第13話 10月8日(4)



 ソフィアが思ったよりも近くにいて、


「え」


 ソフィアが本棚に手をつけて、


「ちょっ」


 あたしの顔の横に手を置いて、


「なっ……」


 閉じ込められる。

 見上げると、距離が一気に近くなったソフィアが、にこりと微笑み、真っ直ぐにあたしを見つめる。


「こんなチャンス、逃すと思った?」


 逃がさないよ?


「君は私のものだ」


 頬にキスをされる。


「うわっ」


 耳にキス。


「ぎゃっ! な、何するのよ!」


 ついでに腰を抱かれて、慌ててソフィアの肩を前に押す。


「こ、こ、この! 変態怪盗! お放し!」

「私、ここ好きなんだけど、君はどうかな?」


 ぺろ。


「ひえっ!?」


 突然の舌の感触に、びくりと体が跳ねると、耳元でソフィアの掠れた笑い声が聞こえた。


「くすす。可愛い」

「こ、この! 手伝いって言うから、ついてきてあげたのに!」

「そうだよ。お手伝い」


 私の恋を成就させるお手伝い。


「大丈夫。鍵もかけたし、そもそもここには滅多に誰もこないから、安心して声をあげるといい」

「ふざけるな! こうしてる間にも、アリスは黙々と頑張ってるのよ! あたしはあの子の所に戻るわ! 退け!」


 ソフィアの肩を再び無理矢理前へ押しやると、ソフィアがおかしそうに笑った。


「ねえ、テリー。私が大怪盗パストリルだったこと、忘れてない?」


 恋と宝石泥棒のパストリル。


「こんな風に抵抗されたら、どうしたと思う?」

「何をっ……」


 ソフィアの目を見たあたしは馬鹿だ。


「わーん」


 ソフィアの黄金の目がキラリと光った。


(うっ!)


 一瞬目眩が起きて、力が抜ける。


「とぅー」


 ソフィアがあたしの両手首を上に持ち上げて片手で押さえた。


「すりー」


 あたしの顎を指ですくい、顔を上げさせる。

 ソフィアの顔は、とても満足そうに微笑んでいた。


 ……。


(え、何、この状況……)


 押さえられた両手にぐっと力を入れてみるが、ソフィアの手はぴくりとも動かない。


(……え?)


 これ、


(あたし、ピンチじゃない?)


「くすす」


 ソフィアが笑った。


「私に押さえられて抵抗出来ないテリー。ああ、眺めているだけでも興奮してくるよ」

「……満足した?」

「癒される」

「そう」


 あたしは、にこりと笑った。


「じゃあ、もういいわね。お放し」

「嫌だ」


 にこりと笑うソフィアに、あたしもにこっ! と笑った。


「聞こえなかったの? 放せって言ってるんだけど」

「君こそ聞こえなかった? 嫌だって言ったんだけど」

「ソフィア、からかいは結構。放しなさい」

「嫌だ」

「ソフィア」

「放さない」

「くたばれ!!!」

「あはははははは!! 抵抗出来ないくせに強気に挑んでくるその姿勢、大好き!」


 ソフィアがにやける。


「それを崩すのが、とっても楽しいんだ」


 ソフィアがあたしの顎を掴んだ。


「興奮する」

「ちょっ……!」


 ソフィアの唇があたしの頬にくっついた。ちゅ、と軽いキスをされる。


「あんた、何を!」


 ちゅ、と耳にキスされる。


「ひゃっ! や、やめろ!」


 ちゅ、と首にキスされる。


「んっ!?」


 かり、と歯であたしのうなじを甘噛みしてくる。


「ななななななっ……!!」


 ソフィアがあたしの足の間に、足を割り込ませた。


「こ、この、ソフィア! 貧乏人のくせにあたしに触れるなんて、この無礼者! くたばれ! さっさとお縄につけ!!」

「もうついたんだよ」


 ソフィアが微笑んで、あたしの耳に囁いてくる。


「暴れないで」

「っ」


 ソフィアの舌が、あたしの首筋を上から下へと舐めていく。


「やっ、ちょ、何、して!」


 体を強張らせると、ソフィアの舌があたしの鎖骨をなぞり出した。瞬間、背中にぞくぞくと何かが走り出す。


(ひい!!!)


