第10話 10月24日(1)

( ˘ω˘ )






 雪が降っていた。


 あたしは白い息を出して、雪の上に座った。


 ふう、と息を吐いた。また白い息が出た。


 あたしは曇る空を眺めて、雪を見つめた。


 お尻が冷たい。でも我慢。


 周りには石が転がっている。


 ニクスの鞄も転がってる。


 ニクスはまだかな。寒いな。


 あたしはそんなことを思って待つ。


「テリー」


 ニクスの声が聞こえた。


「テリー」


 あたしは辺りを見回した。


「テリー」

「ニクス」


 あたしは微笑んだ。


「ニクス」

「テリー」

「どこ?」

「テリー」


 ニクスが言った。


「なんで気付いてくれなかったの」


 ニクスが言った。


「ずっとここにいたのに」


 ニクスが言った。


「どうして僕を置いていったの」


 ニクスがあたしを睨んだ。


「僕はずっとここで待ってたのに」


 ニクスの手が雪から突き出た。


「嘘つき」


 ニクスの手があたしの足を掴んだ。


「嘘つき」


 あたしはその手を見て、目を見開いた。


「嘘つき」


 ニクスがあたしに言った。


「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき」


 ニクスの手があたしの足を引っ張った。


「友達なら一緒にいてくれるよね?」


 ニクスがあたしの足を引きずり込んでいく。


「寒い雪と氷の中で、一緒にいてくれるよね?」


 あたしは悲鳴をあげた。


「テリー」

「やめて! ニクス!」


 見下ろすと、


「トリック・オア・トリート!」


 ジャックが言った。


「オ菓子チョウダイ!」

「え……」


 あたしはコートのポケットを探す。


「……ない」

「何カアルンジャナイ?」

「……何もない。ニクスは持ってない?」

「……」

「……ないって」

「……」


 ジャックが黙った。次の瞬間、ニクスの手が強くなった。


「あ」


 あたしは声を漏らした。雪の中に引っ張られる。


「ニクス、やめて」

「テリー、君も来るんだ」


 ニクスがあたしを引っ張る。


「ニクス、助けて」

「テリー、一人だけ助かろうなんて許さない」


 ニクスがあたしを引っ張る。


「寒いよ。一緒にいようよ。寂しいよ。テリーは僕の友達だよ。友達なんだから一緒にいようよ」

「やめて、ニクス、ニクス、ニクス!」


 あたしは叫んだ。


「お願い! やめて!」


 あたしは雪の中に、沈んだ。


 あたしは消えた。



 あたしとニクスが、行方不明になった。






 ジャックが扉を閉める。そして、しっかりと鍵をかけた。






(*'ω'*)






 じりりりりりりと、目覚まし時計が鳴った。

 あたしは素早く時計を止めた。


「……んっ」


 目覚まし時計を持ち上げて、針の指す数字を覗き込む。8時。


「……んー……」


 唸り、ぐうっと伸びをする。体が伸びれば欠伸が出て、体を起こす。


(起きろ……起きろ……)


 自己暗示をかけるように、あたしはベッドから抜けた。


(今日入れてあと三日……あと三日頑張るのよ……あたし……)


 立ち上がり、また欠伸をしてクローゼットを開ける。普段着ているような服とパンツを取り出して、靴下をベッドに置いて、下着を取り出して、着替え始める。


 キッドのお下がりのパーカーを脱ぎ、キャミソールを脱ぎ、ブラジャーの紐を腕に通し、後ろのホックを閉める。再びキャミソールを着て、キッドのお下がりの服を着て、穿くのが楽なパンツを穿いて、靴下を履く。


「……うん?」


 右足首を見る。


(何、この痣……)


 何かに掴まれたような手の形の痣。


「……」


 あたしはちらっと、肩を見た。しかし見えないので、服を脱いで肩を見る。


「……へえ」


 昨日まであった痣が無くなってる。


(痣が無い)


 痣が足首に移動している。


(ということは……)


 あたしは思い出そうとしてみる。


(……駄目だ)


 やっぱり思い出せない。


「……」


(キノコを食べれば……)


 あたしは顔をしかめた。


(いや、わざわざ悪夢を思い出さなくてもいい)


 昨日も、思い出したところで何も分からなかった。恐怖しか思い出せなかった。


 あたしは黙ってもう一度服を着て、髪を三つ編みに結び、指輪を小指にはめて、ジャケットとリュックを持って部屋を出る。


 リビングに下りると、良い匂いがしていた。


「……?」


 テーブルには、既に朝食が用意されていた。ソファーにジャケットとリュックを置いて、辺りを見回す。


「じいじ?」


 あたしの声だけが響く。家の中には人の気配を感じなかった。


「……あ」


 テーブルの端に置手紙。開いてみると綺麗な字で書かれていた。


『テリー様、おはようございます。ビリー様がこちらに戻れないため、粗末ながら朝食を作らせていただきました。お口に合えば幸いです』


 名前もきちんと書かれている。見覚えもある。


(キッドの部下の人だ)


