無邪気な悪意と善意

 風邪を引いた。

 しかも久しぶりなせいか、だいぶ症状が重い。

 私は食事も受けつけず、色々な所の不調に顔をしかめながら、大きく咳き込んだ。

「まま、大丈夫?」

 そうしていると、一人娘の菜々美が私の方にトコトコと近付いてきた。

「大丈夫だよ、ありがとう」

 小学校低学年だから、一人でも平気なのがまだ良かった。

 私は一緒に遊べないのを、申し訳なく思いながら菜々美に笑いかける。

「風邪うつっちゃうから、リビングで遊んでな」

「はーい!」

 来てくれたのは嬉しいけど、風邪がうつるのを避けるために、私は菜々美に言い聞かせた。

 そうすれば素直に返事をして、私の顔に何かをのせてくる。

 冷たくて重いそれは、顔全体にのせられたせいで息が出来なくなった。

 たぶん、濡らしたティッシュだろう。

「はやく、らくになるように!」

 菜々美の楽しそうな声が聞こえる。

 私はどけることが出来ないまま、それをのせているしかなかった。

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