 ソフィアの舌が鎖骨を舐める。


(ぐっ!)


 ソフィアの舌が鎖骨をなぞる。


(ぐぅっ……!)


 ソフィアの舌が鎖骨に動く。


(……)


 ソフィアの舌がゆっくり動く。


(……)


 ソフィアの舌がじっくり動く。


(……)


 ソフィアの舌が、首筋を下から上になぞってきた。


「あっ」


 変な声が出て、思わず顔を逸らす。ソフィアの動きが止まる。痛い視線を感じる。熱い視線を感じる。あたしは黙ってソフィアから視線を逸らす。ソフィアからの視線を感じる。ソフィアの吐息を感じる。あたしは絶対見ない。


「……」

「ふーん?」


 ソフィアが興味深そうに近づいた。


「ここ?」


 また、ソフィアが舌を這わせる。あたしの背中がぞくぞくする。


「っ」


 今度は声を呑み込み、ぐっと歯を食いしばる。体に力が入り、息を呑むと、ソフィアがあたしの首から舌を離し、耳に向かって、囁いた。


「テリー」


(ひっ……)


 声が出そうになって、ぐっと堪える。耳の奥にソフィアの声が響く。


「耳、赤いよ?」

「……お黙り……」


 俯いて、震える声を出すと、ソフィアのかすかな笑い声が聞こえてくる。


「ふふっ。ぞくぞくしちゃった?」

「ぞわぞわしたの!」


 ぎいいっ!! とソフィアを睨む。


「ソフィア、今なら許してやるわ! 放せ! この犯罪者! 成人した大人が未成年に手を出すなんて犯罪よ! 変質者! 変態! 通報してやる!! キッドにチクってやる!! この際チクりにチクってチクり祭よ! あんたのスリーサイズと身長と体重となんかそこら辺の情報、全部チクってやるからね!」

「くすす。スリーサイズまで言っちゃうの? 恥ずかしいよ」

「だったらすぐに放しなさい!」

「放したら告げ口するんでしょう?」


 ソフィアがおどけて、悪戯に微笑む。


「じゃあ、駄目」


 かぷりと耳を甘噛みされて、


「ふぇっ……!」


 びくっ、とまた体が跳ねた。また俯く。また顔を逸らす。声が、吐息が、震えてしまう。ソフィアがまたあたしの耳を優しく噛んできた。硬いものに耳が挟まれる感触に、あたしの背中が嫌でもぞわぞわと反応してしまう。ソフィアの口が再び動き出す。肩が揺れる。


「……や……やめ……」

「告げ口なんて、悪い子」

「し、しないから」

「しないの?」

「……しないから、放して……」

「……テリー……可愛い……」


 囁かれて、吐息が耳の中に入って、それに反応して、再び体が跳ねる。


「んっ……!」


 足が震える。力が入らない。ソフィアが支えてないと、倒れているだろう。

 ぶるぶると体を震わせて、何とか地面に立って、何とか堪えると、ソフィアがくすりと笑って、あたしの耳の穴に再び唇を寄せた。


(えっ)