 あたしはテーブルに並べられた素晴らしい朝食を見た。


(……じいじ、やっぱり帰ってこなかったのね)


 昨晩、キッドからのおやすみメッセージも届かなかった。あたしはポケットに入れていたGPSを手に取り、電源をつける。居場所を確認すれば、キッドを含め、三人、きっと兵士達も一緒の一軍は、町から町へと移動していた。


「……何をしてるのやら……」


 まるで、パレードが町から町へ移動しているよう。


(まさか、この悪夢騒動に気付いてないわけないわよね?)


 じゃあ、なぜこんな遠くの町に? 何をしに行っているのだろう?


(……いいや、やめよう。考えてもどうせ分からない。キッド達のことは後回しよ。……今日は図書館で待ち合わせだっけ?)


 キッドのいない今しかチャンスはない。


(レオとジャックを見つける)

(レオに手柄を取らせる)


 そのためには、どんな小さな手掛かりでも見つけるのだ。


(……ねむ……)


 顔を洗いに洗面所へ。冷たい水を手に溜めて、ばしゃばしゃと勢いよく顔に当てて濡らしていく。


(リトルルビィは今日もお休みなんでしょうね)

(アリスも休みだろうし)

(……仕事が終わったらアリスにも会いに行こう)


 惨劇まで、あと4日。


(この4日で、アリスに何かが起きる)


 何かが起きる前に防がないと。


(ジャックを見つけて捕まえたら、アリスが殺される未来は無くなる。そこでまた歴史が変わる)


 アリスが犯罪者にならない未来があるかもしれない。


(……アリス)


 あたしは顔を濡らしたまま、目を開けた。


(……あたしの親友を、殺人犯になんてさせない)


 まだ間に合う。


(……その前に今日のバイトよ。……混まないといいけど……)


 タオルで濡れた顔を拭き、棚に戻し、リビングに戻る。静かな空気が嫌だったから、昨日のようにラジオを付けた。


『……であるからして、私はこう思うわけだよ』

『はいはい。そうですね』

『はっはっはっ! シェリー! 相変わらず君は朝から僕を適当にあしらうんだから!』


 テーブルにラジカセを置き、椅子に座って手を握る。


「我らが母の祈りに感謝して、いただきます」


 フォークを握り、もくもくと朝食を口に運ぶ。


(……少し冷たいけど……これくらいなら食べれる)


 もぐもぐ。その間も、ラジオからは陽気な声が聞こえる。


『というところで、話題を移ろう。……おっと、リスナーから電話だ。朝からご苦労だね』

『いいから電話を取りなさいよ。ダニーロ』

『分かってるさ。シェリー』


 がちゃりと音が聞こえた。


『ハロー。どうも。おはよう』

『おはようございます』

『これはミス・リスナー。どうしたんだい?』

『あの、実はこの三日間での悩みがあって』

『おっと、美人のお悩みはこのダニーロが受け付けるよ。何でも解決しよう。どうしたんだい?』

『あの、三日連続で見ている悪夢のことで……』


 もぐもぐ。


『私の家族が夜に怯えているんです。ダニーロ、貴方は夜、どうしてる?』

『ああ、三日前から始まったジャックの大遊びだね。シェリー、君も悪夢を見たって言ってたね』

『ええ。私も三日前から見ているわ。寝れば寝るほど見るのよ。昼も夜も関係なくね』

『そうなんです。だから、私達は満足に眠ることが出来ません。夜になったら暗くなって、部屋が暗いと自然と眠くなってくるでしょう? そうすると、皆怯え始めちゃって』

『心配ないさ。ミス・リスナー』

『そうよ。元気を出して』

『解決方法をひらめいたぞ。家族全員で合唱するんだ』

『合唱ですか?』

『ジャックなんか、怖くない。怖くないったら怖くない! ジャックなんか、怖くない! これを、家族で気が済むまで歌うんだ! ああ、でも、部屋で歌うだけじゃいけないよ。狭いベッドに、家族でぎゅうぎゅうに詰め込んで、手を握り合って歌うんだ! いいかい。ミス・リスナー。君は一人ぼっちじゃない。家族の皆がついてる。だろう?』

『……はい……』

『今夜からやってみるといい! 皆が楽しくなるまで歌うんだ。いいかい?』

『はい。あの、なんか元気が出てきました。ありがとうございます!』

『ふふっ。どうだい。上手くいったら、今度の休日、僕の予定空いてますよ』

『電話切れてるわよ。ダニーロ』

『オーマイゴッド!』


「ご馳走様」


 手を握り、お礼を。


(……貴方の上司のキッドはクズだけど、貴方自身はとてもいい腕を持ってると思うわよ。朝食をありがとう。……美味しかったわ)


