第371話 最終話 天岩戸を空ける呪文?

「なんでそんな大事なことが、俺の意志と無関係に決まっちゃうん?」

「え? だって、特にユウさんにデメリットはないでしょ?」

「面倒ごとが増えるじゃねぇか!」


「面倒なことはほとんどママがやるから大丈夫」

「そうなのか。パパはどうしたんだ?」

「ヘタに口を出すとぼこぼこに」

「それは止めてあげて!」


「それにね、ユウさんにはお給料が出るのよ」

「なんだと?! そそそそ、それってそれはほんとにほんとにほんと?」


「そんな慌てなくても。月に2,000円が自動的に支給されるって」

「いやっほぉぉぉいい!! 俺ヽ( ・∀・)人( ・∀・)ノスクナ」

「いや、私まで巻き込んで喜ばなくても」


(3億円以上のお金を持ってる人が、たった月収2,000円で喜んでいる……複雑なキモチ)


「お給料は安いけど、仕事としては決算期に最終チェックをするぐらいしかないからね」

「なんておいしいお仕事ヽ( ・∀・)ノ。ぜひ、ぜひぜひやらせてくらさい」


(そのお金、ユウさんの個人資産から出るんだけどなぁ。ああ、心が痛い)



 なぜか軽い頭痛が残る次の朝。朝食を食べながらイシカリ大学の学長に就任したと、スクナから知らされたのである。


 就任依頼をされたのではない。知らされたのだ。通告されたのだ。なんでいきなり俺が学長だよって話だが、給料がもらえるならまあいいかと、承諾したのであった。


 せっかくイズモ公を引き渡して身軽になれたのに、また面倒なものを引き受けちゃったなぁ、と思わないでもないが。


「あ、イズモ公はオオクニが拒否したんで、まだお主だからなもぐもぐもぐ」

「アマチャン?! そこでなにやってるわけ?」


「見れば分かるであろうが。サンマの塩焼きと味噌汁をご馳走になっているのじゃ」

「のじゃ、じゃねぇよ。国の創造神ともあろう者が、こんなとこで朝食食べてる場合かよ」

「ご飯お代わりじゃ」

「お代わりしている場合かよ!!」


「居候、3杯目にはそっと出すのじゃ。お代わり」

「意味が分からんネタを振るな!」


「ミヨシのご飯は絶品だのう。イズモに連れて帰りたいものじゃずずず」

「あら、ありがとうございます。いくらでもお代わりはありますから、どうぞお腹いっぱい召し上がれ」


「ところで、なんでオオクニは拒否したんだもぐぐ?」

「まだ修行中の身だとかなんとかもぐもぐ」

「それまで1,000年以上太守やってくせに、なんでいまごろになってもぐもぐ」


「それはお主のせいじゃもぐもぐ」

「どゆこともぐもぐ?」

「ずずずっ。オオクニは為政者としての使命に目覚めたようじゃな。そのために、まずはサバエ工務店の社長として結果を出すことに集中したいそうだもぐ」


「ずずず。そうか、そういうことなら仕方ないか。やつもまだ半年ぐらいだもんなずずず」

「お主も元気になったしな。いま、交代する時期ではないじゃろもぐもぐ」


「それもそうかもぐ。あ、そういえば、オウミの件はどうなった?」

「いままでと変わらないノだ?」


「眷属契約は継続中じゃもぐもぐ」

「俺は解除って言ったのに」

「眷属契約というのはだな、双方の合意が必要だと以前聞かなかったか?」


「あ、そうだった。ってことはオウミが拒否してくれたのか」

「そうなノだ。それより、ユウ」

「もぐ?」

「ミノウが、またユウの眷属に戻りたいそうなノだ」


「なんでまた? スクナでなにが不満だ?」

「不満なんてとんでもないヨ。だけど、ふわふわができてしまったので、もうスクナの自転車を返してもらう理由がなくなったヨ」


「ふわふあはできたんだったな。量産まではまだまだのようだが。まあ、俺は別にどっちでもいいのだが」

「そんな薄情なこと言うなヨ」


「あのとき、条件を付けただろ?」

「えっと、スクナがユウの部下である限り、我とスクナの眷属契約は有効とかなんとな」


「そう、それそれ。それがあれば、俺はにとっては同じことなんだ」

「「どいうことなノだヨ?」」


「スクナの立場からすれば、ミノウが眷属であり続けるためには、俺の部下でなければならない。そうだろ?」

「そうなノだ」

「だから俺から離れることはできないないわけだ。それだけでも、俺がスクナを失うリスクは減ったことになる。ミノウにすれば、スクナと眷属でいたければスクナが俺の部下である必要があるわけだ」