「ふう」

「ひゃっ……!?」


 びくっと肩が揺れて、


「テリー」

「……っ……んんっ……」


 吐息交じりに名前を呼ばれて、また体が震える。ソフィアが攻めたてるように、耳元で囁いてくる。


「くすす。耳弱いんだ?」

「やめ……ろ……この……」

「足ががくがく。ふふっ。座る?」

「ふざけんなっ……くたばれ……! ……っ……こんなこと、して、……タダで済むと、思わないでよ……」


 震える足に力を入れてソフィアを睨むと、うっとりとソフィアが微笑んだ。


「だって、恋しいから」

「どれだけひねくれてるのよ! この、ばか! 恋しいって思ったら、こんなことしないわよ!」

「……それはどうかな?」


 恋しいと思うから手が動く。

 恋しいと思うから閉じ込めたくなる。

 恋しいと思うから触れたくなる。


「ねえ、テリー、いつになったら私を拾ってくれるの?」


 ソフィアの指があたしの体を撫でる。


「いつになったら、私は君のものになるの?」


 ソフィアがあたしを見つめる。


「なんでドリーム・キャンディで働いてるの? 相談してくれたら、図書館で楽なお仕事させてあげたのに」

「……別に、今の仕事が嫌いなわけじゃないわ。……っ……アリスにも、会えた……」

「今からでも遅くない。こっちに移って? で、部屋も私の部屋で寝泊まりして? 毎日一緒に出勤しよう?」

「……嫌よ」

「リトルルビィとは毎日出勤してるんでしょう?」

「……同じ、職場だもの、ひゃっ!」

「言いづらいなら私から言ってあげる。人手不足で人員がどうしても欲しいので、ニコラちゃんを下さいって」

「……っ、だから、……移らないって、言ってるでしょうが……! この、……っ、……~~~~っ……! ……やめろっ! 息かけるな……!」

「くすすっ。駄目」


 ソフィアが笑いながらあたしの耳に嫌になるほど息を吹きかけ、あたしの手を押さえこむ。また耳に吐息を交えて囁いてくる。


「ここに来るって言うまで離さない」

「し、仕事中でしょ! 仕事しなさい!」

「仕事してるよ?」


 ソフィアが微笑む。


「人員不足解消のため、君にここで働いてほしいと交渉してる」


 ソフィアの指が、あたしの唇にそっと触れた。


「んっ……」


 唇の中に指を入れられる。


「んむっ!?」


(な、何? 何?)


 ソフィアの指があたしの歯をなぞった。


(な、何してるの?)


 ソフィアの指があたしの舌に触れた。


「んむっ」


 ソフィアの指があたしの舌の上で踊りだす。


「んんっ……!」


 あたしの柔らかい舌に指を押し付け、あたしの舌と戯れ始める。


(お、お前、何してるのよ! 噛むわよ!)


 ソフィアの指が舌を弄ぶ。


「ん、ん……」


 ソフィアの指にあたしの唾液がついていく。


(汚いから、早く抜きなさい!)


 あたしの口の中では唾液が増え続ける。


(早く抜いてよ!)


 唾液は増え続ける。


(零れる……)


 ソフィアが指をするすると引いていく。


(やっと抜く気になった……?)


 抜ける一歩手前まで行き、また指が舌の上に戻ってくる。


(うぎゃああああああ!!)


「んっ、んっ、んっ!」


 ソフィアが愉快そうにあたしの口に指を入れて、引っ込ませ、また入れてくる。


(つ、唾……)


 口からたらぁ、とみっともなく、漏れていく。


「くすす」


 ソフィアが笑って、あたしの顎に近づく。


「テリー、涎を出すだなんてはしたない」


 ソフィアの口角がいやらしく上がった。


「可愛い」


 ソフィアの舌があたしの顎に触れる。


(や、やめっ……)


 零れた唾液を舐めていく。


(……っ……)


 身を縮こませると、唇の寸前で、ソフィアが舌を離した。じっと、濡れたあたしの唇と、その中に突っ込ませる自分の指を見つめる。


「あーあ」


 ソフィアが自分の唇を舐めた。


「キスしたい」


 ソフィアがじっとあたしの唇を見つめる。


「キス出来たらいいのに」


 ソフィアがあたしの目を覗く。


「でも、それは今じゃない」


 だって、


「今のタイミングで、キスをしちゃうと、君に嫌われてしまう」


 だから、


「君の心が私を受け入れるまでは、キスは出来ない」


 くすす。


「だったら、これで我慢するよ」


 ソフィアがあたしの口から指を抜いた。

 あたしの唇が濡れる。

 ソフィアの指が濡れている。

 あたしはソフィアを睨む。

 ソフィアはあたしを見つめる。


 あたしの唾液で濡れた自分の指を、ゆっくりと舐めた。


(うっ……)


 血の気が下がる。


(見られながら自分の唾が舐められてる……。……なんか、……複雑……)