 そして、ちらっとラジカセを見る。


(……やっぱり、今朝も皆見てるみたいね)


 悪夢。


(……ニクスは大丈夫かしら……)


 雪のように綺麗な笑顔を浮かべるニクスを思い浮かべながら皿をまとめて、キッチンの洗い場に置き、洗面所に歩いて、歯を磨く。うがいして、口の中を綺麗にしてから、洗面所を出て、時計を確認する。


(よし、出よう)


 ジャケットを着て、リュックを背負う。


「行ってきます」


 誰もいない家に言ってリビングから出る。廊下を渡り、玄関へ。扉を開けると、今日も雨が降っている。


(三日連続の雨……)


 あたしは傘を差す。


(……寒い……)


 扉に鍵をかけてからポーチにしまい、リュックに入れる。


(行かないと)


 昨日よりも水溜まりが増えている。


 慣れ始めた道を歩く。足を動かして、一本道を進み、畑が見えて、作物を守ろうとする農家の人達が働いているのを横目で見ながら歩いて、建物が見えてきて、入って、建物を進み、昨日よりも人気が少なくて、道を進み、すれ違う人が昨日よりも少なくて、広場に入って、噴水前に行く。街から見える時計台の時計は、9時40分。


 リトルルビィはいない。

 雨の中、笑顔で駆けてくる赤い影は今日もいない。


 傘を持ち直して、商店街に向かって歩く。道を歩くと、昨日よりも広場ががらんとしている。商店街もがらんとしている。シャッターが閉まり切った店がいくつかあり、張り紙が貼ってあった。


『従業員一同、体調が優れないため、休暇をいただきます』


 あっちも、こっちも、そっちの店も。


「……」


 張り紙を見て歩いていると、声をかけられた。


「ニコラちゃん、おはよう!」


 振り向くと、果物屋で働いてるベッキーがいた。あたしに近づき隣を歩く。


「おはよう。ベッキー」

「あれ、ルビィちゃんはお休み?」

「そうみたい」

「アリスは来るかしら?」

「どうかしら」

「それと、聞いたわよ。昨日大変だったんでしょう? 社長さん大丈夫?」

「詳しいことはあたしも分からないの。でも、カリンさんが病院に行ってくれたみたい」

「そうなんだ……。あのね、うちのところも、何人か従業員倒れてるの。昨日もお休みの人がすごく多くて」

「お互い大変ね」

「本当よ。でね、昨日うちの社長が言ってたんだけど、今日、朝から三月の兎喫茶に責任者集めて、臨時で会議を開くんだって。商店街通りの店を休業するかしないか話し合って決めるらしいわ」

「休業?」

「こんな状態だもの。誰も手伝えないし、人手もない。こういう時こそ、商店街を閉鎖して、一気に休んで、ハロウィン祭に力こめましょうってわけ」

「……ハロウィン祭の準備はどうするのかしら」

「この間である程度出来たみたいだし、心配ないんじゃない? あとは出店のマントの設置とか、まあ、それも一日、二日で終わることだし、商店街の皆が元気になった状態でやれば、何とかなるわよ」

「……なら、いいけど」

「お互い体調には気をつけましょう。ニコラちゃんはまだ14歳なんだし、無理しないようにね」

「ええ。ありがとう」


 果物屋に到着する。


「じゃあ、ここで」

「頑張ってね」

「ニコラちゃんもね」


 ベッキーが手を振って、店の中に入っていく。

 あたしも雨の道を進む。水溜まりが雨の雫で跳ねる。その水溜まりを通り過ぎる。

 ドリーム・キャンディに辿り着き、傘を閉じ、店の中に入る。

 中には、奥さんがレジカウンターに頭を倒し、突っ伏していた。


「……おはようございます」


 声をかけるが、反応はない。


「……奥さん?」


 あたしはカウンターに近づいた。


「奥さん」


 奥さんの肩に、とん、と手が触れた、瞬間、


「触らないで!!!!!」


 目を見開いた奥さんがあたしの手を叩いた。思わず叩かれた手を引っ込ませ、ぽかんと奥さんを見る。奥さんがあたしを見た。目が合う。奥さんがきょとんとした。


「……あれ」


 奥さんが辺りを見回し、あたしを見た。


「ニ、ニコラかい?」

「……はい」

「あんた、口から火を吐いたりしないかい?」

「そんなこと出来ません」

「……はあ……」


 奥さんが深く、ため息をつき、頭を押さえた。


「……ああ……ごめんね。手を叩いちゃって。……痛くなかった?」

「大丈夫です」

「……ちょっと居眠りしたらこれだ」


 奥さんの目の下には濃い隈が出来ている。


「あんたは大丈夫かい?」

「悪夢ですか?」

「ああ」

「奥さん、今日はなんだかしんどそうですね。……顔が青いです」


 言うと、奥さんが頷いた。


「……ずっと寝込んでてね、でも、寝込んでても見ちゃうでしょう? で、昨日、あの人が倒れてさ、昨日の夜も二人で病院にいてね。本人は元気だって言ってたけど、念のため、二、三日入院させておくことにしたよ」

