クロユリ、鎧通し

 今日、一日はいい日だろうか?

 どこか山奥、落ち葉が堆積して腐葉土がどんどん出来ている。

 大量の腐葉土に隠れた地下に広がってモンスターの巣があるという。

「シモ、シモ、早く」

 灰色の髪、しまった身体。163センチ。

 手甲をつけて……手甲は忍者がつけるような腕を守るもの。

 黒のロリータ姿。少し長いスカートを脱ぐと黒の下着、

 いやそう見えるが服の一種、装備品だ。軽いナイフを保持できる。

 刃がかなり曲がってマトに引っ掛ける事ができる、クロユリのナイフ。

 離れたところから声、

「先生、ま、待ってください」

 脱いだスカートを袋にしまって一言。

「遅いです。後で殺しますから」

 彼女は黒百合戦術の開祖、クロユリ先生。

 19くらいに見えるが年齢は秘密だ。

 先生の口癖と知りつつも怯えつつ、

「ひえ~……」

 走って傍に来た、頭から角を生やした鬼族の男。背に細身の槍を持つ。

 シモ・ヤマは彼女に愛されてる、今のところプラトニック、気持ちの愛。

 スカートを脱いだクロユリは後ろから見ると、

 上はロリータ、下は黒い下着姿にも見える。

 けっこうかわいい。シモは、目をそらした。

 お互いが仲間、戦うときは相棒だ。

 村人に伝え聞いた場所で腐葉土を少し掘ると地下道への入り口があった。

 先に松明をたくシモ。クロユリはスコップをしまって、折りたたみ、荷袋に戻す。

 ひんやりして土臭い中に入る2人。

 入ってみると地下はそこそこ広くなっている。

 クロユリは肩を回している。

「モンスターは、もしかしてワタシらが来るって知ってるだろうか?

 そんな気持ちになるね」

「あ~、そうですね先生。さあ、これを」

 と松明をクロユリに渡すと、

 2人で進んでいく。十分ほど進むと、落とし穴、トラバサミ……。

 シモは要所要所に槍を突っ込んで、罠を破壊していく。

「ここの罠も気をつけていけば、大したことないですねぇ」

「そーだな。こんなもんかって感じだね」

 隠れていた、飛び掛る1匹のゴブリン。

「おぉ、来た」気が付いているクロユリ。

[KII!](掛け声)

 クロユリのパンチは間接をバネにしてしならせる『鎧通し』……。

 こぶしは中指だけわずかにせり出している、血が付いた。

 ゴブリンの顔を砕いて絶命させた。

 今のところギルドでは習得できない技。

 薄暗い中でぞろっと現れる、2人を囲むように6匹ほど。

 ゴブリン、オーク、オーガもいる。

 おのおの武器を持っていて、

 自分たちの言語で言を交わす、

[Somotokutihahi](攻めて来た)

[Kyuteriki……](侵入者だ)

[Sawasutoyurezo!](殺そう)