「それも当然だヨ」


「つまりミノウの立場からしても、スクナが俺の部下である続ける必要があるわけだ。俺のスクナを失うリスクは更に下がることになる。しかもそれがミノウの足枷にもなるんだよ」

「「なるんだよ、って言われてもノだヨ?」」


「俺からすれば、この契約によって、スクナをいつまでも部下にしておけることになるんだ」

「なる……ノか?」


「えっと。我とスクナの契約のはずだったのだが、あ、そうか。もしスクナがどこかに行ってしまった場合、眷属契約は破棄されてしまうのだから、それが嫌ならユウの部下でいろ……ということかヨ!!」


「やっと分かったか。だからあのとき言っただろ。これで俺が自由に使えるアイテムはスクナを入れて6人になったと。あのとき、お前らの眷属契約を足枷にして、スクナは俺のものになったんだ。同時に、ミノウも俺の配下であることに変わりはないわけだ。スクナ経由で仕事を命じれば拒否はできんだろ?」


「「そそそそんな卑怯なことを考えてたノかヨ!?」」

「卑怯とはなんだ、卑怯とは。戦略と言ってくれ。だからいまのままで俺はかまわんよという話だ」


「「人間って汚いノだヨ」」

「魔王どうしが顔を見合わせてしみじみ言うな。ともかく、どっちでも俺はかまわんぞ。むしろ、このままのほうが都合がいいのだが」


「我もどっちでも良くなったヨ」

「ミノウがそうなら我も別に反対する理由はないノだ」


「じゃ、このままで」

「「ノだヨ」」


「スクナは気づいていただろ?」

「途中からね。でも、私にとってはネコウサの教育係になってくれたから、ミノウには感謝しているよ。それにユウさんの許嫁になれたから、それも結果オーライだしね」


「「人間って汚いノだヨ」」

「大事なことなので2回言ったんか」


「じゃあ、学園長の件は承諾をもらったって連絡しておくね」

「ここで承諾の話が出るんかい! 最初はもう決まったことように話してたじゃないか」


「そう言ったほうがうまく行くから、ってママが」

「またあいつの策略かよ!」


「「人間って汚いノだヨ」」

「まったくだ!」


「いいじゃないの、これで月々のお小遣いが増えるわよ?」

「そうだった。これでぺろりんキャンディが心ゆくまで食べられる。スクナ、ありがとう!」


「あ、いや。私がそうしたわけじゃなくて。ユウさんが学園長なら、その名前でエゾ家の圧力を抑えられるって思惑もあるのよ」

「なんで俺の名前なんかが、抑えになるんだ?」


「「「ええっ!?」」」


「そんなみんなで驚くようなこと?」

「お主はまだ気づいておらんノだな」

「なにをだよ」


「この1年でお主の名前は、ニホン中に知れ渡っておるヨ」

「あ、なんかそれ、聞きたくない話のような気がするからやめれ」


「人当たりは悪く協調性はない。威張っているやつは大嫌いで、人にあれこれ指示されるのも嫌い。合理主義者で直感力に優れデータの解析力も高い。だいたいの問題は集めたデータをぽろぽろ見ているだけで分かってしまう。問題をいつまでも放っておく無能なやつには我慢できない、という評判ヨ」


「それ最初の自己紹介じゃねぇか! そんな古いもの引っ張り出してくるな!!」


「それでもね。ユウさんのやったことには、みな感謝しているのよ。タケウチ工房を倒産の危機から救い、トヨタ家の買収からも救い、関ヶ原の戦いではトヨタ家を助けエチ国も救い、温泉宿も救い、ホッカイ国を飢饉から救いエルフ里の貧困も解決し、イズモ国の悪政を正し商売を作って経済を立て直し、アイヅ国やシマズ国とよしみを通じ、ヒダを正常化させイセ国を救い、いままたアイヅ国を救おうとしているのよ」


「粗筋乙なノだ」

「これだけ読めば、この物語はだいたい分かるヨ」

「そうはいくか!」


「もちろんこれだけじゃないけどね。でも、カイゼンによって次々に成し遂げた偉業の数々で、ユウさんはもうニホン中で知らない人がいないくらいの有名人なのよ」


「う、ぐっ、ぐぐぐっ」

「どうしたの?」

「あっ。どんどんどん。ユウ、大丈夫? そんなに慌てて食べなくても、はい、冷たいお茶よ」

「うぐぐぐ。ごくごくごく、ぷっはぁぁぁ。ミヨシ、ありがと。はぁはぁ死ぬかと思った。俺はカイゼンがしたかっただけだよ。そのネタをくれた連中に、俺こそ感謝したいぐらいだ。お茶お代わり」


