第364話 ネコマタ木

「ユウ。ケチケチしないで、20本全部育てちゃえばいいのに?」

「ハタ坊、俺は別にケチってるわけじゃない。5本ぐらいが限度なんだよ」

「オウミの魔力の問題か?」


「いや、そのぐらいはどうでも良いが」

「?! どうでも良くはないノだ!!」


「3ヶ月成長を進めるということは、3ヶ月の養分と水を一気に消費することになる」

「え? そうなの?」


「そりゃそうだろ。成長を早くするだけで、成長に必要なものは同じだけ必要だ。だからこの魔法を木にかけるときは、人が側についていて水と肥料の補給をしないといけないんだ。あまりたくさんの本数をやるとそれが間に合わない。その結果枯れてしまうことになる」


「へぇ。そうなのか。あたしにはないスキルだから、知らなかった」

「魔木だけに光合成の必要がないのが救いだけど、万能の魔法というのはないノだ。でも役に立つ魔法だから、ハタ坊も覚えておくノだ」

「そうか。そうだな。じゃあ、ミノウとオウミ。教えてくれ」


 魔王と魔人との交流促進である。これでハタ坊も核融合スキルと時間統制スキルを取得したことになる。そういえば、いままでこういうことやったことがなかったな。


 俺の配下にある4人の魔王と魔人のハタ坊、それにユウコ……は無理だろうけど。あと、魔スーパーマンのケントもいたな。


 こいつらには固有に使える魔法があるはずだ。初級ぐらいはみな使えるようだが、すべての魔法は無理にしても、使える魔法を教え合うような場を作れば、もっと便利になるんじゃないか。


 俺が。


「なんか怪しいことを考えている顔しているノだ?」

「ななな、なんでもない、なんでもないわははは」

「怪しさ満点だヨ?」


 こいつらを一堂に集めるイベントを開催する必要があるな。食い物で釣るのが一番だろうが、なにか考えよう。


 それはまたいずれの話だ。いま急ぐのはウルシかぶれ対策である。俺に考えていることがあるので、ちょっとその試験というか試作をしようと思う。


「ハタ坊は裁縫は得意か?」

「え? そんな無茶なこと!」

「それは悪かった。ハタ坊は不器用と、めもめも」

「こら! そんなことをメモするな。そういうことはユウコが得意のようだったぞ。卵産んだあと、子供ための靴下を編んでいたのを見たが見事なものだった」


「なにそうか、ユウコにはそんな特技があったのか。そういえば、イテコマシのコマを最初に作ったのはユウコだっけ。それにまわす盤を作ったのもユウコだっけ。意外と手先が器用なんだな。おい、ユウコ! ……どこ行った?」


「アイヅに置いてきたじゃないか。忘れるなよなぁ」

「そ、そだったか。じゃ、じゃあハタ坊、お使いを頼む。まず、ミノ国に行って和紙を100枚ほど持って、それからアイヅに寄ってユウコをひとつまみ持ってきてくれ」

「ユウコをひとつまみと数えるなよ。分かった、行ってくる」



「あ、ユウさん、なんか久しぶり」

「おお、ユウコ。3話ぶりだからそれほど久しくはないが、お前にやってもらいたいことがあるんだ」


「なにするの? またおっぱい係?」

「もにもに。それはいつものお仕事だ。いま必要なのはこういうやつなんだ」

「あぁん。なにそれ、人の手形?」


「そうだ。これをこうしてな、こうすると、こうなるだろ。それをこのこれにこうして、こうすればできると思うんだが」

「ふんふん。形状は簡単そうね。これを和紙でやればいいの?」


「とりあえず材料はこれしか浮かばなかったもので、ハタ坊に持ってきてもらった。使うのはこれこれこういうことなんだが、他に良い材料はあるだろうか?」

「これをこう加工して、ああして、そうするのなら、染み込み易いのがいいわよね。それでいて丈夫で長持ち、か」


「まるでユウコのような」

「私を材料にしないで! もう足踏みマットになんか……マット? あっ、ユウさん、あったあった。足踏みマットよ!!」

「なに、お前を材料にすんのか?」


「だから私を材料にしないでって言ったばかりでしょうが。そうじゃなくて、エルフの里で雪に滑らないようにマットを敷いてるって以前言ったでしょ」

「知らない」


「まったくもう! ほら第137話でユウさんがコマの改良をしたい言ったとき」


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「鍋敷きなんかにも良く使われる布で、丈夫で熱にも強くてざらざらしてます。水分も良く吸うので、冬場は通路に敷いて滑り止めに使ったりします。ネコマタ木っていう木から採れるのですけど」

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「ね?」

「ああ。あったあった。思い出した。よくそんな古いこと思い出したな。そのネコマタ木か。俺のコマの先端に付けて、そこに膠を垂らして固めたやつか」


 俺のコマが最初だけやたら強かった理由。それがこれである。


 回転する先端部にこのネコマタ木を貼り付けて、それを膠で固める。膠は固まってもある程度の粘着が残っており、それがイテコマシ盤とコマとの間に摩擦を産む。膠だけではすぐに剥がれてしまったので、このネコマタ木に染み込ませることでその問題をカイゼンしたのである。


 俺のカイゼンコマは、他のコマと衝突しても摩擦係数の分だけ負けないのである。重さではなく、摩擦抵抗で他のコマを押しのける力を持つのである。


 その結果、他を蹴散らしながらぐるぐるまわって、中央の穴に吸い込まれて行くコマが完成したのである。


 これが俺のコマが最初だけ圧倒的に強い理由である。ただし、これには弱点があって、その粘着は回を重ねるごとに落ちて行く。盤上のホコリを吸ったり盤に削られりして、粘着がなくなるのである。すると、もうただのコマに成り下がる。


 最初だけやたら強いが、すぐにダメになるコマ。これが理由である。それ以上のカイゼンはいまのところできていない。


「そういうことだったノか!!」

「やっぱりインチキしていたヨ!」

「インチキ言うな! カイゼンだと言ってるだろ。ルールには違反してねぇよ」 俺の作ったルールだけどな。


 137話の伏線を364話で回収するという気の長さは、作者の性格ですドヤッ。


「そんなことはどうでもいいよ。それより、ユウコ、作ってくれるか」

「分かった。まずは和紙で作ってみるね。そのできあがりを見てから、トウヤの里(ユウコの出生地)に注文を出してみる」

「それでいい。やり方はユウコにまかせる。試作品ができたら見せてくれ」

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