまると、

 手はコクピットまでパイロットを運んだ。

 そしてコクピットに乗り込むと、ハッチが閉まる。

 モニターは前も後ろも外の様子を映し出した。

 2人はまだ話している。

「そのあと普通にトークショーになったんだけど、

 隊長とイベントにも、わるいことしたな」

「何か言われた?」

「だ、誰にですか?」

 あのとき隊長はしばらく無言だったが、

 別れ際には、また行こうね、と笑顔だった。

「なんか健気だなーって。

 いや、何にもないですよ」

「え? 向こうサイドに何か言われた?」

「あ? えっと……。

 焼けた手、こうやっておさえて、

 スマン大丈夫か? って……。

 でもそれ以前に、

 そっちの手は大丈夫か~って……」

「言ったの?」

「いえ。様子を見ようと思っていたら……。

 そのままトークショーになったから、

 すごいですよね。事故ですよ。普通にすごい」

 アナウンスの声。

『ご来場いただいてありがとうございます。

 ただいまから、

 オスカー、ムスタングの飛行を始めます!』

 両機のコクピットからは、

 観客の姿がよく見えている。

「人、来てますね!」

「こんなの、興味ある人って、

 いっぱいいるのね。

 おじさんと家族ばっかりだけど」

「あ、巨大猫だ」

「有名人?」

「そう。戦闘機、好きって話ほんとだったんだ」

「テイク・オフ」

 両機はもつれあうように飛んだり、

 整列して変形するなど、

 様々な動きを披露して、歓声。

 イベントは滞りなく進んでいく。

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