第389話 エルフだと!?

 デブがユウコの魔法で悶絶している間、スクナは粛々と必要書類を作成して調印も完了。これで煮干し交渉は終了である。

 そしてようやく目が覚めた俺は、後頭部をさすりながらスクナに言った。


「交渉は成立だな。じゃあ、帰るとするか」

「うん」


「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!!」


 あれ?


「なんでカンキチがツッコむんだ?」

「待った……あれ? なんだこの俺が止めたんじゃダメな空気は?」


「普通、ここはそこのデブかソウシが止めるところだろ。せっかく構えていたのに、なんで関係ないカンキチが出てくるんだよ」

「関係ないことはないだろ、俺はここの魔王だぞ。それに、デブは気絶しているようだし、ソウシはスクナ対応でへとへとのようだし」


「おかげでタイミングがズレちゃったじゃないか」

「もう、せっかくユウさんと呼吸を合わせたのに、カンキチさんのおかげで台無しよぷんぷん」


「え、俺のせいなの、それ? そんな内輪話で怒られても」

「それで、お前が止める理由はなんだ?」


「そうだった、ユウ。大事なことを忘れてないか」

「忘れたフリをしているよ?」

「ですよ?」


「ですよ? じゃないだろ。覚えているくせに、なんでふたりしてもったいぶったことをする必要があるんだよ」

「そいつらに自分がすべき義務を果たしてもらおうと思ってな」

「私たちを止めてカイゼン依頼するのは、ここの責任者たちがすべきことですからね」


「と言っても、ひとりは意識すらないようだが」

「そいつはどうでもいい。ソウシ、番頭としてお前はこのままで良いのか?」


「番頭というのは、お金の計算が仕事なのです。削られた利益をどこから調達しようかという思考に沈んでおりまして」

「そ、そうか。それで俺たちはこのまま帰って良いのか?」


「えっと。キロ6円だからマイナス746円で、生産高が去年は」

「聞けよ!!!」

「ひえっ。あ、なんでしたっけ?」


「いや、だから。私たちは帰ると言って」

「あ、そですか。お疲れでした。で、だな。その分を取り返すには、あっちとこっちを値上げして……まだ足りないか。それなら使用人を削減して、あっちとこっちで」

「だから聞けヨ!!」


「わぁお、ビックリした。な、なんですか。確かミノウ様でしたね」

「見ててイライラしたヨ。このデブが作った借金とその支払いはどうするのかと聞いてるヨ」


「あ、いや。それはもう、トシ様に一任しようかと」

「番頭が聞いて呆れるぞ。いくらここが裕福でも、毎月100万もの無駄な支払いを続けていたらいつかは破綻するぞ」


「再来月末の支払いが最後になりそうですね」

「そんなに早いのかっ!?」

「なりそうですねって、そこまで計算が終わってるのですか!?」

「それなのに、そんなのんきでいいのかヨ」

「ってかそんなに経営は逼迫してたのか?」


「この土地は接収して、カンキチ様の領地になるのでしょう? それならあなた方になにか言われる筋合いはありませんよ、スクナ様、ミノウ様」


(俺の名前を意図的に外しやがった?!)


「どういうことヨ。困るのはお主であろうが」

「私は雇われですからね。ここがダメになったらよそへ行くだけです。そもそもそのアホが蒔いた種ですから、自分で刈っていただきます。もともとトシ様を助ける気のないあなた方には、もう関係のない話でしょ? それならお帰りいただいてよろしいかと」


「えらく薄情なキャラが出てきちゃったな」

「うむ。合理主義ってやつなノだ」

「欧米かヨ」

「そのツッコみ、もう覚えてる人は少ないんじゃないか」


「合理的で政治的なことには口を出さないから、番頭をやらせてもらえるのですよ。ささ、煮干しの契約書はもう交わしました。お帰りください」

「ま、ま、待った待った。おえっ。待ったおえ」


「えづきながら待てと言ってるやつがいるようだが」

「あらら。起きちゃった。スクナ、もう一発やっていい?」

「止めてぇぇーーー! もうそれは懲りたから止めて!」


「やっと止めに入る役者が出てきたか。どうする、スクナ?」

「予定通り、話だけは聞いてあげるフリをしましょうか」


「フリ言うな! それよりこの危険な同胞を遠ざけてくれ」

「「同胞?」」

「ああ、僕はエルフだ。数万人にひとりしか生まれないという珍しい男の」


「「「「「ふぁぁぁっ!!??」」」」」

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