 耐えきれなくなり視線を逸らす。ソフィアの目が鋭く細まった。


「テリー、ちゃんと見て」

「……嫌よ」

「君の唾を舐めてるところ、ちゃんと見て」

「だから嫌なのよ……。なんであたしの唾を舐めてるあんたを見なくちゃいけないのよ」

「見てほしい」

「変な性質でも持ってるわけ……?」

「見たら、忘れられないでしょう?」


 君の唾を舐めてる、私の姿。


「私は君のもの」


 私の心はテリーのもの。


「しっかり管理してくれないと、どこかに行っちゃうよ?」

「行きなさい。好きな所に行くといいわ。素敵な殿方が待ってるわよ」

「好きな所? ならテリーの胸の中が良いな」


 ソフィアがあたしを抱きしめる。


「あったかい」


 手を離した。あたしの腕が落ちる。


「あったかい」


 一緒にずるずる下りていく。


「あったかい」


 ソフィアがあたしを抱きしめて、倒れこんだ。腰を抜かすあたしの胸に顔を押し付ける。


「……小さいね」

「うるさい」


 ソフィアが笑った。


「テリー」

「ソフィア、いい加減に」

「テリー」


 ソフィアがあたしの腰を抱く。


「テリー」


 腕が離れない。


「好き」


 ソフィアが呟いた。


「ずっとこうしてたい」


 ソフィアが顔を埋めた。


「良い匂い」


 ソフィアが微笑んだ。


「テリー」


 ソフィアの胸があたしの腿にくっつく。


「テリー。好き。好き。……好き」


 ぎゅっと、抱き締められる。


「恋しくて仕方ない」


 そう言って黙る。あたしの胸に顔を押し付けたまま、動かなくなる。あたしは眉をひそめて見下ろす。


「……寝た?」

「うん。寝たよ」

「起きてるじゃない」

「寝てるから起こさないで」

「仕事中でしょう?」

「疲れたから一休み」

「ソフィア、あたし戻らないと」

「じゃあ、構って」


 満足するまで離さない。


「何? 寂しいの? あんたね、カウンターにいれば、イケメンな紳士達があんたに構ってくれるじゃない」

「いらない」

「ソフィア」

「君以外いらない」


 ソフィアが体を起こした。


「テリー以外必要ない」


 そのまま抱き寄せられる。


(むぎゅっ!)


