vs 知り合いらしきやつら+???
言われた通り寄り道したりせずに真っすぐ南口に到着。
そのまま町を出ながらエアの指示に耳を傾ける。
向こうはこちらの位置を把握しているはずだし何も言わなくていいから楽だ。
(しばらくは街道を沿って歩け)
(了解)
街道を歩く事数分。
そこそこ街から離れたはずなのに、エアはまだ何も言って来ない。
(随分と歩くんだな)
「暗視」のスキルがある俺には関係ないけど、人間で夜にこんな街から離れたところまで出歩くやつはそうそういないはず。
精霊同士の戦闘を目撃される事を警戒し過ぎじゃないだろうか。
(用心するに越した事はないだろう)
(それもそうだけどさ)
(よし、その辺で止まれ)
指示通りに立ち止まり、何となく空を見上げた。
満点の星空だ。ティナが喜びそうだし見せてやりたい。
部屋からも見えはすると思うけど、夜の草原で寝転んだりしながら見ればまた別の良さがあるはずだ。
今度誘ってみようかな、誘うの緊張するな……。
あれこれ考えていると、エアからまた指示が飛んで来た。
(お前の右手側、街道から離れたところに大きな木があるのは分かるか?)
(ああ)
(あそこまで行ってそこで待て。やがてテイマーズの連中が来る)
(了解。ご苦労様)
(私はお前たちが人間に見られない様、周囲の警戒に当たる)
そこで通信は途切れた。
指示された通りに大きな木の下まで歩いて行く。
昼間にここで寝たら気持ち良さそうだな。
そうだ、夜空の星鑑賞会にティナを誘う時はこの木の下にしよう。
梢を見上げながらそんな事を考えていた時だった。
背後からの魔法の発動音。
振り返ると、精霊たちが転移魔法で送られて来たところだった。
通常人間たちや一般の精霊が使う「テレポート」だと街周辺や特定の建物の前等出現する場所が限られている。
だから街から離れて建物なんかもないここにピンポイントで位置を指定出来ているこれは、ダンサーズ専用スキルによる転移だ。
現れた精霊は三人。
その内、真ん中に立っているやつがおもむろに口を開いた。
「はっはっは! 久しぶりだなぁジン! 逃げずに来た事は褒めてやろう!」
「ありがとうございます」
ティナに優しく説教されたばかりなので、知らないやつには敬語を使う。
いや待て、こいつ久しぶりって言ったか?
もしかして会った事がある……? う~ん、思い出せん。
俺の知り合いらしきやつは演説を続けた。
「しかぁし! 今日ここでお前は私たちに倒され、伝説の礎となるのだ!」
「わかりました」
そこでやつらは各々武器を構えた。
こちらもゼウスの絵が描かれたこんぼうを取り出す。
「行くぞっ!」
三人が前屈みになり、こちらに向かって走るための予備動作に入る。
それを確認した俺は腕を身体の内側に引いてスキル名を宣言した。
「『爆裂剣』!!」
三人がいる辺りに意識を向けてこんぼうを左から右へ、横なぎに振る。
やつらのいる場所が爆散した。
立ち込める土煙をぼんやり眺めていた俺は次の瞬間、驚愕に目を見開く。
煙が晴れると、そこには三人が変わらずに無傷で立っていたからだ。
すると真ん中の男が相変わらずのハイテンションで口を開いた。
「はーはっは! 何を驚いている! 私たちが何も貴様の対策をして来なかったと思うか!?」
「まさか……」
「そのまさかだ! 我らが纏っているこの鎧にはなぁ、他の耐性を犠牲にして爆発耐性を付与してあるのだ!」
そう言って男は再び何度目とも知れない高らかな笑い声を上げる。
…………。
俺は頭を抱えてため息を吐いた。
そもそも「精霊剣技」とは何か?
簡潔に言えば、武器に魔法を乗せて放つスキルの事だ。
これは精霊にしか使えない。
人間にも「魔法剣」や「魔法付与」など似た様な事を出来るスキルは存在するものの、「精霊剣技」とは少し違うのだ。
では何故わざわざ武器に魔法を乗せて放つのか?
