第1話 残された夏休み


 日はとうに暮れ、輝く星が広がる空。しかし星の光だけでは人は足元をすくわれてしまう。だから、ろうそくをつけ、ランプをつけ、照明をつける。リリアヌの書斎もその一つだ。こんな夜遅くまで仕事だなんて、メイド長に就職するのだけはやめておいた方がよさそう。


(さて)


 隣を見ればコネッド。前を見ればリリアヌ。リリアヌが眼鏡をかけ直した。

 ニクスについて聞きたいことがあると、リリアヌの部屋に呼び出されたのだ。リリアヌが机に肘を立て、あたしとコネッドを見た。


「ご確認致します。昨日、ロザリーは塔にお行きになられていたのですね?」

「はい」

「コネッド、もう一度思い出して。ニクスの動きについて、何か不審な点はございませんでしたか?」

「ありません。リリアヌ様。オラ、ステーキに誓いますだ。ニクスはいつも通り、オラ達とマーガレット様を捜すというお仕事をして、日が暮れ、休むために部屋に戻りました」

「ロザリー、彼女のご実家は?」

「あの子は元々孤児で、養子になった家のおじ様とおば様のために、ここまで働きに来ております。雇用期間の途中で帰るとは到底考えられません」

「それでは……」

「リリアヌ様、オラ、何度も言ってます! 今までと同じです! 今度はニクスが消えたんです!」

「……わかりました」


 ため息混じりにリリアヌが頷いた。


「事情を知る兵士と騎士団の方々に、引き続き捜していただきます」

「リリアヌ様、兵士達は、何をしているんですか!? 一体、今まで何人の使用人が消えたと思ってるんですか!」

「おやめなさい! コネッド! ロザリーがいるのですよ!」

「……すみません」


 コネッドが顔をそむけた。


「でも、このままじゃ切りがありません。いつになったら解決するんです?」

「コネッド、お待ちなさい。もう時期です」

「もう時期なんて、もう聞き飽きましたですだ!」


 コネッドが立ち上がり、走り出した。


「コネッド!」


 リリアヌの声を聞かずに、部屋から出ていく。リリアヌがため息を吐いた。


「お取り乱しまして、申しわけございません。ロザリー」

「いいえ」


 雇用契約書に書いてあった。

 ここで見たものは、外には口外してはならない。


「リリアヌ様、教えてください。何が起きているんですか?」

「ロザリー、ご心配には及びません。ニクスなら大丈夫ですから」

「リリアヌ様」

「お話はここまでです」


 リリアヌが眼鏡を外した。


「お部屋にお戻りなさい」

「……」

「迅速に」

「……失礼いたします」


 あたしも席を立ち、リリアヌの部屋から出ていった。廊下を灯すろうそくがふよふよと揺れる。長い廊下を歩いていると、角を曲がったところでコネッドが待っていて、あたしの肩がビクッと揺れた。


