第296話 地下ダンジョンの更に
ユウさんがあの地下室をもう少し調べたいというので、裏庭ではなくまず下のダンジョンに入ることにした。好素がどうして発生しているのか、それが気になるらしい。
でも、それなら私がばっさばっさしなくても、ひとりひとりで入ればいい。良かった良かった。
「と言ってもスクナだって、アレに触らなければ入れないだろ?」
「そうだけど、ハルミ方式って手があるのよ」
「なんだそれ?」
「えいっ!! ごんっ」
木の棒でどついてやった。やっぱり入れた。めでたしめでたし。
「アレ、そのうち壊れるんじゃないか」
「壊れたほうがいいのよ、あんなもの」
「そ、それは困るモん!?」
そしてダンジョン内にて。
「○▼×◇□◎⊿」
「なんだお前、またやってきたのか、と言ってるモん」
もう文字数を合わせるのは止めたのね。別にいいけど。まる変換ばつ変換変換さんかく変換まる変換さんかく変換変換変換、とか大変そうだもんね。
(大変なのですよ、ほんと)
「そんなことより、なんだこのダンジョンは?」
「昨日見たものとは、まるで別物になっていますね」
「壁はぎったぎた、床もがったがた。こんなことをする犯人は分かっているが」
「な、なんだ。なんで皆で私のほうを見るのだ」
「ハ、ハルミさん。だから私が止めた方がってあれほど」
「アシナもそんなこと言ってないだろ?!」
ひとりで良い子になろうとするアシナ。意外と腹黒なのかしら。ハルミさんひとりのせいにするつもりは……ひとりのせいだろうけど。こんなにデタラメに切り刻まれたダンジョンって、他にはないだろうなぁ。
「なんか別荘に来た気分だモん」
「お前の好きな変成花崗岩が、ぎざぎざになってるぞ」
「そのほうが囓りやすくていい……ああっ。お前はボクの遊び友達のタンゴ!! それにマンボもコンボも。無事だったのかぁぁぁ、良かったなぁぁぁ」
なにそのネーミング?
「スクナ、紹介するモん。こいつが魔法の」
「マンボ!」
「で、こいつが黒ぬこの」
「タンゴ!」
「それから4連」
「コンボ!」
「やかましいわ!!! 特に最後のなんかただの勢いで言っただろ!」
「う、うるさい! お前になんか紹介してないモん。そっちで勝手に怒ってろモん!!」
「ネコウサ。私もちょっとだけユウさんに同調しているのよ」
「ど、どうしてだモん?」
そのネーミングが気に入らない、と言っても通じないよねぇ。
「それは良いとして、その子らって去年生まれた魔ネコさんたち?」
「このマンボは魔法力が強いから魔法のマンボだモん」
「一応、そういう設定があるわけね」
「設定ってなんだモん? それからこいつ全身が真っ黒のタンゴ」
「あら珍しい。その子は白くならないの?」
「だってこの子は普通のネコだもん」
「普通のネコかよ!!」
「イッコウにはならない子なのね」
「そうだモん。どれだけ教えてもにゃぁとしか鳴けないアホの子だモん」
「お前にアホ呼ばわりされたくないだろうよ」
「ぷっしゃーー」
「なんだいきなり? 生意気なウサ……あれ? なんか背中がかゆいぞぽりぽり。なんだかすっごい嫌な感じ。わああぁ、今度はちくちくしてきた。スクナちょっと見てくれ。この辺にトゲとか刺さってない?」
「ネコウサ、その辺にしておいてあげて」
「ぷっしゃ……分かったモん。今日はこのぐらいにしといたるモん」
「これ、お前の仕業だったのかよ!! 地味で嫌味な攻撃するんじゃねぇよ! 魔王のほうがよほどマシだぞ!!」
「文句があるならまたやるモん?」
「このや……あ、なんでもないっす。もういいっす」
(ダンジョン内ではネコウサの力は増幅するみたいね。でもほどほどにしておかないと、ユウさんが怒ったらあんたたち全部消されちゃうわよ)
(ああっ、そうだった。気をつけるモん)
それにしても、黒ネコのタンゴって。アジの干物はおあずけだよ?