 ソフィアの豊満な胸に顔が埋まった。


「む、ぐ……」

「私が構ってほしいのはテリーだけ」


 鼠なんて、どうでもいい。


「テリー、好きだよ」


 ソフィアの唇があたしの頭に降ってくる。


 ちゅ。


「むごっ」

「好き」


 ちゅ。


「ソフィ……」

「好き」


 ちゅ。


「あの……」

「キッド殿下になんか渡さない」


 ちゅ。


「ね……」

「リトルルビィにも渡さない」


 ちゅ。


「私だけに構って」


 ソフィアがあたしの頬に手を添えた。黄金の瞳と目が合う。


「テリー、好き」

「あの」

「ちゅ」

「あの、えっと」

「ちゅ」

「ソフィア……」

「そう、もっと見て」

「あの」

「ちゅ」

「んっ」

「見て。目を閉じないで」

「あの」

「ちゅ」

「ソフィア、仕事が……」

「そんなの後でいいから」

「良くないって……」

「ちゅ」

「んっ」

「ここが好きなの?」


 さわ。


「ひゃっ、ちょ」

「ここかな?」

「や、やめ」

「ちゅ」

「やっ、ちょ」


 ぷつん。


「そ、ソフィア! あんた何して!」

「こうしないと、首にキスできない」


 指がシャツのボタンを外していく。


「や、やめ!」

「ちゅ」

「あっ」

「ちゅ」

「ソフィア」

「ちゅ」

「や、やめ……」

「ちゅ」

「んぅっ」

「ちゅ」


 ボタンが外された。キャミソールが露わになる。


「テリー」


 ソフィアの手がキャミソールの中に入ってきた。


「わっ!」

「ん? ちょっと太った?」

「うるさい!」


 腕を押さえる。


「やめ……」

「ちゅ」

「んっ」


 ソフィアの指が肌をなぞる。キャミソールがどんどん上に上がっていく。


「そ、ソフィア、ほ、んとに……」


 ソフィアの唇が胸に近付いた。


「え……?」


 ――ぢゅううう。


「んぅっ……!!」

「はあっ」


 ――ぢゅううう。


「な、何するのよ!」

「大人しくして」

「ひい! 放せ!」


 ソフィアに手首を掴まれる。


「ここにもするから」

「あっ」


 ――ぢゅううう。


「っ」

「ここも」


 ――ぢゅううう。


「ソフィ……」

「ここもいいね」

「あ」


 ――ぢゅううう。


「……」


 くたりと力が抜けて、ソフィアの体に倒れこむ。ソフィアがあたしを抱きしめて、頭を撫でる。


「よしよし」

「……」

「くすす」


 変なキスをした箇所が赤く染まった。ソフィアの指があたしの肌をなぞる。


「素敵な痕」


 私のもの。


「テリー、大丈夫?」


 ちゅ。


「……大丈夫だと思う?」

「胸元を隠せば、気付かれないよ」

「……何よ。これ……」


 蚊に刺されたみたい。ソフィアを睨む。


「あんた、あたしの美しい肌に何してくれたのよ!」

「君が構ってくれないから、私の噛み痕をつけちゃった」

「噛んだの!?」

「二日くらいは消えないかな」

「最悪!」

「別にいいじゃん。誰にも見せないでしょう?」


 くすす。


「君の胸は私のもの」


 心臓も、心も、この体も、


「私のもの」


 ぎゅっ。


「テリー、早く君だけのものになりたい」


 煽らないで。


「構ってくれないと、もっと傷つけちゃう」


 好きな子って、虐めたくなっちゃうでしょう?


「テリー、好き。君が恋しい。君だけが恋しい。大好き。君だけを想うよ。君だけに心を捧げるよ。大好き。テリーがいれば何もいらない。ねえ、お仕事一緒にしよう? 休憩時間も一緒に休んで、美味しいお弁当も作ってあげる。一緒に退勤したら一緒に帰って、一緒にお風呂に入って一緒にご飯食べて一緒に寝よう? で、朝になったら一緒に起きて、また一緒にお仕事をする」

「……ソフィア」


 ソフィアの腕をつねる。


「あんた、リトルルビィと思考が一緒よ」

「テリー、君が好き。同棲しよう?」

「馬鹿。女同士で暮らすことを同棲とは言わないのよ」

「それは間違いだ。恋人同士で暮らすことを同棲って言うんだよ」

「あたしとあんたが恋人? 冗談やめてくれる?」

「冗談に聞こえる? なら本気で言おう。テリー。恋人になって」

「あんたね、キッドと言ってること一緒よ。嫌よ。恋人が女なんてごめんだわ」

「パストリルならいいのに?」

「素敵な殿方だと思ってたの!」

「テリー、大事なのは性別じゃない。心」

「あんた、女が好きなの?」

「言ったでしょう? 私は男が好き」

「ソフィア、目を覚ましなさい。ほら」


 ソフィアの頬をぱんぱん叩くと、ソフィアが嬉しそうに微笑んだ。


「くすす。テリーが好き」

「あたしは好きじゃない」

「私を拾ってくれるんでしょう?」

「キッドに拾われたんでしょう?」

「今からでも遅くないよ」

「あんたには図書館がお似合いよ」

「テリー、好き」

「はいはい」

「好きだよ。テリー」

「はいはい」

「ちゅ」

「んっ」

「可愛い。そういうところも好き」

「だから」

「ちゅっ」

「んっ」

「大好き」

「ソフィア」

「好き」

「ソフィア」

「駄目。満足するまで離したくない」


 ソフィアの腕ががっちりあたしを捕まえる。


「このまましばらく、構ってくれるまで離さないから」


 ソフィアの胸がむかつくほど顔に押し付けられて、腰を掴まれて、手をきゅっと握られて、ソフィアが笑顔で抱き締めて閉じ込めるあたしを堪能する。


(……あんたは聞き分けの悪い子供かい……)


 24にもなって、大人げない。ソフィアの背中を叩く。


「ソフィア、離しなさい」

「やだ」


 ソフィアが楽しそうに微笑んで、断った。


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