第386話 スクナをさらった理由
「最初は、スクナさんをエゾ家の嫁にと思ったのですが」
「ふざけんな!」
「うちのママに断られたんでしょ?」
「俺のスクナをあんなもんの嫁になど、できるものか、どあほう!!」
「あんなもんでも、うちの領主様なのですよ!」
あんなもんは否定しないのね。できるわけないだろうけど。
「すでに許嫁がいると言われました。でもそれは結婚を断るための、ただの口実だと思ってました。まさか本当だったとは」
その時点ではウソだったでしょうね。私のためについてくれた……わけじゃないか。自分のためだろうな、あの人のことだから。
「そうじゃなくてもあんなもんになびく女がいるわけないだろ」
「人間になびいてもらう必要はないのですよ。あんなもんでも、エゾ家の頭領です。日本でも有数の資産を持つお金持ちですよ。その家に嫁として入れるのは大きなメリットでしょう。お金になびいてもらっても良かったのです」
あんなもん、はまた否定しなかったね。今さらだけど。
「しかしだ。少々金があったところで、相手はアレだろ?」
「まあ、アレですけどね」
こんどはアレになった?!
「それで断られて、こんどはイシカリ大学に手を出そうとしたのか」
「その間にも紆余曲折があったのですが、最後の手段としてイシカリ大学を買収してしまおう、という案があったのは確かです」
「自分が支援している大学を買収か。あの農場が目当て、と言ったな?」
「ええ。スクナプロジェクトのキモがあそこにあると、睨んだわけでして」
「ちなみに、エゾ家の総資産はどのくらいある?」
「ざっくりですが、180億円は下りますまい」
「「ふぅん」」
「あれぇ? もっと驚くとこですよ、ここ?!」
「まあ、多いといえば、多いかな?」
「タケウチとシキ研を足したより、少し多いですね。でもトヨタ家よりはずっと少ないです」
シキ研もタケウチ工房も、現在の厳密な資産はまだ算出していない。この世界、株式制度はあっても株を売買する市場がない。株価は金持ちサロン的な集まりが地方ごとにいくつかあって、そこで話し合いで決められているらしい。
だから、有価証券報告書? だかなんだかを作成する必要はなく、厳密な決算書も必要とされないのだ。ミノウ紙に書ける程度で済んでしまうのだ。
ただし、もし借金があれば銀行に提出するための決算書を作らないといけない。だけどシキ研はトヨタ家100%出資の子会社だ。おかげで無借金経営を続けていられるのだ。ありがたや。
それでも年商の推定は出ていて、今年度には300億円を越えると予想されている。ミノ国ではおそらくトップになるだろうと、レンチョンさんが言ってた。
それからすると、資産180億円は、それほどすごいというほどのものではない。
「あんたら、どんだけーー?!」
「やかましいわ! どこのIKKOだよ」
「それでも、お金持ちには変わりはないけどね」
「さて、それはどうだかな」
「ユウさん、どういうこと?」
「ソウシ、お前んとこ借入金はどれだけある?」
「運転資金で3億円ほど借りているだけですよ?」
「あれ?」
ユウさん、当てが外れたって顔をしてる。もっと借りてると思ってたのかしら。あ、そういえば?
「イシカリ大学を手に入れようとしたり、私を拉致して商談したり。その理由をまだ聞いてないですね」
「いえ、商談はなんだかよく分からない流れでそうなっちゃっただけで。建て直して欲しいとは言いましたが」
「金持ちなら、そこまでのことをする必要はない。金持ち争わずって言うぐらいだ。なにか裏があるな。急にエゾ家の経営が悪くなった原因があるはずだ。それを全部話せソウシ。でなきゃ、俺……スクナはお前らを助けてくれないぞ」
「じ、実は。その」
「早く言え!」
「あのアホが、燃える水に投資して大穴を開けたんですよ!」
「あのデブがか?」
「あのぶさいくがか?」
「あの能なしがか?」
「ブサねこが?」
「あの無能3代目がか?」
違う生物(にゃんこ先生)が混じったみたいだけど定期なのねこれ。
「お、お、お前ら。僕がここにいること分かって言ってるだろ!!!」
「それより燃える水はスルーして良いのかしら?」
「ところでスクナ」
「なに?」
「こいつら、スクナと俺を間違えているのだが、それは放っておくのか?」
「うん、そのほうが良いと思う」
「どうしてまた?」
「勘違いさせておいたほうが、この先の話がうまく転がるかなって」
「作者目線かよ!」
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