「◇▲○〇◎?」
「え? そんなところがあるのモん?」
「どうしたの、ネコウサ」
「なんかこいつらが、地下通路への入り口を見つけたと言っているモん」
「「地下通路?!」」
「おい、スクナ」
「うん、分かった。私から尋ねてみるね。ネコウサ、そこに案内してくれるかって聞いてみて?」
「いいモん。こっちだモん」
そしてぞろぞろと後をついて行くと。
「これが地下通路の入り口だモん」
「まるで玄関ドアのように見えるのだが」
「明らかに玄関ドアでしょ、これ」
それはハルミが切り刻んだ後に出現した真っ平らな1枚の板であった。
岩と岩との間にきっちりはめ込まれたそれは、まるで玄関ドアのようであった。隙間もなく精密に設置されていることから、偶然できたものであるはずはない。明らかにこれは人の仕事だ。
「まさかのアルミサッシか?」
「本体はアルミっぽいですね。それにスチールのレバーハンドル、不透明ガラスをはめ込んで、鍵穴までついているわね」
「あれ、YKKのマークに見えるんだが」
「「異世界への入り口じゃないの?」」
というより、私たちが元いた世界への入り口だったりして?
「ネコウサ、誰かここに入ってみた?」
「鍵がかかっていて入れなかったらしいモん」
「どうしてそれで、地下通路の入り口って分かったの?」
「なんか格好いいからそういうことにしたらしいモん」
「入ったことはないのかよ!」
「そうらしいわね」
「俺たち、入っていんだろうか?」
「開けてはいけない扉だったりして」
あまりに懐かしいドアの構成要素に、私たちは捕らわれていた。あちらの世界での生活が蘇る。もしかしたら、これで帰れるのかも知れない。
でも、帰ったらユウさんと私の関係はどうなるの? こちらにはまた戻って来られるの? あちらのいつの時代に帰るのだろう? そもそも、帰ることができるの?
そのとき、ユウさんが私の手を握った。
「え? なに? どうしたの?」
「スクナ。こうして手を握っていれば、どこかに飛ばされたとしても一緒にいられるんじゃないか」
「そうか、うん。そうだね。それならちょっと安心だね」
ユウさんと一緒にいられるなら、元の世界に戻るのも悪くない……年齢はどうなるのかしら?
「いくぞ、スクナ」
「あ、うん。分かった。ユウさんがドアを開けてね」
迷っている暇はないらしい。こうなりゃ行くっきゃない。
「よし!」
そしてドアレバーにユウさんの手がかかる。ガチャこ。
…… ……? なんともならないね?
「あーみーまー、って言うのだヨ」
「あーみーまー? わぁぁおぉぉぉおお」
ぐーるぐーる。世界が回る回る回って止まってじゃじゃじゃじゃーん。あ、着いた。
「おえーーーー」
いつもの光景である。
「ユウさん、これ。ナオールよ」
「あ、ああ。すまんな、ぐび。はぁ。すっきりした。ここはあっちの世界か、それともこっちか」
どうみても、あの裏庭のようなんだけど?
「やはりそうか。ここに飛ばされるのだヨ」
「ミノウ、なんか分かったか?」
「ここは何者かが作った異空間だヨ。さっきのドアはここに飛ばすためのキーアイテムヨ」
異空間。たしかハタ坊は存在しない場所とか言ってたっけ。同じようなものかしら?
キーアイテム。それはゲートと呼ばれる転送装置のことである。その形に決まりはない。ただし、その場所にふさわしくない、または普通ならあり得ないようなものであることが、キーアイテムとなる条件でやかましいわ!!
「あのドアはただのキーアイテムかよ!」
「あんな紛らわしいもの置かないでよね!」
「誰があんなものをこっちに持ってきたんだよ!」
「私たちのどきどきを返せ!!」
「あのドアは、そいつがあの水晶で作ったと思うのだヨ」
「「そいつって誰?」」
「いつものネコどもかと思ったら、騒々しいのがやってきたものだ。何者だ?」
その人は半跏趺坐を組み、右手にはノミ、左手には彫っている途中の仏像を持っていた。
そして、宙に浮いていた。
「「だ、だ、誰?!」」
「それはこっちが聞いている。お主らこそ誰だ。どうしてここに入って来られたのだ?」
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