第14話.俺は……分からない
「まさかっ曲谷が部会に来るとは思わなかったよ」
完全下校時刻30分前の頃合いの廊下、まだ夏には程遠いからかすでに日が沈もうとしている。
夕焼け差し込む陽光、太陽からの光が窓を反射させながら多彩な色彩を生み出す。光のスペクトル、分光というやつか。
「ああ、おかげで面倒なことになったがな」
次々に過ぎていく教室はどこも空の容器のようだった。それはそうだ、まだ入学してまもないのだから。
俺はそんな曜日感覚がすでに麻痺していることに感心しつつ残念に思いながらも、これはこれで面白い生き方なのだろうと薄々実感する。
「ふーーん」
俺と神無月以外に生徒がいない静寂に包まれた校舎内で二人話す、どんなラブコメだ。
一つ感嘆文を呟いてから、納得しない空白にはまるピースを探すように訊いてきた。
「じゃあ、なーんでそんな楽しそうなのかな」
後ろで両手を繋ぎながらリズムよく歩く神無月。そっちの方が楽しそうに見えるんですが。そんな駄文を口に出して言う必要もないので俺は素直に、嘘が一部含むように答えた。
「愉しいから、が正しいかもな」
やっぱり……と胸内で思っているのだろう。口に出さなくても「ほら~」と俺に語ろうとしているのが表情で読み取れる。言葉に出さなくても感情を理解させることが出来るのはこの神無月だけだ。
ところで神無月はこの件をどう思っているのだろうか。入部した途端に廃部の危機にさらされている今、何故自分に責任が回ってくるのかと考えはしないのだろうか。
何よりも彼女の威勢の良さが気になる。どうしてそんな笑顔で居れるのか、何故失敗してしまうかもしれないという恐れを抱かないのか。
俺は気になって仕方がなかった。
そのせいなのか、自分自身のことであるはずなのに訊くことに躊躇してしまった。 どうしてそんな
「神無月は……よ。なんで新聞部なんかに……」
そうこうしているうちにどうやら目的の教室に到着したようだ。
「おっ、着いた着いた!ではではーこれにて解散、また明日もよろ~~」
神無月は頭に手を添えて敬礼のポーズをとると、人気が無く寒々とした教室へ小走りで戻ってしまった。
独り廊下に取り残された俺は、まるで自分の質問から逃れるようにそそくさと教室へ戻っていった神無月の後ろ姿をちらりと見て、
「自分のことは興味ないってか……」
と誰も聞いていない廊下で言葉を濁した。
俺はその後、別棟の部室へ向かうために屋外廊下を通ろうとしたが、外へ繋がるドアが施錠されており、もう一度二階に降りてから別棟へと歩いて行った。
俺が部室に着いた時、やはりというか至極当たり前の事実であるかの如く部屋の電気は消され窓も閉められていた。
誰も居ない部室に独りでいることの優越感を久しぶりに味わえたかと思ったが矢先、俺はそれを見つけた、いや見つけてしまった。
『too delay.鍵はあなたが持ち帰って必ず明日持ってくること。忘れたら罰ゲーム』
くだらない文だと、創作者の悪癖が働いたのだろうと俺は彼女の意向に察した。
別に虐めを受けたわけでも、罵倒されたわけでもないのに、どうしてか心残りがあるというか、後味が悪い日だったような気がする。
ようやく波乱万丈な高校生活二日目も終わりを迎えたようだ。
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