「疲労ですか?」

「正解」


 奥さんがくすっと笑ってから、ふーーっ、と息を吐いた。


「雨も続いて、空気も重い。家でも相当気遣って、私の面倒も見てくれてたんだよ。倒れても無理ないさ。それに、倒れて病院に運ばれる人も少なくないらしい」

「あの、朝から三月の兎喫茶で会議があるって……」

「うん。だから、少し開店を遅くするから。ほんの30分程度ね」


 奥さんがこめかみを押さえた。


「ニコラ。……申し訳ないけど、今日は午前で店を閉めようと思うんだ」

「……午前でですか?」

「私もこんなんだし、とうとうカリンも倒れちまってね」

「え」


 声を漏らすと、奥さんが頷いた。


「そう。従業員は今、ニコラしかいないわけだ」

「……」

「ふふっ」


 覇気のない声で、それでも少しおかしそうに奥さんが笑った。


「新人が元気でいてくれて嬉しいけど、何でも仕事を任せるわけにもいかないし、こんな状態じゃ、どっちみち仕事にもならないし、だから、今日は、……そうだね。13時か、それくらいでもう終わりにしよう。で、帰って、あんたもゆっくりしな」

「……」

「嫌になるよ。変な夢ばかり見ちまって。……ここら辺の建物全部から爆発が起きて、私と旦那が看板の下敷きになっちまうのさ。それが、もう、本当に痛くてね。足が痛いんだよ。なんでか分からないけど、すごく痛いんだ」

「……」

「……夢なのにね」


 奥さんが視線を逸らす。


「ジャックの悪戯だってことは分かってるんだけど、どうも、駄目ね。調子が戻らない」


 奥さんの手が震えている。


「……変な話しちゃったね。そんなわけだ。ニコラ、今日は私とあんただけ。13時まで頼むよ」

「……はい」

「まあ、こんな天気だから。客もそう来ないと思うよ」


 奥さんがふらりと立ち上がる。


「サガンさんの所に行ってくるよ。留守番頼んだよ」

「はい。……奥さん、……大丈夫ですか?」

「はっはっはっ! 大丈夫、大丈夫! 任せなさい!」


 奥さんが強気にカウンターから出てきて、あたしの背中をぱんぱんと叩いた。


「じゃ、行ってくる!」

「……はい」


 奥さんが気合いを入れたように深呼吸し、傘も持たずに、すぐ隣の喫茶店へ歩いて行った。あたし一人、店内に残される。


(……荷物、置いてこようかな)


 時計を見る。


(30分まで開店しないのか……)


 時計を見る。


(今日は13時で終わり……)


 あ。


(メニーに言わないと)


 あたしはカウンターの中にある電話を見た。


(……使っていいかしら……?)


 きょろりと見ても、奥さんは喫茶店に行ってしまって、誰もいない。


(いいや。少し連絡するだけだし)


 あたしはカウンターの中に入って、受話器を持って、電話機の番号を回す。受話器を耳に押し当て、ぷるる、と音が鳴るのを聞く。二コールもしないうちに、電話が速やかに取られる。


『はい。ベックスでございます』

「テリー」

『お嬢様っ!!!!』


 ギルエドがあたしを呼んだ。


『お嬢様! ご無事でございますか!!』

「メニーいる? いたら今日の昼は来なくていいって伝えて」

『テリーお嬢様、速やかにお屋敷にお戻りを!』

「は?」

『奥様のご体調が……!』


 あたしは眉をひそめた。


「……何? どうかしたの?」

『恐怖に怯え、お部屋から出てこられず、おいたわしいお姿に……!』

「……そんなことだろうと思った」


 ママは大丈夫そうね。ほっと一息つくと、ギルエドが口早に舌をまくし立てる。


『テリーお嬢様、今ならおそらく、屋敷に入っても大丈夫でしょう! どうか、どうか奥様に会っていただけませんか……!』

「大袈裟ね。大丈夫よ。死ぬわけじゃあるまいし」

『テリーお嬢様! ベックス家の危機なのですよ!』

「大丈夫大丈夫。ギルエド、今日もいつも通りに過ごして。それがいいわ。それと、貴方もちゃんと休んで」

『いいえ! ギルエドは、この屋敷の全部の仕事の責任を担っております! 私は倒れません! 何があっても!』


(頼もしい執事がいてくれてベックス家も安泰ね……)