「コネッド」

「兵士も騎士も期待するな。全員頼りにならねえ。これだから都会は」

「……」

「部屋に戻るべさ。……集団行動のほうがいい」

「……ええ」


 コネッドと暗い廊下を歩き始める。もう良い子は寝る時間。部屋に戻らないと。


「……コネッド、さっき言ってた、『今まで起きてたこと』って何?」

「……このマールス宮殿ではな、変なことが起きてるんだ。いつからなのかはわからねえ。オラが気がついた時には、そうだった。人が消えるんだ」

「……どういう風に?」

「ある日、突然、無断欠勤してさ、いつの間にか、辞めてることになってる」


 最初は随分と休暇が長いなと思った。いつ出勤なのかと思って、みんなに聞いてみた。したっけ、みんなが言ってた。あの子なら実家に帰ったそうよ。あんら、したっけ、辞めちゃったのか。残念だな。仲良くなれたのに。でも、したっけ今度は別の人が来なくなった。みんなに聞いてみた。したっけ、みんなが言ってた。あの子なら実家に帰ったそうよ。えー? また? 不思議に思ってた。でも、ベテランのメイド達も、オラの同期もみんなそう言うから、そうなんだと思って、納得してた。でもさ、気づくべさ。抜けていく人が多いなって。だって、ここでベテランになって、エメラルド城で働きたいのって言ってたオラの同期が来なくなったんだよ。みんな、厳しさがわかって実家に帰ったのよって言ってたけど、そうじゃない。そうじゃないんだ。何かが起きてるんだ。でも、上の奴らは誰も信じない。たぶん、みんなわかってるんだ。でも、わかっちまったら、怖いじゃねえか。この宮殿も使えなくなる。だからみんな知らないふりしてるんだ。対応なんてしてくれない。怖くなった人は、みんな辞めていった。ロザリーとニクスが来る前だ。総入れ替えがあって、事情を知らないメイド達が多く派遣された。だから、残ったメイド達は、知ってるけど、詳しく話したりはしない。でも、時々怖くなって、みんなで励まし合うんだ。きっと、実家に帰ったのよって言い合って。でも、みんな気づいてる。今日も誰かがいなくなる。明日も誰かがいなくなる。この宮殿にいる限り、どんどん人がいなくなる。いなくなったら、リリアヌ様に報告するんだ。報告したら、リリアヌ様も事情を知る一人だべさ。上の人達に言って、密かに捜してもらうんだ。でもね、でも、


 誰も見つからないんだ。


「……新人なんかには、絶対に言わない話だべさ」


 コネッドがうつむいて、足を動かす。


「残ったメイド達は、宮殿で働くために、何度もこのおかしな出来事を調べた。でもな? 原因は不明。人が毎日いなくなるのは止まらない。いなくなれば、補充されるように人が入ってくる。……ロザリーとニクスは、なまら良いタイミングで入ってきたんだ。オラ達の間でも、ほとぼりが冷めたくらいだった。トロさんとロップイさんがいる、あの和やかな休憩室。あそこが荒れてた時期があるんだ。犯人探しって言って、怖がったメイド達が一人ずつ体を調べてさ、喧嘩になって、トロさんとロップイさんが間に入って、誰かが泣いて、誰かが怯えて、限界に達した人は、みんな辞めていった。それで総入れ替え。新人含む短期間の雇用者は二人部屋になった」


 月の光が廊下を照らす。


「ここさ、給料いいべ? 実家に帰っても仕事が見つかるかわからねえし、稼ぎがほしい人は残ったんだ。……オラみたいに」

「……」

「……リリアヌ様は唯一対応してくれたお人だ。この宮殿を上の人達が調べてくださってるって言ってたけど、でも、それも本当かわからない。このまま、オラもどこかに消えちまうかもしれない」

「……ご実家、田舎のほうなんだっけ?」

「うーんと遠くのな。何もねえ。畑しかねえとこさ。家族が貧乏で、オラの稼ぎでやってるところがあるから」

「……」

「ごめんな」

「……どうして、コネッドが謝るの?」

「気をつけるよう言えばよかった。オラ、なるべく二人を一人にしないように、気をつけてたつもりだったんだけど……」

「……」

「……ほら、着いた」


 あたしの部屋の前。


「隣の部屋には、メニーがいるんだべ?」

「……ええ。寝てると思う」

「……」


 コネッドが隣の部屋に行き、静かに中を覗いた。静かな寝息が立てられている。静かに扉を閉めた。


「メニーをこっちに来てもらったほうがいいかもな。……一人は危ねえから」

「……そうね」

「ニクスはいねえけど仕事は来る。ロザリー、気をしっかりな」

「……ええ。ありがとう」

「……したっけ」


 コネッドが自分の部屋の方向に歩いていった。暗がりの中にコネッドが消えていく。あたしは扉を開ける。


 部屋は暗い。誰もいない。


「……」


 ニクスが使ってたベッドを見下ろす。


(ニクス)


 ちょっと前に、ここで一緒に寝たばかりなのに。


(ニクス)


 ベッドは空っぽだ。また、あたしの前からニクスが消えた。


「……」


 ニクスの机に触れる。何も変なところはない。引き出しを撫でる。そういえば、ニクスは日記を書いてるとか言ってた。


「……」


 開けてみる。引き出しの中に、ニクスの日記が入ってた。


「……」


 見回す。誰もいない。


「……」


(夏休みの間の記録だっけ?)