「はい。今度は暖かいのね」

「ずずっ。あぁ、お茶がおいしい。ミヨシは気が利くな」

「そりゃね、えへ」

「なあミヨシ。俺と婚約しないか?」


「「えっ?!」」


 叫んだのはミヨシとスクナである。それぞれ、驚き方には温度差があるが、それはご想像にお任せするとして。


「「ちょっと、ちょっと。それ、どういうこと?」」

「考えたんだが、俺はイズモ公だ。正式な貴族ではないが、貴族に準ずる権利がある、と考える」


「「ふむふむ」」


「かつて、俺を男爵にと推薦したレンチョンが言ったことによると、男爵なら嫁は3人までもらえるとのことだ」

「「あぁ、そういう……」」


「それなら、スクナとミヨシ。ふたりとも嫁にしても問題はなかろう?」

「「あ、それは、まあ。そうかな。そうなの?」」


「問題ないヨ。1国の太守なら子作りは義務のようなものだヨ。3人と言わず、嫁は何人もらっても良いヨ」

「「そ、そうなのですか?!」」


「何人もいらんけど、少なくともお前らふたりはぜひ嫁に欲しい。ただし結婚は俺が20才になるまで待ってくれ。それまでは許嫁だ」

「「うん!! 分かった!」」


(まだ、どっちが第1夫人なのかという問題があるヨ。だけど面白そうなので黙っていようっと)


「あのぉ、おとうたま」

「やかましいわ!! どこの小せがれだよ! なんだユウコか」

「うん、あの、私たちの14人の子たち、忘れてないよね?」

「ついこの間のことだろ。さすがに覚えているよ。だから、お前とも婚約な」

「えっ!?」


 今度驚いたのはユウコだけであった。スクナもミヨシも、予想がついていたのである。


「いいの?」

「お前も俺には必要な人材だ。人気投票をやったらお前は必ず上位に来るぞ」

「ありがと。嬉しいです」

「それに大事なおっぱい係……はまたの機会にということに痛痛痛いってば。3人して殴るな痛い痛い……なんで3人?」


「許嫁になってもそれは禁止です!」

「モナカが混じってたか。お前は相変わらず厳しいな」


 おかげで昨日までと変わりのない日々が送れるのは、ありがたい話である。


 しかし、あとひとつ、難問が残っている。本来なら真っ先に解決すべき案件なのだが。


「おい! エース」

「お? なんだ、もてもて野郎め」

「お前に言われたくねぇよ!」

「3人も嫁をもらおうってやつが、独身の俺になにを言うことがあるんだよ!」


「ハルミを俺に寄こせ!」

「「「はぁ!?」」」


 エース、レクサス、それにハルミ本人の驚きの声である。


「なに、なに、なにを言っているんだ。ハルミさんは俺の許嫁だ」

「分かってるよ。だから寄こせって言ったんだ」


「ユウさん、いくらなんでもそれは強引すぎませんか。ハルミさんはもうトヨタ家の主立った人たちに紹介済みで、みな好意を持って迎えられているのですよ?」


「承知しているよ。だけど、こればっかりは譲れん」

「ユウ、いったいどうしたのだ? お前とは思えんぞ?」

「ハルミは黙ってろ!」


「いや、私が話の中心人物じゃないのか?」


「ユウ。どういう心境の変化だ? お前にはスクナがいるだろ? そこにエルフのユウコさん、さらにタケウチのミヨシさんまでを許嫁にして。その上にどうしてハルミさんを」


「それはだな。それはそのあのそれだ」

「どれだ?」

「なんというか、それはその通りだ」

「「「「なにがどの通りなんだノだヨゾヨですか?」」」」


 なんか急に見物人が増えたようなのだが!? えぇい、もう!


「好きだからだよ!!!!」

「す……す?」

「このアホで直情径行で世間知らずで筋肉オタクで猪突猛進で考えなしでなんでも斬る以外に脳のない脳筋女が、好きなんだよ!!」


「褒められた気がしないけど、惚れられた気はする」

「ハルミがうまいこと言ってるのヨ」


「そ、そんなこと、言っても、だな。おい、レクサス? 俺はどうすればいい?」


 そんなことを急に言われても。と目で合図を送ったレクサスであるが、さすがは年の功。良いことを思い付いたようである。


「トヨタ家の家風として、こういうときにすることはひとつです」

「ほう、それはいったいなんだ?」

「決闘してもらいましょう」

「はぁ?!」


(おい、そんな家風聞いたことないぞ?)

