松明

「止まれ」


 先頭を歩いていたグリステルが皆を短く制した。


「光が見える。多分松明だ。私が話す。ザジは後ろへ。顔を出すな」

『へいへい』


 ティタが言う森の匂いの風を辿って魔窟の出口を目指す一行は希望の糸を巻き手繰るように暗闇の洞窟の中を進んでいた。森の匂いが強くなり、もうすぐ出口かと皆が期待を膨らませていた中の出来事である。


「そこで止まれ」


 グリステルは穏やかな調子で、だが命令口調でそう呼び掛けた。

 十五歩程向こうで松明の光が止まった。


「こちらはこの穴に落ちた旅人だ。出口を探しているだけで誰かと争う気はない。そちらは?」


 何人かが相談するような声がする。三人か四人。いや、四人だろうとグリステルは当たりを付けた。


「こちらは、近くの集落の者だ。家出した子供を探している。見掛けなかったか?」


 男の声だった。グリステルはティタを振り返った。彼女は怯えた顔で激しくかぶりをふった。


「ここには私の仲間だけだ。そう言えばさっき獣か何かに食われた死体を見た。そちらの探してる子でなければいいが」

「死体? どちらのだ?」

「どちら? 探してる子供は二人なのか?」


 また向こうで相談するような様子が伝わって来た。


「いや、いい。我々で確かめる。すれ違おう。我々は壁際に寄る」


 先程の男の声がそう答えた。


「すまないな」


 短く答えたグリステルは小さく後ろメンバーに囁いた。


「合図で走るぞ。連中を突き飛ばして押し通る」

『骨折の兄ちゃんはどうすんだよ?』

「ザジが背負え」

『いぃ〜』

「グリステル、私は……」

「ザジを見られたらどの道、争いになる。外に出たらゆっくり事情を聴くさ」

 ティタにそう囁いたグリステルは何事もない態度で歩き始めた。ティタ、オベルを背負ったザジがそれに続く。


 一歩。二歩。三歩。


 歩いた分だけ松明の揺らめく光が近づく。


 四歩。五本。六歩。


 グリステルは間合いを測る。まだ遠い。今から駆け出したのでは向こうに身構える時間がある。


 七歩。八歩。九歩。


 自分だけなら一息の間合い。だがティタとオベルを背負ったザジが後ろに続くのだ。相手が四人なら、四人目までをやり過ごさなければならない。その為にはまだ遠い。


 十歩。十一歩。


(今だ!)


 グリステルは合図を出そうと息を吸い込んだ。しかし正にその瞬間、何かが闇の向こうから空気を割いて飛来した。何だ、と思う間も無くそれはグリステルの鎧を貫いて彼女を撃った。


「ぐっ……⁉︎」


 駆け出そうとした瞬間に矢に射抜かれて姿勢を崩したグリステルは前のめりにつんのめるように倒れた。


『グリシー!』

 

 ザジの悲痛な叫びを聞いた時、ティタは自分の血が燃え上がり逆流したように感じた。

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