「……」


(少しだけなら、いいわよね?)


 あたしは日記を持って、窓の方へと移動し、月の光を頼りに、日記をめくった。



 8月1日


 今日から日記を始めます。

 というのも、夏休み明けに、思い出を発表しなきゃいけないからです。ああ、なんて面倒くさいんだろう。あたし、人前で発表とか苦手なんだよな。ゲルダは楽しみねって言ってたけど、あたしは勘弁。



 ……ゲルダって聞いたことある。ニクスの友達だわ。あたしの花と同じ名前ねって盛り上がったことがあるのよ。



 8月2日


 今日はテリーの誕生日プレゼントを買いに行った。

 テリー、喜んでくれるかな?



 隣に、アンクレットの絵が描かれている。ええ。とても嬉しかった。



 8月13日


 明日はテリーに会える! やった! 興奮しすぎて、久しぶりに長電話しちゃった! ……おばさんに怒られちゃった。だけど、ちょっと寂しそうだった。夏休みの間は、ずっとお城にいることになるだろうし。

 お土産はたくさん買って行こう。そしたら、おばさんもまた笑顔になる。



 おばさんの笑顔の絵が描かれている。ニクスは絵が上手ね。



 8月14日


 テリーがお風呂に入ってるうちに書いておこう。テリーがたくさんあたしにプレゼントを買ってくれた。あーあ。届く頃には、おじさんとおばさんが腰を抜かせてしまうんだろうな。だって、あんなに買うんだもん。そのうちクローゼットの工事も入るみたいだし。あんなにたくさんのドレス着れないよ。勿体ないからゲルダに少しあげよう。それで、また聞かれるんだろうな。

 どうしてニクスはそんなに高級そうなものをたくさん送られるの? あなた、どこかの国のお姫様とお友達なんでしょ。私、わかってるんだから。

 はあ。どうしよう。どうやって言い訳しようかな。あたしもいつか、テリーにゲルダを紹介したいな。二人は正反対だけど、テリーのことだから、きっと仲良くしてくれると思うの。あ、そろそろ上がってくるかも。ここまでにしておこう。明日は舞踏会だ。



 あたしも会いたいわ。ニクスの友達。



 8月15日


 16日になってしまったけど、15日のことを書いたっていいよね?

 だって、書かないとどこに発散していいかわからない。

 ああ、テリー、大丈夫かな? 君が心配。泣きそうな顔してた。メニーが連れて行ってくれたけど、きっと馬車から下りて吐くんだろうな。吐く顔してた。さて、どうしようかな。電話をするべきかな。いや、だめだ。きっと記者の人達が嵐のように電話をしているに違いない。繋がらないだろうね。さあ、どうしたものかな。あたしに出来ることは、想像することだけ。もしも、テリーがこの家に来て、まだあたしがいたら、間に合うんだけどな。

 もし、その時は、テリーを連れて行こう。


 ……それにしても、リオン様素敵だったな。



 リオンの絵が描かれている。



 8月16日


 あいたたた! 筋肉痛だ! すっごく太ももが痛い! 

 テレビでもラジオでも、ベックス家の話題だらけ! 

 今日、テリーは来なかった。でも、まだ明日の昼までなら間に合う。

 あたし待ってるよ。テリー。

 天使様、どうかお願い。テリーを助けてあげて。



 天使の絵が描かれている。



 8月17日


 テリーは疲れてたみたい。あっという間に眠っちゃった。しょうがないよね。今日からメイドのロザリーなんだから。

 あたしも頑張らないと。


 メモ:ロザリー・エブラリッチ。


 あたしも覚えておこう。テリーって、昔のことは覚えてるのに、最近のことはすぐに忘れちゃうんだよな。



 ……そんなことないわよ。



 8月25日


 変な噂が気になる。

 マールス宮殿では、毎日誰かがいなくなっているらしい。初日に、周りの人達が言ってるのを聞いたから気になってたけど、ぺスカとラメールにそれとなく聞いたら、本当らしい。無欠勤で、勝手に城から出て行ってるんじゃないかって思ってるみたい。ゴールドさんの相方も、一ヶ月前に出ていったらしい。話をしてたら、ゴールドさんに怒られた。あの時の目、あたし知ってる。何かを隠してる目だ。


