第378話 外伝・カンサイ まだまだ続く後編かな
「もうタイトルにツッコむの、飽きたノだ」
「話数だけ見ていればいいじゃないかな定期」
「ツッコみに飽きたのなら仕事だ、オウミ」
「飽きるのと仕事は関係ないけど、ほいよ。なんなノだ?」
「まずイズモにいってごにょごにょして、その足でアイヅに飛んでああしてこうしてどうたらこうたらして、次にシキ研に戻ってごにごにごにもして、それから戻って来い」
「イズモにアイヅにシキ研だな。分かったノだ、ひょいっ」
「オウミになにか用事をいいつけたん?」
「ああ。いまの話に関係あることで、必要なものを集めに行ってもらったんだ。帰ってきたら説明する」
「ユウ殿。その前にちょっと質問したいことがあるの。良い?」
「ああ、いいとも。なんでも聞いてくれ」
「ユウ殿のところで作ったソロバンだけど、どうしてあんなキレイに珠のサイズがそろっているの?」
どうして安いのかと聞かれると思ったのだが、商品のことについて質問してきおった。金額(コスト)より品質が優先か。こいつ、侮れんな。
「さっきマイドにも言ったのだが、それは機械で加工しているからだ。機械を使うとばらつきが減る。その結果品質が安定するんだよ」
「機械ならバンシュウでも使っているの。だけどあそこまで均一にはならないの。どんな機械なの?」
「その前にバンシュウの機械ってどんなものか教えてくれるか」
「こんでんさーを使うの」
「なんだってぇ!?!!?!?!」
コンデンサーというものは、電力容量は少ないがすごい早さで電気の出入れを繰り返し使える蓄電池のようなものだ。それがこの世界にあるとしたら、それはもうすごいことに。
「木の板の上から、おっきな鉄の塊を落とすの。どっかーーんって」
「お、おう?」
「そうすると、珠の元になるものが何個かできるの。詳細は言えないけど、だからこんでんさー」
だからの意味が分からん。シャレにもなっていないようだが、なにか深いネタに通じているのだろうか。その説明は俺の知ってるコンデンサーとは似てもいない非なるものとしか思えん。
だがその表現で考えるなら、板を打ち抜いているような気がする。おっきな鉄の塊ってのは金型ではないか。
それで珠を打ち抜くとしたらプレス加工と呼ばれる技法ではないだろうか。ソロバンの珠作りのとき、俺もその方法をいっときは考えた。だが、あれには大きな欠点があったので止めたのだ。
「それだけでは、ただの円筒形の珠……というかコマみたいなものになるだけだろ? そのあとどうすんだ?」
「うぐっ。なんでそれが分かるの? そんな詳細な説明してないのに」
「なんでって言われても、なんとなくだよ。平の板を用意して、そこにソロバンの珠の外形ができるように加工した金型……鉄の塊をおっことすと、その形状で打ち抜けるってことだろ? 一度にたくさんできるから生産性は上がるわな」
「ぐわぁぁぁぁ。なんなのこの子。1を聞いて100を知る子なの。天才なの。そこまでバレちゃったら、私の立場ってものが」
「ああ、気にするな。俺もカミカクシなんだから、そのぐらいは想像が付くということだ」
「そうれもそうかの。しかし想像だけで当てられるとはの。噂以上の人のようだの」
「しかしそのやり方にはいろいろと問題があると思うんだが」
「ぎくっ」
「まず、精度だ。打ち抜いた珠の精度は金型……鉄の塊の精度で決まる。だが鉄の塊を加工するのは難しい。固い炭素綱を材料にすると、それを加工することさえ困難だ。軟鉄ならなんとかなるだろうが、それではすぐにへたってしまってすぐに打ち抜けなくなる。バリも出るだろう」
「うがががが」
「それだけじゃない。その方法で取れた珠は、その後職人さんが1個1個削るわけだ。あの小さなものを手に、穴開けだの外周加工だのと、ノミを振るうのは大変だろう」
小さな珠を持ってノミやキリで加工する。俺ならそれを考えただけでうんざりする。だから俺は板材から加工することを諦めたのだ。サバエさんとこではもともと棒材から加工していたのは幸運だった。そのまま採用すれば良かったのだから。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ」
「キタカゼはなんか悪いもんでも食ったんか」
「い、いや、ここに来て良かった。そうなの。バンシュウソロバンは問題だらけなの。いまは知名度でなんとか食っているだけなの。ユウ、お主のカイゼン力というものを貸してはもらえぬか」
