4  帰郷

 次々目にする太陽系であるわが故郷の予想もしなかった変化に只茫然とする。

 そして更なる驚くべき光景を目撃する。火星の軌道あたりに木星が居座っていたのである。火星は木星の重力に捕まり衛星として周回し始めていた。もう地球まであと少しだ。だがここまで来てもう戻りたいという衝動に駆られる。もう地球の今の状況は大方の想像がつく。その惨状を見れば大きなショックで落胆し二度と立ち直れないかもしれない。それを考えると恐ろしかった。私は瞼を閉じ佇んでいた。パールブルーの美しい地球の姿が脳裏に浮かぶ。

「豊、しっかり見届けよ。地球の姿を。これはおまえの義務ではなかったのか!」ソロの叱責する声で我にかえる。

「そうだったな。先に進もう」私はやっと気を取り直した。

「ソロ、おまえ今俺を様づけにしなかったな」

「そうですか。私はあなたを友だと思っていますから」

「そうか。わかった。全速前進!」もう私に戸惑いはなかった。

 地球は元の軌道上にあったが、その姿は元の様相を呈していなかった。

 多数の小天体の衝突により表面は真っ赤な溶岩に覆いつくされていた。この状況では微生物一匹たりとて生き残ってはいまい。変貌した地球の周りには無数の岩石のかけらが取り巻き何重もの層をなして土星の環のように美しくまとまっている。月の姿はどこにも見当たらない。おそらく月と小惑星か他の天体の衝突で木端微塵に砕け散ってしまった名残であろう。そしてこの状況下の自分の無力さを今更ながら痛感する。これはいったい何の報いなのだ。人類はそれ程宇宙の秩序を乱し続けたというのか。神から見れば極悪非道な行為を成してきたということなのか。

 地球の変わり果てた姿を見つめるうちに自分自身がいったい何のために地球を旅立ち膨大なる時間を費やして宇宙を旅してきたのかと考える。そして自分が何のためにここに存在しているのかと。

「ソロ、俺はすべてが嫌になった。もう死にたいよ」私は無意識にそう漏らしていた。

「わかりました。豊がそう思うなら仕方ないでしょう」ソロはそういうと船内の装置の何かを作動させた。やがて船内に非常警報装置が鳴り響き、時間のカウントダウンが開始された。

「ソロ、いったい何を作動させた?」

「船の自爆装置です。あと五分でメビウスは爆発し宇宙の藻屑となるでしょう」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は何もそこまでは・・」私は焦った。そしてすぐさま先程発した言葉が失言だったことを認めた。

「ソロ、悪かった。さっきの言葉は撤回する。だからカウントダウンを解除してくれ!」私はソロに必死の思いで頼み込んでいた。だがカウントダウンはさらに進む。

「ソロ、頼む!」そういいながら私は床に頭をこすりつけた。

 数秒間経過した時だった。非常警報装置は鳴りやみ船内が静かになった。

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