第255話 ハクサン家

ノだ

「ということになったんで、あとはレクサスに頼むよ」


ノだ

「ということで、じゃありませんって。いつもいつも、勝手に話を進めてくるんですから。従業員のひとりぐらいはいいですが、金の相場はいま上がってるんです。そんなにたくさんは供給できませんからね」


ノだ

「ああ、できる範囲でいいから。カメが必要なだけ送ってやってくれ」


ノだ

「必要なだけって、それ、できる範囲になってませんが」


ノだ

「じゃ、そゆことで。俺はこれからヒダに向かうから」


「ちょっと、ちょっと、まだ話は終わって……」

「接続が切れたノだ。じゃ、そゆことノだ」



「オウミ様までそゆこと、じゃないでしょうに」

「まあ、もう3月だ。新予算を適用すれば、そのぐらいの費用は出るだろ」


「出ますけどね。しかし、たまには釘を刺しておかないと、あの人は際限なく費用を使っちゃいそうですからね」

「レクサスは投資そのものに反対していたんじゃないのか?!」


「公爵様。それはしてませんよ? するわけがありません。必要な開発費を削るつもりはありません。それに」

「それに?」

「サツマ切子ってすっごく美しいのですよ」


「ああ、そこか! そこがお前の一番の弱点だったな」

「べ、べ、別に弱点じゃありませんけどね。ああ、早く見たい。深紅の切子。できたらそれで一杯やりましょう」

「どうみても弱点なのだが。そのときは、切子で乾杯をしよう」



 そんなこんながあって、さて。決算書を再提出させる領地、残りはふたつ。そのうちのひとつが、ミノと隣接したここヒダ国である。


 そしてここに来て、俺は初めて知った。ヒダ国とミノ国は同じ領主であることを。そしてなぜ、ミノ国だけには魔王がいるのに領主もいるのかということも。


 そこには他国にはない少々ややこしい事情がある。


 古来より、ずっとハクサン家がこのヒダ国とミノ国を収めていた。しかしミノ国で鉄鉱石が発見されたために、資源を巡っての戦乱が続き、ヤマトやイズナとの戦いでハクサン家は衰退した。ミノ国を失いかけたのだ。


 それを救ったのがミノウである。ミノウは、ヤマトもイズナも退けハクサン家の領地を守ったのである。


 その功績によりミノウは、ミノ国の魔王として君臨することになった。


 しかし、多くの魔王がそうなのだが、このミノウという魔王は大変遊び好きで放蕩癖があった。

 あちこちをふらふら遊び歩いて、しばらく誰も姿を見てないということも珍しくなかった。(少なくとも5年はカカオの実の中にいたのだが、それは秘密である)


 そのときはまだミノ三人衆(魔人)もおらず、執務が滞ったのである。そのために困った領民たちの希望があり、税務関係はハクサン家が面倒を見た。


 その形がいつのまにか定着し、ミノ国もヒダ国もハクサン家の領地でありながら、ミノ国には魔王がいる、という形になったのである。


 ミノ国は、魔王のいる領地でありながら、納税をしている唯一の国となったのである。また、このような二重支配形態も、ここだけの特徴である。無駄な二重行政である。◎◎都構想が必要かも知れない。


 魔王がいるということで、ミノ国の納税額はそれなにりに減額はされているようではある。それでもミノ国は豊かな国であり、ヒダ国と合わせると納税額はニホンでトップクラスとなる。


 ミノウはあまり金には執着せず、むしろ自由を愛する性質である。ハクサン家とミノウとの間で、金銭的トラブルは皆無であったという。そういうところの大らかさはミノウのアホな……良心的なところなのである。


 その点、同じ姉妹でも金にはもっちゃりしているオウミとは大きく違うのである。


「なんかディすられた気がするのだヨ?」

「もっちゃりって意味が分からないノだ?」


「なんでお前らがここにいるんだよ!?」

「「お主らが来ると聞いて、ここで遊んで待っていたノだヨ」」



 ハタ坊の転送スキルで、ハクサン家に俺たちは来た。そしたらミノウとオウミが先に来ていた。そして。


「我もいるのだゾヨ」


 イズナ、お前もか。


「よくいらっしゃいました。イズモ公殿。あなたのお話は、この魔王さんたちから聞いていますよ」


 ハクサン家当主のナガタキである。見目麗しい美少女である。御年10才。家督を継いでもう8年になるそうだ。ってことは3才から領主なのか。ハクサン家。そんな幼女になにをやらしてんねん。


「初めまして。私はイズモ公・シキミの執事を務めておりますスクナといいます。ハクサン様はかつて日本中に覇を唱えていらした名家中の名家と聞いております。お目通りがかない大変光栄に思います」


 ええっ。そうなの?! そんなこと始めて聞いたぞ。


「そんな昔のこと。私にはなんの関係もありませんわ。どうか、気楽になさってください」

「そうなノだ。しゃちほこばると肩が凝るノだ。気楽にするノだ」

「そうだヨ。ここはくつろぐための場所なのだヨ」


 お前らの肩なんてどこにあるんだよ! ってか、お前らいったいここでなにをして……それか。それを持ち込んだのか。


「くるりんぱっ!!」


 イテコマシである。


「いけいけいけ、行くのだ。そこは我の通り道ヨ」

「負けるな。我のコマ!! 追いつき追い越せ引っこ抜けゾヨ!」

「我のコマはあとからあぁぁぁぁ、吹っ飛ばされたノだぁぁぁ」


「はい、また。私の勝ちですわね」


 ナガタキはもうすっかりイテコマシのベテラン風を吹かしておる。


「いったいいつからこれをやってたんだ?」

「持ち込んだのは去年の大洪水のあとからゾヨ」

「そんな前?!」


「ああ、その節はミノウ様やオウミ様にも復興のお手伝いをいたきました。本当にありがとうね」

「「良いノだヨ」」


「あの大雨で、こちらにも被害があったのか?」

「ミノ国ほど大きな被害ではなかったノだ。このアホもこちらの領地まではダムを造っていなかったノだ」


「それは悪かったと言っているのだゾヨ」

「もう、許してやれよ」

「イズナの場合はこうやってたまに苛めてやらないと、またやりそうなのだヨ」


 この分だと、あと何百年かは言い続けられそうだな。


「それより、大事なお話があって来た」

「くるりんぱっ!」


「のですけど、決算書の件で」

「くるりんぱっ!」


「あの、再提出をしていただ」

「くるりんぱっ!」


 けそうにないな。ゲームに夢中かよ。まあ、いいや。どれ、俺も混ざろうっと。自分のカイゼンコマはいつも持ち歩いてるのだ。それを使えば連戦連勝だ。しばらくの間だけはな。


「くるりんぱっ」

「ほら。俺の勝ち!!」

「ぐっ」


「くるりんぱっ」

「ほら。また俺の勝ち!!」

「ぐうぅっ」


「くるりんぱっ」

「ほら。またまた俺の勝ち!!」

「ぐぅぅぅぅっ」


「くるりんぱっ」

「ほらほらほら。またまた俺の……ナガタキさん、どうしました?」

「わぁぁぁぁぁぁん」


 そこで泣くのかよ!?


「ユ、ユウ。少しは手加減をするノだ」

「お主は子供と遊んであげるという親切心はないのかヨ」

「この子は一度泣き始めると、なかなか止まらないのだゾヨ」


「ということで、決算書の話をしようか?」

「うっぐっ」


 泣き止んだじゃねぇか。

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