 そして一斉に二人に飛び掛る。

「おぉっ、ではぁ~っ!」

 シモは足に力を入れて憤怒の表情で槍を振るう、

 魔物達がシモに届く前に1匹の頭蓋が貫かれた。

 シモは槍を抜かずに手を離し、傍の2匹を蹴り飛ばす。

「やる~」

 クロユリは自分のナイフを抜きつつ飛び込み、

 1匹にくるんと抱きつき後ろに回る。ナイフと松明を持って器用な動きだ。

 そのオークの身体でもって、あと2匹のメイスとナイフを受け止める。

 後ろから抱いた首の前をさっくり切って蹴る。

 ゴブリンが多少うろたえながら仲間の身体からナイフを抜く、

 横からシモの槍がその一匹を貫き、

 残りのオーガ1匹に『鎧通し』の動きで首にクロユリのナイフが突き刺さった。

 間接をしならせる鎧通しの技はナイフを持っていても応用でき、

 ナイフとパンチが同時に入ったようになって威力が上がる。

 乾いた瞳ながら落ち着いて、クロユリは松明を持ち直し、

「ま、こんな感じがしますね」とナイフをしまう。

「またひとつ男が上がった気がする……」

 シモも、にかっと笑顔だ。槍を拭いて背負った。

 一瞬の戦闘で2人の体に少し汚れが付いた。

汚れを軽く払って奥へ行く。

そこからは罠も無く、しばらく歩く。

 向こうから松明を持った冒険者たちが3人。

「おや? 向こうからも人だ」

「入り口が、他にもあるニャ~」

「ダレカナ、誰?」

 シモが声をかける、

「そっちの人たち、冒険者ですか」

「あれ、シュナイヴじゃないの?」

「姉さん。こんなところで会うとは」

 偶然、クロユリは弟に出会った。

 同じく黒い服、似たような武道の立ち方。

 猫耳と尻尾のある娘、フォエン。

 人間でないものカラーアリス。簡単に紹介を受け、シモ、

「演劇に本当の武道の動きを取り入れるため先生と旅しています、シモ・ヤマです」

「役者さんだそうだよ。強いから、いつか、ただの武道家にしてやるけどね」

「いや、はは、それだけには……」

「2人トモ冒険スル人? 冒険者ダナ!」

「そうだよアリス」

 カラーアリスの髪を撫で、

 シュナイヴはシモに話しかける。

「姉さんと旅とは。大丈夫でしたか?」

「はぁ、最初のうちは、殺すぞ、殺すぞって……思い出したら、涙でます」

「だって弱かったもん。考えられねぇよ、って思ったもんね」

 もとはシモが弱いせいで大変だったと思っているので、

 クロユリは悪びれず、しょうがないだろというふうに首を振る。

 話を続けるシモ。

「今は……。殺しますから、

 って丁寧に言ってもらえるようになったので大丈夫っす」

「それって大丈夫かニャ」少しフォエンが心配する。

 シモは平気そうだ。根性のある男だ。

「はい。弟さんの話は聞いてましたよ」

「さんざん言ってただろうな」

「いやー、なんか、ちょっとだけ。弱いとか……。

 体とか、別に聞いてたほど弱そうじゃないですね」

「フッ、そんなことはない。

 オレも常人だということを姉さんに思い知らされました」

「シュウさんのお姉さん、よろしくニャ。フォエンです」

 握手するクロユリとフォエン。

「塔のフォエンか。エルフの里で聞いたわ」

「コッチモ、ヨロシクネ」クロユリの手甲に触るカラーアリス。

 まっしろい美しい少女に、

 クロユリは微笑んで、

「あれぇ? なんてカワイイ」

 そう言われて、

「ウフフ~」身体をゆすって喜ぶアリス。

「魔法生物か何か? 食べてしまおうか~」

 普段のクロユリは武の道にいき、

 自身が女であることもあり、

 美しい少女をカワイイとまでは思わないので、

 自身がそう思ったことに驚いている。

 みんなが受けていたのは魔物の数を減らして帰ってくるという依頼だ。

 さらに奥まで、魔物を倒しながら進んでいくと、

 上に大きな穴が開いて、太陽の光が差し込む小さな空間に出た。

 緑の草、一面に生えていて水気を帯びて輝いている。

「あまりモンスターがいないなぁ。シモ、休んで帰ろうか」

「そうですね~、先生。ここが一番奥かぁ。

 3人とも、休んでから帰りませんか」 

 切り上げて帰っていく5人。

 クロユリは袋から取り出して一瞬でスカートを履く。

 依頼は村の人から直接受けていた。5人は少しばかりの報酬を受け取って、

 宿屋へ向かう。夕方になった。ベルゼの宿屋で食事をとることにした。

 しっかりした石造りの宿屋。明かりを焚いて宿泊客を待っている。

中は魔法の明かりで明るい。食堂へ向かう5人。

 食事を取っている3人が居る。

 地下で会った3人の仲間のようだ。魔女の少女、

「おかえりなさい、シュウ。大丈夫でしたか?」

「大丈夫もなにも、オレは……アリスのおもり。他のみんなばかり活躍だ」

 クロユリの目に留まったのは鎧の大男だ。

「そこのお方、名前を聞かせていただけませんか?」

 立って食事を取る男、高潔な瞳がクロユリを見る。

「私ですか」

「そうです」

 クロユリの目はきらきらしている。答える鎧の大男。

「私は、ザ・ブレイブ。今でも冒険をしていますが、

 全部が全部は昔のようにはいきませんな」

「勇者様なんですね」

「ええ、そう思っています。そう呼ばれもしますが……」

 クロユリの目がうるむ。

「ワタシの鎧通し、鎧通しは、あなたの鎧を砕くことを目標に鍛えてきました」

 勇者のそばに居た金髪の子供が、えっ、という顔。

 伝説のとおりなら導師。勇者を守っているジョンフラム。それをよそに、

「本気の技、お手合わせ願えませんか?」

「はっはっは。なんと若い。いいですとも。来なさい」

 クロユリは速い。一瞬でスカートを捨て、肉体の動きを使って、

 鎧通し、こぶしをしならせ勇者の鎧をぶち叩いた。

 神の力を持つ鎧から防御のための衝撃が生まれ、猫娘のフォエン、ソウル、と叫んでエネルギーのバリアを発して仲間をかばう。宿屋はいっぺんに大損害。鎧通しと鎧から生まれた衝撃が宿屋ぜんぶの窓を割ってしまう、しかも天井をも吹き散らして、何もかも宙を舞う、それどころか最終的には、宿屋そのものを吹き飛ばして崩壊させてしまった。

 勇者の鎧と黒百合戦術は凄いものであった。


 がれき、がれき、がれき……。

 そこから、がばっと、金髪の美しい子、導師ジョンフラムが起き上がって、

「……。異界正義の大神、イドムドス、時間を戻してーっ!」

 叫ぶ愛らしい声。導師はただの人間でありながら、

 大いなる神の加護を受けていて、人知を超えた奇跡を起こせる。


 そして、時は戻った。

 クロユリの目はきらきらしている。答える鎧の大男。

「私は、ザ・ブレイブ。今でも冒険をしていますが、

 全部が全部は昔のようにはいきませんな」

「勇者様なんですね」

「ええ、そう思っています。そう呼ばれもしますが……」

 クロユリの目がうるむ。

「ワタシの鎧通し、鎧通しは、あなたの鎧を砕くことを目標に鍛えてきました」

 勇者のそばに居た金髪の子供、

 ジョンフラムが、

 すっと勇者のそばへいく。

「勇者様~」

クロユリは言う、

「本気の技、お手合わせ願えませんか?」

 勇者は近寄ったジョンフラムの髪を撫で、

 仲間がそばに来たので闘志が和らぎ、

「いえ……。ここは宿屋ですからな。今度にしましょう。

 そちらのお名前をお聞かせ願えませんかな?」

「は、はい……。クロユリです」

「クロユリ君。見たところ、君の力は何か到達したものがある。

 強いパーティーに入っていても、おかしくないようですな」

「いやぁ~、そんな~、そんなことは~」

 憧れの人物に褒められた。

 その後、勇者たちは先に部屋へ行った。

 そしてシモと、今日会った人と食事する。

「先生、うれしそうっすね」

「久しぶりに会えてよかった。姉さん」

「あっ、シモ、シュウ、あんまりしゃべるな。余韻が……」

 ワインを頼んでカルパッチョと野菜の煮込みも。

 クロユリの一日、いい日だった。

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