 あたしはテリーをとんでもない所に連れてきてしまったのかもしれない。

 ……出会った頃と同じように。



(……)


 ページをめくっていく。



 9月11日


 あたしがテリーを連れて行くところには、中毒者がいる。今日も誰かが無断欠勤したらしい。どこにもいなくて、捜すことも出来ない。

 テリーは平気な顔して歩いてる。気づいてないのかな? それとも、わざとなのかな? もしかして、テリーが中毒者? あたし、疑い出すと止まらないから、テリーに訊いてみた。人が少なくなったと思わない? って。そしたら、テリーはスノウ様が危ないから、みんなエメラルド城に行ったって言ってた。たぶん、テリーは本当に気付いてないんだ。どうしたらいいかな。このことをテリーに言うべきかな。リトルルビィもしばらく城にいるみたいだし。……リトルルビィに相談しようかな。早い方がいいだろうけど、……いつ会えるかな。



 あたしはページをめくった。



 9月12日


 びっくりした。テリーがいなくなったかと思った。びっくりしすぎて、トレイをひっくり返しちゃったよ。コネッドが置き手紙を見つけてくれてよかった。これがなかったら、あたし、本当に気が触れてしまいそうだった。

 怪盗パストリルって書いてあったけど、ソフィアさんは今日すごく忙しそうに歩き回ってた。クレア姫様がいなくなったって。テリーはどこですか? って試しに聞いたら、ありがとうと言われてどこかに行っちゃった。ってことは、……やっぱり、この手紙はクレア姫様かな。だったら大丈夫かな。あのお姫様、すごく強いみたいだし。いざって時はテリーを守ってくれるって、信じてる。



 9月13日


 どうしよう。ぺスカがいなくなって、補充されたみたいにメニーが来ちゃった。

 メニーが消えてテリーが悲しむ前に言った方がいいかも。ここは危険だよって。

 テリーがそろそろ歯磨きから戻ってくる。

 ちゃんと、説明しないとテリーが危ない。


 ちゃんと、言わなきゃ。


 あたしが、テリーを守るんだ。




「……」


 あたしは次のページを開いた。





 う し ろ 。





「……」


 あたしは目を見開いた。固まった。後ろに何かいる気がする。気配がする。


「……」


 あたしはゆっくりと振り向いた。後ろには――何もいなかった。


(……)


 あたしは胸をなでおろした。何もいないじゃない。ニクス。あたしはそう思って、前を見た。


 緑 の 顔 が あ た し を 見 て い た 。


「ぎゃあっ!!」


 悲鳴をあげて日記を落とす。緑の顔はどこにもない。窓に映る影が、人の顔のように見えただけ。


「……」


(……嫌だわ。あたしったら……)


 深く息を吐いて、落ちた日記を見下ろすと、後ろのページが開かれている。それを見て、あたしは眉をひそめた。


(……え?)


 文字が並んでいる。


「……」


 拾って、目で確認する。走り書きで誰かの名前が書かれている。


(……)


 数ページにわたって何人もの名前が書かれていた。最後の方には、ぺスカと、マーガレットの名前も書かれていた。


(……これ……)


 他のページと見比べてみる。ニクスの字だ。


(消えた人達の名前?)


 どうやって調べたのか、走り書きではあるが、明確に全員の名前が書かれているようであった。


(うしろ、って……後ろのページってこと?)


 ニクスは、何かに気づいてた?


(何を残そうとしたの?)


