ふとしたきっかけ
見た目ってのは大事だと思う。俺の父親もよく第一印象さえ良ければなんとかなるもんだと言っている。その後に、見た目がいいからってそいつがいいとも限らねえけどな、とも言った。
その通りだと今、俺は実感している。帰りの電車を待っているとウチの学校の制服を着た女子が視界に入ったのを見ていたら、向こうに気づかれ、開口一番に
「何見てんだ、殺すぞ」
と言われた。
「・・・」
「おい、お前だよ。今私のこと見てたろ?何とか言えよ」
不良が言いそう台詞として真っ先に思いつきそうなことを言いながら彼女はこっちに迫ってきた。
「おい、聞いてんのかよ!」
「・・・いや、驚いたわ」
「何がだよ」
「君みたいな、以下にも優等生って娘からそんな台詞がでたことに」
「はあ?」
何言ってんだ、この馬鹿と言わんばかりの目をしながら、彼女は
「私のこと知らねーの?」
と聞いてきた。ウチの高校の制服を着ているから、同じ学校だというのはわかるが、それ以外のことはさっぱり知らないので、はっきり言ってやった。
「全く知らん」
「・・・まじか」
「すまんな、同じ高校だけどさっぱりだわ」
それ聞くと彼女は意外そうな顔した。なんだ・・・、そんな変なこと言ったか、俺?
「私、ケッコー勉強とかできて色々言われてんだけど」
「へえ」
「それに自分で言うのもなんだけど、見た目も結構良いしさ」
「まあ、確かに」
そう言いながら、改めて彼女を見る。長めの髪に整った顔立ちで街中を歩いていれば、よく目につくだろう。しかし自分のことを知らない人間いる方がおかしいとか
思ってるイタイ娘なんだろうか・・・?
「知らねーの?ホントに?」
「ウチの学校、クラス多いし知らん奴いても不思議じゃねーよ」
「それもそっか」
そう言うと別に気にした風でもなく、あっさりと答えた。別にイタイ娘では
なかったか。
「いま、なんかシツレーなこと考えたろ」
イタくはないが、勘の鋭い娘のようだ。ホントのこと言うと後が危険だと脳内が告げているので
「いや、結構かわいいなーと」
と適当に答えておいた。
「あっそ、てかお前も私と同じ高校なんだ、何年?」
「三年、そっちは?」
「・・・二年」
背丈は同じくらいだから、自分と同じか年下だと思ったんだろうな。なら少しイジってやるか。
「ガハハ、こっちは先輩なんだからな、ガハハ」
「ハ?」
「すいませんでした」
目で殺す勢いで睨んできたので思わず誤ってしまった。この場に友人がいなくてよかったと思う。あいつがいたら間違いなく面倒なことになる。おい、何縮こまってんだ。相手よりこちらの方が上だと思い知らせてやれ、お前は虎だ、虎になるのだ!とか言ってくるに違いない。
「何なんだ、お前・・・」
「そら、こっちの台詞だよ、口悪すぎだろ」
「うるせー、知らねー。私もともとこんなんだし」
「将来苦労するなー、お前みたいなやつは」
「私、成績いいし。んなことにならないっての」
「そりゃ、確かに大事だけどよ。今のままじゃダメだろ」
「あぁ?」
普通に怖いわ、この娘・・・
「す、すれ違う程度の相手ならそうじゃなくてもいいだろ」
「確かにそーだけど、あんまし見られるとイライラするんだよ」
「いや、俺そんな見てねーよ・・・」
「嘘つけ、五分ぐらい見てたろ」
「いや、見てねーよ!!どんだけ自意識過剰なんだよ、お前!!」
「そっちがやらしい目で見てくるのがいけねーんだよ!」
「視界にちょっと入っただけだよ、てか周りに色目使ってるわけでもねーのに気にしすぎだろ!」
そんなこんなでしばらく言い合いというか口喧嘩になった。
「はあ・・・、こんな喋ったの久しぶりだわ」
「何、お前?友達とかいねーの?」
「ま、こんなんだからなー、中学のころから女子とはもめ事は多いし」
「ああ、だろうな・・・」
「男子とかも、見た目目当て近づいてくやつばっかだったから友達とかいないなあ」
「部活とかはやってねーの?」
「帰宅部だよ、私」
顔良し、成績良しなのに性格に問題ありとは、敵を作りやすそうな奴だな、
こいつ。スペック的に見たら、俺の方が負けてる気がするが、考えると悲しいだけなのでやめよう。
「なんか、言い合いになったけど、終わってみると今回はスッキリしてるわ。なんでだろ」
「初対面どうしだからじゃね?知らんけど」
「そんなもんかなー」
「そんなもんだよ、喧嘩しても付き合いが続く奴もいるって」
「ふーん、じゃ、飲み物奢ってよ」
「はあ?何で?」
「喋ってたら喉かわいちゃってさー、いいっしょ?袖すりあうもの多少の縁ってやつだよ」
「袖すりあうどころか、がっつりぶつかったけどな・・・」
そう言いながらも自販機で適当に飲み物を二つ買う。
「ほら」
「お、ありがとー」
そんなやり取りをしてるとやっと電車がきた。今日はえらく長く感じたな・・・
隣の後輩もどうやら同じ電車らしく一緒にのりこんできた。その後も同じ席に座って適当に駄弁りながら目的地についた。
「あー、さっさと帰ろ」
「センパイも同じ駅なんだ」
「お前もか、俺は東区の方だけど、後輩は?」
「私、西区」
「そか、じゃあな」
「うぃーす」
まあ、同じ高校って言っても今まで知らなかったし、また会うことはないだろーな
とか考えながら家に帰った。
後日
「あ」
「お」
「割と教室近かったな」
「そうっすねー」
教室が二つ隣だった。
「飯食いに行きますか」
「そうだなー」
そんなに仲良くなったわけではないが口の悪いこの後輩とつるむことは多くなった。
くだらない話ととっさの思い付き @46_96_dama
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