答えはかっこいいからだ。
逆を言えばかっこいいだけで他にメリットはない。
例えば「爆裂剣」は爆発系魔法を単体で撃った方が何かと効率的で、それを武器に乗せる意味は特に無いのだ。
だから精霊の間では「精霊剣技」はネタスキルだとかロマンスキルだとか言われている。
とは言えその魔法を乗せる技術自体には意味があるんだけど……。
それはこの場では関係のない話だ。
とにかくこいつらは「爆裂剣」という「精霊剣技」の中でも一際ネタ度の高いスキルに絞って対策を立ててしまったらしい。
呆然としていると、真ん中の男がこちらに手のひらを向けて言った。
「さあジンよ、遊びは終わりだ! 『ファイアランス』!!」
男の周囲に炎の槍が何本も出現し、俺を目掛けて襲い掛かって来た。
これくらいなら何ともない。
多少追尾はしてくるものの、一旦引きつけてから円を描くように走って避けていく。
別の隊員も『サンダーボルト』で攻撃してくる。
相手の手の平から稲妻が発生してこちらに目にも留まらぬ速さで飛来した。
でも弾道が直線で追尾もして来ないので、横に移動しているだけで避けられる。
リーダーっぽい男が顔を歪ませてから口を開く。
「噂通り足も速いようだな。ならばこれでどうだ!」
三人はそれぞれ自分に支援魔法をかけた。
それからリーダーっぽい男が腕を前に振って号令を出す。
すると全員一斉にこちらに向かって走り出した。
「これなら逃げられまい!」
魔法が当たらないとみて直接攻撃に切り替えたらしい。
さすがに支援魔法をかけた精霊だけあって速い。
それに相手はモンスターテイマーズ、戦闘のプロだ。
俺の動きも読んでぴたりと追走してくる。なら。
リーダーっぽいやつに接近してこんぼうを振り下ろした。
一撃目はガードされ、たて続けに繰り出した次の攻撃はかわされてしまう。
支援魔法がかかっているからだろう。
う~ん、面倒くさい。しょうがねえな……。
俺はその場にぴたりと立ち止まった。
「おっ、どうした遂に観念したか! いくぞお前ら!」
「傷と共に私の名をその身体に刻むがいい!」
「ははは! やーいやーいお前の母ちゃん豚のケツ!」
リーダーに続いて他の二人も攻撃を始める。
俺はそれを避ける事もなくその場にしゃがみ込んで地面に手をついた。
やつらの攻撃が間断なく降り注ぎ。そして。
「恐怖で動けなくなったか! これでとどめだぁっ!」
スキル名を発した。
「『アースクエイク』」
強烈な地震と共に周囲の地面が大きく陥没した。
あっという間に三人が俺の視界から消える。
陥没する際の衝撃波でやつらはかなりのダメージも負っているはずだ。
俺の足元だけ無事で、島のようにぽつりと地面が残っている。
立ち上がって下を覗き込んでみた。
テイマーズ三人組は大の字になってのびている。
下に降りていってリーダーの胸倉を掴んで起こした。
何とか意識はあったらしく、相変わらずの強気な調子で叫んだ。
「くっ、これくらいで勝ったと思うなよ! でも命だけは奪わないでください!」
「ふんっ!」
「ぐぼりんっ!」
腹に通常攻撃を入れておいた。
強気な命乞いという斬新さに免じて気絶させるだけにしておく。
こうして夜に再び静寂が舞い戻った。
こいつらの処分はダンサーズがやるんだろう、知ったこっちゃねえ。
そう思いながら町に向けて歩き出すと、エアから通信が入った。
(ばか、やり過ぎだ。あんな大魔法を使わなくてもいいだろう)
(面倒くさかったんだからしょうがねえだろ)
(全く……まあいい、終わったなら寄り道はせずに帰るのだぞ)
(オカンか)
(オカンではない)
あっという間に通信は途切れた。後処理に走ったのかもしれない。
夜空を見上げながら帰り道を行く。
ティナ、ちゃんと寝てるかな。
何かの拍子で起きて俺の部屋に来たりしてねえかな。
だったらまじで惜しい事したな……。
そんな妄想を膨らませていた時だった。
今度は町の方から何か大きなシルエットがこちらに向けて走って来る。
俺は目を疑った。
デュラハンだ。当然この辺りにいるわけなんかない。
黒い馬に乗ったそのモンスターは俺の目の前で止まった。
それから太ももの辺りに張り付けた紙を左手で抱えた頭で読みながら言った。
「ふはは! お前がジンか! 私は魔王軍かんびゅのウォードだ!」
「『爆裂剣』!!」
台詞噛んでるし何か変なやつなので速攻でぶっ飛ばす事にした。
だけど土煙が晴れた時、俺は今日二度目の驚愕を味わう事になる。
そこには無傷のデュラハンが立っていたからだ。
まさかこいつもアホなのか……!?
心配になりながら相手の次の行動を待った。
するとウォードと名乗ったそいつはベラベラと捲し立てて来た。
「ははは! お前が爆発系の魔法を使うと事前に聞いていたからな! 予め仲間に爆発耐性を付与してもらって来たのだ! どうだこれで手も足も出まい! やーいやーいばーかばーかお前の母ちゃんデーベソー! ぷっぷーべろべろべ」
「ふんっ!」
「あちょぱぁー…………」
何か言ってる間に距離を詰めて殴ると、敵は華麗に吹っ飛んでいった。
ちなみに吹っ飛ばしたのは馬に乗ってたやつだけ。
こんなアホなご主人に馬まで付き合わせては可哀そうだと思ったからだ。
俺は馬を撫でながら話しかけてみた。
「お前もあんなのに飼われちゃって大変だなあ」
「ブルヒヒヒイイイン!!!!」
全くだ、と言っているように聞こえる。
そういえばこいつとは「テレパシー」で喋れないのだろうか。
試してみよう。
(おい、聞こえるか?)
(ヒヒイン?)
(喋れないのかよ)
じゃあな、と口で馬に挨拶をしてからその場を去った。
他には何事もなく町に戻って宿屋に帰還。
何だか少しティナの様子が気がかりで、部屋の扉をノックしてみる。
返事がないのでそろ~っと扉を開けて顔だけを覗かせてみた。
ティナはさっき見た時からほとんど動いていない。
よしよし、ちゃんと寝ててくれたんだな……。
そう思って扉を閉めると、俺も自分の部屋で眠りに就いたのだった。
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