 安心したところで、話題を戻す。


「で、メニーは?」

『お部屋に』

「出かけないよう伝えて。街の中もちょっと様子がおかしいの」

『テリーお嬢様、悪いことは言いません。……今すぐ、お屋敷に戻ってきてはいかがでしょうか。こんな状況です。奥様もお許しくださるはずしょう』

「いいえ。帰らないわ」

『お嬢様……』

「大丈夫よ。11月になったらちゃんと帰る」

『何かが起きてからでは遅いのです。テリーお嬢様、奥様は心底、お嬢様を心配されております。このような悪夢を見る日々が三日間だけとは思えません。もう一年以上続いているような感覚です。お嬢様、私も貴方が心配なのです』

「ギルエド、大丈夫だって言ってるでしょ」


 あたしの指が電話のくるくるな線を弄る。


「あたしね、ちゃんと仕事してるのよ。一回体調不良で休んでしまったけど、遅刻はしてないの」

『体調不良ですと!?』

「生理でね」

『病院には……!』

「薬があったから大丈夫。それと、友達も出来たの」

『……え!? テリーお嬢様に、お友達が!? ……ああ、なるほど……そうですか……。だから……悪夢が街を覆いつくして……』


 ……どういう意味よ。


「商店街の人達がハロウィン祭の準備を一生懸命してる。悪夢にうなされてるけど、それでも一生懸命働いてるわ。……ママが言ったのよ。10月中は、城下町の人達と自分の力で働きなさいって」

『……お嬢様……』

「あたしは大丈夫よ。頼りになる人達に囲まれて守られてる。大丈夫だから、ギルエドは屋敷を守って」

『……はい。必ず。このギルエドが、このお屋敷を守ってみせます。はい。守ってみせますとも。……ぐすん』


 ギルエドがハンカチで鼻をかいだ。


「……で、屋敷の人達はどうなの? 大丈夫?」

『ええ。まあ、……やはり、体調不良者も非常に多いです。しかし、その中でも頑張って働いてくれております』

「出来るだけ休ませてあげて」

『そうですね。そうさせていただきます』

「サリアは?」

『……サリアは……』


 ギルエドが、ぽつりと言った。


『彼女は、唯一、とても元気です』


 あたしは目が点になった。


「……うん?」

『体調不良者が続出している中、サリアだけは清々しい顔で仕事をこなしております。倒れた皆の代わりに、屋敷中の掃除や、洗い物の仕事もしてくれておりまして……』

「……サリアが?」

『ええ』

「清々しい顔?」

『鼻歌を歌っておりました』

「何の?」

『……ジャックの歌を』

「……」


 ――サリア?


「……」


(……サリアと話したい)


 あたしはちらっと時計を見る。


(……)


 ここは店で、電話の相手はギルエドだ。


(彼にも仕事がある)


「……ギルエド、また夜に電話してもいい?」

『もちろんでございます。ああ、お時間帯は何時くらいに?』

「そうね。……21時くらいかしら」

『分かりました。では、奥様に伝えて……』

「ああ、いい。ママじゃなくて、サリアと話したいのよ」

『は?』

「サリアに伝えて。連絡するから眠くても起きててって」

『は、はあ……』

「それと、メニーへの伝言、頼んだわよ」

『か……かしこまりました……』

「じゃ、切るわね。あたしもこれから仕事なのよ」

『て、テリーお嬢様……!』


 あたしは受話器を置いた。通話が切れる。


(……唯一元気ですって……?)


 サリア。


(清々しい顔で、鼻歌を奏でながら、仕事してるですって……?)


 ……。


(……なんで?)


 あたしは考える。


(サリア、何してるの?)


 あたしは考える。


(……何かしてるのね?)


 あたしは考える。


(何か知ってるのね?)


 サリアは今も微笑んで仕事をしているのだろう。皆が怖いと言っている間に、清々しい顔で。


「ああ、テリーは大丈夫かしら。ふふっ。私は元気ですよ」


 そう言って、笑っているのだろう。


(……流石ね……)


 サリアの知恵を借りる時が来たみたい。全ては、21時よ。





(*'ω'*)




 10時45分。



 奥さんが戻ってきた。


「さ、開店しようかね」


 奥さんが店のシャッターを上げ、看板を裏返した。店の中に入り、ふう、と息を吐いた。


「ニコラ、明日からしばらく来なくていいよ」

「え?」

「商店街、しばらく閉鎖することになったんだよ」


 奥さんがレジカウンターの椅子に座った。


「満場一致。こんな状況だし、どこも営業なんて出来ない。来週の月曜日まで、皆でゆっくり休もうって話になったのさ」

「来週の月曜日……」


 10月29日。惨劇の翌日まで、商店街が閉まる。


(……それだ)