(いま、思い付いたんですよ。ハルミさんを失いたくないのでしょ。適当に話を合わせてください)


「そ、そういうことだ、ユウ。強引に持っていこうというのだから、お前にはそれを受ける義務がある」

「ぐぬぬぬぬぬ」


(これでなんとかなるかな?)

(どうでしょう。まだ油断は禁物です)


「受けないのなら、この話は」

「待った待った! いいだろう、その話を受けようじゃないか」

「マジでか?」

「ああ、マジだ。その代わり、得物は俺に選ばせろ」


「あ。うん。いいだろう。刀でも矢でも鉄砲でもお前が選べ」

「あっ。ユウさん。ただし、魔法はなしですよ?」


(ああ、そうだった。こいつには魔王がついていたんだ。レクサスすまんかった)

(魔王がいなくても、相当の魔法使いですからね)


「それはもちろんだ」


(あれ? なんで自信たっぷりなんだ?)

(はったり、だと思います。ここは強気で押してください)

(分かった。そうする)


「それで、お前の希望する得物はなんだ?」

「5年後だ」

「「はぁ?」」

「5年後に、貯金の多かったほうを勝ちとする。つまり、金が得物だ」


「「はぁぁぁ?!?!?!?!?!」」


(なななななななんだとて??)

(ま、ま、まいりました。なんという斜め上)


「そ、そんな、そんな決闘があるかぁ!」

「いま俺が作ったんだ、文句あるか」

「いや、それは決闘とは違う」


「違わない。得物は俺に選ばせろと言ったら承諾したのはそっちだ。だから俺は金を選んだ。どこに問題がある?」

「ぐっぐぬぬぬぬぬぬぬ」


「ないだろ? それまでハルミは預けておくが、手を付けるなよ!」

「ユ、ユウ? お前はいったい、どうして、いつ……」


「あの。ハルミさん。ハルミさんは、それで良いのですか?」

「分かった。私も剣士だ。その結果に従う」


(剣士関係ないし。どうやらハルミさんは、ユウさんが勝つと信じて疑わないようですね)

(俺は振られたということだな)

(あの条件では、勝ち目ありませんからね)

(最初っからあのふたりは心が通じていたのかな)


(そこまでは私にも読めませんでした。申し訳ないです)

(レクサスのせいじゃないよ。やれやれ。また、婚約破棄の手続きをしないといけないのか)

(するのは私ですけどね)

((はぁぁあ))


(どうやらハルミが第1夫人のようだヨ?)

((はぁぁあ))


 シキ研の重役室に、しずしずとコダマするふたりのタメイキであった。



「あ、そうそう、そういえばまだ追加があるノだ」

「もういいだろ!?」

「いや、そっちじゃなくて、こっちの話ヨ」

「なんだ、こっちって?」


「イセがお主の眷属になりたいって話なノだ」

「はぁぁ?! なんでまた?」

「それにマイドもついでにしてくれって言ってるヨ」


「いやいやいや。ついでってなんだよ。眷属ってのはついでとか付き合いでなるもんか。しかもマイドとは別になにもしてないだろ。ラーメンぐらいか?」

「マイドは強いものに付くという質なノだ。それと」

「まだいるんか……まさかヤマトまで?」


「アマテラスが」

「そっちかよ。でも、あれはちょっとなぁ……」

「お主の祖先らしいノだ」


「なんだまたえらく斜め上の情報だな。それがどうした?」

「天岩戸を開ける呪文を教えてくれるってヨ」

「いらんわ、そんなもん!!!!」



 完



 長い間、お付き合いいただきありがとうございました。いろいろ回収できてないいない伏線も多数ありますが、これにて『異世界でカイゼン』は完了です。


 書き始めたときは、ユウのキャラが決まっていただけで、あとはその場その場の思い付きだけを、毎日連ねた371話でした。いやマジで。


 なんでめっきを? 関ヶ原の戦いってなんだよ! 温泉にノズルとかどうやって思い付いたんだ? と自分にツッコミを入れ続ける毎日でした。あ、ハルミを嫁にだけは最初から決めていましたが。


 それを1年間、毎日書き続けて重ねた137万文字。1日平均3800文字。自分を褒めてあげたい気持ちです。


 今後は、余談とか余ったネタ集とか、スピンオフとかがあるかも知れませんが、本文はこれにて完了です。


 ご愛読ありがとうございました。

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