 名前が書かれ、その先のページにも、何か書かれている。




 ブルーローズ。




「……青い薔薇……?」


 窓から外を眺める。この宮殿の近くには青い薔薇がとてもよく咲いている。


(……ニクスが、この日記に何かを残したんだわ)


 ニクスがあたしの前で日記を引き出しにしまったのは、わざとだったのかもしれない。


「悲鳴なんかあげてどうしたの?」


 顔を向けると、ドロシーがあたしのベッドに寝転んでた。


「壁が薄いんだ。君の悲鳴でメニーが起きたらどうするのさ」

「ニクスが日記にヒントを残してくれてる。……あの子、何かに勘付いてたみたい」

「流石だね。あの子さ、本当に顔と性格のギャップが激しいよね。大人しそうに見えて、とても悪い子だ」

「ニクスの悪口なら承知しないわよ。これは、あたしのために残してくれたものなんだわ。あたしが調べやすいように」

「で、どうする気?」

「ブルーローズって書かれてる。あんた、何か知らない?」

「青い薔薇? 薔薇ならそこらへんにたくさん咲いてるじゃない」

「……どうせ、嫌でも明日には仕事が来るわ。青い薔薇の多いところに行ってみる。何か見つかるかもしれない」

「必要なら呼んでよ」

「来るの? あたし、何度か呼んだけど来ないじゃない。役立たず。どうして肝心な時に来ないのよ」

「ああ、もう僕は眠いんだ。眠らせてよ」

「あたしのベッド使わないでくれる?」

「メニーなら心配ない。守りの呪文を部屋にかけた。メニーの安全は保障されてる」

「あたしの部屋にもかけてよ」

「メニーが明日この部屋に移る時でいい?」

「今」

「嫌だね」

「この……」

「だから僕が一緒に寝てあげるよ。さあ、おいで」


 ベッドをとんとん叩かれる。あたしは舌打ちして、ベッドに入った。狭い。暑い。


「ねえ、暑いんだけど。寝苦しいわ!」

「はいはい」


 ドロシーの体が冷えていく。え、何これ。すごい。あたしはドロシーを抱きしめる。あら、やだ。これ。ひんやりしてるじゃない!


「あーーーこれ、そうそう。これ……。はーー。あんたもたまには良い魔法使うじゃない……」

「さっさと寝る」

「はーーーあ……」


 あたしはまぶたを閉じ、ドロシーがまぶたを閉じ、二人で寄り添って眠りについた。夜が更けていく。




( ˘ω˘ )



 ふわふわした世界がある。


 全てがふわふわしている。


 偉大な魔法使いに会いに行こう。


 おさげの少女は猫を抱えている。


 おさげの少女は鼻歌を歌っている。


 おさげの少女はジョウロを持っている。



「トト、花が咲いてるよ!」

「にゃー!」

「お花さんに、元気にご挨拶!」


 うーーん!


「ボンジュール!」

「にゃー!」

「そうだ! 名前をつけよう!」

「にゃあ」

「この子は太郎」

「にゃあ」

「この子は一郎」

「にゃあ」

「この子は二郎」

「にゃあ」

「この子は三郎」

「これ! ドロシー! 掃除は終わったのかい!? サボるんじゃないよ!」


 扉が乱暴に開かれ、少女は扉の方に振り向いた。


「掃除をしたら怒るじゃないか。仕方ないから花達に水をやってるんだよ」

「そうかい! だったら、それが終わったら、今度はお風呂場の掃除だよ!」

「泥水抜いていいの?」

「お前、ばかじゃないのかい! なんでそんなひどいことが出来るんだい! あんたには、人の心がないのかい!?」

「僕にどうしろって言うのさ」

「にゃー」

「ふん! 自分で考えるんだね!」

「……そういえば」


 少女がふと、気がついた。


「君には名前がないの?」

「名前だって? 教えてやってもいいけどね、あたしは意地悪な魔女だからね! さて、どうしようかね!」

「あ、じゃあいいや。好きに呼ぶね」

「にゃあ」

「残念だったね! あたしにゃ、名前なんてないのさ! だって、西の魔女っていう、素敵な呼び名があるからね! はん! ざまあみろ! ばーか!」

「西の魔女じゃ長いんだよな」

「にゃー……」

「お黙り! 蹴られたいのかい!?」

「そうだ。トト、僕にいい考えがあるよ」

「にゃ?」

「彼女は、オズが作り出した魔女。オズの魔力が詰まった人形さ。だから、名前は、オズの魔力、つまり」


 少女は笑顔を浮かべた。


「君は、トゥエリーだ!」




(*'ω'*)




 今日は議員のようだ。


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