「それがいいですよ」


 あたしは躊躇うことなく頷いた。


「29日まで、皆で家に引きこもっていればいいんです」


 そうすれば、いざ惨劇が起きても被害者が少なくなるかもしれない。商店街で爆発が起きても、怪我人も死人も出ないかもしれない。そうすれば、アリスの罪は少しは軽くなるかもしれない。そもそも、そのお陰で惨劇を防ぐことが出来るかもしれない。


「あたしも賛成です。のんびり出来るし」

「あんた、意外と呑気な子なんだね」


 皮肉ではなく、純粋におかしそうに、くすっと奥さんが笑った。


「悪夢が怖くないの?」

「怖いですけど、でも家にはお爺ちゃんもいるし、休みなら、一緒にゲームして遊ぶことにします」

「そうだね。こういう時こそ、家族の元にいるのが一番さ」


 奥さんが窓を見た。


「私も店を閉めたら病院に行くよ。こういう時こそ、夫婦で支え合わないとね」


 奥さんがそう言って降り続く雨を見上げる。雨は窓を濡らす。あたしも来ない客のために品出しをしようと足を一歩棚に向けて踏み出すと、外から悲鳴と叫び声。


「火事だーーーーーーー!!」


 奥さんが立ち上がる。あたしも振り向いた。


「どこだ?」


 奥さんが店の扉を開けて、辺りを見回す。そしてはっとして、あたしに振り向いた。


「ニコラ、バケツ!」

「え、えっと……」

「厨房にある。取ってきて」

「は、はい」


 あたしは急いで店の奥に駆け、厨房の扉を開ける。キッチン台の下に、二つバケツがある。


(……二つ持っていった方がいいかしら……?)


 分からない。


(いいや。持っていこう)


 急いで売り場に戻る。外を見ていた奥さんに二つのバケツを渡す。


「奥さん」

「ありがとう! とりあえずあんたはここにいて。煙がこっちまで来たら外に出て」


 奥さんがバケツを持って走り出した。


「店番頼んだよ!」


 大声で言って走る。あたしは扉を開けたまま、奥さんが走っていった方向を見た。精肉屋が燃えている。商店街の店から、次々と大人達がバケツを持って走っていく。


「おい、大丈夫か!」

「怪我人は!」

「まだ中に人が!」

「ブライアン! 水をかけろ!」

「うっす!!」

「消防隊は!?」

「もう呼んである!」

「リタ! そっちを頼む!」

「はいよ!」

「雨も降ってる! 大丈夫だ! とにかく火を消すんだ!」


 必死に皆が火を消しにかかる。商店街を歩いている数少ない人々が火事を呆然と眺める。やがて兵士達が走ってきた。


(あ)


 大人達が兵士達に叫んだ。


「おい! こっちだ! 早く! バケツを持って!」

「消防隊はまだか!」


 雨もあり、火は少しずつだが小さくなっている。兵士達も一緒にバケツを持ち、女達が精肉屋から出てきた従業員をなだめる。


「もう大丈夫だよ!」

「怖かっただろう!」

「怪我は?」


 その瞬間、精肉屋の建物が爆発した。火が外まで飛んできて、慌てて皆が離れる。


「うわあ!」

「あちち!」


 ブライアンのズボンに火が移って燃えた。一斉に大人達がバケツの水をブライアンにぶっかける。


「痛い! 熱い! つめてえ!」


 ブライアンが悲鳴をあげて、水の重さに耐えきれず、その場で転んだ。


「いてて……」

「ブライアン、大丈夫か?」

「足がいてえっす……」

「中で爆発したぞ」

「水だ! とにかく水を!」

「うおおおおおおおおおおおお!!」


 次の瞬間、遠くから黒馬を一直線に駆けてくる。紐を掴むグレタが雨の中、叫んだ。


「大丈夫かーーーーー!!」


 グレタが黒馬から飛び降りて、ブライアンに走った。黒馬のアレキサンダーが体を反らせ、止まる。ブライアンの目の前に、グレタが仁王立ちする。


「少年! 怪我はないか!」

「足が熱いです!」

「火傷をした可能性がある! すぐに病院へ!」


 グレタが燃える精肉屋を睨んだ。


「バケツを! 俺も手伝おう!」


 グレタがそう言って商店街の人からバケツを受け取った時、大勢の兵士が一斉に

 バケツに入った水を精肉屋にぶつけた。上からも下からも水がかけられる。

 隣の店の屋根の上に、ヘンゼが立っていた。


「皆のお兄さんは遅れてやってくるってね!」


 ヘンゼがバケツを掲げて指示を出す。


「止まるな! 火を消せ! 全員でだ!!」


 兵士達が再び、一斉にバケツを振った。水が火に降りかかる。


「火が収まってきたぞ!」

「水だ! 水を早く!」


 商店街の人達も、バケツに水を汲み、ひたすら運ばれたバケツの水を店に向けてかけた。兵士達が水をかける。商店街の人達も水をかける。女達が水を汲んでバケツを渡していく。バケツは人から人へ流れ、渡されたら水をかけていく。その繰り返し。上からは雨が降り、大人達は水をかける。

