第18話 春は出会いの季節


 春の風が吹く。


 メニーの髪が揺れる。


 メニーが庭を歩いている。


 花がメニーを囲む。


 メニーのドレスが揺れる。


 突風が吹いて、メニーが髪を押さえた。


「わっ」


 瞼を閉じた。

 風が止む。

 瞼を上げた。


 目の前に、一人の少女が立っていた。


「あの」


 メニーは驚いて、目を見開いた。


「あの」


 小さな少女は声を震わせた。


「あの、あの」


 小さな少女が一歩踏み込んだ。


「良かったら」


 小さな少女が手を差し出した。


「お友達になってください」


 メニーがぽかんとした。

 少女が瞼を閉じて、じっとした。

 メニーが微笑んだ。

 少女が瞼を閉じて、口まで閉じた。

 メニーが駆け寄った。

 少女は顔を上げた。


「お名前、なんていうの?」


 メニーが微笑む。


「私は、メニー」


 メニーが少女の手を握った。


「メニー・ベックスっていうの」


 メニーは少女を見つめる。


「貴女は?」

「私は」


 少女がメニーを見つめる。


「ルビィ」


 ルビィがメニーの手を握る。


「ルビィ・ピープル」


 でも、


「小さいから、リトルルビィって呼ばれてるの」

「リトルルビィ? うふふ! なんだか、可愛い名前」


 メニーとルビィが手を握り合う。


「何歳?」

「9歳」

「私も9歳」

「でももう少しで10歳になるの。五月生まれだから」

「私は二月生まれだから、まだ当分9歳」

「お誕生日、二月のいつ?」

「二月十五日。リトルルビィは?」

「五月五日」

「もう少しだね。お祝いしていい?」

「お祝いしてくれるの?」

「だって、お友達でしょ?」


 メニーとリトルルビィが微笑み合う。


「ねえ、リトルルビィ、遊びに行こうよ」

「どこに行くの?」

「お姉ちゃんのお庭、見せてあげる!」

「テリーのお庭?」

「そう。お姉ちゃんね、お庭を持ってるの。綺麗なお花が沢山育ってるんだよ」

「それ、赤いお花もある?」

「うん。あるよ」

「行ってみたい」

「行こう」


 メニーがリトルルビィの手を引いた。


「私が連れて行ってあげる!」


 メニーとリトルルビィが走り出す。

 友達同士が手を握り合って、きらきらと目を輝かせる。


 リトルルビィは、もう孤独じゃない。

 リトルルビィには、水が与えられる。

 リトルルビィはすくすく育っていくだろう。


 水を求める植物のように、愛を求める植物のように、リトルルビィにも水が注がれ、愛が注がれ、どんどん彼女は成長していく。


 犯してしまった罪を右腕の義手に背負って、彼女はメニーの手を握る。


 ドロシーが窓から二人を見下ろす。

 あたしも窓から二人を見下ろす。

 あたしは箱の蓋を開ける。

 オルゴールが鳴り響いた。

 ドロシーが欠伸をした。

 あたしは静かにオルゴールの音色を聴いた。

 きらきら流れる歌は、外へと出て行く。


 外では、友達同士のメニーとリトルルビィが、庭の中心で、赤いテリーの花に囲まれる。案山子が笑う。花が揺れる。


 春の風が吹く。


 二人が目を見合わせ、ふいに、くすくすと、楽しそうに笑い合った。








 二章:狼は赤頭巾を被る END

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