「カイゼンは貸すものじゃないぞ。しれくてって言えよ。しかしそういうことならちょうど良かった。オウミが帰って来たら説明する予定だったが、まずはシキ研の加工機械を導入することから始めてもらおうか」
「カイゼンをしてほしいの。でもお高いんでしょ?」
「だから通販番組止めろって。旋盤は50万、ボール盤は30万だ」
「それで1セットなの?」
「そうだ。珠に穴を開けるのがボール盤。延べ棒から珠の加工をするのが旋盤だ。ソロバンの珠作りだけで両方が必要だ」
「珠を作るのが一番のネックなのはどこも同じなの。それを使うとあんなに均一な珠ができるの?」
「その通り。買ってくれるなら運ばせるが?」
「まずは見てからでないとなんとも言えないの。珠の加工現場を見せて欲しいの」
「それはダメだ」
「チッ」
「どうしてやん? 見るぐらいええやん」
「いまチッって言ったやつ誰? ダメなんだよ、マイド。これは企業秘密だ。作った製品なら見せてもいいが、作業現場にはシキ研の生産技術が詰まっている。それは見せられない」
「チッなの」
「キタカゼ、お前かよ!」
チーム・スクエモンのカイゼンによって、現在では旋盤だけで珠はできちゃうのだが、もちろんそれは内緒なのだ。
ボール盤が売れなくなったら困るし、マネされて工数を下げられても困るのだ。だから生産現場は見せないのである、わっはっは。
ちなみに、ボール盤はソロバンの桟に穴を開けるのに役立っている。
「それなら現物を見せて欲しいの。テストサンプルとして1台使わせて欲しいの。タダで」
「タダって言うな! お前も相当に図々しいな。合計で80万もするやつをタダで渡せるはずがないだろが。どうせ、バラして中身を調査するつもりだろ」
「チッ」
「チッは止めろ! そういうことは買ってからにしろ」
「買ったものをバラしたら、元に戻せないかも知れないの」
「もらったものならいいのかよ! それよか使えよ」
「キタカゼ。ワイが1セット買うことになってるやん。それを貸すからそれで試験をしてみたらどうやん?」
「おおっ。マイド殿。そのようなことまでしてもらっては、あまりに申し訳ないの。それでいつもらえるの?」
「どこに申し訳ないの要素があるんだよ」
「やる、とは言ってないやん。試験用に貸すだけって言ってるやん」
「バラす試験も可?」
「あかんて!」
「キタカゼ家って金持ちじゃないのか。そのぐらいケチるなよ」
「ケチで言っているのではないの。投資に値するかどうか、その判断をしないといけないの。無駄な金を使ってはキタカゼ家の名に傷が付く」
「なるほど、そういうのは嫌いじゃない。それじゃ、シキ研に来てもらおう。試験機があるから、そこで自分で試し加工をしてみたらどうだ?」
「それは良いの。ぜひにもお願いしたいの」
「そのときはワイも呼んで欲しいやん。イタミの酒を持ってお邪魔するやん」
「マイドは相変わらず酒好きだの。樽で持って来て欲しいの」
「キタカゼはそんなに飲むつもりやん?」
「こらこら。お前ら宴会しに来るんじゃねぇぞ。仕事だ仕事。酔ったやつに大切な機械……マインは使わせてやらないからな」
「お主も飲めばいいの。イタミ酒はニホン一の清酒なの」
「ふぅん」
「反応が薄いの?!」
「俺は酒は飲まないからな。イタミって鴻池って人が創業した酒屋だっけ?」
「こっちではゼンエモンって人なの。清酒をニホン中に広めた立派な人なの。酒の味も知らないとは可哀想な子なの」
「やかましいわ。そんなもの飲めたところで、1円の得にもならんだろが」
「「気の毒に」」
「声をそろえて言うな!!」
「それじゃシキ研ツアーの日程を決めんとあかんやん」
「ツアーにすんな。旅行じゃねぇぞ。だが日程まで決めるのはちょっと待ってくれ。その前に片づけないといけない大事な議題があるだろ?」
「もう、プンプン」
「ほらみろ。ミチルが怒っちゃったぞ」
「なんでウエイトレスに怒られないといけないの?」
「キタカゼさん!」
「な、なんなの?」
「ご注文をまだ聞いてなんですけど。出すもの出さないと、私が寝られないんですけど!」
「「「そっちかよ!」」」
「最初の話に戻す、を3回もやったのにちっとも戻れてないノだ」
「お前はいいからお使いから早く帰って来い」
「まだイズモなノだ」
「俺たち、いつもどうやってしゃべってんだろうな」
「それを言っちゃおしめぇノだ」
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