 ようやく消防隊を乗せた馬車が走ってきた。


 消防隊がホースを伸ばし、建物に向かって水を飛ばした。火の根源に向かって飛ばし続ける。周りの火も消えかけていたことから、雨の力もあり、思っていたよりも早く建物の火が消えた。

 煙だけが残る。

 他の建物に移る前に消え、精肉屋の社長も、従業員達も心底ほっとしていた。消えた火を確認して、商店街の人々が、雨の中、ずぶ濡れになりながら、お互いに拍手を送った。


「よくやった!」

「人間様の勝利だ!」

「やったぞ!」

「怪我人は?」

「ブライアンとキーリぐらいか?」

「お前不幸中の幸いだったな。ブライアン」

「俺が皆の分の怪我を負いました! 良かったっす!」

「この後、ちゃんと病院行けよ?」


 ブライアンが笑い、皆もげらげらと笑った。その瞬間だけは、とても悪夢でうなされていた人々とは思えない笑顔であった。


 ――しかし、事態は終わらない。消防隊がまた馬車に乗り、走り出した。


「次は隣の通りだ!」


 そう言って馬車が走り出す。

 グレタとヘンゼも無線機を掴み、電波を拾った。


「兄さん!」

「グレタ! 先に行け! 俺は東を!」

「俺は西を!」


 双子がお互いを見て頷き、グレタがアレキサンダーに乗り込み、速やかに駆けていく。ヘンゼも数人の兵士を残し、屋根から飛び降りて地面に着地する。速やかに馬に乗りこみ、東に向かって駆けていった。


 町が騒々しい。あたしは店から出て、景色を眺めた。


(え)


 町中、黒い煙が立っている。


(火事)


 一軒じゃない。二軒、三軒、四軒。見えるところどころから、煙が出ている。火事が立て続けに起きているのだ。ここだけじゃない。他のところでも同じように。


「……」


 空には小型飛行機が飛ぶ。上から水をかけていく。雲からは雨が降り続ける。さっきまで笑っていた商店街の人々が黙る。黒い煙が立っている城下町を、ただ呆然と眺める。


(……何が起きてるの)


 あたしは眉をひそめる。


(ジャックは悪夢を見せるだけなのよ)


 あたしは眉をひそめる。


(おかしい)


 違和感を感じる。


 ――何かが、おかしい。



 黒い煙が、城下町を包み込んでいるようだった。





(*'ω'*)






 12時。ドリーム・キャンディ。




 メニーを呼ばないで正解だった。店に置かれたラジカセを聞けば、町中火事や災害に見舞われていた。川のダムが決壊したり、畑の作物が駄目になったり、兵士や警察が走り回る始末。犯罪も多いようだ。強盗がこの隙に荒らしたい放題らしい。


 奥さんに買ってもらったパンを食べて、奥さんと一緒にラジオを聴いていた。


「物騒な一日だね……」


 ほんの一瞬、意識をぼうっとさせた人達が火から目を離したのが原因での火事が多かった。精肉屋もそうだった。従業員のキーリが、一瞬だけ、火をつけているのを忘れたのだ。ぼうっとして、自分のしていた作業を忘れ、火をつけているのを忘れ、ガス線思い切りひねって、爆発して、火事になった。ただ運が良いことに、ほんの少しの火傷で済んだ。ブライアンも熱がっていたけど、大きな火傷ではない。まだ被害は小さな方だった。


「死人が出なかっただけ良かったよ」


 ラジオで怪我人や死人がいることが報道され、奥さんが胸を撫でた。


「全く、キーリの奴、何やってんだかね。キーリもブライアンも、火傷の痕が残らないといいけど。……あの子達もまだ若いしさ」


 奥さんがパンを頬張り、はあ、とため息をついた。


「ニコラ、お爺さんにも火の扱いについて言っておくんだよ」

「はい」

「食べ終わったら、まっすぐ帰りなさい。寄り道せず、まっすぐね」

「はい」

「なんだか地震の時を思い出すね」


 奥さんがあたしに顔を向けた。


「ほら、二年くらい前だったかい? 冬に、地震が多かった時があっただろ」

「はい」


 ニクスの父親が地面を揺らしていた地震騒動。


「あの時も、皆怖がってたんだよ。もっと大きな地震が来たらどうしようってね。地震が来るたびに棚のものが全部落ちるから、当時のアルバイト達も大変そうだったよ」

「……怪我しませんでしたか?」

「ありがとう。心配してくれるなんてニコラは優しいね。旦那も私も大丈夫だったよ。あんたは?」

「……あたしも大丈夫でした」

「そうかい。それは良かった」


 ぱくりと、パンを食べ進める。

 ラジオからはまだ不気味なニュースが報道される。


「明日から商店街も閉鎖される。食料さえあれば、ま、大丈夫だろう。あとは油断しないこと」

「肝に銘じておきます」

「そうしておくれ。従業員に何かあったら、私も旦那も悲しいからね」


 そう言って、ふと、奥さんが言った。


「アリスも、リトルルビィも大丈夫かね?」


 あたしはパンを食べる。奥さんが窓から空を見上げる。


「早くこんな雨止んで、太陽と青空が見たいもんだ」


(……ん?)


 あたしはもぐもぐと何かを噛む。


(何これ。パンの中に何か入ってる)


 もぐもぐと食べる。


(不味くないわね)


 もぐもぐと食べる。


(……ん?)


 ――途端に、頭の中で違和感を感じた。


(……うん?)


 あたしはじっとした。


(あれ?)


 なんか、思い出せそう。


(あれ?)


 あたしは少し深呼吸をした。


(うん?)


 頭の中にあったどこかの扉の鍵が開いた気がして、あたしはドアノブをひねってみた。その瞬間、一瞬にして、全ての記憶が脳裏を駆け巡った。




 雪が降っていた。あたしは白い息を出して、雪の上に座った。ふう、と息を吐いた。また白い息が出た。あたしは曇る空を眺めて、雪を見つめた。お尻が冷たい。でも我慢。周りには石が転がっている。ニクスの鞄も転がってる。ニクスはまだかな。寒いな。あたしはそんなことを思って待つ。テリー。ニクスの声が聞こえた。テリー。あたしは辺りを見回した。テリー。ニクス。あたしは微笑んだ。ニクス。テリー。どこ?テリー。ニクスが言った。なんで気付いてくれなかったの。ニクスが言った。ずっとここにいたのに。ニクスが言った。どうして僕を置いていったの。ニクスがあたしを睨んだ。僕はずっとここで待ってたのに。ニクスの手が雪から突き出た。嘘つき。ニクスの手があたしの足を掴んだ。嘘つき。あたしはその手を見て、目を見開いた。嘘つき。ニクスがあたしに言った。嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき。ニクスの手があたしの足を引っ張った。友達なら一緒にいてくれるよね? ニクスがあたしの足を引きずり込んでいく。寒い雪と氷の中で一緒にいてくれるよね? あたしは悲鳴をあげた。テリー。やめて! ニクス! 次の瞬間、ニクスの手が強くなった。あ。あたしは声を漏らした。雪の中に引っ張られる。ニクス、やめて。テリー、君も来るんだ。ニクスがあたしを引っ張る。ニクス、助けて。テリー、一人だけ助かろうなんて許さない。ニクスがあたしを引っ張る。寒いよ。一緒にいようよ。寂しいよ。テリーは僕の友達だよ。友達なんだから一緒にいようよ。やめて、ニクス、ニクス、ニクス! あたしは叫んだ。お願い! やめて! あたしは雪の中に沈んだ。あたしは消えた。あたしとニクスが行方不明になった。


 これでずっと一緒だよ。テリー。


 ニクスがそう言って、笑った気がした。












「……。……ニコラ、大丈夫かい?」





 ドアをこんこんと叩かれる。あたしは便器から離れず、叫んだ。


「無理です!!」


 胃の中のパンが喉の奥からこみあげてくる。


(うっ……!)


 おろろろろろろろろろろろろろろ!


「ニコラ、しばらくそこでじっとしてな」

「……」

「落ち着いたら出て来ればいいから。ね?」

「……」

「何かあったら呼んで。私はいるから」

「……」

「大丈夫。一人ぼっちじゃないよ。ゆっくりでいいから。吐くもの吐いて、気持ち悪いものが無くなったら、出てきな。それまでちゃんと私もいるから」


 奥さんの気配を近くに感じる。申し訳なさと情けなさと悪夢の苦しさから、涙がこみあげてくる。


(気持ち悪い……!)


 右足の痣がうずく。


(うっ!!)


 大切なニクスを思い出しては、


(っっっっっっっ!)


 おろろろろろろろろろろろろろろ!

 おろろろろろろろろろろろろろろ!

 おろろろろろろろろろろろろろろ!


(気持ち悪い。気持ち悪い、気持ち悪い……!)


 誰よ! パンの中に炒めた美味しいキノコを入れた奴!!


(ぐううううううっ……!!)


 ぐっと拳を握る。


(ニクス……!)


 あの子はどんな悪夢を見ているのだろう。


(……っ)


 どうしてこんな悪夢を見て、サリアは清々しい顔で、元気に仕事が出来るの。


(あたしは無理よ……!)


 恐怖と気持ち悪さで頭がいっぱいになる。


(……おえっ……)


 あたしはまたトイレで、吐いた。




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